隙間を活かす軒先ビジネス

創業手帳woman

軒先株式会社 西浦明子氏インタビュー

使われていない軒先を有効活用する。こんな柔軟なサービスを2008年に立ち上げたのが、メディアなどにも度々登場している注目の起業家、軒先株式会社の西浦明子氏だ。立ち上げから7年が経ち、不動産業界を取り巻く環境も変化してきた今、西浦氏が取り組む新たなビジネスとは。事業が軌道に乗るまでのエピソードも交え、話を伺った。
隙間を活かす軒先ビジネス

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西浦 明子(にしうら・あきこ)
上智大学外国語学部卒業後、1991年にソニー株式会社に入社。海外営業を経て1994年よりソニーチリに駐在し、オーディオ製品などのマーケティングを担当。2000年に同社を退職後、All About Japanの広告営業を経て、2001年にソニー・コンピュータエンタテインメントに入社。2006年に同社を退職後、(財)日本国際協力システムで政府開発援助(ODA)関連の仕事に携わる。2007年に出産を機に退団。2008年に軒先.comをオープンし、翌年に軒先株式会社を設立。

営業活動というより啓蒙活動

ー「軒先ビジネス」は不動産屋が扱っていない小さな空きスペースをWeb上で貸し出すサービスですが、たった1人で始めたこのサービスをどのように広げていったのでしょうか。

西浦:弊社はマッチング事業なので、場所を提供してくださる方と使ってくださる方、両方の販路を広げる必要がありました。そもそも商品がないと売りに行けないので、最初の課題は物件の獲得でしたね。不動産を所有している方はまさかこんなに小さな空間で収益が上げられると思っていないので、積極的に行動を起こされません。なので最初は、近所の商店街に行って「お店の軒先を貸してください」と交渉するところから細々と始めました。

ー販路を広げるためには何が一番有効的でしたか?

西浦:商材によるのかもしれませんが、弊社の場合、場所を使われる方に対してはほとんど営業していません。類似サービスがないからというのもありますが、利用者の方は口コミやメディア、Webを見て来てくださいます。

一方で物件開拓の方は未だに苦労していますが、弊社の場合はファンになっていただくことが重要かなと思っています。このビジネス面白いよね、と共感してくださる方をいかに増やしていくか。そういう方がいるとどんどん紹介してくださるんですよね。営業活動というより、啓蒙活動だと思って話をすることが多いです。そうすると、すぐに実らなくてもピンと来る物件があった時に思い出してくださる。ファンを作るというのは結構大事だと思いますね。

ーなるほど。西浦さんは異業種からの起業でしたよね。

西浦:不動産領域はまったくの素人だったので、不動産業者からするとあり得ないほど面倒な事業をやってきたはずです。通常の賃貸仲介であれば月7万円のワンルームの仲介料が最低ラインですが、それに対して私たちは1日1,000円ほどの案件を仲介してそのわずか35%だけが入ってくる。単価はものすごく小さいのに労力だけかかって、普通の不動産屋から見るとバカみたいなことをやっていますよね。業界を知っていたらやっていなかった。知らなかったからこそできたというのが大きいと思います。

ーそんな状況から始めて、初めて会う方から信用を得るためにどのようなことを行いましたか?

西浦:最初は貸してくださる方に対して「今まで何も問題はなかったので大丈夫です」と言って切り抜けてきましたが、大手の不動産になるとそうもいかない。そこで導入したのが保険でした。求めるものは既存の保険商品にはなかったので、弊社用にカスタマイズした商品を外資系の保険会社に作ってもらいました。保険を導入したことで安心感を持っていただき、一気にハードルが下がりました。

2012年から始めたシェア型パーキングサービス「軒先パーキング」に関しては、東証一部に上場している事業会社が株主に入っているということで、そこは非常に営業しやすいですね。ネットですべて完結することを不安に思う方も、日本駐車場開発が株主に入っているなら安心だと言ってくださるケースが多いです。

リーマンショックが転機となった

リーマンショックが転機となった

ー事業を拡大するにあたって転機になったことは?

西浦:「軒先.com」は2008年に個人事業主ベースで立ち上げましたが、同じ年の秋にリーマンショックが訪れて不動産を取り巻く環境がガラリと変わりました。それまでは不動産も好調だったので小さなスペースを運用しなくても儲かっていましたが、それが一気に冷え込んでしまった。リーマンショックを機にプロの方からのご相談案件が増えました。不動産は所有しているだけでも固定資産税などの維持費がかかってくるので、多少なりとも現金収入が得られるのだったら売却先が決まるまでの短期間でも運用したいというご相談が相次いでありまして。

ーその中で特に有効利用できたケースを教えてください。

西浦:とある大手の不動産投資会社さんが非常に立地の良い場所に商業収益ビルを持っていて、そのうちの3棟をお預かりしたんです。建物自体はボロボロでしたが、どこも本当に立地が良かったのでいろいろな方から予約が入りました。弊社のお客さんは駅の構内などで物販をやられているプロの方が多いので、立地さえ良ければ皆さんクロスを貼ったりしていかようにもするんですね。

その物件は9カ月分ぐらい登録いただいていましたが、最初は1日1万円で貸し出していたところを最後は1週間15万円ぐらいで貸すようになり、トータルで400万ぐらい収益を上げられました。その1件で実績が出て営業しやすくなり、手応えがつかめたので翌年の2009年にようやく法人化したんです。

ーそこから順調に事業を拡大していったんですか?

西浦:その後2009年にかけてそろそろもっと広げたいという気持ちがあったので、いろいろなビジネスコンテストに出るようになりました。サービスを告知しようにも広告宣伝費をかけられないので、ビジネスコンテストをきっかけに注目してもらおうと積極的に参加していましたね。

当時はまだ行政や証券会社が主催する古いタイプのものしかありませんでしたが、変わったビジネスモデルをやっていたというのもあって、荒削りだけど面白いといろいろな賞をいただけるようになりました。それがきっかけでメディアに取り上げていただいたり、ベンチャーキャピタルからお声掛けしてもらうようになって、結果的に次のステップに踏み出せるようになったんです。

ー次のステップは?

西浦:法人化した後にさらに事業を拡大したいと思いましたが、どう資金調達すれば良いか分からずにいたんです。そんな時、たまたまある方がベンチャーキャピタルという、融資ではない資本の形があるということを教えてくださって、並行してベンチャーキャピタルからも話を聞かせて欲しいと声が掛かったので、2010年の頭に初めて事業計画書を作りました。当時は法人化して1年経つか経たないかで事業もまだまだ、物件数も100件あるかないかでしたけどね。

ーその後、ベンチャーキャピタルとはどのように関わるように?

西浦:当時はうちみたいな創業して間もない会社に投資するのは難しいとおっしゃっていましたが、その中で唯一ご紹介いただいたのがサムライインキュベートの榊原さんでした。初めてお会いしたときにすでに弊社のサービスをご存知で、2回目にお会いしたときには出資を決めてくださいました。それからもう1社、榊原さんのお知り合いの方が個人的に持っているファンドが出資してくださったんです。事務所を構えて営業を1人採用して、サイトをリニューアルしようと思ったのがそのタイミングでした。

ーベンチャーキャピタルと関わったことで良かったことは?

西浦:自分1人で頑張らなくても、きちんとした事業計画とビジョンがあればそれを支援しようとしてくださる方が世の中にいる。それを知り得たのは非常に心強かったです。彼らはお金だけでなく手も口も出すという感じだったので、週に1回ミーティングをしながら一緒に考えてくれる仲間が増えたという感じでした。

今後は出店支援を総合的にやっていきたい

今後は出店支援を総合的にやっていきたい

ー今年始めには「軒先.com」の名称を「軒先ビジネス」に変えましたね。

西浦:ビジネスモデル自体は変わっていませんが、サイトの見せ方を変えたり使い勝手を改善しました。これまでは貸し出す場所の紹介しか行っていませんでしたが、利用してくださる方はさまざまな目標を持って借りてくださっているので、場所を借すだけがゴールではなく、ここを使って良かったと思うところまでが彼らのお手伝いになる。ですから場所の情報だけでなく、出店される方が必要な情報を支援していく付加サービスを始めようと、そのあたりを意識してコンテンツを拡充していきました。初めて使う方の不安を取り除くようなサービスを拡充し、出店支援を総合的にやっていきたいと思ったんです。

ー現在の会員数や登録数などを教えてください。

西浦:「軒先パーキング」は北海道から鹿児島まで全国で2,000台ぐらい。「軒先ビジネス」はクライアントが4,000社で、提供している空きスペースは2,500箇所ほどです。

ー需要と供給のバランスは?

西浦:今は「軒先パーキング」も「軒先ビジネス」もスペースの方がまだまだ足りないという感じです。検索しても検索結果ゼロという目的地がまだまだたくさんあるので、そこはどんどん拡充していきたいと思っています。どちらかと言うと「軒先パーキング」の方が伸び率が高いので、今はいろいろなリソースをそちらの方に重きを置いています。

ー以前は花火大会などで屋上の空きスペースを貸す、というようなこともやっていましたよね。

西浦:今は個人の方のレジャー関係よりもビジネス寄りで、誰でも1日単位でお店を開けるというところに絞っています。お断りしているつもりはありませんが、今までは間口を広げすぎたのでメッセージを明確にしてサービスを深堀していきたいなと。蓋を開けてみたら9割ぐらいが商売される方で、残り1割に満たない方が個人的な集まりなどの営業活動以外に使われる方だったんです。

ー利用しているのはどのような層が多いですか?

西浦:半数まではいきませんが、かなりの割合で移動販売をする方の利用が多いですね。移動販売は軽自動車と改造費が100万円ほどあればできてしまいます。20〜30代の若い方たちが脱サラをして、お洒落なフォルクスワーゲンを改造してカフェをやられたり……。レストランに比べて10分の1ぐらいの資金で始められるので、開業率は最近すごく増えています。ただご存知の通り公道では出店できないので、出店可能な場所探しをする手間が省けるということで皆さん弊社を利用してくださっています。それ以外に多いのが、物販や催事販売をされている方。駅の構内で販売している方をイメージしていただくと分かりやすいですが、洋服からインテリア雑貨、野菜と商材は本当にさまざまです。

思案するより行動する

思案するより行動する

ーこれまでに仲介した方たちの中で、面白いと感じた成功モデルは?

西浦:最近人気なのがスイーツ販売で、業者の数だけ見ると10社近くいらっしゃいます。彼らはそもそも無店舗で、ゲリラ的なキャラバン販売をしています。出店直前に折り込み広告を1万枚ぐらいバラまいて、そうすると近所の奥様方が朝からワーっと集まって飛ぶように商品が売れていくんです。そこで2、3時間ぐらい販売してまた次の場所に移動する。そういうことを全国で展開しています。場所代はピンキリですが、かかっても1万円。ところが売り上げは軽く10〜20万円いってしまう。これまでは交通量が多いところで販売するのが常でしたが、事前に折り込み広告を撒くのでむしろ郊外の住宅街で近隣にお店がないようなところの方がお客さんが集まるんですよね。これは非常に面白いなと思っていて、今後商材を変えて展開していくのもありかなと思っています。

ー他に今後はどういった層に利用して欲しいですか?

西浦:普段は商売をされていない方、例えば主婦の方や学生さんが自分で作ったアクセサリーを売るなど、そういう時に利用していただきたいですね。今はインターネット上では誰でも簡単にお店を持てますが、いざそれをリアルに展開しようとすると昔とまったく変わっていない。ですから、プロではない方々にももっと気軽に使っていただいて、裾野を広げたいと思っています。今までそういう方たちへの訴求ができていなかったので、サイト上でいろいろな事例を紹介し、これなら私もやってみようかなというきっかけ作りをしていきたいですね。「軒先パーキング」に関してはまだ全国に2,000台ほどしかないので、早く1桁増やせるようにしたいと思っています。

ー起業家にはどのように活用して欲しいですか?

西浦:ネットショップは持っているけれどリアルな店舗を持っていない方に年に何度かファミリーセールをやっていただいたり、地方で創業している方が東京で物産展を開いたり、東京に支社を出したいと思っていてもいきなり支店を出すのはハードルが高いというときに使っていただいたり……。1日数千円で試していただけるので、ぜひいろいろな使い方をしていただきたいですね。

ー西浦さんが事業を行う上でのポリシーなどはありますか?

西浦:誰かの課題を解決しているかどうか、願わくば社会の課題を解決しているか、というところを非常に大事にしています。今後も、市場の大きさや儲け以前に、社会的に意義があるかということは大事にしたいと思っています。

ー最後に起業家へのアドバイスをお願いします。

西浦:今はいろいろなツールが簡単に手に入っていつでもどこでも起業できる環境にあるので、まずは小さく始めてみる。思案するより行動する、ですね。おそらく失うものもほとんどないでしょうしロスも少ないと思うので、ビジネスプランを延々と書いているぐらいだったら小さく始めて、トライ&エラーを繰り返すほうがよっぽどいいと思います。思案するより行動する

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