ピースユー 藤瀬 公耀|新たな販売チャネルとして注目されるライブコマース。ECとの決定的な違いとは

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年08月に行われた取材時点のものです。

M&Aを経てライブコマースアプリ会社の代表に。大きな責任を負う経験が、自分の成長につながっている


ECの新たな手法として注目される「ライブコマース」。ライブコマースとは、ライバー(※ライブ配信をする方)と呼ばれる配信者がライブ配信をしながら、商品を販売するものです。

急成長を遂げるライブコマース業界にて、日本最大級のライブコマースアプリを手掛けるのが「合同会社ピースユー」。2023年2月にはECコンサルティングを手掛ける「株式会社いつも」がM&Aを行い、同社のグループ企業となりました。

このM&Aプロジェクトに責任者として関わり、現在ピースユー社の代表を務めるのが藤瀬公耀さん。「月に500万円以上売り上げる主婦の方もいるライブコマースは、オフラインとオンラインが融合する新しい小売の販売チャネルになる」と語ります。

今回は藤瀬さんのキャリアや今後の目標とあわせ、ライブコマースの実状や活用するコツについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

藤瀬 公耀(ふじせ こうよう)
合同会社ピースユー 代表社員 職務執行者
佐賀県出身。京都大学法学部卒業後、大手人材系企業でマーケティング職として従事。その後国内コンサルティングファームへ転職し、新規事業の立ち上げや事業責任者を経験する。2022年に、ECコンサルを手掛ける株式会社いつもへ参画。ライブコマースアプリを運営するピースユー社のM&Aに携わり、現在はいつも社の子会社となった合同会社ピースユーの代表を務める。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

中小企業にとってM&Aは雲の上の話、関係のない話と考えがちかもしれませんが、中小企業こそM&Aにより事業の成長を加速化させたりできるものです。また、起業を考えている方にとっては、一からの起業よりもM&Aで起業を考えてみるほうがスピーディーな起業ができる可能性も。そのようなM&Aにまつわる情報に特化した、「中小企業のための『M&Aガイド』」をリリース!無料進呈中ですので、是非こちらもお読みください。


M&Aガイド

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

20代で新規事業の立ち上げを経験、総合格闘技みたいだなと思った


大久保:藤瀬さんのキャリアについてお伺いしたいのですが、京都大学卒業後、ベンチャー系企業に進まれましたね。一般的には、大手会社に行く方も多いと思いますが。

藤瀬:人材系のベンチャー企業に入社しました。そこではマーケティング担当として、広告の運用やサービスのコンセプトを考えるようなことをしていました。

僕が入社した頃は、まだ現在の半分ぐらいの規模でしたね。とはいえ僕の同期にも東大や京大出身がいましたし、当時からわりと新卒採用に強いベンチャー企業だったと思います。

大久保:その後、コンサルティングファームへ転職されたとお聞きしました。

藤瀬:はい。国内の組織や人材に強いコンサルファームに転職しまして、大手企業の事業・組織・人材育成を連動したコンサルティングを担当していました。

ここでは、ちょうど自社でHR関連の新規事業に取り組むという話がありまして、市場選定から戦略構築、システム開発などの幅広い領域に取り組み、新規事業の立ち上げを含めて、複数の事業で成功も失敗も経験しました。

大久保:新規事業ってなかなか難しいと思いますが、いかがでしたか?

藤瀬:新規事業って、総合格闘技だと思いました。既存の事業では1つの機能を担当することが多いと思うんですが、新規事業では戦略からマーケティングやシステム開発、細かいオペレーションまで何でもやらないといけない。

ですから、全般的なスキルを持っていないと難しいですし、スキルが足りなかったとしても、その場でキャッチアップしなければいけない。そういう意味で、新規事業は総合格闘技だなと思っています。

また実際にやってみて、最初から大規模な投資をしながら立ち上げるようとすると、失敗しやすいと感じています。僕も実際に大規模にしようとしすぎて、失敗した事もあります。

大手企業がマーケットニーズが明確で資金力をもとに、大規模に参入する場合は、最初から大きくてもいいかもしれませんが、基本は市場のニーズの小さな検証サイクルを回しながら、チューニングをしていく。こういう姿勢が必要だなと感じました。

M&A後の会社代表に就任。事業継承に大事なのは「現場への深い理解」


大久保:その後ECコンサルで知られる「株式会社いつも」へ転職されました。最初から、ピースユーの事業を手掛ける前提だったんですか?

藤瀬:ライブコマース関連事業に関わるという話はありました。ECコンサルの業界トップクラスである「いつも」が、自分たちでライブコマースのプラットフォームの領域に進むというところが面白そうだなと思って。

プラットフォーム運営という意味では、「いつも」 の得意領域を活かしながらも新しいチャレンジをする部分があると感じました。そこで、これまでの自分の経験が活かせるかなと思ったんです。

大久保:「いつも」に入社後、「ピースユーライブ」というライブコマースアプリを手掛ける会社のM&Aに関わり、M&Aの後にはピースユー社の代表になりましたね。起業とはまた違うかたちですが、代表になってみていかがでしたか?

藤瀬:実際に事業を任されて感じたのは、当たり前ですが、顧客と現場を深く理解することが大事ということです。

現場を通じて顧客の感情や生活パターンを深く理解して、サービスの課題を把握し、どういう業務があるのかを理解する。その深い理解を前提に意思決定して、人に任せなければいけないということをすごく感じました。これは事業の引き継ぎでも、起業でも共通するところだと思います。

顧客をわかっていないと、顧客に寄り添ったサービスの方針決めは難しい。現場で顧客のことを理解しながら、同時進行で組織を作っていく。こういう動きが大事だなと感じています。

大久保:事業を引き継ぐ場合、顧客やファンが離れてしまうということも起こりがちですが、このあたりでどんなところを意識されましたか?

藤瀬:まず今使っていただいているお客様を大事にする、喜んでくれることをする、ということを大前提にしました。

M&A後も、ピースユーを創業された方にはアドバイザーとして協力していただいているんです。そこで、過去の施策や以前のお客様の反応について、すべて創業者にお聞きしました。ユーザーの方々が何を喜んでくれるのか、これを完全に理解することを意識しましたね。

変えようと思えばたくさん変えられるところはあるのですが、作り手の論理をお客様に押し付けることは絶対しないように意識しています。

月に数百万円売る人もいるライブコマース。今後は新しい小売の販売チャネルになる


大久保:私もピースユーライブアプリを少し使ってみたんですが、すごく面白いですね。ライブ配信をしている方は、どんな方が多いのでしょうか?

藤瀬:例えば名古屋の主婦の方で、子育てをしながら月500万円も売り上げている方もいらっしゃいます。また、山口県で豆腐を売っている企業様が、手作りの大豆の帽子を被って配信していて、人気なんですよ。他の大手ECモールでは苦戦していたのに、ピースユーライブで配信を始めたらすぐに売れたそうです。

ライバーさんが地域の店舗へ行って、そこに並ぶ商品をその場で紹介して売るというやり方もあります。それから、海外の商品を現地で紹介し、日本の方へ売るというライバーさんも最近は多いですね。ユーザーは現地に行ったような気持ちになれるので、結構人気があるんですよ。

ピースユーライブアプリ  

大久保:個人に近い方がライトな起業や副業として使ったり、企業が売上を上げるチャネルの一つとして使ったりすることもあるわけですね。

ライブコマースはこういうところから始めたらいいよ、というのはありますか?

藤瀬:個人の場合と、小売企業やメーカーの場合という2つのパターンがあると思います。

個人の場合、ライブコマースは起業や副業の有効なプラットフォームとして考えていただけるんじゃないかなと思います。すごく手軽に始めることができる一方で、月間数百万円売り上げるケースもたくさんあります。

商品を作るメーカーの場合、まずはライバーさんへの販売アウトソースのような使い方をするといいと思いますね。ライブコマースは、経験のあるライバーさんほど商品が売れるまでの速度がすごく速いんです。自社の商品販売をライバーさんに依頼し、ライバーさんの販売力を活かし、リスクなく早期に売り上げを立てることができます。紹介から売れるまでのサイクルが速いので、新商品などのテストマーケティングにも使っていただけます。

大久保:ライブコマースというと、中国ですごく人気が高いイメージがあります。日本ではこれからという感じでしょうか?

藤瀬:まさに、日本はこれからですね。追い風が吹いていると思います。なぜ中国でライブコマースが流行っているかと言うと、大手ECモールでの広告費用が高くなってきているからなんです。だからこそ、ライブコマースのライバーさんによる販売で、まず売り上げを立てていくという流れができています。

そういう意味では、日本もECの広告費は高くなっているので中国と似てきていますね。ライブコマースは初期の売り上げを立てるチャンスとして、使いやすいと思います。

日本でライブ配信への認知度が上がってきたことも、大きいと思います。コロナ禍になって、ライブ配信がより広く認知されました。最近では、著名なYouTuberさんが自分のブランドを作って何億も売ったような事例もあります。個人が個人へ物を売ることが、以前より一般的になってきたかなと思います。

ライブコマースには、従来のECと決定的な違いがある


大久保:ライブコマースと、一般的なECの違いを教えていただけますか?当然ながら、即時性は全然違うと思うんですが。

藤瀬:よく言われるのは、店舗に近い形で接客を受けられる点ですね。ライブ配信中に、お客様は「丈はどれぐらい?」とか、直接その場で質問できるので。より詳しく商品のことがわかるメリットもあるんですが、物を買うだけではなくて、コミュニケーションがとれるところがライブコマースとECの大きな違いだと思っています。

ライバーさんは、よく会うお客様に「〇〇さん来てくれてありがとう」とあいさつしたり「〇〇さんにはこんなのが合うんじゃない?」と好みをわかっていたりするんです。だからお客様は自分の居場所のように感じてくれる。そうなると、ライバーさんから買う方が、自分が好きなライバーさんが喜んでくれるという付加価値があるわけです。

大久保:なるほど。そうなると、ライブコマースならではの売り方というのも、あるんでしょうか?

藤瀬:ありますね。プラットフォームの特性にもよりますが、例えばピースユーライブだと商品の紹介は5割前後にとどめて、残りの5割はコミュニケーションをする感じです。商品力も大事ですが、ファンを獲得して直接やりとりすることが大事なので。

もう1つ大切なのは、お客様と一緒にショッピングをしている感覚です。ライバーさんが売るというスタンスではなく、ライバーさん自身も商品を探しながら商品を紹介するという雰囲気です。

極端に言えば、ライバーさん自身が映ってなくても、商品が見えればいい。SNSのインフルエンサーさんは自分を見せたいという方も多いと思いますが、自分を見せたいだけの人はライブコマースに向かないんです。自分より商品やその場全体にフォーカスをあてるマインドセットが必要です。

これまで「日本でライブコマースはうまくいかない」という声も多かったんです。ただこれは「自分だけ、商品だけ」というスタイルになっていて、コミュニティの観点が抜けていたことも理由だと思います。

大久保:実際に私もピースユーライブアプリで、ちょっとコメントを入れてみたんです。そうしたらちゃんと返事がきたので、驚きました。

藤瀬:人気のライバーさんこそ、1対1でのコミュニケーションができるぐらいにお客様のことを覚えているし、好みを理解しています。「この間、これを買ったと思うけど、それにこのボトムスすごい合うよ」 みたいな、1対1のコミュニケーションで購買をサポートしてくれるようなイメージですね。

ライブコマースを、個人が活躍できる場としてもっと大きくしたい


大久保:ピースユーの代表として、これから取り組みたいことを伺えますか?

藤瀬:1つは、ライブコマースとしては業界トップクラスだと思うので、そのポジションは守りつつ、当たり前ですがライバーさんとお客様をもっと増やしていかないといけないと思っています。そのために広告投資をしっかりやって、利用者を増やしていきたいですね。

もう1つは、ライブコマースのインフラを提供していくことです。ライバーさんの中には自分が売る商品がなかったり、ライブコマースのやり方がわからなかったりするケースもあります。

メーカーがライバーさんに商品を提供する仕組みを、弊社が提供できると良いなと思っていて。そうすれば、メーカーの売り上げも伸びるし、ライバーさんも商品の調達に困らないと思うんです。

大久保:これまでのECとは全く違うものとして、ライブコマースはさらに普及しそうですね。将来こんなものにしていきたい、という展望はありますか?

藤瀬ライブコマースをオフラインとオンラインを融合するものにしていきたいと思っています。ライブコマースはECと違って、実店舗に近い購買体験を提供できると思うんです。

一方でライブコマースには、実店舗との違いもあります。ライブ配信なら、実店舗の地域的な制約や営業時間的な制約も全て取り払うことができますから。

ECとも実店舗とも違う、第3の新しい購買体験を提供するチャネルにしていきたいですね。

大久保:ライブコマースは個人が手軽に起業できるプラットフォームでもある、というお話もありましたね。起業の場としても今後広がりがあるのでは?

藤瀬: おっしゃる通りです。個人も企業も活躍できるプラットフォームとして、より大きくしていきたいですね。

実は、僕は母子家庭で祖父母のいた佐賀の田舎で育ったんですが、たまたま運良く家族や環境に恵まれ、大きな苦労もなくここまで生きてきました。

ですから、いろいろな状況に左右されず、誰もが機会が得られる社会を作りたいと思ってきました。20代のうちに得たいろいろな経験が、現在のライブコマース事業につながっていると思います。そういった意味でも、ライブコマースでもっと多くの方々を応援していきたいと思っています。

大久保:20代からすごくいろいろな経験をされている藤瀬さんから、「若いうちにこんなことをしておいた方がいい」ということがあれば、教えていただけますか?

藤瀬:偉そうなことは言えませんが、僕としては「修羅場にとりあえず飛び込む」ということを意識してきました。大きな責任を負って、自分で重要な意思決定をする。この経験が、自分を成長させてくれたと思っています。

責任者になると胃が痛くなるようなことも多くなりますが、そういう環境に飛び込むからこそ、得るものがある。だから僕自身、修羅場に飛び込むことが大事だと思って、これまでそうしてきました。

そのおかげで、自分が本当に意味があると感じる事業を任せてもらえているのかなと感じます。

大久保写真大久保の感想

創業手帳の代表の大久保です。今回はECで有名ないつも.にグループインしたピースユー藤瀬さんの取材でした。

実は大久保はいつも.の社長の坂本守さんが船井総研から独立した立ち上げ直後に偶然関わりがありました。いつも.は、EC拡大の波に乗ってEC支援でみるみるうちに成長しました。そのいつも.が従来型ECからライブコマースに進出しているという多角化の軸でも話が伺えて面白かったです

藤瀬さんの話で起業家にヒントになりそうなポイントは2つ。

1・感情がカギ
ライブコマースはコミュニケーション産業
モノより感情・エモがカギ。
他のビジネスのヒントにもなるかもしれないですね。

2・視点の違い
視点が

1自分を見せる(インフルエンサー)
2商品を売り手として見せる(EC)
3一緒に商品を見る(ライブコマース)

という違いがある。視点の違いは気づきにくいですがこれも他の業界でもヒントになりそうです。

20代でライブコマースの子会社とはいえ社長になった藤瀬さん。こういった新しい経験ができるキャリアも今の時代ならではですね。

小さくてもECや新事業は若手の人が成長する最強の場なので、経営や新事業に挑む人が増えると良いなと思います。創業手帳では他にも色々な取材をしていますので、会員登録して読んでみてくださいね。

冊子版の創業手帳では、様々な起業家についてのインタビュー記事を多数掲載。インタビュー記事以外にも、起業に向けて知っておくべき内容が盛りだくさん。無料でお届け致しますので、あわせてご活用ください。
関連記事
ライブコマースとは?注目の理由と導入の手順
合同会社の代表社員とは?権限や給与、手続きを解説します
創業手帳は、起業の成功率を上げる経営ガイドブックとして、毎月アップデートをし、今知っておいてほしい情報を起業家・経営者の方々にお届けしています。無料でお取り寄せ可能です。

(取材協力: 合同会社ピースユー 代表社員 職務執行者 藤瀬 公耀
(編集: 創業手帳編集部)



創業手帳
この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す