新型コロナで家賃交渉を考えている店舗経営者必見! 弁護士が教える対応のポイントまとめ

飲食開業手帳

安田健一弁護士に、店舗物件の家賃交渉について話を聞きました

(2020/05/05更新)

新型コロナウイルスの影響で、事業の売上が減少し、家賃交渉を考える店舗経営者が増えています。4月21日には、飲食店の経営者らによる委員会が、政府に対して賃料の交渉など、家賃支払いに猶予を設けるための法整備を求めたという報道もありました。

新型コロナで多くの業界が打撃を受ける中、今後も店舗経営者が不動産オーナーに対して賃料交渉を求めるケースがますます増えていくことが予想されます。今回は、店舗の賃料交渉の際に必要な知識や、ポイントについて、弁護士法人堂島法律事務所の安田健一弁護士に聞きました。

安田 健一(やすだ けんいち)弁護士法人堂島法律事務所弁護士 
京都大学法学部・京都大学法科大学院・ニューヨーク大学ロースクール(LL.M.)各卒業北京及びバンコクでの勤務経験あり。国内・海外それぞれで日系大手企業の法務部に出向した経験を活かし、上場企業から中小企業・ベンチャーに至る多種多様な企業に法的サービスを提供している。

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家賃交渉は法律的にどのような扱いなのか?

ーそもそも、不動産オーナーに対して家賃交渉をすることはできるのでしょうか?法律的にどのような扱いになるのか、教えて下さい

安田:借地借家法の対象になる賃貸借契約では、同法の第11条で「地代の増減額請求権」、第32条で「建物家賃の増減額請求権」が定められています。賃貸借契約書に、「期間中賃料は一切減額しない(賃借人は賃料減額請求ができない)」と定めていたとしても、このような条項は無効であり、賃借人の減額請求は可能であるとされています。

賃料を減額する請求権があるといっても、不動産オーナーに減額を通知して、直後から支払う金額を一方的に少なくすることはできません。減額請求を受けた不動産オーナーは、減額を正当とする裁判での判断が確定するまで、相当と認める額(原則、元々の賃料)の支払を請求することができます。そのため、減額を認める裁判が確定していないのに一方的に支払う金額を少なくすると、その時点では賃料不払いをしていることになり、賃貸借契約を解除される可能性もあります。

また、例外として、借地借家法上の「定期建物賃貸借契約」では賃料を減額しないという特約も有効になるため、この場合は減額を請求する法律上の権利はありません。もちろん、定期建物賃貸借で賃料を減額しない旨の特約がある場合でも、不動産オーナーに「任意の話し合い」を求めることは可能です。

ー家賃交渉をする際の手順やポイント(用意しておいたほうが良いもの、やってはいけないことなど)について教えて下さい

安田:法律上の増減額請求権は、主に以下のような変動があった場合に発生します。

  • 土地もしくは建物に対する租税その他の負担が増減した
  • 土地もしくは建物の価格の上昇や低下、その他の経済事情が変動した
  • 賃料が近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となった

交渉を開始するときには、「主張の内容を明確にするとともに、いつ減額請求を行ったのか記録に残しておく」という観点から、まずは書面でご自身の意向を伝えるべきです。この時、主張の内容、つまり「賃料金額の交渉が妥当であること」を裏付ける資料を添付するのが望ましいでしょう。説得力のある資料としては、不動産鑑定士が作成した鑑定評価書などが考えられます。

交渉が決裂したときに時間や費用がかかることを踏まえると、まずは交渉・話し合いによる解決を目指すことをおすすめします。必要以上に攻撃的な書面を送付して不動産オーナーを刺激するのではなく、まずは話し合いを求め、ご自身の経営状況も交渉材料としつつ、双方が納得の行く賃料で合意することを目指すのが一般的には望ましいでしょう。

また、通常、賃料増減額請求は、将来にわたって賃料を変更するもので、期間を限定するものではありません。新型コロナウイルスの感染拡大という非常事態であることを理由に交渉をする場合には、一定の期間に限定して賃料を減額したり、減額が難しければ賃料の一部を後からの分割払いにしたりするといった措置を、不動産オーナー側に申し出ることも選択肢かと考えます。

交渉が難航した時の流れ、頼れる専門家

ー交渉が決裂するとどうなるか、一般的な流れを教えて下さい

安田:交渉が決裂した場合、最終的には賃料減額が認められるかどうか裁判所に判断を求めることになります。賃料減額請求が難航した場合は、裁判を始めるまえに、まず民事調停(第三者を介した話し合いの手続き)を申し立てる必要があります。調停手続きでも解決できなかった場合に、事件が裁判に進み、最終的に判決が下されるという流れです。裁判では両当事者が証拠として不動産鑑定士の鑑定書を提出し、適正な賃料について主張をすることが一般的です。

判決によって減額が確定した場合、最初に賃料減額請求をした時にさかのぼって賃料が減額されるため、賃借人は不動産オーナーから払いすぎていた分の賃料(及び借地借家法に基づく年10%の利息)の支払いを求めることができます。

ただ、実際には、裁判が始まってからも、当事者間で合意して裁判を終了させることは可能ですし、裁判官の説得によって判決ではなく合意(和解)で事件を終了させることもあります。

調停・裁判はもともと一定の期間が必要であるうえ、政府の緊急事態宣言によって、裁判所の各種手続きも緊急性がある案件以外はストップしている(2020年5月時点)ため、今から裁判所の手続きを初めてすぐに判決を獲得することは難しいと考えます。

ー家賃交渉が難航した場合、助けになってくれる機関や、専門家について教えて下さい

安田:国土交通省が発行している「民間賃貸住宅の賃貸借関係をめぐるトラブルを抱えている借家人や家主のみなさまへ」という資料で、裁判以外の紛争解決手続(ADR)を提供している機関を紹介していますので、参考にするとよいと想います。ただし、新型コロナの影響拡大で、こういった機関もやむを得ず案件の処理を制限している可能性もあるため、注意してください。

代理人としての交渉や調停、訴訟手続きは弁護士賃料の鑑定評価書作成は不動産鑑定士が、専門家としてこの苦境を乗り切るためのお力になれるかもしれません。まずは相談してみることをおすすめします。

交渉の際は、不動産オーナーが利用できる支援の情報も調べて交渉材料にする

ー国が不動産関連団体を通じて柔軟な対応を要請したり、飲食店の経営者団体による法整備の要請がニュースで取り上げられています。これらの動向について、弁護士としての見解を教えて下さい

安田:国による要請は、法的拘束力がなく、不動産のオーナーに対応を義務付けるものではありません。また、報道などで取り上げられている、飲食店の経営者団体が提案している法案は、不動産オーナーに家賃交渉に応じることを義務付けるものですが、実際に減額や猶予に応じる義務までを設けるものではないようです。

今後の動きとしても、各種補助の制度が拡充されることはあっても、私人間の権利義務である賃料を強制的に直接減額・猶予させるような法律が制定されることは考え難く、「何もしなくても、すぐに法整備によって救済してもらえる」という考えは禁物です。

一方、賃料を減額・免除した不動産オーナーを支援する動きも進んでいるようです。このような支援制度は、随時改訂・実施されることが予想されますし、各自治体によって独自の支援策が設けられる可能性もあります。

不動産オーナーが最新の支援制度を全て把握しきれていないことも考えられるので、店舗経営者が交渉を持ちかける際には、経営者自身が利用できる支援制度とあわせて、不動産オーナーが利用できる支援制度についても、交渉の材料として、最新の情報を収集するよう心がけると良いでしょう。

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(監修: 弁護士法人堂島法律事務所/安田健一弁護士
(編集: 創業手帳編集部)

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