商工中金の中小企業融資は難易度高め?融資審査の特徴や融資獲得の秘訣を徹底解説!
独自性の強い商工中金による融資について
商工中金は中小企業融資に特化した政府系金融機関です。
商工中金の融資には国や自治体の施策に伴う制度融資などもあるため、他の金融機関と比べて独自性が強いです。
実際、融資を申し込んだものの、審査が厳しいと感じる経営者も多いでしょう。難易度が高く感じる理由は、商工中金特有の審査内容にあります。
この記事では、商工中金で勤務経験のある筆者が、融資の基本内容や融資審査、融資に向けての秘訣を分かりやすく解説します。
商工中金での融資を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
商工中金の概要
商工中金は、メガバンクや地方銀行とは異なる政府系金融機関です。全国に営業網を持ち、中小企業ための金融機関として資金調達や事業成長を支援しています。
最大の特徴は、融資取引の対象が商工中金の株式を保有する組合のメンバーに限定されたメンバーシップ制度にあることです。
ここでは、具体的な融資対象者や組合加入の手続きについて詳しく見ていきましょう。
融資対象者
商工中金は融資を受ける前提条件として対象者を限定しています。
商工中金の融資は商工組合中央金庫法第21条により、株主である中小企業団体またはその構成員でなければ受けられません。
中小企業団体とは以下の団体を指します。
- 中小企業等協同組合/事業協同組合・事業協同小組合・
火災共済協同組合・信用協同組合・協同組合連合会・企業組合 - 協業組合
- 商工組合・同連合会
- 商店街振興組合・同連合会
- 生活衛生同業組合・同連合会・生活衛生同業小組合
- 酒造組合・同連合会・同中央会/li>
- 酒販組合・同連合会・同中央会
- 内航海運組合・同連合会
- 輸出組合・輸入組合
- 市街地再開発組合
融資の相談時点では上記に記載した中小企業団体に所属していなくても構いません。
しかし、融資取引開始時点では中小企業団体に所属する構成員となる必要があります。
※出典:e-Gov法令検索 商工組合中央金庫法
※参考:商工中金 融資の対象となる方
融資取引開始までに組合加入の証明書類を提出
商工中金からの融資を受ける際には、組合加入を証明する書類として「組合員確認書」を提出する必要があります。
所属組合からの署名捺印が必要になるため、早めの準備が必要です。提出までの流れは以下のとおりです。
- 商工中金より組合に加入しているか問い合わせがある
- 事業のつながりで加入している場合があるため、決算書の出資金勘定などを確認
- 商工中金に組合の加入状況を回答
- 商工中金が株主の組合であるかどうか確認する(組合に問い合わせすることも可)
- 商工中金へ融資取引契約時までに組合員確認書を提出する
a.株主の組合に加入していた場合
ⅰ.組合員確認書を加入している組合に提出して署名捺印を依頼する
b.株主の組合に加入していない場合
ⅰ.商工中金へ加入できる組合を問い合わせる
ⅱ.株主の組合へ加入手続きするとともに組合員確認の署名捺印を依頼する
組合員確認書は商工中金から白紙様式を受け取る必要があります。また、融資取引後に組合から脱退した場合は、再度加入するまで追加融資などの融資取引が行えないため注意しましょう。
商工中金による中小企業向け融資形態・特徴
商工中金は中小企業を対象とした政府系金融機関として、中小企業に必要な事業資金を幅広く融資しています。
他の金融機関と異なり、さまざまな制度融資へ対応できることが特徴です。
ここでは、商工中金の主な融資形態と特徴をわかりやすく解説します。
構成員貸・組合貸
商工中金の融資には「構成員貸」と「組合貸」という2つの基本形態があります。
構成員貸は、株主団体である組合に所属する企業に直接行う融資です。
一方の組合貸は、商工中金の株主団体である組合へ融資する仕組みとなっています。
一般的な融資
商工中金の一般的な融資は他の金融機関と同じく、返済期間によって長期資金と短期資金に分けられます。
具体的な内容は、下表のとおりです。
融資区分 | 返済期間 | 種類 | 借入方法 |
---|---|---|---|
長期資金 | 1年超 | 運転資金、設備資金 | 証書貸付 |
短期資金 | 1年以内 | 運転資金 | 当座貸越 手形貸付 手形割引 |
企業の資金ニーズに対して幅広い方法で借り入れできます。
国や地方公共団体施策による制度融資
商工中金には国や地方自治体の施策に基づいた融資制度があります。
一般的な融資よりも金利や返済条件などが異なる融資です。
突発的な災害や大手企業の倒産から影響を受けた中小企業を対象とした融資制度の特別相談窓口を19種類(2025年2月28日現在)開設しています。
状況に応じた支援制度を活用できるのが商工中金の大きな特徴です。
なお、社会全体に影響を及ぼす危機的事態には、政府からの要請により危機対応相談窓口も設置します。
過去にはリーマンショックや東日本大震災、新型コロナウイルス流行などの際に対応しました。
※参考:商工中金 国・地方公共団体の施策に基づく対応
業界団体による制度融資
特定の業界団体が実施する制度融資の取扱いも商工中金の特徴です。対象となる主な業種と制度融資名は、以下のとおりです。
対象業種 | 制度融資名 |
---|---|
トラック運送業 | トラック近代化基金融資 |
通運事業 | 通運事業近代化基金融資 |
バス事業 | バス事業に係る融資斡旋及び利子補給事業 |
自動車整備業 | 自動車整備業エコ・ローン |
造船関係事業 | 造船関係事業資金 |
これらの制度融資を利用するには、該当する業界団体への所属や適用条件を満たす必要があります。
また、低い金利設定や利子補給など融資条件が一般融資より優遇されている点が魅力です。
必ずしも経営者を保証人としない
商工中金は全国銀行協会と日本商工会議所が策定した「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、必ずしも経営者個人の保証を求めません。
経営者保証なしでの融資を受けることができる可能性がある条件は、以下のとおりです。
- 法人と経営者の資産が明確に分離されている
- 企業の財務基盤が安定している
- 適時適切な情報開示がなされている
また、商工中金では保証が必要な場合でも、保証範囲を限定するなど経営者の負担を軽減した提案をしています。
※参考:商工中金 中小企業向け融資
商工中金による融資審査は厳しい?融資獲得の秘訣について
「商工中金の融資審査は厳しい」とよく言われますが、評価基準が他の金融機関と異なります。商工中金では従来の融資審査だけでなく、「事業性評価」という面からも審査しているためでしょう。
ここでは、商工中金が取り組んでいる事業性評価の特徴と効果について詳しく見ていきます。
事業性評価を加味した審査
商工中金は、融資審査において事業性評価をいち早く取り入れた金融機関です。
一般的な融資審査と大きく異なる点は、財務諸表や担保だけでない審査判断にあります。
事業性評価の主な特徴は、以下のとおりです。
- 企業の技術力やサービスの独自性を重視
- 経営者の姿勢や将来のビジョンを評価
- 会社の経営体制や人材の質も審査対象
- 市場における競争力や成長可能性を分析
事業性評価では、上記のように数字に表れない企業の「強み」に注目します。
従来の評価では、創業間もない企業や赤字でも成長性のある企業は、財務状況を理由に評価されにくい傾向にありました。
しかし事業性評価では、事業の将来性や企業の技術力が高く評価され、融資獲得の可能性が広がります。
強みを活かした企業の今後を説明できれば、財務状況だけで諦めることなく資金を調達できるでしょう。
事業性評価の効果
商工中金は事業性評価を審査に取り組むことで、融資だけではなく事業そのものに深く関わる伴走型支援を行います。
経営者にとって商工中金が事業性評価した自社に多角的な支援を提供してくれることは心強い味方です。
具体的な支援内容は以下のとおりです。
- スタートアップ期の資金調達サポート
- 経営改善に向けたアドバイス提供
- 事業再生が必要な場合の包括的支援
- 業界特有の課題に対する解決策の提案
商工中金は融資後も継続的な関係を築き、取引先の経営課題解決をともに目指しながらサポートしてくれます。長期的な事業成功に向けたパートナーシップを築くことができます。
商工中金から融資獲得する秘訣について
商工中金から融資を受けるには、審査に向けた準備が肝心です。審査では事業の将来性と持続可能性が重視され、融資担当者が納得する資料資料の提出が求められます。
ここでは、審査を通過するための実践的なポイントを解説します。
事業計画書の必須性
商工中金の融資審査では、事業性評価が必須であるため、具体的な事業計画書の提出が重要です。
事業計画書に含めるべきポイントは、以下のとおりです。
- 経営理念
- 市場分析
- 自社の強みや優位性
- 財務計画
- リスク分析
- 行動計画
- 事業目的
- 経営者のプロフィール
これらの要素を盛り込んだ事業計画書は、具体的であればあるほど説得力が増し、融資担当者の理解を得やすくなります。
事業計画書を通じて「このビジネスモデルなら自信をもって融資できる」と事業の持続可能性を判断できれば、審査通過の可能性が高まるでしょう。
自社をSWOT分析
商工中金の融資審査では、事業の現状や将来性をしっかり説明することが求められるため、効果的な準備として「SWOT分析」が役立ちます。
SWOT分析とは事業の強み(Strengths)や弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を整理・分析する手法です。
自社の現状を客観的に把握でき、今後の戦略を立てやすくなります。それぞれの要素ごとの内容を整理します。
要素 | 内容 |
---|---|
強み | 他社と差別化できる自社の特徴 |
弱み | 改善すべき課題と対策案 |
機会 | 市場の成長性や新たなニーズ |
脅威 | 競合状況や外部環境のリスク |
SWOT分析を行うことで自社の現状を深く理解できるようになります。
自社の弱みも含めた分析を反映した事業計画書の提出は、経営者としての信頼獲得にもつながるでしょう。
経営者の主体性
商工中金の審査では、経営者自身の主体性が重要な評価ポイントとなります。計画書作成を丸投げせず、自ら関わることが必須です。
実際に最終的な審査判断のポイントとして、経営者が事業にどれだけ関与できているか確認する場面を見聞きしてきました。
経営者が事業計画書の説明をできるかどうかで融資担当者の印象は大きく変わります。経営者から事業への熱意や責任感が伝わる説明は、融資担当者との信頼構築にもつながります。
審査は書面上だけでなく面談でも行われ、計画書の内容を自分の言葉で説明できることが重要です。
計画書と経営者の発言に一貫性があれば、信頼できる経営者として高く評価されます。
商工中金の中小企業・スタートアップ向け課題別事業支援とは
中小企業やスタートアップが直面する課題は資金調達だけではありません。
商工中金は中小企業に対する高い専門性を有する金融機関として、取引先に対して融資だけでなく、事業成長を伴走型で支援しています。
ここでは、多くの企業に関わる重要な3つのソリューションについて見ていきましょう。
スタートアップ支援
商工中金はスタートアップ企業の課題となる資金調達と事業計画をサポートし、企業の成長を積極的にバックアップしています。
具体的な取り組みとして、2024年4月には「スタートアップ営業部」を新設しました。
融資と事業支援の両面からサポートする体制がさらに充実しています。
また、先端分野への挑戦や地域中核企業の新事業進出へ積極的に支援している点も特徴です。
実際のサポート事例として、創業2期目のスタートアップ企業が億単位の資金調達を実現しました。
このように、商工中金には創業間もない段階でも相談しやすい環境が整っています。
ビジネスマッチング
商工中金は、全国の取引先7万社以上とつながる顧客ネットワークを活かし、マッチング支援を行っている点が特徴です。
販売先や仕入れ先の紹介にとどまらず、技術提携や生産協力、さらには物流拠点の相互利用といった企業間連携まで可能にします。
ビジネスマッチングは、自社だけでは難しい事業展開も期待できるため、創業間もない企業にとって大きなメリットです。
財務改善
商工中金は安定した経営を実現する財務改善支援を提供します。単なる融資だけでなく、事業性評価に基づいた審査によって、経営課題の発見と解決策までアドバイスが可能です。
資金繰り改善のための金融取引見直しや、財務状況に関する専門的な意見や提案を受けられるのが特徴です。
企業は専門性の高い支援を受けることで財務面の心配を減らし、本業に集中できるでしょう。
特にスタート期の財務基盤は将来の成長に直結するため、早い段階での改善が重要なポイントになります。
※参考:商工中金 法人・個人事業主のお客様
まとめ・商工中金の融資を受けるには事業性評価に備えた事業計画書の準備をしよう
商工中金は独自性ある融資が特徴的な政府系金融機関です。また、融資だけでなく、スタートアップ支援やビジネスマッチングなど多角的なサポートも提供しています。
事業性評価を取り入れた審査を積極的に行っているため、他の金融機関と異なり審査が厳しいとの声も聞きます。
ただし、事業性評価は決算書や担保、保証といった財務分析だけでなく、事業内容も加味した審査です。
財務面の審査だけでは融資が難しい企業でも、事業の将来性が評価されれば融資のチャンスは広がる可能性があります。
商工中金では事業の持続可能なビジネスモデルを評価してくれるため、融資担当者が納得する実現可能性の高い事業計画を作成しましょう。
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(編集:創業手帳編集部)
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