7代続いた箪笥(タンス)店はどう事業承継したか?海外売上急増で伝統工芸品復活を目指す門間箪笥店の門間 一泰さん

事業承継手帳
※このインタビュー内容は2020年11月に行われた取材時点のものです。

事業承継に立ちはだかる壁と乗り越えるための秘訣とは?元リクルートの経験を活かした事業展開

事業承継インタビュー
事業承継時「このままでは潰れるかもしれないと思った」と語る仙台箪笥(タンス)作りの7代目を承継した門間箪笥店の門間 一泰さん。

伝統的な箪笥が有名な仙台で、リクルートを辞めて家業を継いだ門間さんに、その大変さと事業展開の経緯を聞きました。

日本の古民具・伝統工芸品の海外での需要も増えてきている昨今、門間箪笥店は、海外向けの売上を大きく伸ばしています。

単に事業承継するだけでなく、新しい市場を開拓して、伝統工芸品の復活に挑戦している門間さんにお話を聞きました。

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門間 一泰氏

門間 一泰(もんま かずひろ)株式会社門間箪笥店 代表取締役
宮城県仙台市生まれ。2001年 早稲田大学商学部卒後、株式会社リクルート入社。人材領域営業部門に配属され、新規開拓の日々を送る。新規事業開発室に異動後、営業所の立ち上げや部下のマネジメントを行う。部署異動後、販売促進のコンサルティングを担当し、営業成績優秀者及び企画優秀者表彰を多数獲得。2011年 株式会社門間箪笥店入社。2018年 代表取締役に就任

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事業承継の難しさと乗り越えるために必要なこと

事業承継という歴史を引き継ぐことの難しさ

ー7代・150年続いている仙台で唯一の箪笥店だそうですね。事業承継は大変だったのではないでしょうか?どういう点が大変でしたか?


門間:承継でネックになるのが金融機関の借り入れです。特に中小企業では社長個人で借り入れの連帯保証人なっているケースが多いので、借金も引き継ぐということになるため、勇気がいります。

自分の場合も、7代目ですが、5代目の次の6代目が母親で、その時点で借り入れがありました。承継するかについて考える際に、金融機関の借り入れの保証人の問題や、税金などがありました。

ここの部分でつまづくと大変です。ただ、数年かけて母から事業承継をしたのが良かったです。時間をかけて準備するとこができたので、金融機関や関係先と特に揉めることもなく承継できました。

あとは、社内の人が受け入れてくれるか、というのも重要です。社内も自然に受け入れてくれたため、スムーズに進んだということがあります。

事業承継のプロセスと最初に取り組んだこと

ー事業承継はどういう流れで進みましたか?

門間:承継の話が持ち上がった時点ではサラリーマンでした。箪笥とは全く関係ない、リクルートに勤めていました。ただ、この他の会社の経験が今から思うと、承継後に新しい展開をしていく上で役に立ちました。

当時は箪笥店の経営も、今のような海外の売上もありませんでしたから、このまま潰れてしまう可能性もありました。潰すには忍びないですし、影響も大きい。

当時の自分の心境としては、「潰れる前に継げて良かった…」と思いました(笑)。家族の間の話し合いの中で、承継することになり、承継を見据えて、前職のリクルートを辞めて門間箪笥店に入社しました。入社後に肩書は専務となりました。

専務のポジションだと会社の色々な動きや実務が見えます。会社の業務フローや製造プロセス、取引先等を把握していきました。必要に応じて実権を移していき、5年かけて全ての実権を移管しました。

やはり時間をかけること、実務を掌握することが大事です。

事業承継に立ちはだかる連帯保証人と相続税の壁

伝統を引き継ぐ

ー事業承継の国の制度や、金融機関での課題もあると思いますが、こういう点は活用できる、こういう点は直すべきだ、という部分はありますか?

門間:承継に関わって痛感したのは主に2つです。
・金融機関の借り入れの保証人の問題
・税金(相続税)

やはり、借金があるのに引き継ぐという判断は難しいです。自分は継ぎましたが、承継をされる方のケースによっては諦めざるえないケースもあるでしょう。

会社関係で個人所有になっている土地や株等の相続税は無くすべきだと思っています。承継をするだけでも大変な上に、相続税で大きな金額を収めないといけないのは非常に苦しい。承継を社会的には促進するのであれば、相続税はどうにかして欲しいですね。

税理士・会計士の力を借りて事業承継の壁を乗り越える

ー承継する時はいろいろな人やツールの力も借りると思います。承継の時に役立ったサービスや専門家はありますか?

門間:やはり、税理士・会計士だと思います。特に、節税対策に長けた税理士又は会計士は必要です。資産の価値算定や、計画づくり、財務上のアドバイスなど顧問になる税理士・会計士の能力次第で、税金上の負担が大きく変わります。

例えば、優れた専門家は、制度をうまく使うなどの色々なノウハウを持っています。税理士、会計士と言っても色々な人がいて得意分野も違います。

承継は普通の税務と違う面もあるので、承継に詳しい税理士、会計士が良いでしょう。経営者とはまた違った財務視点で見てくれて、信頼の置ける人を上手く探してほしいと思います。

事業承継後の海外展開と古き良きものの再生

新旧融合で新たな事業展開を

ー海外での販売が増えているとか。日本の伝統工芸品が広がって市場が広がるのはいいですね。従業員にとっても夢が持てます。承継の良い面ですね。どうやって増やしていったのですか?

門間:前職(リクルート)時代に培った人脈や営業スキル等を活かしました。今では半分以上が海外からの売上になっています。

例えば、伝統工芸品などでも営業活動というのは必要です。特に海外のような販路開拓では、既存のチャネルと違って、自分で開拓していかないといけません。そういう時に、外部の営業やマーケティング、組織などに優れた会社での修行、経験は役立つと思います。

ー海外に日本の伝統企業が進出する時の手順やコツがあれば教えて下さい。

門間:海外と言っても色々で、ニーズや感覚も違います。だから、まずはその国に行くことです。

コロナで難しくなっている面もありますが、いちばん大事なのは消費者に受け入れる素地があるかを肌感覚的に掴むことです。受け入れられそうだと分かったら人脈をなどを使って、徐々に広げていきます。

ー直しなどのリニューアルもされているそうですが、古いものを直して使えるようにするのは良いことですね。

門間:はい。新しい箪笥を作るだけではなく、古い箪笥を再生することもしています。環境のこともありますが、古いということの良さもあります。

印象に残っているのは、東日本大震災の津波で流されてしまった箪笥を直したことです。そういう色々な背景が箪笥の再生にはあります。

事業承継の当事者が気を付けておくべきこと

ー事業承継や第2創業で、継承する先代、継承される新社長は承継をする際にどういうことを気をつける、心がけると成功すると思いますか?

門間:自分が変えてやると無駄に意気込み過ぎないことが重要です。自分も5年かけて徐々に掌握しました。まず、状況を見て、現実に合わせていくことです。

今では海外進出など、新しいことも手掛けていますが、事業承継がしっかりしてこそなので焦らないようにしましょう。

事業継承できるかどうか見極めつつも気負わない!

ー創業手帳・承継手帳の読者に向けてメッセージを宜しくお願いいたします!

門間:事業承継はこれから日本全体で増えていきますが、まずは本当に事業承継すべきかどうかの見極めをすべきだと思います。そして承継するとなったら、気負いすぎないこと。

そして、固定費を増やさないことも大事です。身軽な状態にしてフットワークを良くすることです。

トライアンドエラーを繰り返して一歩づつ承継を実現しましょう。

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(取材協力: 株式会社門間箪笥店/代表取締役 門間 一泰
(編集: 創業手帳編集部)



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