プロパー借換制度とは目的やメリット、利用手順について解説
経営者保証を外して資金繰りを改善しよう
プロパー借換制度は、経営者保証に依存しない融資を促進させるために2024年3月15日からスタートした制度です。
信用保証協会の保証が付保されていないプロパー融資では、経営者保証の提供が一般的です。
しかし、経営者保証は経営者にとって大きな負担となることが問題点でした。
プロパー借換制度が誕生したことで、一定条件を満たしていれば経営者保証を外した信用保証付融資に借り換えができます。
そこで今回はプロパー借換制度の概要から利用するメリットや注意点、利用手順まで解説します。
経営者保証を外した融資に借り換えて資金繰りを改善したい方は、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
プロパー借換制度の概要
プロパー借換制度の正式名称は、プロパー融資借換特別保証制度です。
経営者保証を提供する既存のプロパー融資から経営者保証の提供がない信用保証付融資に借り換えを認める制度です。
ただし、信用保証付融資への借り換えが可能なのは、一定の条件を満たした中小企業者となるので注意してください。
プロパー借換制度の仕組み
プロパー借換制度を利用できるのは、経営者保証を提供する保証協会の保証を付けていない融資(プロパー融資)を利用する法人です。
ここで東京信用保証協会の情報を参考に、プロパー借換制度の詳しい詳細を見ていきましょう。
保証限度額 | 2億8,000万円(組合等は4億8,000円) 申込金融機関における保証限度額は、経営者保証を提供しないプロパー融資残高の範囲内 |
資金使途 | 既存のプロパー融資のうち、経営者保証を提供する事業資金の借り換え資金 |
返済方法 | 一括返済もしくは分割返済 |
保証期間 | 一括返済:1年以内 分割返済:10年以内(据置期間1年以内) |
責任共有制度 | 責任共有対象 |
担保 | 必要に応じて徴求する |
保証人 | 不要 |
融資利率 | 金融機関所定利率 |
信用保証料率 | 0.30~1.90% |
添付書類 | 協会所定の申込資料、財務要件等確認書、借換債務等確認 |
取扱機関 | 2024年3月15日~2027年3月31日 |
プロパー借換制度の保証限度額は、2億8,000万円(組合等は4億8,000万円)となっています。
ただし、申込金融機関における経営者保証の提供がないプロパー融資の残高範囲内となっている点に注意が必要です。
返済方法は一括返済と分割返済のいずれかを選択できます。
保証期間は一括返済が1年以内、分割返済は10年以内(そのうち据置期間は1年以内)となっており、返済方法によって異なります。
責任共有制度の対象となっているのも特徴です。
責任制度とは、信用協会と金融機関が適切な責任共有を図り、両者が連携して、融資実行後の中小企業・小規模事業者の支援を目的にした制度です。
具体的には、信用保証付融資の返済が困難になった際に保証協会が100%責任を負うところ、金融機関が20%の責任を共有します。
これによって保証協会の負担が減り、その分信用保証料率が低くなっています。
なお、信用保証料率は保証協会によって異なる場合があるので、各協会の概要を確認してください。
プロパー借換制度の利用条件
経営者保証を提供するプロパー融資を利用する法人であること以外に、以下の条件を満たすことでプロパー借換制度を利用できます。
-
- 資産超過である
- EBITDA有利子負債倍率が15倍以内
- 法人・個人が分離されている
- 返済緩和している借入金がない
資産超過は、賃借対照表の純資産の部がプラスの状態を指します。マイナスになっていれば債務超過を意味するため、プロパー借換制度の対象外です。
EBITDA有利子負債倍率は、返済能力を示す指標の一つです。「(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)」で求めることができます。
この指標が15倍以内であれば、利用条件を満たしたことになります。
「法人・個人が分離されている」とは、経営者保証ガイドラインで定められている基準です。
ガイドラインでは、経営者保証を外す条件として資金の所有・お金のやり取りについて、法人と経営者で明確に分離し、一体化の解消に努めることが求められています。
具体的には、法人から経営者に対して業務上、必要性のない貸付金や未収入金などの資金の流れがない状態であれば、プロパー借換制度を利用することが可能です。
「返済緩和している借入金がない」というのは、返済期限の延長といった返済条件を緩和した借り入れがないことを示しています。
ただし、この条件に関しては例外もあります。
申込日が危機関連保証の指定期間となっていたり、新型コロナウイルス感染症に係る経営安定関連保証4号の指定期間であったりすれば、要件の確認基準日に関する緩和措置があります。
プロパー借換制度の目的
プロパー借換制度の目的は、ただ単に融資における経営者保証を外すことではありません。
経営者保証に依存しない融資環境を促進し、中小企業の事業成長を支援することが真の目的です。
経営者保証の提供は、経営者にとってリスクがあり、新たなチャレンジを妨げる恐れがあります。
しかし、経営者保証に依存しない融資が浸透すれば、経営者は積極的に融資を利用して事業に投資することが可能です。
その結果、事業の成長を加速させて収益力を高めることが可能です。
また、事業に将来性があり、財政基盤が整っている企業は求職者からしても魅力があります。
そのため、雇用のチャンスが増え、雇用が増えればさらに新しい事業への挑戦が可能です。
この良好な循環が続くことで、企業の成長はさらに加速していく可能性が高まります。
経営者保証を外すためには、正確な会計による財政基盤の強化とガバナンスが機能した組織にしていくことも求められます。
これらの要素も、健全な経営の実現や企業成長の加速化に大きく関わるでしょう。
プロパー借換制度のメリット
プロパー借換制度を利用するメリットは以下のとおりです。各メリットについて詳しく解説します。
経営者保証が不要になる
プロパー借換制度の大きなメリットは、借り換えにとって経営者保証が不要になることです。
基本的に信用保証が付かないプロパー融資から信用保証付融資への借り換えはできません。
その理由は、保証付融資で得た資金を既存の銀行融資の返済に充てる行為(旧債振替)は、信用保証協会の「中小企業の資金調達を支援する」という目的から背くことになるためです。
しかし、プロパー借換制度を利用すれば条件を満たすことで経営者保証を外して信用保証付融資に借り換えできるので、経営者保証が付くことによるデメリットを回避できます。
また、プロパー融資だと企業が返済できなくなると金融機関は貸し倒れしてしまうため、金融機関側にとっても貸し倒れのリスクを回避できるというメリットもあります。
経営者保証の問題点
経営者保証は、企業が倒産して融資返済ができなくなった時の備えとして経営者個人が会社の連帯保証人となる制度です。
金融機関のリスクをカバーするための制度ですが、経営者個人をはじめ、企業運営、さらには経済全体に影響を及ぼす様々な問題点があります。
その問題点は以下のとおりです。
・事業継承のハードルが上がる
経営者保証は、現在の経営者の個人資金を担保に事業資金の融資を受けています。そのため、後継者に事業承継を行った際、経営者保証も引き継がれることになるのです。
そうなれば、現在の経営者と同じリスクを後継者に背負わせてしまうことになります。そのことにリスクを感じて後継者が見つからない可能性があります。
現経営者もリスクを負わせることに躊躇し、リタイアするタイミングを見失う可能性があるとも考えられます。後継者が現れなければ企業経営を続けることが困難です。
特に家族経営の中小企業やスタートアップは、経営者不在によって事業の存続が厳しくなりやすい傾向にあります。
・事業の失敗による経営者個人が破産するリスク
事業で失敗した際に経営者個人に経済的なリスクが伴うことも大きな問題点です。
事業が破綻した際には、経営者は自宅や貯蓄、退職金など個人的な財産を失ってしまう可能性があります。
個人的な財産の損失によって私生活に影響が出るだけではなく、経営者の精神にも影響を与えてしまう可能性が高いです。
このようなリスクを回避するためには、リスク管理や財務計画の強化の実施や個人資産を守れる方法を検討しておくことが求められます。
・思い切った事業展開が難しくなる
経営者個人は経済的なリスクを負うことになるため、事業展開に対して慎重になりすぎるリスクもあります。
個人的な財産を失う可能性があるので、経営者は新たな投資や事業拡大に対して消極的になりがちです。
しかし、投資や事業拡大を避けることで企業成長のチャンスを逃す恐れがあります。
新規事業や事業拡大の意欲を抑制する企業が増えれば、市場競争や経済成長にも悪影響を与える可能性が高いです。
例えば、革新的な事業の展開が押さえられると、既存のビジネスモデルが市場を支配することになり、市場の活性化を妨げ、経済成長のペースに遅れが生じてしまいます。
世界中で技術の進化が加速する中で、国の競争力低下を招くリスクもあります。
中小企業の事業発展を促進できる
中小企業の事業発展を促せることもプロパー借換制度のメリットです。
上記で述べたとおり、経営者保証には新規事業や事業拡大などのチャレンジを阻害するリスクがあります。
企業は事業に投資して、そのリターンを得ることで成長する構造となっています。
しかし、経営者保証によるリスクから大きな投資ができなければ、事業を成長させる機会を失うことになるのです。
投資ができなければ現状維持も難しくなり、衰退してしまう可能性が高まります。
しかし、プロパー借換制度によって経営者保証が外れれば、今まで背負っていたリスクがなくなり、結果的に事業発展の促進につながります。
プロパー借換制度のデメリットと注意点
プロパー借換制度を利用する際の注意点について、詳しくご紹介します。
利用時の制約
プロパー借換制度を利用するためには、一定の要件を満たす必要があります。そのため、すべての企業が借り換えを利用できるわけではありません。
ここで、改めてプロパー借換制度の利用条件をご紹介します。
-
- 資金超過である
- EBITDA有利子負債倍率が15倍以内
- 法人・個人が分離されている
- 返済緩和している借入金がない
「返済緩和している借入金がない」には例外がありますが、上記の条件を満たしていないとプロパー借換制度は利用できません。
プロパー借換制度を利用するにあたって、金融機関および信用保証協会による審査があり、利用条件を誤魔化すことはできないので注意してください。
利用期限がある
プロパー借換制度は、利用期限がある制度であることも念頭に置いておきましょう。申し込み可能な期間は2024年3月15日から2027年3月31日までの約3年間です。
この期間が過ぎればプロパー借換制度の申し込みはできなくなってしまいます。そのため、制度を利用したいのであれば早めに申し込むようにしてください。
プロパー借換制度も申込期間が延長するかどうかは、明らかになっていません。今後の最新情報をよくチェックしてください。
プロパー借換制度の利用手順
プロパー借換制度を利用したい場合、まずは顧問税理士や融資の専門家に相談してみてください。
プロパー借換制度には利用要件があるため、要件が合致しない場合は取引先の金融機関に申し込みを断られてしまいます。
顧問税理士や融資の専門家に相談することで、要件を満たしているか確認できます。
満たしていない場合、制度を利用できるように専門家のアドバイスを受けながら改善に取り組むことが可能です。
要件を満たしていることが確認できたら、取引先の金融機関や信用保証協会に問い合わせて、申請手続きを行いましょう。
詳しくは、各都道府県の信用保証協会公式Webサイトをご参照ください。
まとめ・プロパー借換制度は安定した企業経営を続けるための有力な手段
プロパー借換制度は、経営者保証に依存しない融資の促進を目的に、既存のプロパー融資から信用保証付融資に借り換えられる制度です。
経営者保証が付いていることは、経営者や企業は大きなリスクを伴うことになります。
そのため、経営者保証を外せるプロパー借入制度を利用することは、企業が安定した経営を続ける有力な手段です。
この制度を活用して経営者保証の問題点や資金繰りを解消し、積極的な投資を行って企業成長を目指しましょう。
(編集:創業手帳編集部)