ベンチャー企業がVC,CVC,エンジェル投資家から資金調達する方法【実践編】
VC,CVC,エンジェル投資家を納得させ、出資してもらうための絶必ポイント!【CVCのプロが解説】
(2020/10/14更新)
資金調達する方法として、VC、CVC、エンジェル投資家があることを、「【基本編】VC、CVC、エンジェル投資家とは?それぞれの特徴と資金調達を受ける時のポイント」でお伝えさせて頂きました。
今回は、具体的に資金調達をするために起業家が知っておくべきことについて、元銀行員で現在はCVCで経営管理を行っている斎藤氏に解説頂きます。
大学卒業後、メガバンク、コンサルティングファーム等を経て事業会社の経営管理部門の責任者を務める傍ら、CVC運営会社の投資担当役員としてベンチャー企業投資に従事。ファイナンス、経営管理、経営企画がキャリアの中心。早稲田大学大学院修了(MBA)。
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この記事の目次
資金調達のまとめ
金融機関から借入れるのと出資による資金調達の最大の違いは、返済の有無です。金融機関借入は、約束通りに利息を付けて返済する必要があるのに対し、出資による資金調達は自己資本となるため、返済の義務はありません。
しかし、出資する投資家は一般的に、ハイリスク・ハイリターンを求める人たちです。出資先がIPO(株式上場)することや、M&Aにより売却されること、または配当で、出資した金額を大きく上回るリターンがあることを期待しています。
前回記事でもご説明させていただいたとおり、エンジェル投資家は自らが事業成功者であることから、後進育成に力を注ぐことに重点を置いています。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は、資金の出し手である事業会社との相乗効果といった、投資リターンとは別の経済的リターンを求めることもあります。つまり投資家は、出資先の選定に対して厳しい目線を持っているといえるでしょう。
ここからは「どのような企業が」、「どんな方法で」、資金調達を受けることができるのか?という点について考えてみましょう。
ベンチャー投資家から資金調達可能な企業とは?
資金調達が可能な企業は、ビジネスモデルが優れていることが大前提です。
では、資金調達における優れたビジネスモデルとは、どのようなものなのでしょうか?
端的に言うと、IPOやM&Aによる売却で、出資した金額の数倍~数十倍のリターンを投資家が短期的に得ることができるビジネスモデルです。
短期的とは、おおむね3年~7年程度がひとつの目安だと思いますが、なぜ時間的な制約があるのか。それには理由があります。
特にVC(ベンチャーキャピタル)は第三者からの資金をファンドという形で集めて運用しています。多くのファンドの存続期間は10年とされていることが多く、最初の1年~3年で複数の企業に投資を実行し、以降、育成します。そして順次IPOやM&Aによる売却を経て、得た資金をもってファンドの出資者に資金を返していくことになります。
ファンドの存続期間が延長されることもありますが、10年を超えて出資先の株式を保有し続けることは原則としてできず、その期間内に何らかの方法で出資によって得た株式を「換金」する必要があるのです。
安定的に成長し、創業から20~30年でIPOする企業や、成熟した状態で事業承継の一環としてM&Aによる売却を行う企業は、エンジェル投資家、VC、CVCといった投資家(以下、ベンチャー投資家)からの出資は、不向きだと言えるでしょう。
ベンチャー投資家から出資を受けるための唯一最大と言ってもよい要件は、「超スピードでの飛躍的成長を遂げること」であると思います。
そう考えると、1次関数的に2倍、3倍の成長を前提とするオフラインビジネスよりも、2次関数的に2乗、3乗といった大幅な成長が可能なオンラインビジネスの方が、ベンチャー投資家から好まれる傾向があることに納得がいきます。
ベンチャー投資家から出資を受ける方法
ではそういった企業は、どのような方法でベンチャー投資家からの出資を受けることができるのか?という点について考えてみます。
プロセスとしては、①ビジネスモデルのブラッシュアップ、②事業計画等の策定、③投資家へのアプローチという3段階を経る必要があります。
ビジネスモデルのブラッシュアップ
やや理念的な表現になりますが、優れたビジネスモデルは人々の共感を得ます。
ペルソナつまりサービスの対象となる具体的なイメージ像を想定し、利便性に優れたサービスを提供すれば支持を得て、ビジネスを拡大することができます。ビジネスのターゲットを具体化することによって、自分の会社がその分野で他社より優位に立てるかどうかを精査してください。
起業においては、大企業がターゲットとしないようなニッチ領域を攻めるべき!という意見は多いです。しかし、ニッチだから狙えると起業当初から大風呂敷を広げると、そこに勝機があると認識した大企業がほどなく進出してきて、一気に敗色濃厚となってしまう可能性があります。
ビジネスモデルの初期的な構築は、まずは起業家自身、もしくは共同で事業をスタートする限られた人数で模索するのが一般的でしょう。
ある程度形になってきたら、信頼のおける経験を積まれた人に「壁打ち相手」になってもらい、更に磨きをかけると、思わぬ抜け漏れや致命的な欠陥を発見できるので、よいでしょう。この段階であれば、いくらでも軌道修正は可能です。ただし、相談相手は、慎重に選定してください。
事業計画の策定
これまでは「思い」が先行したアイディア構築でしたが、事業計画は定量的かつ精緻さが求められます。
事業計画に盛り込む事項は以下が一般的です。
・事業概要
・ビジョン
・チームの紹介
・優位性
・サービス概要
・環境分析による自社サービスの優位性説明
・ビジネスモデルや事業戦略
・財務指標(B/S、P/L、資金繰り、およびそれらを導くKPI)の実績、見込み
・資本政策
・調達概要、資金使途
前段のビジネスモデルのブラッシュアップで、ある程度の事業概要やビジネスモデル、サービス概要は整っているので、事業計画書にはそれらをわかりやすく、かつ魅力的に説明できるようにしてください。
特に重要なのは財務指標の実績と見込みです。実績はありのままの説明をすればよいのですが、見込については精緻な説明が必要です。
よく、「3年後には売上100億円を突破します!」などと、意気揚々と宣言される起業家の方がいますが、具体的に「どのような施策」で「どのように市場に浸透させ」、結果「どのようにKPIが改善することで売上100億円を突破するのか」、という定量的な説明が必要です。
投資家は事業計画書を前提に投資判断をします。事業計画書に記載されている数値目標に同意できればその企業に投資を行いますが、同意できない「思い」だけの数値目標では、投資を実行することはできません。
また、資本政策についての綿密な計画も重要です。資本政策とは資本による資金調達の各タイミングで、「企業価値」がどれほどか、各々の資金調達でどの程度の株式持分を放出するか、ということの検討です。
起業直後は起業家個人や共同創業者、資金支援してくれた知人や家族ですべての株式を保有していますが、資本による資金調達を行うと、第三者が株主として自社の一定割合の株式持分を保有することとなります。
資金調達をできる限り多額にしたいばかりに、安い企業価値の段階で集めてしまうと、多くの株式持分を第三者に渡すことになります。逆に一気に高い企業価値を設定し、運よく投資を集めることができたとしても、後々の資金調達の足かせとなってしまうこともあります。
いろいろな考え方があるとは思いますが、IPO実施後も創業メンバーで過半数の株式持分を確保していることが理想的といわれています。将来的な資金調達を見越した綿密な資本政策の検討を行い、それを事業計画に盛り込むことが必要です。
投資家へのアプローチ
投資家に対するアプローチは、どのような方法で行えばよいのでしょうか?
アプローチの方法に決まりはありませんが、a)投資家に直接コンタクトしてみる方法、b)知人を介して投資家にコンタクトする方法、c)ピッチイベントなどに登壇し、投資家との接点を作る方法などが考えられるかと思います。
投資家に直接コンタクトしてみる
投資家への直接のコンタクトについては、起業した特定の業界において著名なベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家などにFacebookメッセンジャーなどを使って直接メッセージを送る方法や、コーポレートサイトを持つVCであれば、その「お問合せフォーム」からコンタクトしてみる方法があります。
「どうしてもこの投資家に投資してもらい、指導してもらいたい!」や、「この事業会社とタッグを組んで事業展開していきたい!」など、特定の人やファンド、企業がある場合は、この方法がおすすめです。
ただし、投資家は多忙を極めていることが多く、著名な投資家であればあるほど、このような直接コンタクトが大量に来ることから、返信すらないという残念な結果に終わることも多いでしょう。
知人を介して投資家にコンタクトする
知人を介して投資家にコンタクトする利点は、投資家と面談できる可能性が高まることと、紹介者の信用力によって投資家と冒頭から良い関係性を構築できる可能性が高いことがあげられます。
投資家も数多くの投資機会の中から厳選する必要があるため、紹介者が実績のある人であればあるほど、紹介された企業への期待が高まることは必然かと思います。
ベンチャー企業界隈のネットワークは、極めて狭いインナーサークルが形成されていることが多いのです。そのネットワークに入ることで、投資を受けることに加えて、今後の事業運営において極めて有効な機会を獲得できるようになると思われます。
積極的にそういったネットワーク構築の場に顔を出し、自身の力量を認めてもらえるように努力してみてください。
ピッチイベントなどに登壇
ピッチイベントなどへの参加についてですが、これもまた有効な投資家とのコンタクト形成の機会といえます。
最近は、コロナの影響でオフラインでの開催は減少傾向にはありますが、起業家自身が投資家に向けて、ベンチャー企業の事業概要を短時間で紹介し、投資を募るピッチイベントが各所で開催されています。
ピッチイベントには、著名な投資家を含む複数の投資家が情報収集に訪れていますので、そういった場を活用してネットワークを拡げ、ギブアンドテイクの関係構築ができる投資家を探してみるのも有効な手段です。
まとめ
冒頭にも書きましたが、資本の出し手である投資家と対峙することは、相手がハイリスク・ハイリターンを求めることもあり、金融機関からの借り入れとは違った緊張感があります。そういった緊張感を維持しながらも出資を受けることができれば、名実ともに想像以上のメリットを享受することができます。
当然、投資家とはギブアンドテイクの関係を構築しなければなりません。メリットを享受する一方で、将来的なIPOやM&Aによる売却で、大きな経済的な恩恵を投資家に受けてもらえるよう、超速で成長する必要もあります。
起業は、金銭的なメリットが最優先ではないかもしれません。また、IPOやM&Aによる売却、すなわち事業の拡大は、株主の利益の最大化が最終的な目標ではなく、起業当初の社会的な問題解決を成し遂げるという純粋な思いが、結果として規模の拡大につながったのかもしれません。
起業に対する考え方は人それぞれですが、外部資本を集めて将来的にIPOやM&Aによる売却を目指すことが、事業意欲を掻き立てるものであるのであればここで紹介させていただいた方法を参考にしていただき、投資家の門を叩いてみてください。
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(編集:創業手帳編集部)