コロナ禍で急増!zoomハラスメント「ズムハラ」の実態と企業の対策方法
5つの「ズムハラ」対処法と2つの対策とは?失敗例から学ぶリスクマネジメントをコンプライアンスの専門家が解説!
(2020/10/07更新)
オンライン会議でハラスメントではないかと不安を感じる人が急増していることを組織として認識できている企業はどのくらいあるのでしょうか。
オンライン会議やオンライン飲み会で散見される「ズムハラ」。
「何がハラスメントで、どう悪いのか」「ハラスメントにならないために組織としてどうあるべきなのか」「個人のモラルをどう統一していくのか」
コンプライアンスやハラスメントの企業内研修を専門で行っている株式会社インプレッション・ラーニング代表の藤山氏が、最近直面しているリモート環境下におけるハラスメント問題の現状と今後の対策について解説していきます。
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アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて、上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年にコンプライアンス、ハラスメント問題の解決に特化した研修会社(株)インプレッション・ラーニングを設立。ハラスメントの「グレーゾーン問題」に特化した研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を実施している。代表自身が、会社員時代、「セクハラ」「パワハラ」を経験。逆に、仕事のストレスから後輩をいじめて、後悔する経験、「内部通報制度」で社内の誰かに訴えられる経験もある。さらに、営業担当していたお客様が、上司のパワハラでこの世を去ったことことがあり、日々、ハラスメント撲滅に力を注いでいる。
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ズムハラの実例
「そのカーテンかわいいね。もっと部屋を見せてよ」と上司に言われた。(30代女性)
「部屋が汚いと上司に指摘され、人事評価に影響があるのかと不安だ」(20代男性)
「通信の容量が少なく聞こえないんだよ。お前の頭の容量と一緒だ。バカ」(30代男性)
会議中「オタクのガキ、うるせーんだよ」と、課長がうちの3歳児にマジギレ。(30代女性)
「そんな機能も知らないんですか?部長のくせに」操作が遅い上司をいじる部下(20代男性)
これらの声は、今年の6月に当社が全国のテレワークを行っている会社勤務の一般職から会社経営者の方、1,000名を対象に、テレワーク中のハラスメント実態調査を行ったアンケート結果からの回答です。
特にオンライン会議の際に、ハラスメントではないかと、不快に感じた方の回答が散見されました。画面越しに一部とはいえ、自分の家の中を見られたり、プライベートが見られることに、イヤな思をしたことがあると答えた方の切実な悩みです。
ズムハラ加速の背景
2020年6月「パワハラ規制法」施行となり、パワハラ問題を職場からなくすために様々な取り組みが本格的に行われていくべきタイミングでのコロナ禍で始まった突然のリモートワーク。一部のIT企業を除き、多くの企業は手探りで様々な施策に取り組むことになりました。
全社員リモートワークができる会社、リモートワークと出勤が混在している会社など、テレワークへの移行がスムーズにいかず、現場は混乱しました。会社はパソコンの整備や通信環境の対策とコロナ対策に追われ、現場のテレワーク中のハラスメント問題まで全く追い付いていませんでした。肝心なコンプライアンス部員も自宅です。
上記の事例で紹介してきたような問題が起こる背景には、「自宅が職場である」という共通認識が社員間で共有されないまま、上司も部下も一斉にテレワークという働く「スタイル」だけが先行して始まったことにありました。
上司も部下の様子が把握しにくい状況下に突然置かれ、メンバーや部下の顔を見ないと落ち着かない上司からすれば、オンライン会議の機能やルールは後回しです。とりあえず部下と顔をみて話をすることで、これまでの仕事のやり方をかろうじて維持し、自分の気持ちだけを安心させる絶好のツールでした。
しかも、画面上に映る部下や画面の奥には、職場では見せない部下の完全プライベートな世界があり、単に好奇心の対象として見ている人もいました。
ズムハラは何がどのように問題か
画面に映し出される視覚情報からしか会話の糸口がつかめない上司は、「そのカーテンかわいいね。もっと部屋を見せてよ」と自分の言動がセクハラになるなど思いもよらず軽率な発言をしてしまいます。管理職に求められる安全配慮義務などすっかり忘れています。
緊急事態宣言の頃に比べて、就業規則にテレワーク規定を設けるなど、各社徐々に整備されてきましたが、「今日はスッピンなので、会議に出れません」「自宅にいる間髭を剃らなかったので顔は見せられません」と頑なに会議の参加を拒むなど、若手社員側の言動からもリモートワークが正しく理解されていない状況が読み取れます。
テレワーク会議中に、どうしても起こってしまうアクシデントもハラスメント発言の引き金になります。例えば、会議中突然の宅急便のインターホンの音、隣の夫婦喧嘩の怒鳴り声、猫が画面を断りもなく横切る、同居の子供や祖父母の姿が突然会議中に映りこむなど、本人も予想できない事態が沢山ありました。
準備期間もない状態で、最初から完璧なテレワークはありえません。トラブルが起こるたびに少しずつ改善していったのが実態ではないでしょうか。
一方で、そのようなアクシデントに対して、目くじらを立てる、怒鳴り散らす上司がいることも調査結果から読み取れました。仕事の中身に本質的に影響ありませんが、ネガティブな感情をまき散らす、不寛容な上司の存在に部下たちは悩まされています。
そもそも自宅で働く環境が、これまでの職場と同様に整備された状態でテレワークができる自宅環境はどの程度あるのでしょうか?
特に新入社員で都内のワンルームに住む方からは、狭いスペースで一日中一人仕事をしていると息が詰まる、という声も聞こえてきます。なかには書斎がないので、自家用車の中で会議、洗濯機の上や、下駄箱の上が仕事場の方もいました。
自宅に広い書斎があって、静かな環境で仕事ができるのは、社長や役員くらいではないでしょうか? このような現場の実態が意外と理解されない会社が多数あったことは残念でなりません。
企業がとるべき対策
ズムハラについて会社がとるべき対策として、大きく2つあります。
・問題事例共有による意識改革
ツールの使用法や会議のグランドルールの決定と共有
1つ目は、「リスク管理」の観点から各種ツールの使い方や、会議のグランドルールを決めていくことです。オンライン会議ツールの使い方や、生産性が上がる方法を教えることも大事ですが、ハラスメント問題に振り回されないように、どのようにツールを使い、ルールを守ることが大切なのか、その目的と意義を丁寧に伝え、オンライン会議でのグランドルールをつくって共有することです。
問題事例共有による意識改革
2つ目は、自社のテレワークやオンライン会議でのハラスメント問題の事例を現場から拾い上げ、集めた現場の実態とともに、問題を放置しておくことの法的リスク等を従業員に周知することで、2度と同じトラブルが起きないように理解を浸透させていくことです。
3つの事例と具体的対策
これら2つの観点をもとに、状況が異なる冒頭の事例を3つほど取り上げながら、企業がとるべき具体策を個別に解説します。
事例1「そのカーテンかわいいね。もっと部屋を見せてよ」と上司に言われた。
【対策①】
会議中のレコーディング機能(録画、録音)を会議のルールとします。議事録目的です。同時に「参加者の言動は可視化され、記録される」機能であることを理解してもらいます。ハラスメント言動も可視化されるために、ハラスメントの引き金になりそうな不用意な言動も、会議後に確認ができるようになります。
【対策②】
視覚情報について余計なことは一切、口にしないことを決めます。悪気はないのかもしれませんが、自宅環境への質問は相手から嫌われます。それがハラスメントリスクになる可能性があることを周知します。目は口程にモノを言います。何も言わなくても、画面の後ろが気になって見ている人は、画面上で目が泳ぐのでわかります。ルール以前の問題であり、人間性が疑われます。
【対策③】
背景を相手に見られたくない場合、バーチャル背景やぼかし機能等を積極的に推奨します。部下がバーチャル背景を使うことに、正当な理由もなく上司が許可しないことは禁止とします。
(参考)オンラインでの対話中に、相手方にハラスメントのような言動など強い違和感を覚えた場合、身を守るために、手元のスマホを使って録音することは、私個人としては推奨します。そもそも、そのような状況にならないよう、お互い相手への気遣いがあって欲しいものです。
事例2「通信の容量が少なく聞こえない!お前の頭の容量と一緒だ、バカ」
【対策】
パワハラ言動です。行為者本人には懲戒案件の可能性もあり、民事上不法行為(民法709条)に基づく慰謝料請求も可能になってくると思います。この場合、パワハラを言動の本人のみならず、会社も知っていて放置していた等の事情があれば、使用者責任(民法715条)を問われます。このような具体的なケースを例示して、本人と会社にどのようなリスクがあるかを正しく周知させることが大事です。
オンライン会議などパワハラ発言やセクハラ発言を証拠に残しやすいとすれば、そのことを社員に伝えることにより、上司も発言に慎重になりパワハラやセクハラ防止の抑止力につながることを狙います。
また、侮辱罪(刑法231条)に該当する可能性もあります。侮辱罪が成立するためには、事実を摘示することなく公然と人を侮辱する必要がありますが、オンラインの会議は社内外も含め複数人で行う場合もあるのでそのような場合公然性もあり、人の社会的評価を低下させる発言です。
事例3「そんな機能も知らないんですか?部長のくせに」操作が遅い上司をいじる部下
【部下側に求められる対策】
優越的な関係を背景とした言動として、部下からの上司へのパワハラとなるリスクが高いので注意しましょう。相手との関係性を踏まえ、なるべく専門用語を使わないで説明してあげてください。但し、あまりに何度も同じことを何度も聞いてくる場合は専門部署を紹介したり、長時間の質問責めで拘束したり、休日まで電話をしてきたりする場合、上司または相談窓口に連絡してください。
【上司側に求められる対策】
わからないことは、まずは自分で調べて、ネットで検索して勉強してください。何の努力もせずに、直ぐに部下に質問する人もいますが、部下の時間を奪うことがどれほど部下の生産性を下げているかも分からない、時間コストの概念がない未熟な管理者の証拠です。
新しいツールが導入さるたびに、学習意欲がなくなっていく人、貪欲に勉強する人が50代、60代でも二分化しています。「テレワークって、自宅待機と同じだよね。最近、暇だよ。」と、仕事の生産性が落ちる理由をすべてテレワークのせいにせず、対応していく努力も必要です。
ズムハラ問題の5つの対処法とは
最後にこれまで述べてきたことを整理して、コンプライアンス担当者が知っておきたいズムハラへの5つの対処法をご紹介します。
- ココ重要!
-
- オンライン会議上でもハラスメントは絶対にしない
- リスク管理の観点からオンラインツールの機能を個々人が学ぶ
- コンプライアンスマニュアルにテレワークリスクを追加し周知する
- 会議ツールの使い方や、会議進行のグランドルールを決める
- 「自宅=職場」の考え方を明確化、「職場」でハラスメントがおきないよう周知
オンライン会議上でもハラスメントは絶対にしない
6月に法制化した、パワハラ規制法(労働施策総合推進法第30条の2)が会社に求めている内容を、もう一度確認しましょう。中小企業は2022年3月末までは努力義務ですが、同年4月からは義務を課せられます。
ハラスメント問題を放置することで、SNSでの拡散、雇用維や採用への影響、メンタルヘルス問題の発展などコンプライアンス上、様々なリスクがあることに留意してください。
リスク管理の観点からオンラインツールの機能を個々人が学ぶ
オンライン会議に潜むリスクと、機能を用いたハラスメント予防法(例えば、バーチャル背景の使い方などをハラスメント防止の観点から理解してもらう)を学ぶ機会や、対処法を周知しましょう。
コンプライアンスマニュアルにテレワークリスクを追加し周知する
可視化しにくいテレワーク中の新しいリスクの情報収集をし、経営陣に共有しましょう。さらに、テレワーク中の無自覚な行動がハラスメントを引き起こすリスクを全社員に共有することが重要です。
リスク管理の観点から会議ツールの使い方や、会議進行のグランドルールを決める
実際に議事録の代わりに、毎回レコーディング(録画)する会社も実際にありますが、パワハラ、セクハラ予防がもうひとつの狙いです。
「自宅=職場」の考え方を明確にし、「職場」でハラスメントがおきないように周知させる
「自宅=職場」の意識の希薄さが、気の緩みとして身だしなみにも現れます。テレワーク規定がある会社は伝えやすいのですが、「自宅だから関係ない」と言わせないようにし、身だしなみも相手への気遣いであることをもう一度確認しましょう。
早めのズムハラ対策でリスクマネジメントを!
2年前に、ハラスメントのセミナー中、受講生の部長さんに「皆さんの会社にはSNSのハラスメント問題はありますか?」と質問をしたところ、驚くべき回答が多くの方から
かえってきました。
「当社では散見されません」
あなたの目の前では見えないだけで、今の時代、ネット上で確実にSNSハラスメント問題が存在していること、その問題で苦しんでいる社員がいることすら知らない部長がいることに驚くとともに、目に見えないリスクやこれから起きるであろうことへの想像力の欠如している大人が管理職でいる事実に危機感を持ちました。
テレワークにおけるハラスメント問題は今後も形を変えながら起こるでしょう。今後のハラスメント対策の着眼点としては無視できない課題です。これからテレワークを導入する会社のコンプライアンス担当者の方々にはぜひ、多くの先行事例をもとに問題認識を共有して対策を進めて頂きたいと思います。
「リスクマネジメント」とは、本来先に手を打つことです。トラブルが起きてから対処するのは 「後始末」であり、ハラスメントリスクへの対策に先手を打っているとは全く言えないのです。
創業手帳冊子版では、創業期や成長期に必要な情報が多数掲載されています。無料で配布しておりますので、ぜひあわせてご活用ください。
(監修:
株式会社インプレッション・ラーニング/代表 藤山晴久)
(編集: 創業手帳編集部)