ライトマップ 鈴鹿 竜吾|採用難の時代を乗り切るために。元DeNA採用責任者が語る人材採用のコツ

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年09月に行われた取材時点のものです。

目からウロコの採用術

(2018/09/07更新)

起業直前~起業後において、ぶつかる課題の一つが「人材採用」。今の時代は大手企業でさえ人材を取るのが難しいのに、知名度や規模で劣るスタートアップが採用を成功させるにはどうすればいいのでしょうか?

そこで今回は、起業家のための採用の考え方を、元DeNAの採用責任者で現在も多くの人材支援を手掛ける「ベンチャー人材採用のプロ」、株式会社ライトマップ 代表取締役の鈴鹿 竜吾氏にお話を伺いました。

鈴鹿 竜吾氏
株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社後、新規開拓営業にて最速で営業目標を達成し、1年目にチームマネージャーに就任。営業戦略立案、大手クライアントとのアライアンス、BPR、マネジメントを歴任し、新卒採用グループへ異動。
採用に於いてプロジェクトマネージャーとして、採用戦略立案から採用要件定義まで一貫して従事。
2014年に退職し、株式会社ライトマップ設立。代表取締役に就任

採用の前に「魅力ある会社作り」を

ーまずお伺いしたいのですが、起業直前~起業後によくある人材、組織の問題には、どのようなものがありますか?

鈴鹿:起業直前~起業後だと、資金なし・人脈なし・事業もなし(まだ立ち上がってない)という状態であることが多いと思います。その際は、「何を」「誰とやるか」を決めてから動くことをオススメします。

起業初期のような競合優位性があまり高くない局面において、最終的な判断基準は「人」です。

  • この人とやったらなんか面白そうだな
  • この人とやったらなんか上手くいきそうだな
  • この人とやったらなんか意義ありそうだな

このように思ってもらえるかどうかが重要ですね。
これが無いと、どんな素晴らしいアイデアもサービスもうまくいきません。

つまり、採用においての最初の問題は「その人自体に魅力があるかどうかを判断すること」だと思います。

ーでは、起業家はどうやったら魅力のある人を採用できるのでしょうか?

鈴鹿:起業当初は「人」でしか勝負できないので、あまり戦い方に個性が出ないと思います。なので、採用においては、「どうやったら正しく評価できるか?」「入社後の活躍を判断できるようになるか?」といった点に注目しがちです。

ですが、その前に必要なことがあります。それは「どうやったらこの人がうちの会社に入りたいと思ってもらえるか」を、細かく考え抜くことです。会社HPの構造や、選考でのアトラクト(惹きつけ)、内定を出した後のフォローなど、考えられるところ全てです。

採用の仕事において、どこまで相手の目線で会社をとらえられるかが重要になります。「神は細部に宿る」ということですね。

説明会の進め方やレスの速さなどに異常に気を配っている企業の採用力は総じて高いと言えると思います。

「いいやつ」を採用する方法

ー採用において「良い人」・「悪い人」の判断基準はありますか?

鈴鹿:「良い人」・「悪い人」はもちろん企業の要件や事業領域によって違いますが、企業にマッチしていない人は多分にいると思います。採用手法に正解がないのでこれが間違いない!という方法自体は無いのですが、一つ判断基準があるとするなら「いいやつ」かどうかだと思います。

「仕事はできるけど嫌な人」、「取引先から嫌われる人」、「後輩から全然慕われないけど上にはいい顔する人」などなど。

リクルートやサイバーエージェントなど、今を代表する企業では、マネージャーの登用には「いい奴かどうか」が大きな昇進のポイントになっています。
仕事はできるけど人がついてこないような組織は、すぐに壊れてしまう可能性が高いです。

対して、上層部が信頼できるマネージャーだと、新卒も若手も安心して仕事に取り組むことができます。最終的には離職率も入社後のミスマッチも減る傾向にあるので、「いいやつ」かどうかは重要ですね。

ーでは、「いいやつ」かどうかを見分けるコツはあるのでしょうか?

鈴鹿「いいやつ」かどうかを見極めるのはとても難しいことですが、人のコアな部分を深くえぐるような質問ができるとどんな性格なのかがわかります。

人は追い込まれたときに自分の本来の姿が露呈するので、追い込まれた状況を作って相手の言動を観察すると深く見ることが出来ます。

例えば「あなたの部下の成果が全く上がらず来週クビと宣告しなければなりません。ただその部下は再来週に結婚式が控えています。あなたならどうしますか?」というような質問をして相手の反応を見て「いいやつ」かどうかを見極めたりすることもあります。

答えに正解はないのですが、どんな選択肢をとったとしても「血の通った意思決定をする人」かどうかを判断することができます。これは採用に大きく役立つのではないでしょうか。コトに向かいながら血が通った意思決定かどうかが肝です。情に流される意思決定は事業を崩壊させます。

類は友を呼ぶ「リファラル採用」

ーでは、人材を集めるにはどうしたら良いですか?

鈴鹿特に新卒の集客に一番力を発揮するのが「リファラル(紹介・推薦)」ですね。今や取り組んでいない企業は無い、といっても過言ではないかもしれません。

もちろん、費用をかければメディア露出も可能ですし、集客することもできると思います。費用を抑えてどれくらい集められるかが一番戦い方として頭を悩ませるところです。

私たちがコンサルで入らせて頂く企業様には、「リファラル採用に本気で取り組むこと」をお願いしています。
多くの企業は「既に取り組んでいるんだけどね」といって片付けてしまいますが、本当にやり切っているのかどうか疑問に思うのが実情です。

例えば、新卒採用に関して「内定者のAさんとBさんに周りで優秀な学生がいたら紹介してね!」と伝えている企業様が多いと思うのですが、実際こんなコミュニケーションでは良い人材が集まるはずがありません。やるのであれば、徹底的に競わせて集客をしてもらうことが大切です。

もちろん、本人たちにとっては自分の会社の仲間集めになりますし、企業の繁栄にも新卒採用は今間違いなく必要です。必要以上にあおる必要はないですが、内定者1人に10人の友人を紹介してもらうだけで、10名の内定者がいると100名の母集団が形成できることになります。

そして、「自社の内定者の周りには内定が出やすい学生が多く存在している」という傾向があります。通常の合同説明会で人を集めるより10倍以上の内定率だったこともあります。「類は友を呼ぶ」ということですね。

ちなみに、学生には「一番集めてくれたら高級焼肉に連れて行ってあげるね」と伝えて手伝ってもらってください。私が色々試した結果ですが、現金やお寿司よりも、学生は「高級焼肉(叙々苑)」がなぜか一番刺さりやすいのでオススメです(笑)。

人は仕事で育つ

ー人材育成に関して、コツはあるのでしょうか?

鈴鹿:私自身は前職のDeNAで、「人は仕事で育つ」と教えられました。
人材育成で大切なのは、その人が110%くらいの力を発揮すれば達成できる仕事を設定されていることです。

仕事の難易度が低すぎると、ただのルーティンワークになってしまい「つまらない・暇・意義がない」といった能力が発揮しきれないことに対して一番ネガティブな印象を持ってしまいます。逆に、難しすぎる目標を設定しても始めから諦めてしまうので、同じ事象が起きてしまいがちです。

すぐには難しいかもしれませんが、仕事で育つためにはその人の実力を理解した上司が適切な目標設定をし続けることに尽きると思います。それを見極めるためにも、普段から従業員の様子に気を配っておく必要があります。

ーせっかく採用した人材も、時によっては残念ながら退職してしまうケースがあると思います。それを防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか?

鈴鹿:会社から人が辞めるということ自体をネガティブにとらえる場合は「辞めないようにするにはどうするべきか」という議論が行われていると思います。

もちろん、イイ人材が会社で長く働き続けてくれるのであればこれ以上の事はありません。ですが、辞めないことに注目するより、「どうしたら社員が幸せに働けるか?」を常に考えられる組織を作ることが、人が長く居続けたい会社になるきっかけだと思います。

採用を効率化するためには?

ースタートアップでは採用そのものにかかる人的負担が多いと思います。どのようにすれば、効率化できるのでしょうか?

鈴鹿:採用については、すでにかなり高いレベルで効率化されている点が多く、ここから大きな変革を起こすのが難しいと思っています。

そのような状況でもできる効率化というのであれば、「一番優秀な人材に人事を任せること」です。できれば、優秀な人材と複数人配属できると質の高い採用ができます。

スタートアップにおいて、事業部から人を抜くこと自体は死活問題になると考える方がいるかもしれません。ですが、その死活問題はその後事業が拡大したとしてもずっと付きまといます。よく経営者で自社の経営規模や人材の幅の問題を出される方がいますが、はっきり言ってそれは「意思決定の先延ばし」だと思います。100人規模でも、1,000人規模でも、10,000人規模でも主たる事業を支えるエースを抜かなければそれ以上の加速は思い描くスピードを担保できないことが多いです。
どこの企業もぶつかる「採用への優秀な人材の登用」こそが採用の効率化・採用力の強化の最短ルートであることは間違いありません。

つまり、初期のタイミングから「人事は最高の人材に任せる」と決めて進める、ということです。

採用できる人材のレベルは、配属されている人事担当者と同等のものになります。この点を意識すれば、最終的に良い人材を効率的に採用できるようになると思います。

実際にあった相談事例とその解決法


鈴鹿:とある企業様で「内定を出してから承諾するまでの割合が40%程度しかない」というご相談を頂きました。

企業の採用戦略は概ね入口と出口どちらかに偏ります。最初は「どれくらい母集団を集められるか」がポイントになるので、エージェントの選定から媒体選定、紹介フィーなどの交渉に時間をかけて戦術を練ります。

母集団が集まれば選考が始まり、内定を出して承諾してもらうかどうかの勝負になります。この時点で多くの企業が「承諾してくれるかどうかは学生次第」だと思っているのですが、実はそうではありません。そして選考の中では見極めをどれくらい精緻に出来るかに関わってきます。

ある企業のアンケートで学生が惹きつけられたファンクションはどこか調査したことがありますが、80%以上の学生が「選考面接官の印象」で決まると回答していたことがありました。
どんなに多くの優秀な学生を集めても、評価だけで惹きつけが弱いと穴の開いたプールに水をためるようなものです。これに気付かないと、大きな母集団を形成する方針にどんどん偏っていき、人事が疲弊して退職してしまいます。

承諾率(内々定→承諾)を65%程度まで上げることに時間を割くという事は、すなわち選考の中でどれくらい会社の魅力を伝えられるかに大きく影響しているという事です。そこまで拘ると承諾率も向上し母集団形成を以前の7割まで落としても採用人数は変わりません。

では、「どのように承諾率を向上するのか」と言いますと、以下の3点を意識したいところです。

1.学生が人事と会ってない時間の脳内を占拠する

承諾率を上げるためには、学生さんに会ってない時間にどれくらい会社のことを考えてもらえるかが肝になります。それをマインドシェアの占拠と我々はいっていますが、自発的に自社の事を考えてもらうためにはどうするべきか考え抜く。これが意外と難しいです。

2.感情を大きく揺さぶる時間を多く作る

感動やドキドキ感は、感情の揺れうごきによって生まれます。自分の就職先を決める、という大胆な意思決定はまさに「不可逆的意思決定」になるので、この意思決定をする瞬間に隣にいれるかがポイントです。地味ですが内定候補者のスケジュール把握と感情の洞察が肝になります。

3.個別に承諾戦略を細かく設計する

学生それぞれに合った承諾戦略を考えることで、承諾率を上げることもできます。学生に喜んでもらえるシチュエーションでどの言葉をどうチョイスして伝えるか。学生はその瞬間の事を一生忘れません。多分皆さんも自分が内定をもらった瞬間忘れてないと思いますが、出す側はここの点をないがしろにしがちです。

弊社では、内定を承諾してもらうための「内定承諾戦略」に特化して大企業からベンチャーまで戦略設計させて頂いてきて承諾率を劇的に上げるポイントがいくつか見つかりました。ここでは全てをお話しできませんが企業によっての“アタリマエ”が全く違うという事実にいち早く気付く事からスタートです。

採用は凡事鬼徹底です。他社事例を知りアタリマエを完遂する力と知る力です。

まとめ

今回は、人材採用の考え方について解説しました。
ここまで解説したことを踏まえて、下記に人材採用のコツを簡単にまとめてみました。よろしかったら参考にしてください。

人材採用のコツ
  • 1:一番社内で優秀な人材を人事を任せる
  • 2:社長の仕事の30%は常に採用である
  • 3:口説く時はとことん飲む
  • 4:イイ人事がいないのではない。社長がイイ人事でないだけ

(取材協力:株式会社ライトマップ/鈴鹿 竜吾
(編集:創業手帳編集部)

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