小規模企業共済は前納が可能!前納制度のメリットと方法を解説

創業手帳

前納の注意点もあわせて紹介。ポイントを理解して小規模企業共済の前納を行おう


小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者に向けた積み立て制度です。
前納制度も実施されており、所得控除などのメリットがあるため、節税対策に利用している企業もあります。
ただし、メリットがあると同時に前納には注意点もあるため、事前に理解しておくことが必要です。

今回は小規模企業共済の前納について、メリットと注意点、前納する方法を解説します。

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小規模企業共済とは


小規模企業共済は、中小機構が運営する共済制度です。
個人事業主や小規模企業の経営者・役員などが共済金を積み立て、退職時などにそれまで積み立てた額を受け取れます。
退職した際や事業の継続が困難となった際、事業再建や安定した日常生活を送るための資金を準備しておくことが目的です。

掛金は月額1,000円~70,000円の範囲で設定でき、払い込んだ掛金の全額が所得控除の対象となります。そのため、節税効果を得られることが特徴です。
なお、解約する場合、払い込んだ掛金は規定に応じて解約手当金として返還されます。

個人事業主や小規模企業の経営者が将来に備えて加入するもので、加入者は、2022年4月時点で全国約159万人にのぼります。

小規模企業共済について、詳しくはこちらの記事を>>
小規模企業共済とは?加入資格から解約方法、メリット・デメリットまで解説!

小規模企業共済の前納制度とは


小規模企業共済の払込方法は月払い・半年払い・年払いがあります。その中で、翌年分の掛金を年払いで一括して支払う方法が前納制度です。

支払方法は途中で変更ができ、最初だけ年払いにしてその後月払いにするなども可能です。

前納で支払った分の所得控除は、1年分まで支払った年の所得から控除する対象となります。
そのため、例えば、12月の口座振替で前納する場合、12月から翌年11月分まで前納でき、その1年分が控除対象です。
また、月額で1年間支払い、プラスして翌年分を前納した場合、合計して2年分が所得控除の対象となります。

払込方法によって所得控除額に変化が生じます。
そのため、利益予測を超えるなどケースに応じて支払い方法を変更することで、うまく節税対策に取り組める方法が前納制度です。

小規模企業共済を前納するメリット


前章でも触れましたが、前納することによって所得控除などの利点があります。主なメリットである前納による減額金と所得控除の2点について、解説します。

減額金がある

小規模企業共済を前納した場合、掛金の0.09%を返還する減額金があります。
これは掛金が割引される仕組みで、月額掛金の0.09%に前納月数の累計を乗じた金額が還付されます。計算式は以下の通りです。

前納減額金=月額掛金×0.0009×前納月数の累計

例えば、月額掛金30,000円で11カ月分前納している場合、30,000円×0.0009×66=1,782円となります。この計算式にある、前納減額金の累計に疑問が生じるかもしれません。
この時、11カ月分だからと単純に11を掛けるのではなく、1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+11=66と期間を累計して計算するため、66となります。

前納減額金は毎年3月末時点に集計され、合計金額が5,000円以上になると、当年の6月に口座へ振り込まれます。
つまり、上に挙げた例の場合は減額金が1,782円のため、これまでの減額金と合計して5,000円以上になっていなければ、前納減額金を受け取ることはできません。

なお、前納減額金を受けた場合、所得控除額から減額分が減ることになります。所得控除を申告する際は、掛金額から減額分を差し引いて届け出るよう注意が必要です。

所得控除額がある

小規模企業共済は所得控除の対象となり、当年の掛金だけでなく翌年1年分の前納額も同様に控除することが可能です。

例えば、12月に翌年11月まで12カ月分を前納する場合、当年に払った額に加えて前納した12カ月分の合計が所得控除の対象となります。
そのため、最大24カ月分の控除を同じ年に受けられます。
掛金は月額最大70,000円のため、最大額に設定している場合は、70,000万円×24カ月=168万円、つまり最大168万円が控除対象です。

なお、掛金額は変更可能です。掛金額によって控除額も変わってくるため、掛金が多ければ多いだけ、所得控除によるメリットは大きくなります。
事業で臨時収入があり当年の所得が極端に増えてしまうといったケースでは、前納にし掛金額も多くすると節税対策となります。

なお、12月の口座振替時に前納をする際は、11カ月分を納めるようおすすめします。
翌年1年分ではなく11カ月分を前納することで、翌年の12月に掛金の口座振替が発生するため、再度前納が可能となり、所得控除が受けられます。

小規模企業共済を前納する際の注意点


小規模企業共済を前納する場合は、メリットだけでなく注意点もあります。
4つの注意点を紹介します。

翌年以降の所得控除が減る

前納には所得控除額が増えるというメリットがあります。しかし、それは前納した年に限定したことであり、来年度に控除できるはずだった額がなくなることを意味します。

つまり、長期的に考えると前納によって必ずしも節税効果が高まるというなるわけではありません。
例えば、前納した翌年により所得額が増えてしまった場合は、前年に前納したことで逆に節税対策に影響が出てしまうケースもあります。

前章で述べた通り、節税のために前納する際は、通年より極端に所得が多い時に実施することが効果的です。
今年度分を前納したい場合、目先の損得だけでなく長期的なスパンで検討してください。

11月以降の前納は「現金あり」で申し込む

掛金の支払いは「現金あり」、または、「現金なし」の方法で手続きします。
小規模企業共済では支払った掛金が所得控除の対象となるため、多くの方が12月に前納を希望します。
ただし、11月以降の前納は「現金あり」で申請するよう注意が必要です。

「現金あり」で加入を申し込んだ場合、年内に現金での支払いが発生するため、原則として全額が控除の対象となります。
しかし、11月~12月に「現金なし」で申し込んだ場合、初回の口座振替が翌年となり年内に支払いが行われないため、当年の所得控除対象とはなりません。
そのため、11月以降に前納し、当年の所得控除を希望する場合は、「現金あり」で申請することが必須です。

なお、節税対策で掛金額を変更して前納することもありますが、当年の控除を目的とする場合は、「現金あり」で手続きしなければいけません。
「現金なし」による掛金前納の取り扱いはできないため、増額を申し込む際は注意が必要です。

口座残高不足では所得控除が受けられない

年内に口座の残高不足で前納の引き落としができない場合、当年の所得控除は受けられません。

12月に口座引き落としで前納しようとし、残高不足で前納ができなかった場合、当年中の再請求は行われず、振替不能として扱われます。
翌月(翌年1月)は請求されず、翌々月(翌年2月)から中小機構の規定に沿って請求が実施されます。

つまり、口座残高不足では当年に支払いがされていないため、所得控除の対象にはなりません。節税にはならず、通常通り所得税を支払うことになります。
12月に口座振替で前納する場合は、口座残高を確認してください。

なお、翌年12月には再度12カ月分の請求が実施されます。
そのため、翌年は残高不足で前納できなかった年の分も含めて最大24カ月分を控除することが可能となるため、2年スパンで見ると所得控除は同等になります。

確定申告では前納減額金を掛金合計額から引く

前納すると月額掛金に応じて前納減額金が発生し、5,000円以上になると支払いがされます。
この時、確定申告では前納減額金を掛金合計から引いて申告することを間違えないよう注意してください。

月額掛金と前納減額金は、中小機構から送付されてくる「小規模企業共済掛金払込証明書」へ記載されています。
申告の際は、「確定申告第二表」にある「小規模企業共済等掛金控除」の欄へ、掛金合計から前納減額金を引いた金額を記載します。

返金がなされているため利益となると考えて雑所得で申請したり、小規模企業共済の掛金を事業場の必要経費にしたりといった行為は正しくありません。
また、前納減額金の合計金額が5,000円に達していない場合は申請不可です。金額と方法を確認して申請しましょう。

小規模企業共済を前納する方法


最後に、小規模企業共済の前納はどのように行うのでしょうか。
前納の流れや申請時期、必要書類などの詳細を解説します。

前納の流れ

小規模企業共済の前納には以下の手続きが必要です。

  • 必要書類の準備
  • 書類記入
  • 窓口へ提示
  • 中小機構へ書類送付
  • 中小機構から書類の受け取り

前納を希望する場合は「一括納付申請書」を準備し、記入をします。ただし、記入した書類はいきなり中小機構へ送付するのではありません。
一度窓口で書類内容を確認してもらい、確認印を押印してもらうことが必須となります。
対応は、中小機構の委託機関または金融機関で、商工会議所や都市銀行などが窓口となっています。
なお、金融機関によっては取り扱っていない場合もあるため、事前に対象の金融機関を確認しておくと良いでしょう。

送付後に手続きが完了すると、「掛金の請求についてのお知らせ」が発送されます。これを見ることによって、請求金額や明細を確認することが可能です。

必要書類の準備方法については、後に詳細を解説します。

申請期限と「掛金払込証明書」が発送される時期

所得控除を目的とする場合、申請が間に合わず前納ができないというケースがあってはなりません。
そのため、申請期限は重要なポイントです。ここからは前納の申請期限と、申し込みした月による「掛金払込証明書」の発送時期を解説します。

前納の申請期限

前納の申請期限は前月の20日(土日祝日の場合は前営業日)までです。期日までに「一括納付申請書」を提出した場合、翌月に引き落とされます。

所得控除の関係から12月に前納を希望する方が多くいるため、12月に前納するケースで考えてみましょう。
前月の20日が締め切りのため、書類の提出は11月20日までに行います。
12月に支払いができなければその年に所得控除を受けられないため、期日を守って対応することが大切です。

「掛金払込証明書」の発送時期

確定申告には「掛金払込証明書」が必要です。所得控除を受けるために必要となる書類であり、この書類は申し込んだ月によって発行時期が異なります。

例えば、2021年の場合、2021年1月~9月に申し込んで掛金を支払った際は、同年11月に書類が送付されています。
また、2021年10月~12月までに申し込み当年中に掛金を払い込むと、翌年の2022年2月に書類が送付される日程でした。

細かい規定と日程は、中小機構の公式サイトに明記してあるため、ご確認ください。なお、送付先は登録住所となります。

必要書類

前納の手続きにあたって必要な書類は「一括納付申請書」です。

この書類は、公式サイトからのダウンロード、電話やファックスなどで用意ができます。
最短で入手できる方法はダウンロードです。PDFファイルをダウンロードできるため、印刷してそのまま使用可能です。

書類には氏名や住所などの基本情報と、掛金額や前納方法に関して記載します。公式サイトからダウンロードできるPDFには、最終ページに記入例も掲載されています。
記入例を参考にしながら、間違えないように記入してください。

前年も前納している場合

前納減額金といったメリットを活用するため毎年前納をしたいケースでは、どのように手続きすれば良いのでしょうか。

小規模企業共済の前納が2年目の場合、特別な手続きは必要ありません。何も手続きをしなくても、前年に支払った月と同月に引き落とされます。
中小機構から引き落とされる月の上旬にハガキが届き、引き落とし日程などについて案内されます。
口座も前年と変わらないため、残高を忘れずに確認してください。

ただし、条件を変更する際は手続きが必要です。
掛金額の増減や支払い口座変更などを行いたい場合は事前の届け出が必須であり、変更する際は申請期限の確認が重要です。
例えば、掛金の増額では、申し込みの原則翌々月から増額した金額での請求となります。スケジュールに余裕を持った対応が大切です。
なお、各種変更は書類提出で可能となります。

まとめ

小規模企業共済の前納は、前納減額金の還付や所得控除を受けられ、メリットのある制度です。
所得控除に関しては、最大24カ月分の控除が受けられるため、極端に所得が上がってしまった年の節税対策に利用することもできます。

ただし、支払方法や確定申告の方法などに注意すべき点もあるため、事前に注意点を確認しておきましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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