起業家のための所得税入門

資金調達手帳

個人事業主と法人で節税できるのはどちら?

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自分の所得税について考えてみたことがあるだろうか?もし脱サラして創業した起業家であれば、サラリーマン時代は給与から天引きされ、12月には会社が年末調整をしてくれていたので、あまりその機会はなかったのではないだろうか。

起業すれば自分の力で獲得した儲けが税金に直結するので、「所得税について知らない」では節税の面でも損をする。今回は所得税の基本について説明し、個人事業主あるいは法人で事業を行う場合、「どちらの方が納める税金の合計を安くして節税できるか?」を、例を挙げてシュミレーションしながら紹介する。

所得と収入は違う?

所得税の話をする前に、そもそも「所得」の意味を勘違いしている経営者も多い。「収入」と「所得」が曖昧になっていたり、勘違いしているケースが多い。特に「所得」とは「儲け」のことであり、「所得」は「収入」より少なくなる。

給与所得の定義

給与所得 = 収入 - 給与所得控除

例えば、サラリーマンで年収500万円だった場合、「収入」は500万円だが、給与所得控除(500万円×20%+54万円=154万円)があるため「給与所得」は約350万円(500万円-154万円となる。さらにそこから社会保険や生命保険料などの控除があるため、実際の課税される所得はもっと少なくなる。

【表1】給与所得控除(2014.8.21現在)

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
1,800,000円以下 収入金額×40%。650,000円に満たない場合には650,000円
1,800,000円超~3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超~6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超~10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超~15,000,000円以下 収入金額×5%+1,700,000円
15,000,000円超~ 2,450,000円(上限)

なお、法人を作って役員報酬を得ている場合はサラリーマンと同じ計算となる。

個人事業主の場合は、売上から経費を引いた金額が所得となる。その後、社会保険や生命保険料などの控除があるのは同じだ。


所得税の仕組み

所得税は、「収入」金額ではなく「所得」金額に対して課税される。

「累進課税」という言葉は耳にしたことがあるだろう。日本の所得税は累進課税制度を採用しており、「所得の金額が増えるにつれて税率も上がる」というシステムになっている。現在では所得金額によって5%~40%まで6段階の税率が存在している(表2参照)。

【表2】所得税率(2014.8.21現在)

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超~330万円以下 10% 97,500円
330万円超~695万円以下 20% 427,500円
695万円超~900万円以下 23% 636,000円
900万円超~1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超 40% 2,796,000円

例えば、500万円の所得がある場合、500万円×20%-427,500円=572,500円 が所得税となり、1,000万円の場合は、1,000万円×33%-1,536,000=1,764,000円 が所得税となる。

500万円の場合の実負担割合は 11.45%(572,500円÷5,000,000円) となり、1,000万円の場合は 17.64%(1,764,000÷10,000,000) となる。

所得の金額が増えるにつれて税率も上がることが実感できるだろう。

なお、これ以外に住民税が10%かかるため、最高で50%(課税される所得金額が1,800万円超の場合:40%+10%)が税金で徴収される計算になる。現在は、さらに復興特別所得税が2.1%かかるが、今回は割愛した。

個人事業主と法人ではどちらが税金が安い?

起業家個人としての税金の疑問として多いのが、「個人事業主と法人とどっちの税金が安い?」という節税の話である。

個人の場合には所得税・住民税の負担を考えれば良い。一方で、法人を作って役員報酬を貰うとなると、会社の法人税等と個人の所得税・住民税等を総合的に勘案しなければならない。結論としては、どちらが上手く節税できて税金が安くなるか?は、役員報酬の額などによって、ケース・バイ・ケースで「人による」となる。

しかし、これでは身も蓋もないので、具体例を挙げて税金計算のシュミレーションをしてみよう。

売上3,000万円、経費2,000万円で課税所得が1,000万円あった場合、個人事業主は「税金合計 = 所得税 + 住民税」で、事業の儲け1,000万円が所得になる。

個人事業主の税金(所得税 + 住民税)

所得税:1,000万円×33%-1,536,000円=1,764,000円
住民税:1,000万円×10%=1,000,000円
税金合計:2,764,000円

一方で、法人の場合、現在の法人に係る法人税や事業税などを合計した実質的な税率(実効税率)が35.64%なので、

法人の税金(法人税)

法人税(法人に係る法人税や事業税などを合計):1,000万円×35.64%=3,564,000円

となり、これでは個人の方が80万円ほど有利に見える。しかし、法人の場合には、さらに役員報酬を所得から差し引いてから法人税を計算することができる。

経営者の役員報酬の税金も含めた法人は「税金合計 = 法人税 + 所得税 + 住民税」である。役員報酬を500万円とした場合、以下のようになる。

法人と役員報酬の税金(法人税 + 所得税 + 住民税)

法人税(法人に係る法人税や事業税などを合計):(1,000万円-500万円) ×35.64%=1,782,000円
所得税:350万円(※)×20%-427,500円=272,500円
住民税:350万円×10%=350,000円
税金合計:2,404,500円

※前述したとおり、「収入」が500万円の場合、「所得」は約350万円となる。

経営者の役員報酬の税金も含めた法人の税金は、「役員報酬分だけ法人税の納税額が減額された」ことと、「所得税の計算で給与所得控除が受けられるようになって所得税と住民税が減額された」ため、合計の納税額は法人の方が36万円ほど安くなった。

なお、上記の例は、諸条件を単純化した具体例なので、条件が重なれば別の結果になることは断っておきたい。

まとめ

起業直後の創業期で所得が小さいうちは、所得税は累進課税で税率が低く、比較して法人税率が高いので、個人事業主として事業を行って節税するのもありだろう。

一方で、事業が成長して所得が増えてくると、累進課税で所得税の税率が高くなる。そこで、法人化して役員報酬を受け取るようにすると、給与所得控除が受けられるようになり、役員報酬の所得税や住民税の納税額を減額できる。また、儲けから役員報酬分を費用として差し引くことができるので、結果として法人税の納税額も減額できる。

よって、もし迷うのであれば、①起業直後の儲け(所得)が少ない時期は個人事業主として始めてみて、②儲け(所得)が増えてきたら法人成りしてベンチャーを設立して役員報酬を受け取るのも、起業家にとって一つの上手い節税のやり方だと言えるだろう。

ここで挙げた例は、人によって条件が異なるため、詳細なシミュレーションが必要となる。専門知識が必要となるので、具体的にシュミレーションして検討するのであれば、税理士と相談しながら検討するのが良いだろう。

【関連記事】起業してからの住民税の考え方

(監修:渋谷税理士法人 中村剛士)
(創業手帳編集部)

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