リスキリングの進め方とは?取り組むメリットやポイントを理解して実施しよう
リスキリングの導入のために効果のある進め方を理解しよう
業務に対して必要な知識やスキルを学ぶ「リスキリング」は、現在政府からも導入が推奨されており、大手企業から中小企業まで広がりを見せています。
実際に人材育成のために、リスキリングの導入を検討している企業も増えてきています。
しかし、リスキリングをどのようにして進めていくのかわからない方もいるかもしれません。
そこで今回は、リスキリングの具体的な進め方についてご紹介します。
また、導入のメリットや実施する際のポイント、導入事例なども紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
リスキリングとは?
リスキリングとは、個人がスキルアップすることを目的とする、業務に必要な知識・スキルを学び直すことを指します。
元々欧米から始まった考え方で、日本でもDX戦略を実践する際に用いられるなど、リスキリングが浸透してきました。
政府でもリスキリングを推奨しており、経済産業省では「新たな職業に就くため、または今の職業で必要なスキルの大幅な変化に適応できるスキルを獲得すること」と定義づけています。
単なる学び直しではなく、あくまでも業務で価値を創出するためのスキルを身に付けることが重視されています。
リスキングが注目されている理由
リスキリングが注目されている理由として、企業のDX戦略が挙げられます。AIやIoTなど技術革新によって企業ではデジタル人材の需要が増えているのが現状です。
DX戦略にも欠かせないデジタル人材を自社で育成するためにも、リスキリングが注目されています。
2020年頃に発生した新型コロナウイルスの感染拡大も、リスキリングが注目される理由として挙げられます。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、人の暮らしや働き方が大きく変化していきました。
今ではコロナ禍前に戻ってきてはいるものの、リモートワークを継続している人も少なくありません。こうした働き方の変化も影響しています。
また、政府がリスキリングの支援に積極的であることも理由のひとつです。
経済産業省・厚生労働省・文部科学省を主体に、リスキリングに対する支援を拡充しています。
2023年に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」の中でも、リスキリングによる能力向上支援として、個人や企業への支援拡充を進めていく方針になっています。
リカレントとの違い
リカレントは仕事と学びを交互に繰り返す学習システムを指します。学校教育を分散させて生涯にわたり学び続けることを理念としています。
例えば会社に勤めていた人が仕事を辞め、大学や専門学校に入って学ぶことはリカレントです。
一方、リスキリングは仕事をしながら学び直しを行うことを基本としています。そのため、学ぶために仕事を辞める必要がありません。
アンラーニングとの違い
アンラーニングとは、これまでのやり方を捨てることです。時代の変化に合わせてスキルを捨て、今後必要な新しい知識・スキルを学んでいきます。
また、アンラーニングではスキルだけでなく、古い価値観を捨てる意味も含まれています。
リスキリングも新しい知識やスキルを身に付けていくという点は同様です。しかし、これまでに培ってきたスキルを捨てる必要はありません。
OJTとの違い
OJT(On the Job Training)とは、職場内訓練を指す言葉です。OJTもリスキリングと同様に、社員に新たなスキルを習得してもらうことになります。
しかし、現在ある業務に関するスキルかどうかという点でOJTとリスキリングは異なるものです。
現在はまだ会社にないものの、今後新たな業務が加わった時に対応できるようスキルを身に付けることがリスキリングです。
一方、既にある業務が行えるようにスキルを身に付けるのがOJTです。OJTは主に新入社員のために導入されている制度になります。
リスキリングを導入するメリットは?
リスキリングを導入することで、企業側は様々なメリットを得られます。ここでは、リスキリングを導入することで得られる3つのメリットについて解説します。
企業の文化を活かしつつ成長できる
企業が成長していくためには、社風や企業文化を適切に継承していくことも大切です。
特に認知度の高いブランドを持った企業は、その方向性や企業イメージなどを変えてしまうと、顧客離れにつながる恐れもあります。
リスキリングはアンラーニングとは違い、これまで培ってきたスキルを捨てず、新しいスキルを身に付けていく方法です。
そのため、企業の良い文化などは残しつつ、新たなスキルを活かした業務展開も可能となります。
スキルを付けることで業務の効率化に繋がる
リスキリングによってスキルを身に付けると、業務の効率化につながる場合もあります。業務遂行にかかっていた時間を短縮できたり、業務内容を精査して不要、またはITツールに任せたりするなどで業務効率化が可能です。
業務効率化が目指せるということは、同時に労働環境の改善も期待できます。残業時間や休日出勤なども減り、ワークライフバランスの実現につながります。
結果として離職率の低下につながることもメリットです。
新しい人材の確保や育成のコストを削減できる
リスキリングを導入するとなると、人材を教育するためのコストはかかってしまいます。
しかし、その分元々在籍している人材のレベルアップを図っていくために、新たに人材を確保する必要もなくなります。
コストをかけて優秀な人材を採用したとしても、その人が長期的に働いてくれるとは限りません。
このような理由もあり、人材育成や採用コストを抑えたい場合はリスキリングが有効です。
リスキリングの具体的な進め方6ステップ
ここからはリスキリングの具体的な進め方についてご紹介します。企業でリスキリングを導入する場合、主に6つのステップに分けて取り組んでいきます。
それぞれのステップごとに詳しく説明していきます。
1.自社の人材育成における問題点と従業員のスキルを可視化する
まずは自社が人材育成においてどのような問題を抱えているのか、洗い出しをしていきます。
問題点が見えてきたら今後の経営戦略に必要な人材・スキルを明確にして、どのようなスキルを身に付けてほしいのかを計画します。
次にするのが、従業員が持っているスキルの可視化です。
一人ひとりが現在の業務に対してどのようなスキルを持ち、かつどれほどの作業工数が発生しているのかを確認してみてください。
各従業員のスキルを可視化すると、そのポジションを担うために必要なスキルも見えてきます。
2.リスキリングの目的・目標を決める
従業員のスキルを可視化したら、次はリスキリングの目的と目標を設定します。
設定した目的と目標は従業員に周知させます。
なぜなら、目的がわからないままリスキリングを導入すると会社にやらされている感が出てしまい、学習に対して受け身の姿勢になってしまうためです。
目的と目標を共有したら、従業員自らが学びたいと思えるような体制づくりも忘れてはなりません。
リスキリングの場合、既存の事業をこなしながら学習することになるため、従業員にかかる負担は大きくなってしまいます。
3.学習方法・カリキュラムについて検討する
リスキリングを導入する上で、どのような学習方法・カリキュラムを取り入れるか検討する必要があります。
必要なスキルなどに合わせて自社に適した学習方法を見つけてみてください。
なお、リスキリングでよく用いられている学習方法は以下になります。
-
- 社内で行う勉強会
- 外部の講師を招く社内研修
- 研修会社の会場で学ぶ集合研修
- 通信講座
- eラーニング、通信講座 など
4.学習に適した教材を選定する
学習方法やカリキュラムと合わせて、どのような教材を使うかも決定してください。
教材を決める時はスキルが企業独自のものか、他社でも広く使われているかなどもチェックしておくと安心です。
スキルが企業独自のものだと、自社で教材を作成しなくてはなりません。
また、教材は主に紙媒体とWeb媒体の2種類から選ばれることが多いです。紙媒体は端末などがなくても学べますが、重くなりがちなので持ち運びに不便です。
一方、Web媒体は端末さえ用意すれば良いので、分厚い教材を持ち歩くこともありません。
学習内容や従業員からの希望を取るなどして、教材を選定しましょう。
5.学習環境を整える
学習方法や教材の選定も終わったら、学習環境も整備しておくことが大切です。
リスキリングの場合、働きながら新しいスキルを身に付けていくことになるため、従業員にも大きな負担がかかってしまいます。
しかし、就業時間内に組み込むようにすることで、従業員への負担も軽減しやすく、離脱を防げます。
また、リスキリングの進捗管理を行うために学習管理システムを導入するのもおすすめです。
学習管理システムで各従業員の進捗具合を簡単に確認でき、従業員側でも進捗をチェックできれば学習のモチベーションにもつながります。
6.身に付けたスキルを活用できる場を設ける
従業員が身に付けたスキルを業務に活用できるよう、環境を整えることがポイントになります。
既存の業務で既に取り入れられるようなら問題ありませんが、一方ですぐに業務に活かせない場合もあります。
そのような場合でも、今後導入を検討している事業をトライアルで行うなど、実践に近い形で活用できる場を設けることが重要です。
リスキリングを導入・実施する際のポイント
リスキリングの導入を行うにあたり、企業側として環境づくりを実施することが大切です。特に以下2つのポイントを押さえながら、環境づくりに取り組んでみてください。
社員への周知と理解してもらうことが大切
リスキリングを進めていくためには、社員に周知させることと理解してもらうことが重要になります。
反対する社員が多いのに無理やり進めようとしても、離脱者が増えてしまいせっかく導入しても思うような効果を得られません。
なぜ実施するのか、リスキリングでどういったメリットがあるのかを詳しく伝えることが大切です。
学習のモチベーションを維持させる
1回程度で新しいスキルを身に付けるのは難しいため、基本的にはある程度時間をかける必要があります。
しかし、長期間に及べばその分学習のモチベーションも下がってしまうものです。
効果的なリスキリングを行うためには、学習のモチベーションを維持させることが重要です。
モチベーションを維持させる方法として、社員にキャリアプランやビジョンを明確にしてもらうことや昇給・昇格の評価基準に用いる、資格手当などを付けるなどが挙げられます。
リスキリングの導入事例
国内でも既にリスキリングを導入している企業もあります。続いては各企業のリスキリング導入事例をご紹介します。
電機メーカーの導入事例
大手電機メーカーではDX推進に必要なデジタル対応力を強化させるために、「リテラシー」「基礎スキル」「プロ化」の3層に分けてリスキリングを導入しました。
その中でもDXを自分事として捉え、デジタルの基礎知識を習得するための「リテラシー研修」は、グループの全従業員を対象に行われています。
また、学習体験プラットフォームを導入することで、空いた時間を使い自発的な学びを促進したことで、学習意欲の向上にもつながっています。
保険会社の導入事例
大手保険会社では、職員のウェルビーイングを実現するためにキャリア開発の推進と学びの実践をサポートする取り組みが行われています。
特に学びの実践では、自立的なキャリア形成を支援するために、講座やe-ラーニングの活用、自己啓発費用の支援などを行い、学びやすい環境づくりに取り組んでいます。
飲料メーカーの導入事例
大手飲料メーカーでは、グループ全社員のDX人財化を目指し、育成プログラムを実践しています。
まずは全社員の年間業務をヒアリングして分解し、業務のつながりを可視化していきました。
そこで見つかったルーチンワークなどはDXによって業務効率化できることを対面で説明していき、理解を得られるようになってきました。
育成プログラムは、全社員ステップやサポーターステップ、リーダーステップの段階に分けて学習に取り組んでいきます。
例えば、全社員ステップであればDXやITの基礎的知見を身に付けるための学習から、同業他社のDX事例などまで段階的に学習できるように設計されています。
リスキリング導入に活用できる助成金
リスキリングの導入にはコストもかかってしまうため、なかなか導入に踏み切れない企業もあるかもしれません。
しかし、政府などはリスキリングを推進するために助成金・給付金制度を設けています。
ここでは、リスキリング導入時に活用できる制度について解説します。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、職務に関連する専門的な知識・スキルを習得させるために必要な訓練経費や訓練中の賃金の一部について助成する制度です。
以前から用意されている助成金制度ですが、2024年4月1日から制度が見直され、よりこの制度が利用しやすいようになりました。
人材開発支援助成金には6つのコースが用意されており、自社に合った支援が受けられるようになっています。
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- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
教育訓練給付金
教育訓練制度は働く人の主体的な能力開発・キャリア形成を支援するために、教育訓練時の受講費用の一部を支給する制度です。
受講する教育訓練のレベルによって、受けられる支給額が異なります。
教育訓練 | 支給額 |
専門実践教育訓練 | ・受講費の50%(年間上限40万円)が訓練受講中6カ月ごとに支給 ・資格取得し、訓練修了から1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合、受講費用の20%(年間上限16万円)が追加で支給 |
特定一般教育訓練 | 受講費用の40%(上限20万円)が訓練修了後に支給 |
一般教育訓練 | 受講費用の20%(上限10万円)が訓練修了後に支給 |
DXリスキリング助成金
DXリスキリング助成金は、公益財団法人東京しごと財団が行っている助成金制度です。
都内企業で自社のDXを推進するために行われた研修を対象に、助成金が支払われます。
女性学は助成対象経費の4分の3(上限75,000円/1人1研修)で、1申請企業あたり100万円が上限となっています。
なお、DXリスキリング助成金は中小企業及び個人事業主が対象に含まれています。
ただし、助成対象受講者には申請企業の代表、または個人事業主本人は含まれないので注意してください。
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まとめ・リスキリングは組織内の理解を得てから進め方を決めよう
リスキリングは社内でDXを推進していくためにも欠かせない要素となってきます。
ただし、社員からの理解を得ないまま無理やり進めてしまうと、想定よりも効果を感じられない可能性もあります。
必ず組織内から理解を得た上で、リスキリングの導入を進めていきましょう。
創業手帳(冊子版)では、リスキリングを含むDX推進に関する情報をお届けしています。DX推進に向けた具体的な計画を立てていきたいと考えている方は、ぜひお役立てください。
(編集:創業手帳編集部)