販売競争で勝つために!「ランチェスター戦略」の基礎知識と成功事例を徹底解説
ランチェスター戦略を取り入れ、競合他社に打ち勝とう!
ビジネスの現場では、中小企業・大手企業を問わず市場の中で競争し合い、いかに生き残っていくかが重要です。
競争する中で、大手企業と真正面から向き合い戦っても、うまくいかない場合があります。
しかし、必ずしも中小企業が大手企業に勝てないわけではありません。今回は、ビジネスで活用する「ランチェスター戦略」について解説します。
大手企業に勝てる戦略を見いだしたい方は、ぜひ参考にしてください。
ランチェスター戦略の特徴を理解しよう
ランチェスター戦略は、現在実践でも活用されているマーケティング理論のひとつです。具体的にどのような戦略なのか、その特徴から解説します。
ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略とは、戦力の異なる「強者」と「弱者」がそれぞれどのように戦うことで勝利を得られるのかを導き出すための戦略論です。
もともとは、第一次世界大戦時にイギリスで航空工学のエンジニアをしていたフレデリック・W・ランチェスター氏の研究により、理論が誕生しました。
当時の戦略では、同じ武器を持つ相手同士で戦った場合、兵力数の違いで勝敗が分かれることがわかっています。
その後、アメリカのコロンビア大学で数学教授だったバーナード・クープマン氏らがランチェスター氏の考えに基づき、軍事戦略モデルに改良しました。
戦後は、コンサルタントの田岡信夫氏によってビジネス現場へ応用され、販売戦略として活用されています。
そして、高度成長期以降の現代では実践でも活躍するマーケティング理論へと生まれ変わりました。
2つの法則の特徴
ランチェスター戦略には主に「弱者の戦略」と「強者の戦略」の2種類に分けられます。それぞれの特徴について紹介します。
第一法則・弱者の戦略
第一法則・弱者の戦略は、主に狭いエリア内で剣や斧などの近接武器を用いた戦闘に対する法則です。
第一法則での戦闘力を算出するためには、人数×武器効率(武器の性能という式を利用します。
例えば、Aチームに5人いて、武器効率が4の斧を持っていたとします。Bチームは6人いて、武器効率が3の剣を使っていました。
上記の式に当てはめて各チームの戦闘力を見てみると、Aチームは5人×武器効率4=20、Bチームは6人×武器効率3=18と算出できました。
Aチームが戦闘力の高さで勝利していることがわかり、つまり人数が少なくても武器効率が高ければ勝利を得られることを意味します。
現代のマーケティングに置き換えると、人数は営業担当や販売員の数、広告費の予算を指し、武器効率は商品の品質・性能・サポート体制・価格帯などです。
この法則は名前の通り、一般的には弱者向けの戦略です。
第二法則・強者の戦略
第二法則・強者の戦略は、主に広大な戦場で弓矢や銃など遠距離武器を用いた戦闘に対する法則です。
第二法則で戦闘力を算出するには、人数の2乗×武器効率という式を用います。
例えば、Aチームには5人いて、武器効率が4の銃を使い、Bチームは6人で、武器効率が3の銃を使っているとします。
各チームの戦闘力を算出すると、Aチームは5人の2乗×武器効率4=100、Bチームは6人の2乗×武器効率3=108です。
第一法則では人数よりも武器効率の高いほうが勝利を収めていましたが、第二法則だと人数の多さが勝敗に大きく影響していることがわかります。
第二法則は強者向けの戦略で、圧倒的な数を持って弱者に隙を与えない戦略です。
広告を各メディアで展開したり、指名買いを促すようなマーケティングを実施したりすることで、弱者が入り込めないようにします。
弱者と強者を判断するには?
市場の中で自社は弱者と強者のどちらに該当するのか判断するためには、「マーケットシェア理論」を活用します。
マーケットシェア理論の特徴も解説します。
マーケットシェア理論とは?
マーケットシェア理論とは、現在の市場占有率・占拠率から自社が目指す目標値を算出するための理論です。マーケットシェア理論には7つの目標値が設定されています。
自身がどの位置にいるのか、ここからどれくらいのシェアを目指せば良いのかが明確になるため、それぞれの会社に合った戦略を考えられます。
7つの目標値
市場占有率・占拠率から導き出される7つの目標値は以下のとおりです。
目標値 | 概要 | |
上限目標値 | 73.9% | 市場の中で独占的なシェアを誇るが、市場の硬直化を招くリスクもある。 |
安定目標値 | 41.7% | 市場ではトップクラスのシェアで安定している。多くの企業はこの目標値を目指す。 |
下限目標値 | 26.1% | この数値を下回るとシェア率がトップでも安定しない。 |
上位目標値 | 19.3% | 弱者の中では強者の立ち位置になるが、強者には入らない。 |
影響目標値 | 10.9% | 市場に影響を与えられる、足がかりとなる割合。 |
存在目標値 | 6.8% | 競合他社から認知されているものの、影響力はない。 |
拠点目標値 | 2.8% | 市場における存在価値は少ないものの、足がかりになり得る。 |
上限目標値の73.9%はほぼ独占的であり、よほどのことがなければ2位以下に逆転されることはありません。
上限目標値が最も安泰であるとイメージできますが、実際にはこれ以上数値が上がっても安全性・成長性・収益性は上がらないことから、安定とはいえなくなってしまいます。
そのため、多くの企業は上限目標値ではなく安定目標値41.7%を目指しているといえます。
ランチェスター戦略を取り入れたビジネス戦略
ランチェスター戦略を実際にビジネス現場に導入した場合、各営業現場における戦略づくりに用いられるケースが多くあります。
続いては、ランチェスター戦略を取り入れた具体的なビジネス戦略について解説します。
各営業現場での戦略づくりに活用できる
売上げアップや市場シェアの拡大を目指すために、各営業現場では利益目標に達成するための戦略を練ります。
この戦略づくりにおいてランチェスター戦略が活用されており、特に営業戦略・流通戦略・市場参入戦略で用いられています。
地域戦略
地域戦略では、各営業地域を細分化してその地域におけるシェア1位を目指します。
例えば、地域を各メーカー・各店舗の商圏・流通範囲などで細分化し、自社がどの地域で重点的にビジネスを行っていくか見極めていきます。
地域戦略が特に重視しているのは、地域の小売店・販売型店舗などです。販促イベント・外販営業などが行えない分、地域戦略で売上げアップを目指す必要があります。
ターゲットにするエリアを決める場合、人口や世帯数といった定量的データだけで判断せず、地域住民がどのような特性を持っているかなどの定性的データもチェックする必要があります。
そのため、市場分析は丁寧に時間をかけて行わなくてはなりません。
営業戦略
営業戦略では各顧客で異なる営業方針や訪問回数などを見直しつつ、営業チーム全体のマネジメントを行っています。
ランチェスター戦略を用いることで営業戦略の方向性がチーム内でズレてしまうことを防ぎ、より効果的な営業戦略を打ち出していきます。
営業戦略を立てる時に役立つのが以下の法則です。
・営業員攻撃力の法則
優秀な人材が集まり、正しい方向性で活動が行えれば、業績が上がっていく。
・営業員攻撃量の法則
顧客とコミュニケーションを取る時間や回数が増えるほど、売上げの機会が増える。
・営業チーム攻撃力の法則
正しい方向性の活動がたくさんこなせるチームは、相乗効果で生産性・業績も上がっていく。
上記のような営業戦略を立てたら、営業活動における基準値を策定しプロセス管理を行うことが重要です。
流通戦略
流通戦略では、商品・サービスを調達するプロセスに関わっている組織の集合体(流通チャネル)や、商品・サービスを販売するための経路や方法(販売チャネル)を活用し、市場のシェア拡大を狙っていきます。
どの業界でもその市場でトップシェアを誇る企業が、大規模な流通チャネル・販売チャネルを有しているものです。
中小企業がシェアを獲得し安定したビジネスにしていくには、トップシェアの企業とは別のチャネルを確立させる必要があります。
近年では、インターネット通販などを活用し、流通戦略を図る企業が多くあります。
市場参入戦略
市場参入戦略では、これから参入する市場や参入のタイミング、開発・投入する新製品について考えます。
どちらかといえば、経営者や企画・マーケティング部が手掛ける戦略です。
市場導入期・成長期を迎える事業に対して行う戦略であり、市場や自社の現況、商品を投入する順番などに応じて、戦略内容が異なってきます。
新規参入には、規模の経済性・製品の差別化・投資費用の必要性・流通チャネルの確保・法律や制度による制限など、様々な参入障壁が待ち構えているでしょう。
これらを市場参入戦略によってクリアすることで、新たな市場でシェアの拡大と売上げの確保に結び付きます。
ビジネスに取り入れる際に重要な4つのポイント
ランチェスター戦略をビジネスに取り入れる際に重要なポイントが4つあります。どのようなポイントに気を付けて、シェア拡大を目指せば良いのかを解説します。
1.攻撃目標はひとつに絞る
ランチェスター戦略では攻撃目標をひとつに絞ることを重視しています。第一法則や第二法則からもわかるように、量の多さが勝負を決めています。
一見、このポイントは強者と比べて数が劣ってしまう弱者には不利に思えるかもしれません。
しかし、実際には強者もすべてをカバーできているわけではないため、強者で手薄になった部分に戦力を集めれば、弱者でも勝てる可能性があります。
この戦略は、ひとつの商品をある特定の地域だけで取り扱う企業にとっては効率的ですが、反対に多くの商品を全国展開している企業には難しい戦略です。
2.強者にはない差別化を図る
弱者が強者に勝つためには、商品の質も磨いていく必要があります。商品の質が磨かれることで差別化が図られ、特定の市場でシェア1位を目指せます。
限られた市場であったとしても、1位になることで企業の認知度・信頼性の向上にもつながるでしょう。
差別化を図る際に注目しておきたいのが以下のポイントです。
-
- マーケット
- 商品やサービス(機能・売り方・デザイン・使い道・サポート体制など)
- 価格
- 流通チャネル
- 地域
- 理念
- 販促活動
- 営業活動
3.市場を細分化させる
ランチェスター戦略ではシェア1位を目指すことに重きを置いていますが、だからといって突然2位以下の企業がトップシェアを奪うのは現実的な戦略といえません。
そのため、弱者は強者の付け入る隙を狙うために、市場の細分化を行ってその中でシェア1位を積み重ねていき、最終的にトップシェアを奪えるほどの位置まで目指します。
市場を細分化したら、次に自社が勝ちやすい市場をランチェスター戦略で見極め、そこに一点集中で営業を行ってください。
その後、細分化した市場でシェア1位を取ったら、次に強者の戦略を利用して2位以下の企業と差をつけてから規模が少し大きい別の市場で再びトップを目指します。
4.「足下の敵攻撃の原則」でさらに売上げを伸ばす
「足下(そっか)の敵攻撃の原則」は、自社よりシェアが1ランク下の企業からシェアを奪う考え方です。
自社よりも上のランクの企業からシェアを奪おうとしても、ブランド力や認知度などで負けてしまい奪うのは容易ではありません。
しかし、自社よりランクが下の企業であれば戦いやすく、確実にシェアを伸ばしていくことも可能です。
売上げをさらに安定させたい場合は、「足下の敵攻撃の原則」の考え方を取り入れてみてください。
ランチェスター戦略をビジネスに導入した成功事例
実際にランチェスター戦略をマーケティングに取り入れ、成功した事例はいくつもあります。最後に、2つの成功事例を紹介します。
大手シューズメーカーの事例
大手シューズメーカーのA社は、当時主にスポーツ用のシューズを取り扱っていましたが、同じ市場にトップシェアを誇るライバル企業が存在していました。
そこで、A社はランチェスター戦略によって競技用シューズの製造・販売に一点集中します。
この戦略を取った結果、業界内でのポジションが変わり、A社は競技用シューズメーカーとしての地位を確立しました。
さらに、A社は競技者のニーズを調査した上で製品を作り始めます。この戦略によって徐々にシェアを伸ばしていきました。
コンビニエンスストアの事例
現在コンビニエンスストア業界は、大手3社が多くのシェアを占めています。
そのような中で、同業界のB社は大手3社に勝てるようエリアを特定の地域に絞って営業をかけました。
また、オリジナルブランドの総菜を安く提供したり、イートインブランドを確立させたりするなど、大手3社にはない付加価値を付けることに成功しています。
一般的に、コンビニエンスストアは人口の多いエリアを中心に出店が決まる傾向にあります。
しかし、B社はあえて人口の少ない郊外を中心に店舗を増やしたことで、競合を回避しながらシェアの確保に成功しました。
まとめ
ランチェスター戦略は、もともとは戦争で使われてきたものですが、現在はビジネスの場で利用されています。
売上げを向上させ安定したビジネスを確立していくためには、市場でのシェア率も重要です。
自社の立ち位置を把握し、状況に合った法則と戦略を取り入れ、市場拡大を目指しましょう。
(編集:創業手帳編集部)