コロナ禍で倒産しないために、中小企業の経営者が今やるべきこと~事業再生のプロ直伝~【松本氏連載その1】
倒産寸前の中小企業700社の再生を支援。9割の会社を成功に導いた“事業再生のプロ”松本光輝氏に聞く
(2020/09/12更新)
コロナ禍の影響が長期化する中、中小企業における経営環境は一段と厳しい状況が続いています。東京商工リサーチが実施した調査では、収束が長引いた場合、中小企業の7.7%が廃業を検討する可能性があると回答。すでに400件を超える新型コロナウイルス関連倒産件数は2020年秋以降、さらに増加する危険性も指摘されています。
「事業再生請負人」として、17年間にわたって700社以上の倒産寸前の会社に携わり、9割の会社を事業再生に導いた松本光輝氏。コロナ禍の中で売上げ減少や資金繰りのひっ迫に悩む中小企業の経営者にどのような処方箋を示してくれるのでしょうか。創業手帳代表の大久保によるインタビューを通して、全6回にわたってコロナ禍の時代を生き残るための道筋をご紹介します。
株式会社事業パートナー 代表取締役
1948年生まれ。独協大学経済学部経営学科を卒業後、飲食業の2代目として、バブル期には17店舗を経営し、年商8億円企業に拡大。バブル崩壊後に25億円の負債を抱え、自ら事業再生を経験。その際の知識、経験を生かして、2003年から事業再生専門コンサルタントに。17年間に請け負ってきた中小企業700社の9割を事業再生に導き、数多くの中小企業経営者を救済してきた。2020年7月、あさ出版より「社長! コロナを生き残るにはこの3つをやりなさい」を出版。
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この記事の目次
運転資金が底をつき、翌月にも倒産しかねない状況の会社を再生
大久保:700社以上の中小企業の事業再生を手がけてこられたそうですね。どのような会社が松本さんのもとに救いの手を求めてきたんでしょうか。
松本:危機的状況の中小企業を1社でも救いたいという思いで、17年間邁進してきました。我々の業務である事業再生は、コンサルタント会社とは携わる相手が全く異なります。95%の会社は運転資金が底をつき、今月か翌月にも倒産しかねない状況だったり、3ヵ月と保たずに資金がショートするという状況にまで陥っている状況でした。
不渡り手形を出してしまっていることもあります。資金繰りに困窮し、切羽詰まった状態に陥ってしまうと、経営者は冷静な経営判断ができる状態ではありません。
事業再生というと、できる限り傷を小さくして事業を清算するかのように思われていますが、会社をたたんで経営者の人生を更地にしてしまうことは、事業再生ではありません。本来の事業再生はその名の通り、事業を立て直し、再生させることです。大変な手間とリスクがあることですが、「株式会社事業パートナー」では、事業内容の徹底的な再構築を行い、黒字化を達成するための大改革を主導しながら、700社以上の事業再生、経営改善に取り組んできました。
コロナの影響で今後3年は経営環境の改善は見込めない。大切なのは「現金」の確保
大久保:企業経営が新型コロナウイルスの影響を受けるようになった今年の春以降、相談内容の変化は現れていますか?
松本:4月以降、明らかに状況が悪化してきていますね。売上げの急激な低下で資金繰りが悪化。経営がひっ迫しすぎて、なんとか持ち堪えて再生を図っていこうという段階をすでに超えてしまっているケースが増えました。
自宅も担保に入っていて、会社の倒産と同時に家庭も崩壊してしまう。このように廃業せざるを得ないという状況に陥っている会社が急激に目立ってきています。
新型コロナの影響による現在の日本の景気は、元に戻るまでに10年は要すると見ています。少なくとも3年後、2023年までは景気の悪化からは逃れられないのではないか。となると、2023年の年末までに日本の会社や個人事業主のおよそ2割ほどが廃業、倒産の危機に直面するだろうと予測しています。
大久保:廃業、倒産の危機に多くの経営者が直面せざるを得ない状況が続く中で、どのような備えが大切になってきますか。
松本:新型コロナウイルスが経済に打撃を与えている状況は、一つの会社の努力でなんとかなる問題ではありません。「明日、何が起こるか」がまったく見えないという五里霧中の状態にあって、一番大事なのは、生き残るための自衛の手段として「現金」を可能な限り集めることです。
そのための手法を提示してみます。
一つは、運転資金を確保するために、緊急融資をできるだけ多く集めること。通常、融資を受ける際は、過去の実績や今後の事業計画などから、今後返済できるかどうかを判断されるものです。しかし今回、国が事業者の事業継続を下支えするための緊急融資支援の基準では、過去の決算書の成績は重視せず、「コロナショックの影響を受けて売上げが落ちたかどうか」の1点で判断されます。
つまり、過去の経営実績や、融資された金額が必ず返済できるかどうかという問題は二の次なんです。緊急融資で集めたお金は、使わずに済めば返せばいい。通常の融資に比べたら、利子は驚くほど低利ですし、条件によっては実質無利子で融資を受けることもできます。
コロナ禍の融資状況は、私のように今まで事業再生支援に携わってきた人間にとっては信じられないほど、恵まれた条件が整っているとも言えるのです。
中小企業の経営者は資金繰りのプロではない。専門家の助力が必要
大久保:コロナ禍でなくても、資金繰りに困窮した経営者の方にはどのようなアドバイスから進めていくのですか。
松本:多くの中小企業経営者は、すぐれた商売人ではあっても、プロの経営者とは言えないことが多いと感じています。金融知識や法律の知識に乏しく、経営を本格的に勉強した経験を持たない人がほとんどです。
事業が上手く回転しているときはいいのですが、経営が行き詰まり、資金繰りに困ったときに、金融機関などに対してどのような手立てを講じればいいのかがわからず、途方に暮れてしまいます。
たとえば、不渡りを出してしまうと全てが終わると思い込んでいる経営者もいます。不渡りといっても、半年間に2回続かなければ手形は使えます。たとえそうなっても、銀行との当座取引が停止されるだけで、普通預金はそのまま継続できますし、入金や送金は可能です。
こうしたことが理解できていれば、その後の対策をじっくりと考えることができる。しかし、知らないままでいると、不安にかられて、見えるはずのものも見えなくなってしまう。中小企業が倒産するのは、経営者が「もうだめだ」と、考えることを諦めてしまったときなんです。
大久保:資金繰りに完全に行き詰まってしまったと思っていても、まだ再生のチャンスは残されていると。
松本:会社というものは、そう簡単に倒産するものではありません。
大切なのは、運転資金を不足させないことです。現状を綿密に分析した上で、最も緊急性の高い資金繰りへの対応を主導し、可能な限りスピーディーに資金繰りの安定化を図っていきます。
資金繰りの問題で経営者が相手にしているのは金融のプロです。知識も経験も乏しい金融の素人が素手同然で戦っても勝てるわけはありません。
そこで、専門家集団を擁している我々が、法律知識と金融知識を武器にして、金融弱者・法律弱者である経営者の側に立つ。そうして、対等な交渉ができるように持っていくのです。
コロナ禍の政府にとっては融資の回収よりも倒産させないことが最優先課題
大久保:今後3年は先が見通せない状況の中で、現金を手元に集めておくことが何よりも重要だということですが、融資をできる限り受けておいた方がいいんですか。
松本:普段でしたら、「借りたのはよいけれど返せるだろうか」と考えるかもしれませんが、今は緊急事態。政府にとってみれば将来、貸した資金が返済されるかどうかよりも、まずは日本の事業者を「倒産させない」ことが重要なのです。返済条件はかつてないほど好条件です。
大久保:まずは緊急融資制度を活用すること。他にも現金を確保するにはどのような方法が考えられるんでしょう。
松本:経費削減を含めた修正改善を行うことが大前提です。不急な投資は先延ばしにする必要があります。売上げがコロナ禍以前の状況に戻るのは、早くても2023年、もしかすると今後10年は景気が完全に回復しないかもしれません。そうなれば、元に戻るのに2030年までかかることもあると考えて、資金を補充することに取り組むべきです。
たとえば、緊急融資だけでなく、通常融資で借りることのできる枠があれば、当座枠も含めて検討することも必要でしょう。運転資金が底をつかなければ、倒産は避けられます。
さらに、現金を作るためには、不動産などの通常使っていない資産があれば、処分して現金に換えておくことも大切です。今後、不動産価格は下降傾向が続くことが見込まれますから。
大久保:コロナ禍の現在の状況で会社を存続させるには、さまざまな方策を講じて現金を手元に確保することが重要だと。その上で、どのように経営を立て直していけばいいのか。さらにお話を聞かせていただきたいと思います。(次回へ続きます)
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