損益通算とは?メリットや方法、注意点を理解して節税を目指そう
損失を抱えたら損益通算を活用できる

事業や投資をしていると、思わぬ損失が発生するケースがあります。その場合に活用できるのが損益通算です。
確定申告で損益通算を行えば、所得税の負担を抑えられますが、損益通算について理解していない人もいるでしょう。
そこで今回は、損益通算の仕組みや計算イメージ、対象となる所得の種類や活用するメリットなどをまとめて解説していきます。
手続きや申告方法についても紹介していくので、負担軽減を目指したい人は参考にしてください。
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この記事の目次
損益通算とは

まずは、損益通算について理解するためにも、概要や仕組み、計算イメージなどを解説していきます。
損益通算の概要
1年間で発生した利益と損失を合算して最終的な所得額を計算することを損益通算といいます。
例えば、事業で黒字になり、不動産所得で赤字が出た場合、黒字から赤字分を差し引くことで課税所得を抑えることが可能です。
そのため、損益通算を活用すれば、所得税や住民税の負担を抑えられる可能性があります。
節税したい人にとっては必須ともいえる知識なので、確定申告をする前にしっかりと概要や仕組みを理解しておくことが大切です。
損益通算の仕組みと計算イメージ
前述したように「損益通算」は、ある所得の赤字を別の所得の黒字と相殺できる制度であり、結果的に課税される所得(課税所得)を減らせる仕組みです。
そのため、「赤字をほかの所得と相殺して税金を減らす」と理解するとわかりやすいでしょう。
具体的な例を解説していきます。
本業となる事業所得に加えて、不動産投資を実施していた場合の例です。
例えば、下記のような利益と損失が生じたとします。
-
- 事業所得(本業):+300万円(黒字)
- 不動産所得:-100万円(赤字)
上記の場合、損益通算を行うと「300万円−100万円」となり、200万円が課税対象です。
損益通算をしなければ、以下のように課税額が決定されます。
-
- 事業所得300万円に対して課税
- 不動産所得:赤字は切り捨て
結果、税負担が高くなるので注意してください。
この相殺は同じ年の所得同士で行うのが原則です。
ただし、本年分の損失を控除しきれなかった場合は、翌年以降に損失を繰り越して、翌年以降の利益から控除できる「損失の繰越控除」という制度を活用することも可能です。
その場合は、繰り越しをする年と翌3年間は毎年確定申告を実施する必要があるので忘れないように手続きをしてください。
また、所得の種類によって、通算できるものとできないものもあります。
損益通算の対象となる所得の種類

前述したように、損益通算はできる所得とできない所得があります。しっかりと把握していることで正しい手続きが可能となるため、負担を抑えるためにも理解が必要です。
それぞれを具体的に解説していきます。
損益通算できる所得
何らかの損失が出て赤字となった場合、ほかの所得と損益通算ができる所得は4種類あります。
・不動産所得
土地や建物の貸付によって得た所得で、生活に必要とはならない資産の貸付や土地の取得にかかる借入金の利子は対象外となります。
・事業所得
農業や漁業、製造業や卸売業、小売業やサービス業など、各事業によって得た所得です。
・譲渡所得
土地や建物、株式、ゴルフ会員権といった資産を譲渡して得た所得です。
・山林所得
山林を伐採して譲渡するほか、立木のまま譲渡したことで得る所得です。
上記で紹介した所得で損失が出てしまった場合には、ほかの所得と損益通算が行えます。
そのため、不動産所得で赤字が出ても、山林所得で黒字になれば損益通算をして相殺することが可能です。
損益通算できない所得
損益通算ができない所得は以下の通りです。
・利子所得
預金や公社債の利子収入など、資産の貸付によって得た収益です。
・退職所得
退職金は退職所得控除が適用となるため損失は発生しません。
・配当所得
株式の配当金や投資信託の収益分配金などが当てはまります。
・給与所得
会社から受け取る給料や賃金、歳費や賞与といった所得です。
・一時所得
営利目的の継続的な活動によって得た収益ではなく、懸賞金や保険の満期返戻金など、臨時的・偶発的に発生した所得を指します。
・雑所得
年金や副業で得た収入など、その他の所得に分類されるものを指します。
上記の所得で損失が生まれたとしても、原則として損益通算は行えないようになっているので注意してください。
損益通算の例外に注意
前述した損益通算できる所得に該当していても、損失が発生した要因によっては損益通算の対象外となるケースもあります。
ここでは、その例外について解説していきます。
不動産所得
不動産所得でも例外となるのは以下の通りです。
-
- 別荘といった通常の生活では必要でない資産の貸付を行った際の利益
- 土地を取得するために要した負債の利子に相当するもの
通常の生活で必要とならない資産については、趣味や娯楽、保養を目的とした不動産の貸付が当てはまります。
そのため、別荘を貸し出した際に修繕が必要となり、大きな支出によって赤字が発生しても、ほかの所得との損益通算はできない仕組みです。
また、土地を取得した際の負債利子といった借入金の返済利息は、経費に含まれるので損益通算ができません。
山林所得
山林所得は、基本的に事業所得や給与所得とで損益通算が可能です。しかし、譲渡や伐採の面積で所得区分が変わるため、損益通算の方法が変化します。
例えば、50ヘクタール以上の山林を取得した後、5年以内に譲渡すれば事業所得とみなされるため損益通算を行えます。
50ヘクタール未満の山林を取得して、5年以内に譲渡するとなれば雑所得に分類され、雑所得はほかの所得とは損益通算できない所得なので注意してください。
譲渡所得
譲渡所得は以下のケースでは損益通算を行えません。
| 通常、生活に必要ではない資産 | 競輪や競艇、競走馬などに用いられる動産 生活用動産の中でも価額が1個30万円を超えるもの |
|---|---|
| 申告分離課税の株式 | 株式以外の所得との損益通算 上場株式と一般株式との間での損益通算 |
| 土地建物の譲渡 | 一定のマイホーム以外の土地建物の譲渡所得において発生した損失 土地建物の譲渡損失は土地建物の利益のみと損益通算ができる |
雑所得
雑所得は、同一年度内に発生した総合課税の対象であれば損益通算が可能です。
しかし、雑所得は必要経費が所得額を上回ることがあまりなく、損益通算のメリットもあまりないと考えられているため、ほかの所得との損益通算は認められていません。
損益通算をするメリット

損益通算をするメリットは主に以下の2つです。それぞれを具体的に解説していきます。
投資戦略を立てる材料になる
損益通算は所得を正確に把握することにつながるので、投資戦略を立てる材料になります。
例えば、不動産投資や株式投資を行っている場合、損益通算によって損失を利益と相殺することで、最終的な投資収益を把握できます。
特定分野の投資でプラスとなっていても、ほかの分野の投資で赤字が大きければ損益通算すれば収支はマイナスです。
そのため、赤字の大きな分野の縮小や撤退を検討できるだけではなく、利益を出している分野に多くの資金を投じる判断ができます。
投資をしている場合には、ぜひ参考にしてみてください。
節税できる
損益通算は節税できる点が大きな魅力です。損失をうまく相殺できれば手元に残る金額を増やすことにつながります。
また、損失が大きくて1年で控除しきれない場合は、最大3年間に渡って繰り越しすることが可能です。
そのため、翌年以降に出た利益と相殺すれば、節税効果を持続させられるメリットもあります。
また、所得税は収入ではなく所得に対して課税されるので、損益通算によって課税対象の所得を減らせれば所得税の還付を受けられる可能性もあります。
損益通算の手続きや申告方法

適切に損益通算を行うためにも、どのような手続きが必要になるのか把握することが大切です。
具体的な事例に分けて方法を解説すると共に、確定申告についても紹介していきます。
事業所得で赤字が出た場合
事業所得で損失が発生した場合には、不動産所得や給与所得といった別の所得と損益通算ができます。
特に、起業直後は事業が赤字になりやすいため、損益通算について理解しておくと負担を抑えられます。
ただし、株式の譲渡による所得や先物取引にかかる雑所得といった所得とは損益通算はできないので注意してください。
株式投資・FX・仮想通貨などの場合
株式投資で出た損失は、同年のほかの株式投資による譲渡益と損益通算が可能です。
損失が利益を上回った場合には、最大で3年間に渡って繰り越し控除が適用となるため、2025年に100万円の損失が出た場合には2026年以降の利益から控除することで税負担を軽減できます。
FXに関しては、損失が出た場合でも事業所得や給与所得との損益通算が認められていません。
しかし、ほかの口座のFXや先物取引で発生した損益との通算は可能です。繰り越し控除も対象となっています。
仮想通貨に関しては雑所得に分類されるため、同じ雑所得であれば損益の通算が可能です。
例えば、仮想通貨で損失が出ても原稿料やアフィリエイトなどの雑所得であれば、損益通算が行えます。
また、異なる仮想通貨の取引きによる損益を通算することもできます。
イーサリアムで損失が出た場合でも、ビットコインで利益が出ていれば、雑所得を抑えられる仕組みです。
ただし、特別控除がなく赤字の繰り越しもできない点に注意してください。
不動産経営や不動産売却の場合
申告分離課税の対象となる土地や建物といった不動産の売却によって損失が出た場合、ほかの土地や建物にかかる譲渡所得の金額からの控除が可能です。
しかし、控除しきれない分に関しては原則としてほかの所得区分とは損益通算はできません。
ただし、長期譲渡所得にあたる場合で、自宅として使っていた不動産の売却で生じた損失は、一定の要件を満たすことで事業所得といったほかの所得との損益通算が行えるようになっています。
損益通算をしても控除しきれない損失があれば、譲渡した年の翌年以降に繰り越すことができ、最大で3年に渡って控除を行えます。
アパートやマンションといった不動産経営で家賃収入を得る中、赤字が出た場合には事業所得や給与所得といったほかの所得との損益通算が可能です。
ただし、先物取引や株式の譲渡所得といった雑所得とは通算することはできません。
不動産所得が総合課税となるのに対し、譲渡所得や雑所得は申告分離課税が適用となるためです。
不動産経営の必要経費に算入した土地を取得する際にかかった負債の利子や別荘の貸付によって生じた損失など、一部の損失については通算の対象外となる点にも注意してください。
損益通算を受けるには確定申告の実施が必要
損益通算を受けるためには確定申告をする必要があります。
複雑な計算を要するケースもあるため、時間に余裕を持って準備や作成を進めることが大切です。
手順は以下の通りです。
1.書類の準備
2.所得金額の計算
3.損益通算
4.税金の計算
5.確定申告書の提出
損益通算を実施するためにも書類の準備は欠かせません。確定申告書は国税庁のホームページから入手できます。
また、株式投資や仮想通貨の損益通算をする場合には、各証券会社のホームページやプラットフォームで入手できるのでチェックしてみてください。
年間取引報告書に関しては、証券会社によって対応が異なりますが、電子交付が一般的です。
所得金額の計算も必要です。損益通算書で算出した総所得から経費や控除額を引いた額が所得金額となります。
また、課税所得を計算した後に損益通算を行います。証券会社から配当金額や売買取引履歴が記された書類を受け取った後、自分で売買取引の計算が必要です。
約定価格や手数料を加味する点に注意してください。
その後、最終的な所得額を算出して所得税額を確定します。所得額別の税率に関しては国税庁のホームページをチェックしてください。
損益通算と税金の計算が複雑であれば、税理士サービスの活用を検討するのもおすすめです。
確定申告書の提出は税務署の窓口に直接持ち込むほか、郵送や電子申請を利用する方法があります。
自分がやりやすい方法で提出してください。
まとめ・損益通算を正しく理解すれば税負担の軽減につながる
1年間で生じた利益とほかの所得の損失を差し引ける制度が損益通算です。
不動産所得や事業所得などが対象となり、正しく活用すれば税負担の軽減が可能です。
ただし、土地や建物の譲渡損や先物取引に関する雑所得など、対象外となるものもあります。
対象となるもの・ならないもの・例外についてをしっかりと把握し、確定申告を行ってください。
(編集:創業手帳編集部)







