起業家が「商号」と「商標」を分けて理解すべきワケ 違いとリスクを解説

創業手帳

商号と商標の登録についてのポイントをまとめました

(2019/11/26更新)

ブランドは、会社の信用を蓄積させていく上でとても大事です。創業者が取り組むべきブランド戦略の中でも、会社やサービスの名前に関わる「商号」と「商標」の登録は、特に慎重に行いたいもの。しかし、商号を取得した段階で「自社のブランドを守る体制は整った!」と考える経営者も少なくありません。

商号と商標は、名前こそ似ているものの、その意味は全く違います。片方だけ取得したからといって、安心してしまうのは早急です。この記事では、両者の違いと、双方を適切に登録しなかった場合、事業にどのようなリスクが出てくるかについて解説します。

創業期は、商標や商号の他にも把握しておきたいノウハウが数多くあります。創業後の会社経営に必要なノウハウを1冊にぎゅっとまとめた創業手帳の冊子版も併せて参考にしてみてください。

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商号の概要と規制

まずは商号から解説します。

商号とは個人商人や会社が営業を行うにおいて、「自己を表示するために使用する名称」のことを指します。子供に名前を付けるのと同じく、創業した会社の商号決めはとても重要であることは、言うまでもないでしょう。

商号を決める際に、真っ先に抑えておかなければならないポイントが、「同一または類似の商号の存在」についてです。

・良い商号を考えたが、既に同じような商号の会社がある場合はどうすればいい?
・良い商号を考えたが、後から同じような商号の会社が出てきたりしないだろうか?

といった疑問を持っている方も少なくないのではないでしょうか。これらの扱いについて、法律ではどのような定めがあるのか、見ていきましょう。

過去の類似商号規制

平成18年5月以前は、類似商号規制として、「同じ市町村において」他人が登記したものと同一の商号を使って、同様の営業目的の事業を展開することができませんでした(旧商業登記法第27条)。例えば、○○県A市に「株式会社カニ屋」という飲食店がある場合には、同じA市内に「株式会社カニ屋」という名前の飲食店を設立することはできなかったのです。

さらに、ここで言う営業目的は、定款記載の内容に準じており、仮に既存の「株式会社カニ屋」が実際には飲食店を開いていなくても、その定款の事業目的に「飲食店の営業」が含まれていれば、同じ市内に同一商号の会社を設立することはできませんでした。

類似商号規制廃止によって、類似の商号を使い放題になったのか?

現在、類似商号規制は廃止され、商号に関しては「同一の所在場所における同一の商号登記の禁止」のみとなりました(現実には既存の「株式会社カニ屋」の登記住所に、他人が同名の商号を登記しようとすることはまずないでしょうが)。では、現行法上、同一や類似の商号が使い放題になったのでしょうか?

もちろん、そんなことはなく、「不正競争防止法」による以下の制限が設けられています。

周知表示混同惹起行為

不正競争防止法では、「周知表示混同惹起行為」を制限しています(第2条1項1号)。

周知表示というのは、「一定の地域や業界で広く知られた表示」のことであり、これには商号も含まれます。つまり、「株式会社カニ屋」がA市で周知されているとします。後から第三者がそれと同じ名称をつけA市で飲食店を開き、顧客に対して既存の「株式会社カニ屋」との混同を招いた場合は、周知表示混同惹起行為に該当し、商号の利用に待ったがかかる可能性があります。

ただ、「周知性や混同惹起」が要件なので、仮に「株式会社カニ屋」がA市で周知であっても、周知ではないB市で別事業主が同じ名称で飲食店を開く場合は、周知表示混同惹起行為に該当しません。基本的には「商圏が異なれば、顧客の混同の可能性は低い」という判断です(具体的な状況にはよりますが)。

著名表示冒用行為

著名表示冒用行為は、著名な表示を冒用する行為です。例えば、SONYのような、多くの人が知っている(つまり、著名な)商号を使ってカニ料理屋を開くような行為を指します。この場合、あのSONYがカニ料理屋をやっているとは誰も思わない、つまり、混同が惹起されなくても、そのような行為は禁止されています。

商業登記法と不正競争防止法についてのまとめ

商号については、現在商業登記法上の制限は事実上ありませんが、不正競争防止法においては利用に制限がかかる可能性がある、ということを抑えておきましょう。

戦略的な商標登録の必要性

商号登録だけで安心してはいけない

商号について、規制の要件をクリアして商号を登記できたとしましょう。ここで陥りがちなのが、「商号を登記してあるから、商品やサービスに商号を使っても大丈夫!」と考えてしまうことです。

「大丈夫も何も自社名なのだから使って当然だ」と思うのは無理からぬ話ですが、商号として登記してある言葉も、場合によっては自由に使えないケースがあります。ここで登場するのが「商標権」です。概要を見ていきましょう。

商標は、商品・サービスとセット

商標権は、「商標登録をした人が持つその商標に関する権利」です。

まず、誤解されがちなのですが、商標権登録は、単純に言葉を登録する権利ではありません。商標登録は「○○」という言葉(実際は言葉だけでなく図形や音響などもありますが、話が複雑になるのでここでは文字だけで表わされる文字商標に絞って話を進めます)と、その商標を使用する商品またはサービスとセットの登録なのです。

例えば、前述の「カニ屋」を商標登録しようとすると、例えば、「カニ屋」という言葉と、商標区分第43類の「飲食物の提供」とセットで出願をし、登録要件を満たせば商標登録されるという仕組みです。

商標に付随する商品またはサービスは「指定商品・指定役務」という言葉で表します。役務はサービスのことです。

指定商品・指定役務が違うとどうなる?

例えば、「カニ屋」という飲食店を開きたいと考えた起業家が、調べた所、「カニ屋」という同じ商標がすでにあることが分かったとします。既存のカニ屋の指定役務が、「飲食物の提供」(商標区分第43類)であった場合は、カニ屋という名前の飲食店を作ることは認められませんが、仮に「被服及び履物」(商標区分第25類)だった場合は認められます。

若干ややこしくなったのでまとめると、仮に同じ文言の商標がすでに登録されていても、事業内容が異なるのであれば、同じ文言を使ったサービスを展開できるのです。

商標権者となることのメリット

商標権者は、商標で登録された言葉を使ったサービスや商品を展開しようとしている(もしくはしている)別の第三者に対して、当該商標の使用の差止めや、損害賠償を請求することができます。

つまり、「他社が商号として、自社と同じ言葉を使おうとしていた場合、その言葉を自社が“商標”として登録していれば、他社はその言葉を商品やサービスに使うことができなくなる」のです。

商標権は、競合しそうな他業者がその名前で同一市場に参入することを防ぐためにあるとも言えますね。

商標権者から、商標権侵害を理由として損害賠償請求をされると、対応のために多額のコストがかかったうえで多額の賠償金の支払い義務を負うこととなり、創業まもない企業にとっては致命傷となることもあるため、商号の選択や商標の取得には細心の配慮が必要でしょう。

ブランド戦略は「商号だけでなく商標も考える」のが大事

商号と商標の違いを解説してきました。2つはまったく別ものであり、自社ブランドを守り、安心して使えるようにするためには「商号だけでなく商標も登録しておく」のが賢明な対応だと言えるでしょう。
それを踏まえたうえで、どのような業界でも支店、系列店、フランチャイズ店等により全国展開の可能性があり、商圏が異なるといえるか否かの判断が難しくなっていることから、商号を決めるにあたっては、インターネット等で十分に調査をしたうえで、独自性のある商号を決めることが重要でしょう。

商号と商標について判断に迷ったときは、弁理士など専門家に相談してみるのも良いかもしれません。

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