テモナ 佐川隼人|サブスク特化型ビジネスで成功した起業家が、4度の起業で経験した天国と地獄

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年10月に行われた取材時点のものです。

リーマンショック後SaaS事業へピボット、上場を果たす。困難を乗り越える度に経営者として上に行ける

日本でも広く普及するサブスク(サブスクリプション)ビジネス。このサブスクに早くから着目し、大きく成長を遂げたスタートアップがテモナ株式会社です。EC事業者などへシステムを提供する「サブスクのためのサブスク事業」を手掛ける同社は、2019年に東証一部上場を果たしました。

同社を創業し現在も代表取締役社長を務めるのが、佐川隼人さん。佐川さんは18歳から今まで4度も起業経験があり、多くのトラブルを乗り越えています。

今回は佐川さんが歩んできたキャリアや、どう困難を乗り越えて事業を成長させてきたのかについて、創業手帳の大久保がインタビューしました。

佐川 隼人(さがわ はやと)
テモナ株式会社 代表取締役社長
システムエンジニアを経て4度の起業経験を持ち、2008年10月にテモナ株式会社を設立。フロービジネスで労働集約モデルの事業に限界を感じ、SaaS型のサブスクモデルへ事業転換し、延べ2,000社以上に、サブスク事業のコンサルティングを行う。2017年マザーズ上場、2018年日本サブスクリプションビジネス振興会設立、2019年4月プライム市場昇格。著書に「サブスクリプション実践ガイド」(英治出版)。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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18歳から何度も起業した波乱の人生。海外生活では起業に必要な力がついた


大久保:佐川さんは18歳という若さで起業されたそうですね。

佐川:実はこれまで4度も起業しているんですよ。もともと父が起業家ということもあって、若い頃から起業したいという気持ちがありました。

最初に起業したのは高校を卒業してすぐの時で、ポスティングと広告代理店のようなことをしていました。その前に働いたピザ屋のアルバイトで、チラシのポスティングもしていたんです。そういう経験があったので、いけるかなという軽いノリでしたね。数人の仲間と商店街などにチラシの枠を売り、チラシを作ってポスティングをしていました。

大久保:ポスティング全盛期だった頃ですよね。そのビジネスはうまくいきましたか?

佐川:全然うまくいきませんでした。受注はできたのですが、こなせなくてクレームがどんどん増えてしまいました。ポスティングを頼んだアルバイトが突然いなくなったり、川にチラシを捨てられたりしたこともありましたね。結局1年も経たずにやめました。やはりノリで始めるのは厳しいと実感しました。

大久保:その後はどうされたのでしょうか?

佐川:まずエンジニアとしての技術を身に着けてから再度起業に挑戦しようと考え、ソフトウェアの開発会社に就職しました。エンジニアを目指したのは、子どもの頃にパソコンでゲームを作っていたこともありましたし、これからはITだという時代の流れがあったからです。

その会社では開発だけではなく営業も担当しました。仕事を取ってくるところから、作って納品するまで一通りのことを覚えることができたんです。3年くらい経ち、ある程度スキルが得られたので、よしいけるぞと思ってその会社を辞めました。

ただ実は昔から海外に行きたいと思っていたんですよ。最初の起業で失敗していたので、やりたいことを全部やってからどうするか決めたいなと考えました。そこで会社を辞めた後、オーストラリアに3年半行っていました。

大久保:そういうタイミングじゃないと、なかなか海外に行くチャンスはないですよね。海外生活で得るものはありましたか?

佐川:その後の創業メンバーとなる人たちとつながることができましたし、生涯の伴侶となる妻との出会いもありました。

あとは海外で過ごしたことで、変化への適応力がついたと思いますね。オーストラリアでは学校に通いながら、よく旅行をしていたんです。毎日のように違う場所へ行く中で、変化への対応とか、新しいことにチャレンジする力が養われた気がします。

大久保:起業家として必要な資質につながったわけですね。その後帰国して、起業されたのでしょうか。

佐川:はい。この時はフリーランスのエンジニアとして活動しました。最近のフリーランスはエージェントへ登録して仕事をもらう形が一般的ですが、当時はそういう働き方はありませんでした。ですから営業も自分でやって、取れた仕事を自分でこなすということをしていましたね。自分だけで対応できない案件は、仲間に手伝ってもらっていました。

実はこの時、かなり収益が上がっていたんですよ。数千万円で受けた仕事を数百万円で作るという感じでしたから。それからお金を貯めて、当時の仕事仲間と共同出資という形で、システムを受託開発する会社を立ち上げました。

大久保:立ち上げた会社も順調だったのでしょうか?

佐川実は大きなトラブルがあったんですよ。共同経営者のひとりが会社のお金を使い込み、その後失踪してしまったんです。気づいた時には会社のキャッシュはもう数円しかない状態でした。漫画みたいな話ですよね。

結局その会社を解散することになり、お詫びをするために当時の取引先をひとつずつ回りました。そんな中、取引先のひとつだった東京のベンチャー企業の社長が「このままじゃ終われないよね。引き続き仕事も発注するし場所も貸すから、リベンジしてみないか」と言ってくれたんです。

そこで当時一緒にやっていたメンバーに声をかけて、上京して2008年10月に作ったのが今の会社です。

事業のピボットに至る中で響いたお客様の言葉とは


大久保:上京して再スタートした後はいかがでしたか?

佐川:以前のシステム受託開発を引き継ぐ形で最初からお客様がいましたので、わりと順調でしたね。ただその後リーマンショックで、大きなダメージを受けたんです。

当時僕らの主要取引先には、大手企業も多かったんです。リーマンショックの影響で大手企業の案件が中止となって、その翌月には売り上げが3分の1になってしまいました。

なんとかそのピンチは乗り越えたのですが、このままではいけないと強く感じました。受託開発のような労働集約型ビジネスは、大きな案件を受ければ売り上げになるけれど、それこそリーマンショックなどの影響で取引先がなくなると一気に落ちてしまいます。

そこで受託開発だけではなく、自社製品を作ってSaaSで提供するというサブスク型ビジネスにピボットしようという決断をしました。

大久保:大きなピボットですよね。やはりそれなりに時間がかかったのではないでしょうか。

佐川:そうですね。受託もこなしつつ自社製品を作って営業するということをしばらく続けていました。サブスク型ビジネスに完全にシフトできたのは3年後でした。

これが今の、サブスク型EC事業者向けのシステムをSaaSで提供するという事業につながっています。

大久保:そこに至るまで多くの困難に直面したと思いますが、そんな中で気持ちが前向きになれた出来事があれば教えていただけますか?

佐川:やはりお客様からいただいた言葉が忘れられないですね。実はSaaSサービスを始めたばかりの頃、障害で一晩システムが止まってしまったことがあるんです。

クライアントであるEC事業者の方々から見れば、一晩ユーザーが買い物をできない状態は大きな機会損失です。そこで、社員全員でクライアントへお詫びをしにいきました。

僕は、最初に自分で営業したお客様のところへ行きました。僕が営業した時は2人だけだった会社が、久しぶりに訪れたら100人以上の規模になっていたんですよ。

その社長さんが出てきてくれて「最初にテモナのシステムがあったから、うちの事業はこれまで大きくなれた。システム障害は致命的なので、これからはしっかり頼むよ」と言ってくれました。お詫びをしに行ったのに、逆に僕らが応援していただいた感じです。

これは僕の中ですごく大事なエピソードで、今でもこの時の気持ちを忘れちゃいけないなと思っています。

サブスクに特化してノウハウを積み上げてきたことが強み


大久保:事業やサービスの企画は、佐川さんがメインで行っているのでしょうか?

佐川:はい。プロダクト企画など、ゼロイチのところを僕がやっています。ただ僕はエンジニア出身なので設計もある程度やっていて「この構想とこのデータベース設計で作って欲しい」という感じで社内エンジニアへ渡しています。エンジニアにとっては多少面白みに欠けるかもしれませんが、この方が圧倒的にスピード感はあります。

ただし僕が直轄でやるプロダクトと、社員が主導でやるプロダクトをしっかり分けています。僕はすぐ口を出してしまうので、あえて社員だけでやってもらうプロジェクトも置くようにしています。これは人材育成という意味もあります。

大久保:なるほど。今後も新しい事業がどんどん増えていきそうですね。

佐川:はい。サブスク型ビジネスに特化した「サブスクストア」や、店舗のサブスクをやるための「サブスク@」というプロダクトも作りました。それ以外にも、新たなサービスを提供する準備を進めているところです。

「サブスクで世の中を豊かにする」というのが、僕らのアイデンティティです。これを中心にこれまで10数年かけてプロダクトを作ってきました。今後も幅を広げながら、いろいろなサービスを手掛けていきたいと思っています。

ただ、大手さんと価格で正面から勝負しても勝てません。やはりサブスクに特化することが、僕らには大事だと思っています。

大久保:特化することで、サブスク事業者のノウハウが蓄積される点も大きいですよね。スタートアップは自社でシステムを開発したいところも多いですが、他社のノウハウを享受するためにも、SaaSを活用すべきかなと思います。

佐川:おっしゃる通りです。僕らのシステムをゼロから作ったら、簡単に数億円は超えてしまいます。スタートアップがそういうシステムに投資するのは、すごくもったいない話です。

スタートアップにとって、最初はビジネスモデルがうまくいくことを証明していくところが重要じゃないですか。ですからシステムはあまりボトルネックにすべきではありません。

システムがボトルネックになる時は、労働生産性を高めるフェーズだと思うんですよ。ある程度軌道に乗って売り上げが上がってきて、1人当たりの生産性をもっと高めたいと思った時、効率化に向けてシステム開発に取り組むべきですよね。

大量離職によるメンタルブレイク、救ってくれたのは先人の知恵


大久保:波乱万丈の経営者人生を過ごされてきた佐川さんにとって、最も心を大きく動かされた出来事は何でしたか?

佐川:やはり上場ですね。基本的に経営者って詰められることばかりじゃないですか。社長はむしろ褒める側ですし、すごいねって言ってもらえる機会はほとんどありません。

だから上場した時、初めて経営者として褒めてもらえた気がしました。こんなに褒めてもらえることをしたんだな、という実感がありましたね。

大久保:反対に厳しい状況の中で、特に心に残っているのはどんなことでしょう?

佐川:たくさんありますが、特にきつかったのは社員が大量離職した時です。事業をピボットした後に自社製品の売り上げが伸びてきたので、20人くらい一気に採用したんです。でも結局19人は辞めてしまいました。ちなみに残った1人は今もうちで頑張ってくれています。

この大量離職はすごくショックで、メンタルもやられてしまいました。まさに地獄でしたね。でもこの出来事をきっかけに、採用を見直すことができました。僕らのこれから描くストーリーやパーパスに共感してくれる人だけを採用しよう、という方針を決めることができたんです。

大量離職から学んだものは、経営者人生においてすごく大きいと思います。当時は地獄でしたが、それを乗り越えるともう1つ上のステップに行けることがわかりました。

テモナ社を辞めて起業した人もたくさんいますが、彼らも一度地獄を見ると一皮むけます。最初は尖っているけれど、地獄を見ると人の言うことを聞くようになるし、優しくなるし、学ぶ姿勢も出てくる。だから起業家にとって1回地獄を見るのは、実は必要な経験ではないかと思います。

大久保:確かに社員の離職は、社長である自分が否定されている気がして辛いですよね。精神的に辛い時、佐川さんはどう対処したのでしょうか?

佐川本を読みあさったり、先輩経営者に聞いたりしました。先人に学ぶことが、あらためてすごく大事だなと感じました。

大久保:先人に学ぶという意味では、コミュニティも重要ですよね。

佐川:そうですね。僕は2018年に日本サブスクリプションビジネス振興会という社団法人を立ち上げました。これはまさにサブスク事業に関わる人たちのコミュニティという位置づけで、現在80人ぐらいメンバーがいます。

この団体を通じて、サブスク業界全体を盛り上げたいと考えています。もしサブスクでもっと事業を伸ばしたいとか、課題を抱えているという起業家の方は、ぜひ僕らのコミュニティに参加していただければうれしいです。仲間もできますし、情報収集もできますよ。

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(取材協力: テモナ株式会社 代表取締役社長 佐川 隼人
(編集: 創業手帳編集部)



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