農業ビジネスとは?農家の現状や新規参入のヒント

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農業ビジネスの課題と今後の展望は?起業スタイルとして農業を検証


農業ビジネスが近年話題です。農業は代々続く農家が営む印象でしたが、法改正によって参入しやすくなりました。
新しいビジネスモデルも生まれ、昔ながらのイメージが変わり始めています。

一般法人や未経験者にも広く門戸が開かれましたが、実際に農業はビジネスの選択肢となりうるのか、起業や新規参入の可否を考えてみましょう。
また、参入する際に知っておきたい農家や農業を取り巻く現状や農業ビジネスの成功のヒントを紹介します。

起業する方法について、詳しくはこちらの記事を>>
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この記事の目次

農業ビジネスとは


農業ビジネスとは、農業とその関連する産業を含めたビジネスのことを指す言葉です。英語でアグリビジネスと呼ばれることもあります。

農業ビジネスは、土地を利用して動植物を育てる農耕や畜産だけでなく、その周辺事業も含めた幅広い概念を示しています。
肥料や農業機械などの生産物資の製造や供給、農産物の加工や流通、外食サービスや金融部門などもすべて、広い意味の農業ビジネスです。

改正農地法により一般法人が農業に参入しやすく

農業ビジネスが脚光を浴びるきっかけとなった理由のひとつには、農地法の改正があります。
これまでは、一般の法人や個人が農業に参入するのは難しい状況でしたが、2009年に農地法が改正されたことで一般法人も農業を始めやすくなりました。

改正農地法によって、様々な法人が農業ビジネスに参入し、試行錯誤を始めています。
改正後も依然として従来の農耕や畜産への参入に留まる法人が多くみられましたが、今後は新しい取組みも必要です。

新規参入には課題を踏まえた新しいビジネスモデルが必要

農業ビジネスに参入する法人が増えましたが、農業にはいくつもの課題がまだあります。
農業ビジネスに新規参入し、成功を収めるためには、農業や既存農家が抱える課題を解決する新しいビジネスモデルの創生が必要です。

これまでの農業スタイルにとらわれず、新しいビジネスモデルを作りましょう。自社の得意分野を活かし、農業の課題を解消することで、成功の道が見えてきます。

農業を始める三つの方法

農業を始める時には個人で農業事業を立ち上げるイメージが強いですが、そのほかに、農業法人を設立する方法や農業法人へ就職する方法もあります。前者は自力で農業に関するリソースを一通り集められる人、後者は農業に関する知見・リソースがない人が、まず農業を経験したいという人に適しています。

個人事業主として起業する

農業ビジネスを手掛けるとなると、自分で「農家」として事業をおこすケースがイメージしやすいでしょう。自分の意向に合わせて、自由にビジネスの規模や、生産する農作物や製品、納品先などをコントロールできるのが特徴です。

自由度の高さが魅力的である一方で、次のリソースが揃っていなければ、農業をいきなり立ち上げて安定的なビジネスに育てていくのは困難です。

農業を軌道に乗せるために必要なリソース

  • 資金
  • 機械・施設
  • 農地
  • 技術とノウハウ
  • 仕入れ・納品先

もし資金自体が不足している場合は、まず充分な資金を貯めるか、調達する方法を考えなければいけません。

機械・施設については、大元となる資金が潤沢にあることを前提とすれば、あとは購入・リース契約などを検討することでリソース確保は比較的短期間でも可能です。一方で、農地は自治体制度によっては簡単に手に入るとは限らないため、休眠地や後継者を探している土地などをうまく見つけて譲渡してもらう必要があります。

さらに、未経験の人が農業ビジネスを立ち上げる上で大きなハードルとなるのが、技術・ノウハウの習得と仕入れ先・納品先チャネル開拓です。

品質の良い農作物を、天候リスクなどをコントロールしながら安定的に生産したり、収穫した農作物を付加価値の高い製品に加工したりするのには、高い技術と知識が求められます。

質の高い農作物を作るためには、まず種や苗、肥料などの安定的な仕入れ先確保が必要に。さらに収穫・製造した製品の納品チャネルの開拓も重要です。このように、ノウハウ習得やチャネル開拓なしに農業ビジネスを立ち上げても、ビジネスを拡大させるのは困難です。

個人で起業して農業ビジネスに取り組もうと考えている人は、まず数年計画で基盤となるノウハウを習得するのがよいでしょう。

もし事業を始めながらノウハウ習得を進めようと考えている場合は、当初の数年は収益が出ないリスクが高いことを理解したうえで、それで事業を継続し、さらに生活していけるだけの潤沢な資金を用意しておく必要があります。

農業法人を設立する方法

農業は個人事業主の形態でビジネスを営む人も多いですが、農業法人を設立して事業経営を行う方法もあります。ビジネスを大規模化していく構想がある人には、農業法人の設立を視野に入れるのがよいでしょう。

農業法人を設立するメリット

農業法人の設立には、次のようなメリットがあります。

  • 従業員を確保しやすくなる
  • 地域の雇用創出にもつながる
  • 税制上のメリットがある
  • 財務諸表を作成し金融機関からの信頼を得る
  • ビジネスの多角化をしやすくなる(会社法人の場合)

農業法人を設立すれば、通常の企業経営と同様に従業員を雇いやすくなります。社会保険などを適用できるため、従業員の福利厚生の向上にも寄与します。過疎地域などの場合は、地域の雇用創出にも役立ちます。

また、法人として経営すると、役員報酬・従業員の給与などを所得から控除して所得税額を圧縮可能。さらに10年間にわたって損失を繰越控除できるため、起業当初に発生する赤字を将来の税支払いの圧縮に役立てられます。

法人を設立すると、財務諸表の作成が義務となります。家計と経営を分離するとともに、金融機関からの信頼を高める上でも有効です。将来ビジネスを拡大するときの融資獲得がスムーズになるでしょう。

資金調達をしやすくなれば、ビジネスの拡大や多角化もスムーズになります。

特に会社法人の場合は農業以外のビジネスも自由に行うことができるため、たとえば農産物の加工や食品販売などを一括して行うビジネスモデルの構築も簡単に。ビジネスの構想として農作物の生産だけでなく、加工・販売まで視野に入れている人は、ぜひ会社法人の設立を検討しましょう。

農業法人の選択肢

農業を営むための法人を設立する時には、次の二つの選択肢があります。

  • 会社法人
  • 農業組合法人

会社法人とは、株式会社や合同会社など通常のビジネスを立ち上げるときにも設立される法人です。ビジネス内容を農業とすることで会社法人の設立・経営ができます。

会社法人はビジネス内容が農業に限定されないため、すでに別のビジネスを営んでいる人や、将来多角化を検討している人などにおすすめです。

農業組合法人という農業独自の法人形態を選択することもできます。こちらは事業内容を農業に限定しなければならず、従業員も農業従事者のみとなります。さらに新規就農者だけでは設立できない点にも注意が必要です。

一方で、農業組合法人では税制上の優遇が受けられるため、農業以外への多角化を検討しない場合には選択肢の一つとなるでしょう。

農業法人へ就職

農業に携わりたいが充分なノウハウがないという人は、農業法人への就職するのも一案です。先ほど紹介したような農業を営む会社法人や農業組合法人に就職して、正社員や契約社員など、収入面で安定した状態で農業に従事することができます。

法人化された農家は、すでに大規模で近代的な農業ビジネスを展開しているいるケースが多く、個人で営むよりも質の高い農業ノウハウを効率的に習得することができるでしょう。

ただし、一口に農業法人と言っても、手掛けるビジネスは千差万別です。さらに、大規模化した法人では、経理や事務など実質的に農作物の生産に関わらない仕事を任されて、農業ノウハウの習得につながらない可能性もあります。

農業法人への就職を検討する場合には、自分がやりたい農業の内容とマッチした法人や職種を選択することが大切です。将来の独立・起業も視野に入れているなら、自分の農業ビジネスのビジョンと合った就職先を選びましょう。

農業ビジネスの課題


日本の農業はまだ課題を抱えています。これから農業ビジネスに参入しようと考えている事業者は、農業ビジネスの課題を理解しておくことが必要です。

農業の抱える課題を知った上で、それらを解決できるビジネスモデルを生み出せば、将来の農業を自社の農業ビジネスを成長させることにつながります。

農業の定義・位置づけが明確になっていない

農業ビジネスの課題として挙げられることは、農業の定義や位置づけが明確ではない点です。
農業は食材の製造業であるはずですが、その位置づけはあいまいでビジネス的な視点が育っていません

ほかの製造業では、国内のマーケットへの供給から海外市場への進出、海外への製造拠点のシフトといった転換がなされてきました。しかし、農業はいまだビジネスとして捉え、ビジネス的な視点で課題解決に取り組む動きは遅れています。

闇雲に作物を生産・出荷するだけでは、付加価値が高まらずビジネスとしての成長が見込みづらく、一方で被災や不作などによる大きな損失発生リスクを抱えることにもなるため、ビジネスとして成功させるのは困難です。

付加価値の高い農作物を継続的に販売するための農作物自体や販売チャネルの工夫や、多角化・ビジネス拡大の見通しを立てて取り組むことが大切です。多角化の観点からは、近年着目されている、製造業やサービス業との連携を意味する「6次産業化」もヒントとなります。

現時点で農業を「ビジネス」として捉える動きが少ない分、起業家それぞれが将来性があり、かつ持続的な農業ビジネスを積極的にデザインしていく姿勢が重要です。

既存農家にビジネス・経営の意識が不足している

既存農家のビジネス視点や経営の意識の不足も農業ビジネスの課題のひとつです。日本の農家は長い間、国のシステムによって支えられてきました。
その結果、農家の多くは、経営という意識を強く持たずに農業を営み続けています。

こうした状況に起因して、既存農家は企画や開発、販売力などが育っていません。また、農業従事者の就労環境の整備も遅れ、新しい担い手不足も指摘されています。

ビジネスや経営の視点を持たないままでは、農業の今後の発展は難しいかもしれません。あくまで、自分の生計を立てる観点から農業ビジネスに参入する場合には、個人事業主のまま継続しても問題ないでしょう。一方で自分のビジネスを持続的なものにしていくうえでは、農業法人を設立して従業員を雇用し、経営しながら後継者の育成も進めていくのが有効です。

一から参入するにはリスクが大きい

農業は収益の予測が立てにくく、未経験で一から農業を学び、経験を積んでいくにはリスクが高すぎます。農業ビジネスが一般法人にも参入しやすくなったとはいえ、ノウハウのない一般法人が参入するには農業は難しい産業です。

また、農業は収益が様々な要因によって左右されやすく、安定しません。それでいて参入時には多額の初期費用がかかります。このように、農業は一から参入するにはリスクもコストも高くあります。実際に農外から農業に参入した法人の6割が赤字であるというデータもありました。

農業ビジネスの起業パターン2つ


農業ビジネスはこれから事業を起こしたい人の選択肢にもなるでしょう。農業で起業を目指すには、以下の2種類のケースが考えられます。これからの農業を支える起業家として成功するには、どちらの方法が良いか検討してください。

1.自分で農作物を作る王道スタイル

農業で起業するケースとして、自分で農作物を作るスタイルは王道ともいえますが、難しいスタイルでもあります。自分が生産者となり、直接農作物を育てるスタイルは、育てる喜びや自分で作った作物を消費者に提供できる喜び、農業のやりがいなどを実感できるものです。しかし、その一方で土地の確保や整備、ノウハウの構築など、一からやっていく必要があります。

農業を自分で経営するためには、広大な土地や施設、設備が必要となり、初期投資が多額になりがちです。資金調達も自己資金以外の方法では苦戦することも多いでしょう。また、農業は薄利多売になりやすく、経営も安定しない恐れもあります。

しかし、困難に負けない使命感を持ち、リスクやコストの壁を超えようとの気持ちがあるなら、農業法人で働きながら学び、独立を目指すのも方法のひとつです。また、年間で複数回収穫できる作物を選び、生産回数を増やすことで、リスクを抑えつつ生産のコツを掴んでいけます。

2.新しい農業のビジネスモデルも

自分で農作物を生産するのではなく、新しいビジネスモデルで起業するのもひとつの方法です。現状で注目を集め、成功が期待されているのは、農業に関連したビジネスで起業するスタイルです。

農業ビジネスとは、初めに述べた通り、自分で生産するだけでなくその周辺の農業に関連する産業や業種も含みます。これから農業に新規参入し、起業したいのであれば、一から始めるのが難しい農作物の生産ではなく、リスクの低いビジネスを構築しましょう。

自分の強みや実績を生かせる分野を農業に組み込みビジネスモデルを作ることで、収益化までの時間を短縮し、競合との差別化を図ることもできます。
また、広大な土地や高額な設備も必要としないモデルもあるため、資金繰りの心配もありません。

農業の周辺ビジネス

農業の新しいビジネスモデルとしては、農業の周辺ビジネスという形があります。

農作物を作るのではなく、農作物を作り、消費者に届けるまでの過程の中のビジネスチャンスを見出し、参入するスタイルです。例えば、農作物を販売するためのインターネット通販、また、それにまつわるマーケティングや商品企画、ブランド化戦略なども周辺ビジネスといえます。

農業では農作物を育てることも大切ですが、認知度や消費者の購買意欲を高め、販路を拡大するようなビジネスも、これからの農業には必要です。農業のノウハウがなくても、生産はその専門家である既存の農家などに任せ、自身は得意な分野で農業を盛り立てる仕事ができます。

農業の6次産業化

農業分野に新しいビジネスで参入する際には、6次産業にも注目しましょう。6次産業とは、地域資源と産業が融合した新しい産業を指します。1次産業である農作物の生産と生産物を加工する2次産業、さらに加工品の販売や飲食、宿泊などの3次産業の「1次」・「2次」・「3次」を掛け合わせ、「6次」と呼ぶようになりました。

新しいビジネスモデルではありますが、農家で採れた野菜を漬物に、採れた魚を干物にして販売するといった昔から実践されているものもあります。これを発展させていき、新しいサービスを生み出すことで、起業の道を探るのも良いかもしれません。

これまでのビジネスモデルとしては、農村レストランや収穫体験、グリーンツーリズムなどがあります。1次産業に留まらず発展させることで、農産物に付加価値を付けられます。

農業ビジネスに対する魅力


農業ビジネスは、課題解決の必要性や新しいビジネスモデルの登場により、大きく変化していく可能性があります。これからの農業ビジネスの展望としては、これまでの農業経営のあり方が見直され、以下のような取組みが広がっていくことが予想されます。

スマート農業の導入

農業の分野でも高齢化や人手不足の問題は顕著に見られます。特にこれまでの農業のイメージから、体力の面で厳しいと思われることもあり、新しい農業従事者の増加をはばんできました。

しかし、近年ではロボットやIT技術などを取り入れたスマート農業への期待が高まっています。スマート農業の発展により、農業への大変そうなイメージも改善され、人材不足も解消されるのではないかと見られています。

農業法人の大規模経営で耕作放棄地削減

日本では、農家の担い手不足によって、耕作放棄地が増えています。これまで農家が代々引き継いで個々に管理してきたことで、後継者不在によって農地が放棄されるケースが増えています。

しかし、近年では農業法人の増加によって、耕作放棄地の削減への期待が高まってきました。
農業法人の大規模経営では、耕作放棄地を活用でき、さらに農業を事業化することで作業効率のアップや収益性の向上などを目指せるでしょう。

農業法人について詳しくはこちらの記事を>>
農業法人とは?農業法人のメリット・デメリットについて

農作物・加工品のブランド化

これからの農業ビジネスの発展には農作物や加工品をブランド化し、より売れる商品を作っていくことも欠かせません。インターネットの普及によって、販路が広がり、ブランド化された商品が大きなヒット商品となる可能性が高まっています。

ほかの産業や商品と同様に、農作物や加工品もブランディングやマーケティング戦略を立てて実践していくケースが増えてくるでしょう。ブランド化に成功すると、単純に作って売るだけよりも収益アップが期待できます。

放棄地の有効活用や地方産業の活性化に貢献

農業ビジネスでの起業は、地域振興の観点では社会的意義の大きい活動といえます。自身の事業の社会貢献性を意識する人には魅力的な業態と言えるでしょう。

現代において完全な自然の土地を一から開拓することは考えにくく、ほとんどの人は、かつては農作が行われていたが廃棄された土地、既存の農家が高齢化して農業の継続が難しくなった土地などを活用します。

つまり、そのままではいずれ棄てられてしまう土地を有効活用し、またその地域の過疎化・無人化を食い止める役割を果たします。さらに、地域の産業振興や雇用創出にも貢献できます。農業法人を設立して従業員を雇えるようになれば、従業員の人数分だけ新たな雇用創出になります。

また、農業を営む中で地域産業の活性化にも役立つでしょう。自身が付加価値の高い農作物を生産することで、地域の製造業・小売店などのサービス業のビジネスに貢献できます。さらに、6次産業化により地域のさまざまな業態を巻き込む形でビジネス展開できれば、地域活性化へ大きな役割を果たすことができるでしょう。

農産物への需要は本質的には安定

ビジネスは業態によっては需要の増減が激しかったり、今は着目されていてもやがて陳腐化したりして、継続的な市場拡大が難しい場合もあります。その点、農業は人が絶対欠かすことのできない「食」に直結する業態です。

もちろん個別の農作物やブランドなどに流行り廃りはあるものの、農作物自体の本質的な需要は他の業態と比べると安定しているといえます。たとえ景気が良くても悪くても、人にとって食事は欠かせないためです。

農作物を安定的に生産・販売できるようになるまでには専門的なノウハウが求められます。しかし農作物の需要自体は無くなることはないため、収益モデルが確立すれば持続的なビジネスとして育てる余地は充分にあるでしょう。

農業ビジネスで起業することのメリット・デメリット


農業ビジネスに参入して起業することには、メリットとデメリットがあります。
今の農業には解決すべき課題もあるため、当然、参入は簡単には進まないことは予想できますが、課題があるからこそ、参入のチャンスであるともいえます。

農業ビジネスで起業を目指すなら、課題をデメリットと捉えずにチャンスに変えられるか、メリットとデメリットを比較して検討することから始めましょう。

農業ビジネスのメリット

農業ビジネスで起業するメリットは、現状の農業には新規参入できる余地が十分に残されている点です。
新規参入者自身がこれまでの農業の課題を解決するきっかけとなることもあります。新しい視点を持っているからこそ、できることも多いでしょう。

生産者が不足している

農業ビジネスのメリットのひとつは、生産者が不足している点です。担い手の不足は農業ビジネスの課題でもあるとともに、新規参入のハードルを下げる魅力でもあります。

国や自治体でも相談窓口を設ける、農業の研究成果の展示会を開催するなど、農業人口を増やすための取組みを行っています。生産者が不足しているビジネスだからこそ、新規参入による農業人口の増加は歓迎されるものです。

機材の発達により労働環境は改善

農作業にきつい印象を持つかもしれませんが、現代では機材の発達によって労働時間や労働のきつさも大幅に軽減されています。初心者でも機材を用いることで、比較的簡単に農作業に取り組めるようになりました。

労働環境が改善されたことで、働き手の確保もハードルが下がります。農業への注目度も高まっているため、やり方次第ではやる気のある働き手を集めることも不可能ではありません。若年層や外国人の研修生制度の活用は、安価にやる気ある農業の働き手を得られる方法のひとつです。

農業ビジネスのデメリット

農業ビジネスは以前よりも参入しやすく注目度も高まっていますが、新規参入のハードルはまだまだ高いといえます。起業の方法として農業ビジネスを選択する場合には、デメリットを受け入れ、対策できるかも検討してください。

人脈・ノウハウなしではできない

一から農業を始める場合、人脈やノウハウなどがない状態からでは成功が難しいかもしれません。農地選びから始まり、苗の選び方や手入れの仕方など、農作物を作るノウハウは同業の先輩や仲間から学ぶことが多くなります。

周辺ビジネスを手掛ける際にも、人間関係の構築は必須です。新規参入ではこうした人脈作りとノウハウの獲得に時間がかかり、軌道に乗るまで長く利益が出ないこともあります。

初期費用が大きい

農業ビジネスへの参入ハードルとして初期費用の高さを挙げる人は多くいます。農業を始めるためには、まず広い農地、農業用機械や機材の費用、一から始める場合には技術習得のためにも費用がかかります。

また、事業を始めてからも、機械のメンテナンスや肥料、人件費などがかかる一方で、収穫までには時間がかかり、その間は収益が確定できません。コスト面の負担によって、新規参入のハードルは上がり、参入に不安を感じる場合も多くなります。

農業ビジネスへの新規参入を成功させるポイントと対策


農業ビジネスは農地法改正によって農外からの新規参入も可能となりました。しかし、農業はビジネスとして様々な課題を抱えており、ただ漫然と参入して成功できる産業ではありません。

農業ビジネスに新規参入を検討する人のために、成功のポイントを紹介します。課題解決や新しいビジネスモデル構築のために、以下のポイントを押さえておきましょう。

農業ノウハウ習得のために技術習得手段を確保・実行

農作物を収益化できるレベルで安定的に生産・販売するのには高い技術が必要です。まずは、農業ノウハウを取得する方法を検討して、実行していく必要があります。農家に弟子入りしたり、自分のビジネスの方向性と合った農業法人に従事すれば、農業で独り立ちするための専門性を身につけることができるでしょう。

そのほか、農業研修機関や各地の農業大学校などで農業を学ぶ方法も有効です。より先進的な農業技術について体系的に学ぶことができるでしょう。特に農業大学校は全国の41道府県に設置されています。その地域の天候や風土・農作物のトレンドに合った農業を学ぶことができるので、農業ビジネスの拠点として考えている地域の大学校に入学するのが有効です。

情報のアンテナを張り巡らせておく

農業ビジネスへの新規参入では、情報収集が欠かせません。常に情報のアンテナを張り巡らしておき、自ら積極的に新しい情報を得るようにします。

国や自治体からの情報はもちろんのこと、同業者、地域とのコミュニケーションも密に取っておくことが大切です。インターネットからの情報収集に留まらず、地域の集まりなどにも顔を出し、交流しておきましょう。

様々な角度から経営分析する

農業ビジネスで成功を収めるためには多角度から経営分析することが大切です。特に新規参入では、無知がゆえに騙されたり買い叩かれたりする場合もあるかもしれません。

気になる部分は調査を行い、うまくいかない原因や課題の追及をすることが必要です。さらに、近隣の農家など先輩や仲間に相談してみることで、ベテランのノウハウなどを教えてもらえる場合もあります。

資金調達と資金計画を綿密に

一から農業ビジネスをスタートする際には、十分な資金の準備は必須です。農業は、基本的に農地の確保や機器類の準備など、初期費用がかかります。さらに最新の農業を取り入れるには、ITやICTの導入といったところにもコストがかかります。

その一方で人脈作りやノウハウの獲得、収穫までには時間も必要です。そのため、事業資金はもちろんのこと、試行錯誤の時期を乗り切るだけの生活費なども余裕をもって準備しておくことをおすすめします。

必要な事業資金や運転資金を把握するためには、綿密な収支計画・経営計画の策定も欠かせません。ほとんどの場合単年で黒字を達成するのは不可能なので、開業時の計画だけでなく、少なくとも黒字を達成させる前の中長期的な収支計画を立てたうえで、必要な資金額を整理する必要があります。

もし自己資金だけでは不足する場合には、金融機関の融資も視野に入れる必要があります。JAや日本政策金融公庫は農業や新規事業に対するサポートが手厚い傾向にあるので、綿密な計画を立てて担当者の信頼を得られれば、融資獲得を実現できる可能性も高まるでしょう。

また、農業立ち上げの黎明期にはさまざまな補助金も活用可能です。もれなく活用して創業当初の厳しい時期を乗り切っていきましょう。

農業ビジネスに活用できる補助金とは?

農業の担い手の確保は日本としても重要課題の一つであるため、新たに農業を始める人をサポートする補助金が存在します。たとえば、日本全国で活用できる補助金としては農業次世代人材投資資金があり、大きく分けて準備型と経営開始型があります。

準備型は、農業ビジネスの立ち上げを目指して、研修機関等で研修を受ける者に補助金が交付されます。対して、就農準備資金が交付される制度です。交付金は最大で300万円、期間は最長2年間です。

なお、以下のような条件があります。

  • 就農予定時の年齢が原則50歳未満
  • 次世代を担う農業者となる強い意欲を持つ
  • 「研修機関等認定基準」を満たしす研修機関等で研修を受ける

一方で、経営開始型は経営開始後、安定するまでの間の経営を支える意味合いがあり、最大3年間、年間150万円が交付されます。こちらの条件は次のとおりです。

  • 就農予定時の年齢が原則50歳未満
  • 次世代を担う農業者となる強い意欲を持つ
  • 世帯所得が600万円以下
  • 生活保護などの生活費を補填する資金を受給していない

このほかに農業立ち上げに伴い自治体独自の補助金制度を活用できる場合も。自分が農業の拠点とする地域の制度を調べたうえで、補助金をうまく活用して経営の安定度を高めてください。

農地獲得を積極的に進める

実は農地の獲得が新規就農者のハードルとなるケースは少なくありません。自治体のルールにもよりますが、農地は自由に売買することができず、就農予定者がそこで農業を行うのが妥当であると認められなければ、農地を入手できないのです。

そもそも既存の農家さんが代々農業に利用してきた農地を赤の他人に売却するのを嫌気するケースも多く、農地入手は資金力があっても難航する傾向にあります。

一方で、農業の担い手を確保するために、遊休農地の譲渡制度を整えている場合もあります。情報収集の過程で、自分が描く農業ビジネスに適した農地を積極的に探し、獲得に向けて制度利用や交渉を進めていきましょう。

販売チャネルの開拓が重要に

農作物を最もシンプルに収益化するのは市場への販売ですが、市場価格の変動の影響を受け、また付加価値もつきにくい場合もあります。農業をビジネスとして成長させていくためには、販売チャネルの開拓が重要です。

たとえば産地直産の農作物として小売店などと契約すると、市場を通さない分より高単価で安定的に販売できる可能性もあります。品質に自信があるならば、飲食店などと直接契約する方法もあるでしょう。

さらに多角化して、ネット・店舗などを活用して自ら農作物を販売したり、農作物を活用した加工食品を製造・販売したりといった方法も考えられます。市場は収益化の最終手段の一つと捉えて、より高付加価値・高収益につながるチャネルを積極的に開拓していきましょう。

まとめ

農業ビジネスは、新しいビジネスモデルの登場やIT化によって注目を浴びているビジネスジャンルです。特に新しいビジネスモデルには、これまでの農業の課題をクリアにし、より発展的な農業へと進化を遂げる可能性として期待が集まっています。

ただし、農業経営にはいまだ難しい点も残っています。新規参入を考えるなら、地域の人脈や既存のノウハウも大切にしつつ、異業種からの参入だからこその新発想を存分に活かして取り組みましょう。

創業手帳の冊子版(無料)は、資金調達や事業計画など起業前後に必要な情報を掲載しています。起業間もない時期のサポートにぜひお役立てください。
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(編集:創業手帳編集部)

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