スタートアップテクノロジー 菊本 久寿|IT人材を増やし世界のエンジニア不足を解消する
スタートアップがスタートアップできる環境のためにエンジニアを増やしたい
人気プログラミングスクール「RUNTEQ(ランテック)」を立ち上げた菊本さん。しかしキャリアのスタートはなんとフリーターだったといいます。
大学に進学する代わりに、選んだのはギターの専門学校。そんな菊本さんがいかに起業し、人気プログラミングスクールを運営し、本を出版するまでになったのか、またエンジニア不足といわれる現状についてなど、創業手帳代表の大久保が詳しくお聞きしました。
株式会社スタートアップテクノロジー代表取締役
SIerを経てngi group(現ユナイテッド)技術部部長に就任し、アドテク関連サービスの立ち上げを行う。2012年よりフリーランスとして独立し、複数のスタートアップの開発支援を行う。その後ポケットコンシェルジュを運営する株式会社ポケットメニューの取締役CTOに就任。退任後2014年10月に新サービスの立ち上げに特化して開発を行う株式会社スタートアップテクノロジーを設立。Webエンジニア就職のためのプログラミングスクール「RUNTEQ」を運営する
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
スタートアップが好きで起業するという選択肢がごく自然にあった
大久保:本やYouTubeを拝見してお話を聞いてみたいと思いました。プログラミングには最初から注目されていたのですか?
菊本:インターネットが世の中に登場してきた20歳ごろ、デスクトップミュージック(パソコンを使用して音楽を作成編集すること)にハマっていてホームページに載せたいなーとHTMLを書いたりしていました。
その頃はやりたい仕事が見つからずフリーターをしていましたが、プログラミングに詳しい友達が周りにいたので自分も勉強していたら、システム寄りなお仕事をいただくことになり、その流れで紹介予定派遣でゴルフ屋さんのSEになったのが最初の仕事です。
大久保:インターネットは今こそ市民権を得ましたけど当時はアングラというか怪しかったですよね。
菊本:そうですね、インターネットは危ないと言われていた時代でしたね。それでも「とりあえずインターネットやろう」と思うぐらいには新しいもの好きでした。
大久保:最初の職場はどんな感じだったんですか。
菊本:中古のゴルフショップで、商品が中古なので、傷の場所や程度などがそれぞれ違って1点ものなんです。
ECサイトに掲載すると同時に店頭でも販売しているので、リアルタイムで連動させないといけない。ECサイトで商品がカートに入れられた瞬間に、該当の商品をポスレジから消すというシステムを作成しました。
上野や五反田、新宿など店舗が4〜5個あったんですが、フロッピーを持って店舗を回る日々でしたね。
大久保:プログラマーとしての基礎は、そこで築かれたんですね。
菊本:そうですね。入社したときは私がひとり目のエンジニア社員で、上司は外注で後々抜けるという環境だったんです。結果的に5年いましたが、その間に使用していたシステムはほぼ自分が作ったりメンテナンスしていました。
会計や在庫も把握しないといけないので、必然的に詳しくなりましたね。OEMを質屋に提供していたので、質屋にも詳しくなったり、幅広い技術に触れることができました。
エンジニアは会社にこもってパソコンに向かってばかりいるのではなく、現場に出たほうが面白いですし、ビジネスとシステムが融合しているところを実際に見ることが大事だと思っています。
純粋なテクノロジーの部分と、現場に行って初めてわかること、そこから応用しないといけない部分があります。
そういう意味で、実際の店舗がありそれを目で見たことで、現場のオペレーションとシステムがどのように合致するかを見て、生の声を聞くことができるいい環境でした。
大久保:現場を見ることは大事なんですね。
菊本:パソコンの前にいるだけでは、わからないことがたくさんあります。新規の店舗を出すときは、パソコンのセットアップから店舗にあるサーバーのセットアップ、LANケーブルの配線まで自分ですべてやっていました。それによっていろんなお店がどう作られていてどんなことが起こるかも勉強になりました。上海や韓国にも店舗を出すことになったので、海外でどのようにシステムを作るかも見えてきました。
大久保:1社目の後はどうされたんですか?
菊本:ゴルフの会社を辞めたあとは1年ほどSES(システムの開発や保守・運用などの業務に対してエンジニアを提供するサービス)に入り、受託開発を担当してその次に六本木ヒルズにある企業に客先常駐することとなりました。それまで5〜6年の経験はあったのに、なぜか未経験扱いで給料が低く、結果的に辞めました。
その後、ngi groupでメディア開発をしていましたが、リーマンショックで広告の単価が下がったため、自社の広告製品を作ろうとアドネットワークを作りアドテクに入っていきました。
起業する同僚が非常に多く、あの会社にいたから今の自分がいるなと思っています。
技術部長になり、自社のサービスを企画からやりたいという思いで自分の部署を持って、アプリの開発などをしていました。ユナイテッドに合併するというタイミングで自分の部署がなくなり、スタートアップがいろいろ出てきて楽しそうだなという思いもあったため、いったんフリーランスとしていろんなスタートアップを手伝う決意をしました。
レンタルCTOみたいなものですね。初期のココナラやRetty、ポケットコンシェルジュなどを週1で手伝っていました。
ただそのうちにいろんなスタートアップを手伝っているとひとつにコミットしたくなり、ポケットコンシェルジュで取締役になりました。
辞めるときに「またフリーランスやるのもなー」と起業したという感じです。「起業するぞ!」という強い決意で起業するというよりは、当時スタートアップの中にどっぷりいたので、起業するという選択肢がごく普通にあったという感じでした。
世界のエンジニア不足はまだまだ続く
大久保:起業にあたってこれだけはおさえておいたほうがいいことはなんでしょうか。
菊本:自分のスキルや、お客さんとの人脈はある程度あったほうがいいと思います。
起業するのはある意味簡単ですが、続けていくのが大変なんですよね。社長に強い「思い」がないとなかなか続きません。
僕はスタートアップがすごく好きで、面白いプロダクトを持っているスタートアップが「開発が進まなくて世の中に出せない」と悩んでいるのをずっと見てきました。金銭的に余裕がないと、エンジニア採用や人集めは厳しい現状があります。
「スタートアップがスタートアップできる環境を作っていきたい」という思いがあったので続けられたと思っています。そういう思いがなかったら、自分もやめていただろうなというのはあります。
大久保:エンジニア不足ということはずっと言われていますね。
菊本:いい会社も面白いプロダクトもたくさんあるんですが、いいエンジニアがなかなか確保できないという話はよく聞きました。
結果としてできる人の奪い合いになってしまい、一時期はクラウドソーシングでそういった人の空き時間をかき集めるという試みをしたこともあるんですが、うまくいきませんでした。そこで「エンジニアの絶対量を増やそう」とプログラミングスクールを作ったという経緯があります。
大久保:ご著書の『「エンジニア×スタートアップ」こそ、最高のキャリアである』を読んで印象的だったのが、スタートアップの面白さでした。
菊本:2011年ごろにいろんなスタートアップが出てきて、SNSやマッチングなど世の中が変わる卵のようなサービスがたくさんありました。そういったものを自分たちの手で作ることができるということにワクワクしましたね。
自分たちが作ったものが広まって使われるのがエンジニアの醍醐味なので、それが身近に感じられるスタートアップの楽しさをもっと多くの人に知って欲しいと考えています。
例えばココナラはマンションの1室で3人でスタートしたような状況でしたが、今や上場と考えると夢がありますよね。
大久保:エンジニアになると年収が上がるという声もありますが、いかがですか。
菊本:未経験からすぐに年収アップというと難しいかもしれませんが、選択肢は増えると思いますね。リモートワークがしやすい職種なので地方や海外で働くということも可能ですし、高収入を目指すのか自由に働くことを選ぶのかということが自分で決められるのは大きなメリットだと思います。
大久保:CTOは不足しているんですか?
菊本:最近特に世代交代が進んでいますね。往年のCTOの人たちが技術顧問などをしていて、若いCTOを育てようとしているので若い人がどんどんチャレンジしていってほしいと思っています。
実際40代後半にさしかかってくると、老眼や集中力がなくなるという身体的な問題が出てきます(笑)。ただ過去の知識で新しい言語のキャッチアップも早かったり、若手ほどプログラムを書く時間は確保できなくても何倍かの速度で書けるので、なんとか過去の資産を使って仕事をするのは可能ではありますが。
個人的には若いうちからエンジニアだけでなく、プラス何かをやっておいたほうがいいと思います。ビジネスのアイディアを持っていれば仕事の幅も広がります。
エンジニア以外もデジタルスキルを磨くべき
大久保:起業してから事業内容などでピボットはありましたか。
菊本:最初はクラウドソーシングや受託開発をしていて、身近な人が楽しければいいかという感じでやっていたんですが、周りもみんな飽きてきますし、こんなものでいいかと安定してしまうと人がついてこなかったり、組織崩壊も何度か経験しました。
創業9年になりますが、実際にスタートアップとして資金調達もしつつ今の事業内容に舵を切ったのは5〜6年前です。やはり会社を大きくするというような目標がないと、組織って腐っていくということを実感しました。
数年前までRUNTEQといっても誰も知りませんでしたが、書籍を出したりYouTubeを始めたことで、状況がガラッと変わり、有名スクールですよねと言っていただけるようになりました。
自分が正しいことをやっていると思っても、誰も知らなかったら意味がないことに気づき、知名度を上げるためにいろいろと工夫するようになりました。この年で金髪にしているのもその一環ですね。渋谷で「YouTube見てます」などと声をかけられるようになりました。
大久保:今後の夢はありますか。
菊本:国が推奨している「リスキリング」は、言葉は広がっていっていますが現場に落としこめていないと思います。
今後RUNTEQを通じて、エンジニアから見て本当に実務で使えるリスキリングを進めていきたいですね。
2030年に70万人のIT人材が不足するといわれています。まだまだエンジニアが足りない状態が続くので、ぜひさまざまな方にデジタルスキルを磨いてほしいです。
大久保:例えばITにあまり明るくない一般人が、テクノロジーやプログラミングの素晴らしさを知るためには何をしたらいいのでしょうか。
菊本:そうですね、まずはスタートアップのプロダクトを使ってみたり、さまざまなWEBサービスやアプリに対して「これはどう動いているの?」「何が使われているんだろう?」という疑問を持つことです。
デジタルスキルや知識をつけることで、例えばエンジニアと意思疎通がしやすくなったり、これからの世の中の動きも理解しやすくなっていくと思うので、ITリテラシーはどんな職業の方にもビジネスの上でプラスになると信じています。
菊本さんの半生を振り返りながら、自由で楽しい新しいキャリアとしてのWEBエンジニアを紹介し、提案する一冊。
『「エンジニア×スタートアップ」こそ、最高のキャリアである』(クロスメディア・パブリッシング)
大久保の感想
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(取材協力:
株式会社スタートアップテクノロジー 代表取締役 菊本 久寿)
(編集: 創業手帳編集部)
菊本さんの展開しているRUNTEQは日本のエンジニアを増やすことに貢献している。スタートアップの課題はなんといってもエンジニア不足だ。また地方や日本全体で賃金が上がらないという問題もある。
日本、特に地方自治体などはこうしたオンラインのエンジニアスクールなどの受講をもっと支援するべきだと思う。エンジニアは明らかにニーズが有る職種であり、地方でも遠隔で働きやすい。
また個人のキャリアとしても、やる価値のある仕事だ。また完全にエンジニアにならず、営業などビジネス寄りのキャリアの人でも、少しでもシステムやエンジニア的な発想を学べると世界がぐっと広がるはずだ。
菊本さんがこれからエンジニアを増やしてくれると、起業・スタートアップ全体にとって多大なプラスになるので応援したい。