ワークシフト研究所 小早川優子|これからの時代を率いるリーダーの多様性とは
日本企業には「シェアード・リーダーシップ」がおすすめ!著書から学ぶ組織マネジメント法
経営学の理論をベースに、ケースメソッド教育を取り入れた独自の教育プログラム「ワークシフト・メソッド」を実施する株式会社ワークシフト研究所。同社は、限られた時間で成果を出し、育児や介護などと両立しながら活躍するリーダーの育成を目指しています。
今回は、代表取締役社長を務める小早川さんに「女性が管理職として活躍するための組織作り」や「経営スタイルに合わせた最適なリーダーシップの取り方」について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
株式会社ワークシフト研究所 代表取締役社長
慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士/米国コロンビアビジネススクール留学(MBA)/慶應義塾大学ビジネス スクールケースメソッド授業法研究普及室認定ケースメソッド・インストラクター/名古屋商科大学大学院女性リーダープログラム評価委員。
2015年に起業。ダイバーシティ・マネジメントやリーダーシップ開発、交渉術のコンサルタントとして、一部上場企業やベンチャー企業、官公庁、地方自治体のセミナーに年間100回以上登壇。5年連続満足度99%のビジネスプログラムを提供している。人事や女性向けメディアにて多くの記事執筆のほか、書籍監修も行う。著書に『なぜ自信がない人ほど、いいリーダーになれるのか』(日経BP)。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
子育てと管理職を両立するために
大久保:まずは、これまでのご経歴と起業の経緯を教えていただけますか?
小早川:大学卒業後、GEキャピタル、Goldman Sachs Japan、アメリカン・エキスプレスなど外資系金融機関に約15年勤務いたしまして、役員秘書や事業企画(M&A)、マーケティング、経営企画などを経験しました。MBAを取得し、アメリカへの交換留学を経験後、アメリカン・エキスプレスに転職。2人目を出産後に管理職として仕事をするのが非常に大変だったことから、退職し、フリーランスとして仕事を始めました。
その後、約8年前になるのですが、現在、静岡県立大学経営情報学部准教授と弊社所長を務める国保が立ち上げました「育休プチMBA®」という育休者向けのスキルアッププログラムを知り、参画させていただくことになりました。このプログラムへの反響が予想を上回り、事業化するということで2015年にワークシフト研究所を立ち上げました。現在は、多様なリーダーが活躍する社会や、育児や介護などと両立しながら活躍できる環境の構築を目指し、育休プチMBA®などの個人向けプログラムのほか、ビジネススクール形式の人材研修や組織開発プログラムなど法人向けの研修も提供しています。
大久保:外資系企業であっても、やはり育児と管理職の両立は大変だったのですね。
小早川:そうですね。外資系企業にずっといたのですが、それでも「子育てしながらリーダーをするのは、なかなかタフだなぁ」と思っていました。自分が子育てとの両立で悩んだ当初は「自分の力量不足だ」と思ったのですが、「そうじゃない。私よりも優秀な先輩たちが、もっと大変そうにしてるじゃないか」と気づき、社会課題だと痛感しましたね。
ただ、20年ほど前の話になりますが、出産前にGoldman Sachs Japanにいた際、女性のリーダーの方たちが「日本企業にいたら、私たちこんなに出世できていないわよ」と口を揃えて言っていたんです。それを聞いていたので、子育てなど様々な事象を抱えながら働く人が活躍するには、どのようなマネジメントがいいのだろうと考え、MBAの修士論文は多様性を活かした組織マネジメント方法である「ダイバーシティ・マネジメント」にしました。
大久保:企業が多様性を重んじるには、何をすべきなのでしょうか。
小早川:日本の場合、女性差別というよりは「マジョリティによるマイノリティの無意識の排除」だと感じます。男性が役職の大半を占めていたり、社員の人数分布として男性が多いなど、男性中心の職場が多いのが現状です。そのため、マジョリティである男性は、マイノリティである女性に対して差別をしていたとしても、差別しているとは思ってないんです。
マジョリティ側の人間が「マイノリティを受け入れてあげるよ」というのは多様性とは言いません。マジョリティとマイノリティのうち、人間は常にどちらか一方に属しているのではなく、場合によって属する場所が変わるんです。しかし、長い間マジョリティ側にいると、マジョリティが持つ思い込みでマイノリティを「異質な存在」として見てしまいます。また、同様に、マイノリティ側も長い間マイノリティでいることで、特有の思い込み(「マイノリティの罠」と呼んでいます)に侵略されてしまいます。そのため、その思い込みをワークショップなどで一つひとつ外していく作業が重要になるんです。
ワークショップでは、ケースメソッド教育として職場で起こり得る事案を教材として取り上げ、疑似的に経験してもらうことでビジネスパーソンに効果的な思考をトレーニングしています。ご自身の考えや発言に対して「なぜ、そのような考えに至りましたか?」「あなたがこの人と同じ状況でも、そのように考えられますか?」と問いかけ、その考えや発言の基となる理由を俯瞰して考えてもらうことで、「こういう勘違いをしていたんだ、思い込みをしていたんだ」と気づいてもらう作業を行います。
大久保:なるほど。例えば「差別はよくないよね」とか、「子どもが生まれた人に対して配慮しなくてはいけないよ」と言葉で教えられても実感はできないから、ワークショップなどで自分の体験にしないと本当の意味では理解できないと。
小早川:そうなんです。頭では理解していても、できるようになるためには「壁」があるんですよね。それは、仕事においても同じことがいえます。仕事は経験を基に行っていくものではあるけれども、その経験が間違っている可能性もある。だからこそ、いろんな思い込みを外すことが、より合理的な経営に繋がっていきます。
「ジョブ型雇用」で突然の長期欠勤に備える
大久保:子育てとの両立に悩んでいる方や、今後のライフプランを考えていく中で不安を感じている方に対してアドバイスをいただけますか?
小早川:まず、子どもを育てながら働くことに罪悪感を抱かないでほしいですね。もちろん、保育園のお迎えで早く帰らないといけなかったり、残業ができないなど、働ける時間の制限は出てくるので働き方を変えなくてはいけないのですが、「短い時間でどう効率よくアウトプットするか」というのは管理職やリーダーになったときに必要なスキルですから、その訓練としても取り組んでもらえたらと思います。
大久保:「子どもを育てながら働くことに罪悪感を抱かないでほしい」ということは、それを感じさせる環境があるということですが、男性の場合は少ないですよね。
小早川:そうですね。でも、育休を取っている方は感じる方がいらっしゃると思います。
大久保:では、経営者目線で見ると、罪悪感を与えないようにすることが大事ですね。
小早川:はい。出産を控える社員や子育て中の社員に対して、罪悪感を抱かせないようにすることが大切です。また、高齢化社会に伴い、今後は介護と両立しながら働く人も多くなってくると思います。そのため、突然の欠勤や、何らかの事情で1週間・1カ月と長期間出社できない方が出てくる前提で組織を作っていかなくてはいけないですね。
大久保:余裕を持った人員を確保するためには、十分な運営資金が必要になってきますが、経営に余裕のないスタートアップ企業や中小企業は、どのように解決すべきでしょうか。
小早川:雇い方は正社員でなくてもいいと思うんですよね。例えば、従業員の多くが3社くらい掛け持ちしている形でもいいと思います。そのためには何が必要かというと、いわゆるジョブ型ですけれども、「あなたの仕事・役割はこれで、ここからここまでが職務範囲です」ということを決めなくてはいけない。それは、社長や社長を補佐する方たちが会社のオペレーションを細かいところまでしっかり理解していないとできないですね。
大久保:メンバーシップ型の雇用が一般的だった日本において、ジョブ型を導入していくために必要なことは何でしょうか。
小早川:ジョブ型を普及させるには、現状の雇用規制がもう少し流動的になることが不可欠です。解雇条件を緩めることとジョブ型はセットだと思うので。そのため、現実的な妥協案としては、正社員ではなく契約社員や業務委託などの形で雇うことですね。その場合、副業によって自社へのコミットメントが浅くなることを心配される経営者も多いと思うのですが、そこは社長がすごくいい事業をしているとか、「あなたのことをすごく必要としている」とコミュニケーションを取ることで解決できると思います。
女性の昇進を阻む「壊れたはしご」
大久保:ここからは著書(『なぜ自信がない人ほど、いいリーダーになれるのか』)についてのお話もお伺いしていきたいのですが、「女性のリーダーはスーパーウーマンが多いから、あの人みたいになる自信がないと思う女性も多い」と書かれていますね。
小早川:はい。先ほどのマジョリティとマイノリティの話に繋がるのですが、特に少し前の時代の女性のリーダーは、男性化しないと男性がマジョリティの職場では受け入れてもらえなかったので、あえて男性的に振る舞う人が多かったんです。そのため、男性と張り合って時代を切り拓いてこられた女性のリーダーの中には、プライベートを犠牲に仕事を優先させてきた方も多いので、ご質問のように思う方も多いのかなと思いますね。
しかし、時代の変化に伴い、少しずつ女性のリーダーが増えてきたことにより、リーダーのタイプは多様化してきていますし、「男性的に振舞わないと認めてもらえないのは違うんじゃないの?」という人たちが次の世代にいて、さらにその次の世代には「もっと自由に自分らしく働きたい」という人が出てきています。
大久保:著書では「働く女性の46.3%が『私はインポスター症候群だ』と回答」されたとも明記されています。
小早川:はい。インポスター症候群は、周りから実力を評価されているにもかかわらず、自分ではその実力を肯定できず、過大評価されているのではないかと疑ってしまう心理状態のことを指すのですが、2020年に株式会社ヴィエリスが丸の内に勤務する女性108人を対象に実施した調査によると「あなたはインポスター症候群だと思いますか?」という問いに対し、46.3%が「思う」と回答したんです。一方、2021年に同社が都内に勤務する男性会社員109人を対象に同じ質問をしたところ、「思う」と答えたのは5.5%と、調査結果にかなりの男女差が出ました。
また、ソニー生命保険株式会社による「女性の活躍に関する意識調査2020」によると、有職女性594人のうち「管理職への打診があれば、受けてみたいか」の問いに対し、「非常にそう思う」と答えたのは4.2%、「ややそう思う」と答えたのも14.5%に留まりました。
自分がインポスター症候群だと思う女性が多いことや、管理職への打診を受けたいと思う女性が少ない理由としては、身の回りにロールモデルとなる女性管理職が少ないため、イメージが湧きづらいことが考えられます。そのため、管理職のメリットも伝わらないし、「こうしたら管理職になれる」という道筋もわからないから、知らないことに対する不安も大きいのかなと思います。
大久保:「女性のキャリアは『壊れたはしご』」とも書かれていますが、これはどういう意味ですか?
小早川:これは、マッキンゼー・アンド・カンパニーとLeanIn.Orgが2019年に発表した調査報告書の中で使われた表現なのですが、女性は職場における昇進のはしごが壊されていることを表現しています。どういうことかというと、男性と女性では、最初の昇進の時点で、人数に大きな差があるんですね。例えば、20代後半~30代初めで最初の昇進ポイントを迎えた同期の男女が、同じ総合職で100人ずついたとします。そこで、約7割の男性が昇進するのに対し、女性は4割ほどしか昇進できないという問題が起きているんです。
それは、女性社員一人ひとりのスキルや能力、意欲に問題があるのではなく、「選考されづらい」という組織構造に問題があります。例えば、1つの昇進ポストに対し、男性と女性の候補がいた場合、前例にならって男性にするという会社も多いんです。そのため、同じ能力の場合、女性が損をしてしまう。それを登っていくためのはしごが壊されているという表現で表しています。
大久保:男性の管理職が、同じ属性の男性を引き上げてしまうんですね。
コンフォート・ゾーンを飛び出し、良質な失敗体験を
大久保:「女性のリーダーは失敗を回避しがち」と著書に書かれていますが、この問題と改善策を教えていただけますか?
小早川:先ほどの壊れたはしごにも通じる話ですが、そもそも女性は挑戦する機会を与えられることが男性よりも少ないんですね。そして、はしごを登って管理職になったとしても、女性のリーダーがマイノリティであるがゆえに、必要以上に注目され、男性よりも失敗しないことを求められる傾向にあります。その結果、失敗を恐れるようになり、失敗から学び、成長する機会を逃してしまうんです。
そのため、自身を成長させていくためには、快適なコンフォート・ゾーンから1歩踏み出し、「ちょっと不安だけどやってみよう」と挑戦することが大切です。それを続けることによって、小さな失敗経験を積み重ねながら、自分のキャリアやスキルを構築していくことができます。
大久保:著書では、人生100年時代における4段階のキャリアステージとして、「第2ステージを入社~45歳前後、第3ステージを45~70歳、第4ステージを70歳~」と定義されています。特にライフスタイルやキャリアに変化が出やすい第2ステージにおいて、何かアドバイスをいただけますか?
小早川:第2ステージでは、とにかく良質な失敗体験をたくさんすることと、ビジネスや経営の基礎知識を身に着け、人的ネットワークを構築することが大切です。人生100年時代においては、定年退職後もフリーランスや再雇用契約で働く方が多いと想定できます。そのため、第2ステージにいる間にビジネスの下地を作っておかないと、第3ステージに移行した際にアップデートできなくなってしまいます。ぜひ、仕事だけではなく、プライベートでもたくさんの良質な失敗体験をして、挑戦し続けることを大切にしてください。
ボトムアップ型企業は「シェアード・リーダーシップ」がおすすめ
大久保:管理職になるメリットは何だと思われますか?
小早川:管理職の仕事は、業務タスクよりも人材マネジメントが多くなってきます。そうすると、特にコミュニケーション能力が高い方は能力を発揮しないのはもったいないですよね。また、管理職になるのとならないとでは、1カ月あたりの給与に11~25万円の差が出てくるというデータもあります(厚生労働省『平成26年賃金構造基本統計調査』より)。そのため、生活を豊かにするためにも管理職になるメリットはあると思います。
大久保:キャリアアップやスキルアップという面では、管理職以外にも、プレイヤーとしてスーパープレイヤーを目指したり、組織の外に出てフリーランスになる道もあります。
小早川:そうですね。ただ、その中で一番難しいのはスーパープレイヤーになることだと思います。スーパープレイヤーになること自体も難しいのですが、それを維持していくことは変化が早いビジネス社会においてはものすごくリスクが高いですし、とても難しいことだと思います。また、フリーランスもスーパースキルが何か1つはないと生計が成り立たないので、おそらく大多数の方にとっては難しいでしょう。そのため、組織内で縦軸の方向に出世していくのが一番簡単で早いと思いますね。
大久保:ちなみに、おすすめのリーダーシップの取り方はありますか?
小早川:縁の下の力持ち系のリーダーシップがいいと思います。みんなを引っ張っていくというよりは、みんなを後ろから押していくタイプの「サーバント・リーダーシップ」ですね。部下の話をしっかり聞き、リーダーとしてどう立ち回れば部下が働きやすいかを考える。そして、部下の気持ちに共感し、気持ちが高まるよう声を掛けながら、メンバー全員の能力を引き出すことで、成功に導くやり方です。
大久保:サーバント・リーダーシップにおける留意点はありますか?
小早川:部下の使用人になりすぎてしまうことですね。「Servant」は使用人という意味ですが、部下の望みを考えすぎて会社が望んでいることを忘れてしまうと、売上や利益に対して甘くなり、リーダーとしての評価が下がってしまいます。特に、人に嫌われたくないという思いが強ければ強い人ほど、その傾向が強くなるため、留意が必要です。
大久保:マネージャーになりたての人が陥りがちですよね。張り切っているが故に八方美人になってしまう。
小早川:そうなんです。
大久保:サーバント・リーダーシップは、どのような組織でより効果を発揮するのでしょうか。
小早川:実は、このサーバント・リーダーシップが効果的なのはアメリカの組織なんですね。なぜかというと、アメリカの組織はトップダウン型だからです。ボトムアップ型の日本企業はサーバント・リーダーシップとの相性があまりよくないので、「シェアード・リーダーシップ」をおすすめします。
シェアード・リーダーシップは、グループ内の複数人もしくはメンバー全員でリーダーシップを取るスタイルで、権限や裁量をチームメンバーに渡し、各メンバーにリーダーシップを取ってもらいます。リーダーの役目は、メンバーがリーダーシップを取れる土壌を作ることです。特に、複数のプロジェクトを同時進行させている職場においては、有効なスタイルですね。
大久保:本来、組織の基本形態は海外のようなトップダウン型ではあるものの、日本は現場の人間が対処するボトムアップ型が多いですよね。戦後の高度成長期はそれで良かったのかもしれないですが、時代の変化とともに、現場が良かれと判断して行ったことが経営的な問題に繋がることも考えられます。
小早川:おっしゃる通りで、ボトムアップ型と市場の拡大というのは非常に相性が良く、市場を拡大している間はボトムアップ型でやった方が生産性が高くなる場合があります。しかし、今後、市場は減少していく一方なので、ボトムアップ型で行う弊害がたくさん出てくると思います。
大久保:衰退していく産業を一生懸命やってしまっている場合などですよね。その場合は、トップが迅速に撤退の判断をしなければいけないですし。仮に現場の人が「やりたい」と言ったとしても、事業やプロジェクトの継続が悲惨な未来を招くと予測できるならば、たとえ嫌われたとしてもその事業を切る決断も経営者には必要なスキルですね。
小早川:おっしゃる通りです。トップやリーダーが嫌われ役になることで、社員の結束力が強まることもありますから、嫌われることを不安に思わないことが大切です。
(編集:創業手帳編集部)
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(取材協力:
株式会社ワークシフト研究所 代表取締役社長 小早川 優子)
(編集: 創業手帳編集部)