個人事業主が赤字廃業したら確定申告は不要?

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赤字廃業は基本的に確定申告の必要なし


経営の悪化によって個人事業が赤字廃業となった場合、「その年の確定申告はどうすればいいのかわからない」という人もいるでしょう。
基本的に赤字廃業であれば、確定申告は不要です。しかし、あえて確定申告をするメリットもあります。

そこで今回は、廃業後の確定申告のポイントやメリットを解説します。廃業する際の手続きや必要な書類もまとめているので、ぜひ参考にしてください。

創業手帳では、確定申告で多くの方が悩むポイントをまとめた「確定申告ガイド」をリリース。青色申告と白色申告の違いについて、提出書類などは表組みにして解説。また所得税の確定申告だけでなく、消費税の確定申告についても取り上げています。インボイス制度が始まり、消費税納税が初めての人が増えたと思いますので、是非こちらを参考にしてみてください。無料でご覧いただけます。



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廃業した年の確定申告のポイント


廃業を決断した場合、その年の確定申告はどうなるのかを詳しく解説します。

廃業後の確定申告の要否

確定申告が必要かどうかは、廃業した事業年度の所得金額によります。税務上、所得金額がプラス(黒字)であれば、通常どおり確定申告が必要です。
反対に所得金額がマイナス(赤字)であれば基本的に確定申告は不要です。
そのため、まずは確定申告の対象かどうか把握するために、所得の計算をしなければなりません。計算して黒字であれば、廃業後に確定申告を行ってください。

廃業年度の確定申告期限について

確定申告の期間は、翌年2月16日~3月15日までです。廃業した年度の確定申告も同様の期間内に申告しなければなりません。
ただし、廃業したのが個人事業なのか、それとも会社なのかによって確定申告の時期が変わるので注意してください。

個人事業主であれば、上記の期限内に確定申告を行います。
一方、会社を廃業した場合、会社が消滅する際に行う清算結了登記を行ったタイミングで確定申告をする必要があります。
会社の場合、通常は決算日から2カ月以内に確定申告をしなければなりません。しかし、廃業した場合は確定申告の期限が異なるので注意してください。

また、期限内に確定申告を行わなかった場合、重加算税が科せられて本来納める税額よりも高くなってしまいます。
税金の負担を増やさないためにも、期限を守って申告してください。

廃業した年の確定申告で使える特例もある

廃業から確定申告を行うまでの間に必要費用が発生した場合、特例を使うことができます。
例えば、廃業後に設備や在庫の処分、事務所の清掃などの費用がかかれば、確定申告の際に経費として計上することが可能です。
この特例を「事業を廃止した場合の必要経費の特例」と呼びます。
この特例を使って計上する経費が増えれば所得金額が減るので、税負担の軽減が可能です。
ただし、廃業後に発生した費用が経費計上できるかどうかは、税務署の判断基準によって異なります。

また、法定業種を営む個人事業主が納める個人事業税は、年度の途中の廃業の場合、廃業日から1カ月以内に申告と納税を行わなければなりません。
申告・納税を行うことで、確定申告の際に経費を計上できるようになるので、忘れずに手続きをしましょう。

特例を利用できる条件

事業を廃止した場合の必要経費の特例を利用できる条件は以下のとおりです。

対象者 ・製造業や卸売業などで事業所得を獲得していた個人事業主
・山林所得、または不動産所得を得ていた個人事業主
対象費用 ・廃業しなかった場合に計上できる必要経費
・事業所得や山林所得、不動産所得が発生する事業に関連する費用であること

特例の対象となるのは事業所得を得ている個人事業主だけではありません。
山林の伐採や売却で利益を得ている、もしくは不動産の貸付けで利益を得ていた個人事業主が廃業する際も特例の対象です。

対象となる費用は経営が続いた場合に計上できる必要経費かつ、事業・山林・不動産所得のいずれかに関連した費用となっています。
先に述べたとおり、経費と認定される基準は管轄の税務署によって異なるので、廃業時に問い合わせて確認することをおすすめします。

廃業した年の減価償却について

10万円以上の固定資産を購入した場合、減価償却を行います。
減価償却とは、取得した年に購入費用を一括で計上するのではなく、分割して定期的に経費として計上する会計処理です。
廃業した場合、この減価償却の扱いが複雑になってしまうので注意してください。

個人事業主が廃業する場合、その事業年度の減価償却費は年度初めから廃業する月の分まで計上することが可能です。
例えば廃業した月が10月であれば、確定申告時に1月から10月分の減価償却費を計上できます。
廃業した年度に減価償却が計上しきれない場合、帳簿に未償却分が残ります。未償却分は、固定資産をどう処理したかによって扱いが変わるので注意してください。

廃業後も引き続きその固定資産を使用するのであれば、会計上の処理が発生しないので確定申告にも影響を与えません。
しかし、資産を破棄した場合は固定資産除去損として扱われ、確定申告時の経費に損失として参入できます。
固定資産を売却した場合は、譲渡所得の取得費として計上してください。

赤字廃業した年に個人事業主が確定申告をするメリットはある?


赤字廃業した場合、個人事業主の所得はマイナスになる可能性が高いです。それなら確定申告は不要ですが、あえて申告することでメリットを得られることもあります。
具体的なメリットは以下のとおりです。

株取引で損失があれば繰越控除が可能

申告する年、または過去数年以内に株取引で損失が出ている場合、確定申告をすることで繰越控除が可能です。
上場株式の売却により損失が出た場合、その年の利益で譲渡損失を相殺できる損益通算が認められています。

その損失通算でも控除しきれない損失に対しては、翌年以降3年間まで繰越控除が適用されます。
確定申告によって損失を繰越せば、株取引で利益が出た年に控除されるので節税対策になるのです。
そのため、赤字廃業した際も株取引で損失があれば、確定申告をすることをおすすめします。

源泉徴収の還付を受けられるケースがある

個人事業主に報酬が支払われる際、支払者である取引先が所得税を源泉徴収して、代わりに納税してくれるケースがあります。
源泉徴収の対象と言えば従業員の給与のイメージがありますが、他にも弁護士や税理士など特定の資格を取得する人への報酬・原稿料・講演料も対象です。

源泉徴収された場合、所得税を先に納めた状態になります。
しかし、事業が赤字の時は所得税の納税が免除されるため、確定申告をすることで源泉徴収分の還付を受けられます。
ただし、預金の利子といった源泉分離課税は還付されないので注意してください。

所得の証明ができる

確定申告を行えば、所得を証明できるメリットがあります。確定申告書の控えは、利害関係者に所得を証明する資料として活用できます。
反対に確定申告をしなければ、所得を証明できる資料が手に入りません。
所得の証明が必要になるような状況、住宅ローンや事業資金といった融資を受ける時です。

融資審査では返済能力を確認するために、所得の証明が必要になります。その証明書類として、過去数年分の確定申告書類の提出を求められることがあります。
赤字廃業した直後に融資を受ける気はなくても、近い将来融資を受ける機会があるかもしれません。
そのためにも、廃業後も確定申告をして所得の証拠を残しておくのがおすすめです。

国民健康保険料の軽減措置を受けられる

赤字廃業後に確定申告をすると、国民健康保険(国保)を軽減できる可能性があります。
国民健康保険料は所得割と均等割で構成されています。そのうち、軽減措置の対象となるのは均等割です。
均等割は、総所得金額が一定の基準以下だと減額される制度があります。その制度を適用するには、まず世帯主と国保に加入する人の所得を明らかにしなければなりません。

上記で述べたとおり、確定申告は所得の証明になります。
そのため、確定申告を行って所得が基準以下と証明されれば均等割の減額が適用され、支払う保険料が安くなる可能性があります。

非課税所得証明書を発行できる

確定申告をすれば、住民税が非課税であることを証明する非課税所得証明書の発行が可能です。
非課税所得証明書は、保育園の入園申請や児童手当の申請などで必要になります。
証明書は地方自治体で発行されますが、確定申告をしなければ発行できません。
赤字廃業した時点で特に用のない書類でも、今後子どもが生まれた時に必要になる可能性があります。その時に備えて確定申告をしておくと安心です。

個人事業主が赤字廃業したときの手続き


個人事業主が赤字によって廃業を決断した時、廃業のための手続きが必要になります。スムーズに廃業の手続きが行えるように、基本的な知識や必要な書類をご紹介します。

廃業にも種類がある

個人事業主が廃業する理由は人によって様々です。廃業と言うと、経営の悪化や起業して事業が軌道に乗らず、赤字に追い込まれて決断するイメージが強いでしょう。
しかし、廃業の理由は必ずしも経営不振から来るものとは限りません。

例えば、個人事業主から法人成りする際も個人事業の廃業が必要です。また、黒字経営でも後継者がいないことで廃業せざるを得ないケースもあります。
個人事業主の健康や諸般の事情で廃業しなければならないケースも珍しくありません。
赤字・黒字を問わず廃業すると決断した際は、廃業の手続きが必要になることを理解しておいてください。

廃業手続きとは

廃業手続きとは、国や都道府県に個人事業を辞めることを通知する「廃業届」を提出することです。
個人事業主は所得税や消費税、個人事業税などの税金を支払っています。従業員を雇用している場合は、税金の源泉徴収と納税も必要です。

そのため、税務署と税事務所に廃業届を提出し、納税義務や源泉徴収義務がないことを通知しなければいけません。
また、廃業手続きで提出する書類は多岐にわたり、提出期限も設けられています。必要な書類や手続きを確認して前もって準備しておくことが大切です。

廃業する際に必要な書類

廃業手続きを行うにあたって、いくつか必要な書類があります。その書類は以下のとおりです。

1.個人事業の開業・廃業等届出書

個人事業の開業・廃業等届出書は、所轄の税務署に提出する書類です。廃業日より1カ月以内に提出が必要です。
廃業届を提出しなかった場合、何かペナルティを受けるわけではありません。
しかし、税務書に廃業の事実を伝えるために必要な手続きなので、期限内に忘れず提出してください。

入手先は税務署の窓口や国税庁のホームページとなります。ホームページから入手する場合、印刷して手書きするか、PDFに直接入力して印刷してください。

2.青色申告の取りやめ届出書

青色申告の承認を受けている場合、所轄の税務署に青色申告の取りやめ届出書を提出してください。期限は廃業する年の翌年3月15日までです。
提出先が同じであるため、一般的には廃業届と同時に提出されています。
別々に出しても問題はありませんが、ついうっかり忘れてしまう可能性もあるので同時に提出するのがおすすめです。

3.給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書

給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書は、専従者(家族従業員)や従業員を雇用していて給料を支払っている場合、所轄の税務署に提出が必要です。
源泉徴収に関する手続きであるため従業員を雇用する際のみならず、源泉徴収する義務がなくなったことを届け出るために廃業時も提出しなければなりません。
こちらも廃業日から1カ月以内が提出期限となるため、廃業届と同時に提出がおすすめです。

なお、廃業時に給料から差し引いた源泉徴収税は、廃業日の翌月10日までに納付してください。

4.所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書

所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書は、事前に所得税の一部を支払う予定納税を行っており、納付する税額が多すぎると予想される場合に提出します。
この書類を所轄の税務署に提出することで、予定納税額の減税や免除を受けることが可能です。減額申請書の提出期限は以下の2パターンがあります。

  • 第1期分・2期分の減額申請:その年の7月1日~15日まで
  • 第2期分のみの減額申請:その年の11月1日~15日まで

なお、未提出の場合は通常通りに予定納税額を納付することになりますが、確定申告をすることで納め過ぎた分は還付されます。
確定申告で払い過ぎた分を還元できますが、納税の負担を軽減するためにも減額申請書の提出をおすすめします。

5.消費税の事業廃止届出書の提出

個人事業主が消費税の課税事業者であれば、廃業と同時に課税事業者でなくなることを所轄の税務署に通知しなければなりません。
そこで提出するのが、消費税の事業廃止届出書です。
事業廃止届出書の提出期限は特に設けられていませんが、提出忘れを防ぐために、廃業届とともに提出するのがおすすめです。
また、廃業日に属する課税期間(個人事業主なら1月1日~12月31日まで)の消費税は、所得税と同じく確定申告が必要になります。

6.個人事業税の事業廃止届出書

個人事業税の事業廃止届出書は、都道府県税事務所に提出する書類です。個人事業税は都道府県に納めているので、廃業する旨を通知するために提出しなければなりません。

なお、この書類は都道府県によって書類の名称や形式、提出期限が異なります。そのため、事前に提出先の都道府県税事務所のホームページで確認してください。

個人事業主が廃業する際の手続きなどについて、詳しくはこちらの記事を>>
個人事業主が廃業するために必要な手続きや費用とは?注意点なども合わせて

まとめ・赤字廃業なら確定申告は不要だがやるメリットもある!

赤字廃業となり、個人事業主の所得もマイナスであれば、基本的に確定申告は不要です。
しかし、廃業した年に確定申告を行うことで、繰越控除や源泉徴収の還付を受けられるなどのメリットがあります。
また、所得の証明にもなるので、今後のためにも廃業後も確定申告をすることをおすすめします。




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(編集:創業手帳編集部)

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