中小企業が賃上げできない理由とは?賃上げをしないリスクや活用できる助成金を紹介

創業手帳

賃上げができない中小企業は約2割


日本の企業では定期的な賃上げが実施されています。
東京商工リサーチによる「2024年度賃上げに関するアンケート」では、2024年度に賃上げを予定している企業は85.6%という調査結果でした。
企業の規模別に見ると、93.1%の大企業では2024年度の賃上げが実施されることがわかっています。
一方、賃上げを実施する中小企業は84.9%に留まり、賃上げができない中小企業は約2割存在することがわかります。中小企業が賃上げを実施できない理由は様々です。

そこで今回は、中小企業が賃上げできない理由をはじめ、賃上げができない企業のリスクや、賃上げを実施する方法について解説していきます。
賃上げができないと悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。

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中小企業が賃上げできない理由


中小企業が賃上げができない理由を3つ紹介します。

原材料や諸経費の価格高騰

賃上げができない理由のひとつとして、原材料や諸経費の価格高騰が挙げられます。原材料や諸経費が増えれば支出も増え、賃上げに充てる資金を確保できません。
原材料がなければ経営を続けることが難しくなるため、賃上げよりも原材料の調達が優先される傾向です。
近年はウクライナ情勢の影響によって、様々な分野で原材料高騰が見受けられます。支出増を避けることは難しく、中小企業の多くで賃上げをする余裕がなくなっています。

価格転嫁ができない

賃上げができない理由として、コストが増加した分を価格転嫁できない点が挙げられます。コストが増加しても、価格に転嫁できれば賃上げは可能です。
しかし、取引先や消費者からの理解が得られず価格に転嫁できなければ、利益が圧縮され賃上げできません
同じ売上げで経費が増加するため、利益が減少している企業も存在します。

人手不足による人件費の高騰

近年、人手不足に悩んでいる企業が増えていますが、人件費の高騰によって賃上げに踏み切れないケースも多くあります。
また、最低賃金の引上げも大きく影響を受けています。

競合他社が自社よりも高い賃金を提示していれば、人材獲得は困難です。
人材不足の解消には最低賃金に上乗せした額の提示が求められることから、賃上げのための資金確保が難しくなっています。

賃上げができないと企業にとってどのようなリスクがある?


中小企業が賃上げできない場合のリスクについて解説していきます。

離職率が上昇する

賃上げできなければ、従業員のモチベーションがダウンするだけではなく、不満が増えるかもしれません。
また、従業員が離職すれば生産性がダウンするため、売上げに影響を与えてしまう可能性があります。

残った従業員の負担が大きくなれば、精神的な負担や肉体的な負担が増え、さらなる離職を招くかもしれません。
最悪の場合、倒産に陥る可能性もあるため、離職率を下げない工夫が大切です。

新しい人材が確保できない

賃上げができなければ、新しい人材の確保も難しくなります。賃金が安ければ、求職者は他の企業に流れてしまいます。
また、賃金が安い状態が続けば「ブラック企業」のイメージを持たれる可能性もあり、自社に応募してもらえない理由になるかもしれません。

社員のモチベーションが下がる

昇給がなければ、モチベーションの低下を招きます。
「頑張っても報われない」と思われてしまえば、仕事に対する熱意がなくなるかもしれません。

2022年に実施された内閣府による「国民生活に関する世論調査」では、「お金を得るために働く」と答えた人が60%以上いることがわかっています。
そのため、給与額はモチベーション維持に欠かせない役割を持つことが考えられます。

賃上げを実施する方法①価格転嫁対策


2024年春闘の平均賃上げ率は「5%以上」が目標として掲げられており、今後も賃上げの目標が掲げられるかもしれません。
賃上げを実施する方法のひとつとして、価格転嫁対策が挙げられます。どのような方法で対策を取るべきか解説していきます。

原価を計算して把握する

価格転嫁を進めるための方法として、原価計算は欠かせないポイントです。
原価計算によって販売価格に転嫁すべき金額を導き出し、発注側の企業に対して値上げを求める根拠になります。
なお、支援機関や業界団体が提供する原価計算ツールを活用すれば、業務負担を軽減しながら原価計算を行えます。
原価計算の手法を学ぶためのセミナーや相談会への参加や、専門家による解説動画を視聴することもおすすめです。

価格交渉促進月間を活用する

経済界においては、価格交渉や価格転嫁を促すための「価格交渉推進月間」が中小企業庁によって設定されています。毎年3月と9月が価格交渉推進月間です。

2024年に実施されたフォローアップ調査結果によれば、中小企業の6割ほどで価格交渉推進月間中に価格交渉が実施されています。
このタイミングを狙うことで、価格交渉をしやすくなります。
経済産業省と中小企業庁による「適正取引支援サイト」では、価格交渉の講習会や相談窓口についても解説しているので、ぜひチェックしてみてください。

支援ツールを利用する

価格交渉をする際には、価格転嫁の必要性を明確に示す準備が必要不可欠です。
しかし、これまでに価格交渉をしたことがなければ、交渉が難しいと考える方も多いかもしれません。

そのような方には、支援ツールを活用がおすすめです。中小企業庁は、支援ツールやコスト費別価格交渉フォーマットの例などを紹介しています。
スムーズに交渉に挑むために、ぜひ活用してみてください。

中小企業庁:価格交渉・転嫁の支援ツール

競合他社が値上げするタイミングを狙う

価格転嫁を成功させるためには、交渉を行うタイミングも重要です。
価格交渉促進月間の活用も必要ですが、発注側の企業が価格改定を実施するタイミングや、競合他社が値上げをするタイミングには交渉をさらに進めやすくなります。
日頃から発注側企業や競合他社の価格動向を注視しておくと、成功しやすいタイミングを逃さず交渉できます。

賃上げを実施する方法②補助金・支援の活用


賃上げを実施する方法として、補助金や支援の活用も挙げられます。どのような支援策があるのか解説します。

業務改善助成金

事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、生産性を向上するために設備投資を実施した中小企業に対して費用の一部を助成する制度が「業務改善助成金」です。

  • 中小企業もしくは小規模事業者である
  • 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内
  • 解雇や賃金の引き下げといった不交付事由がない

以上の条件を満たしていれば申請できます。最大で600万円が助成されるため、条件を満たしている場合は活用を検討してみてください。

キャリアアップ助成金

非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するために、処遇改善に対する取組みを実施した企業に対して助成金を支給する制度が「キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コース」です。

  • キャリアアップ計画の作成と提出
  • 賃金規定などの適用
  • 賃金アップ

以上が主な要件となります。1人あたりの助成額を以下の表にまとめました。

賃金引上げ率3%~5%未満 賃金引上げ率5%以上
中小企業 50,000円 65,000円
大企業 33,000円 43,000円

なお、1年度1事業所あたりの支給申請上限人数は100人です。

中小企業向け「賃上げ促進税制」

青色申告書を提出している中小企業が一定の要件を満たし、前年度よりも給与支給額を増加させた際に、増加額の一部を法人税から税額控除できる制度が「賃上げ促進税制」です。
給与支給額が前年度と比較して1.5%以上増加すれば、15%分を法人税額もしくは所得税から控除されます。
また、2.5%以上増加すれば、税額控除率が15%上乗せされ、10%以上増加すればさらに10%の税額控除が加算される仕組みで、最大で40%の税額控除が可能です。

詳細はこちらもお読みください
【2024年最新】中小企業向けの賃上げ促進税制とは?仕組みや適用条件などをわかりやすく解説!

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継を機に、新しい取組みや事業再編、事業統合にともなう経営資源の引き継ぎなどを実施する中小企業や小規模事業者に対して、経費の一部を補助したり経営資源の引き継ぎに要する経費の一部分を補助したりする制度が「事業承継・引継ぎ補助金」です。
経営革新・専門家活用・廃業、再チャレンジの3種類があります。それぞれの補助率は以下のとおりです。

種類 補助率
経営革新 1/2もしくは2/3
専門家活用 1/2もしくは2/3
廃業・再チャレンジ 1/2もしくは2/3

なお、補助率は補助対象の要件によって異なります。

働き方改革推進支援助成金

長時間労働の是正や賃金見直しに取組む企業に対して、費用の一部を助成する制度が「働き方改革推進支援助成金」です。

  • 業種別課題化対応コース
  • 労働時間短縮、年休促進支援コース
  • 勤務間インターバル導入コース
  • 団体推進コース

働き方改革推進支援助成金には、上記の4コースがあります。成果目標があるため、ひとつ以上選択して達成を目指すことが必要です。
なお、成果目標に加えて、労働者の時間当たりの賃金額を3%以上引き上げると、支給額の上限を加算できます。
詳しい内容は、厚生労働省による働き方改革推進支援助成金のページをチェックしてみてください。

事業再構築補助金

ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、新分野展開や事業転換、業態転換や事業再編など、事業再構築を考える中小企業や小規模事業者の挑戦を支援する制度が「事業再構築補助金」です。

コロナ回復加速化枠(最低賃金類型)では、コロナ禍終息後でも最低賃金の引上げに大きな影響を受ける事業者に対して、中小企業であれば最大で3/4、中堅企業であれば最大で2/3の補助金を受け取ることが可能です。
なお、必須要件に加えて、以下の要件を満たしている必要があります。

  • コロナ借換保証で既往債務を借り換えている
  • 2022年10月から2023年9月までの期間、3カ月以上最低賃金+50円以内で雇用している従業員が10%以上いる

小規模事業者持続化補助金

「小規模事業者持続化補助金」は、小規模事業者による販路開拓などの取組みに必要な経費を一部補助することで、地域の雇用や生産性向上、持続的発展を図ることが目的の制度です。
賃金引上げ枠では、地域別最低賃金よりも50円以上賃上げを実施した事業者に対して補助上限が200万円に引き上げられます。
なお、業績が赤字の場合は補助率が上がる追加要件もあるので、管轄地域の商工会や商工会議所に相談してみてください。

賃上げを実施する方法③福利厚生を充実させる


賃上げの方法として、福利厚生を活用する企業も増えています。「第三の賃上げ」ともいわれており、非課税枠を活用することで企業や従業員双方にメリットを与えてくれます。
主な福利厚生は以下の方法です。

  • 住宅手当の増額
  • 食事補助の導入または拡大
  • 通勤手当の見直し
  • 育児介護支援の強化
  • 健康増進プログラムの提供 など

福利厚生項目には一定の非課税枠が設定されているので、非課税枠内で福利厚生を拡充すれば、実質的な収入増を見込めます。
例えば、家賃や住宅ローンの返済に充てられる住宅手当を増やせば、手取り額の増加と同じ効果を得ることが可能です。
通勤手当であれば月額15万円まで、食事補助であれば1食につき500万円までは非課税となるため、導入を検討してみてください。

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補助金ガイド

賃上げを実施する方法④生産性の向上


労働者1人あたりの生産性を向上させれば利益がアップし、賃金の上昇にもつながります。
モチベーションの維持や向上のための策を考えることも大切ですが、AIやITツールの導入も検討してみてください。
効率的に事業を進められれば、生産性の向上を目指せるでしょう。

まとめ・賃上げできない理由を理解し社員のモチベーションが上がるよう制度を活用しよう

大企業と比べると、賃上げを実施できていない中小企業は多くあります。賃上げを実施できない主な理由は、原材料の高騰や価格転嫁ができないことや、人件費の高騰です。
賃上げができなければ、離職率の向上や人材確保が難しくなるなどのリスクがあり、企業にとっては大きなデメリットとなります。
価格転嫁対策や補助金の活用、福利厚生などを活用して、賃上げ対策をしてみてください。また、生産性を向上させるためにもDXの活用は欠かせません。

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(編集:創業手帳編集部)

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