社長自らの給与をあげないと企業が成長しない、その理由とは?
社長の給与を適正化することが、経営の改善や社内環境の改善にもつながります
創業期の社長自らの給与について、どのくらいが適切なのか、は悩むポイントだと思われます。
「まずは社員に良い暮らしをしてもらい、自分の給料はその後。」
そんな考えを持っている方も少なくないはず。
しかし、その考え方は一歩間違うと、会社の業績を悪化させ、良い暮らしをしてもらいたいと思っていた社員さんの生活を危ぶませてしまうことに繋がるのです。
なぜ、そうなるのかという背景を株式会社エッジコネクションの大村氏に解説頂きました。
延岡高校、慶應義塾大学経済学部卒業後、新卒生として米系金融機関であるシティバンク銀行入行。営業職として同期で唯一16ヶ月連続売上目標を達成。
2007年、日本の営業マーケティング活動はもっと効率的にできるという思いから営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクション創業。ワークライフバランスを保ちつつ業績を上げる様々な経営ノウハウを構築、体系化し、多くの経営者が経営に苦しむ状況を変えるべく各種ノウハウをコンサルティング業、各メディア等で発信中。1400社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減、創業前後の企業支援では、80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
成長する企業のお金の流れ
まずは経営者として、どのようなサイクルでお金が流れていくのがよいのかを知っておくことが重要です。
成長する企業のお金のサイクルがどのようになっているかというと、
- 投資(人的投資や設備投資など)
- 投資により売上がUP
- 売上で経費の支払い
- 経費を払って残った金額が利益
- 利益が貯まったらまた投資
このような流れでお金が循環しています。
実際に、貯まった利益を人に投資をするパターンに置き換えると、以下のような流れになります。
- 人材紹介会社に100万円を支払って月給30万円の営業マンを採用
- この営業マンが毎月100万円を売り上げるまでに成長
- 営業マンの売上100万円-月給30万円=営業マンからの利益70万円
- 利益の累計が100万円を超えたら、また人材紹介会社に100万円を支払って次の営業マンを採用
以下、繰り返し。
この例で言えば、利益が毎月70万円生まれることになります。そうなると、2ヶ月で140万円貯まりますので、2ヶ月ごとに営業マンが一人採用できることになります。
このサイクルが続いていけば、当然、企業はどんどん成長していくことが可能です。
成長企業のお金のサイクルが破綻する理由
上記のようにお金のサイクルが続いていけば、どんな企業も成長していくわけですが、当然ながら、すべての企業が成長しているわけではありません。なぜそううまくいかないのでしょうか。
それは、投資に失敗するからです。
失敗の原因としてありがちなのは、営業マンが毎月100万円を売り上げるまでに成長せず、十分な利益を生み出すようにならない、もしくは、成長しても突然辞めてしまうからです。
そうすると、安定的に見込んでいた毎月70万円の利益がなくなってしまいます。
このような“投資の失敗”は企業経営においては日常茶飯事です。
博打的投資をしがちな創業期
特に、創業間もない企業は資本力も乏しいですから、ちょっとした投資でも屋台骨がゆらぎかねない投資になってしまいます。
実際、営業コンサルタントとして創業間もない企業を見てきた経験則として、屋台骨を揺るがすような博打的投資を安易にしてしまう社長は結構多いと感じています。
その背景は、主に4つが挙げられます。
1.経営経験の乏しさ
ある程度経営者として経験値を積むと、どこにどれだけ投資をすればどういうリターンが得られるのかが見えてくるものがあります。
しかし、創業間もない社長は、まだその感覚が養われていない事が多く、経営経験のある人から見ると、危なっかしい投資をしてしまいがちにどうしてもなってしまいます。
2.資本力の弱さ
1000万円の利益にとっての100万円の投資は全体の10%ですが、1億円の利益にとっての100万円の投資は全体の1%です。
創業間もない企業だと利益を生むことが難しいため、投資は常に経営破綻と隣り合わせにならざるを得ません。
3.社長ではない経営陣による意思決定
創業期の経営層は上下関係があまりはっきりしておらず、場合によっては社長よりも発言権がある人が存在することがあります。
そのようなメンバーが投資の方針にも意見を出すと、社長ではないため、最終的な責任をかぶるわけでもありません。
結果、どこかに判断や見積もりの甘さが潜んでおり、結果的に博打的な投資になる可能性をはらみます。
4.社長の急成長への渇望
『小さい会社を大きくしたい』そういう想いは社長であれば持って然るべきです。
しかし、その想いが強すぎると、多額の借金がある人がギャンブルで逆転を狙うのと同じ構図で、「売上が3倍になる!」などという謳い文句の高額なサービスに投資するなど、文字通り博打的投資に傾きがちになってしまいます。
1点目と2点目に関しては、対策を見つけるのは非常に難しいです。資本力も経営経験もすぐにはどうしようもできません。
しかし、3点目と4点目に関しては対策をすることが可能です。それが、創業社長の給料なのです。
創業社長が給料を低く設定することのリスク
前項で、博打的投資の4つの背景をご紹介しましたが、まずは3点目に挙げた『社長ではない経営陣による意思決定”』がなぜ社長の給料が低いことによりもたらされる可能性があるのか。
そもそも、創業社長が自分と同等もしくは自分よりも高い給料で雇わないといけない社員とは、その時点で社長との上下関係がおかしくなっている可能性があります。
そのため、社長がその人にご意見伺いをするような構図になってしまいがちに。しかし、社長という責任は変わりませんので、ご意見伺いをして行った意思決定で失敗した場合、その責任は社長のみが負うことになります。もし借り入れをしていたら、その全額が社長個人にのしかかることになります。
次に4点目に挙げた、『社長の急成長への渇望』も社長の給料の低さからもたらされる可能性が高いです。なんとか給料が低い状態を脱したい。そのためには一発逆転を狙いたい。そんな思いが増幅しすぎると、投資に対する判断が博打的になっていくのです。
創業社長は十分な給料でまずは心身の安定を
社長の給料が低いことでのリスクは前項で説明したとおりです。この事態を避けるにはどうすべきかというと、創業期にまずは社長自身の給与を上げることを考えましょう。
それなりの給与がもらえるようになれば、簡単にその状況を手放したくないと考えるでしょう。そうすると、経営が傾くような投資や安易な採用には慎重になり、様々なことをより真剣に検討するようになります。
「当社の中で一番責任がかかるのは私なので、私が一番高い給料をもらって当然である。」
そういう意識を強く持ち、その意識により、
・一歩間違うとすべてを失うような一発逆転を狙う投資を行わない
という状態に自らを持っていきましょう。
また、経営者は体が資本です。それなりの給料をもらって美味しいものを食べることで日々の活力を得ていくことも非常に重要です。
創業社長の給料が上がることは社員にも効果あり!
当たり前ですが、社員を雇うには給料を支払わねばなりません。むやみに増やすと人件費がかさみ、自分の給与が上がりにくくなります。
よって、社長自身の給料を十分な水準で維持して社員数を増やしていくには、いかに必要最低限の人数で利益を上げるかという発想をもつ必要が出てきます。そして、それを実現すべくビジネスモデルが磨かれていくのです。
ビジネスモデルのブラッシュアップに成功すると、社員を増やしたときに手に入る利益も大きくなり、社長はより落ち着いて冷静に経営判断ができる環境になります。
そうなることにより、社長が博打的な投資をするリスクは減り、社員の雇用環境が守られることになります。
また、より少ない人数で回すようビジネスモデルやオペレーションを考えますから、マニュアル化が進み、働きやすくなります。
結果、会社全体として利益率が高く筋肉質になっていくので、社員の給与も同業他社よりも少し高めに出せるようになります。
こうして、最初は社長が利己的に自分の給料を上げたと見えたことが、最終的には全社員へのプラスに還元されていくのです。
美談は稀有だから美談であると心得る
世の中には、
「社員にだけ半年間給与を出して、自分はずっと無給でした。」
「三顧の礼と私の2倍の給料で営業責任者を採用しました。これが決め手でした。」
なんていうエピソードがたくさんあります。これらのエピソードは真実でしょうし、それを成し遂げた経営者は素晴らしい手腕、実績の持ち主でしょう。
ただ、誰しもがそんな経営者になれるわけではないと心得ることが重要です。
実際、私も自分だけひもじい思いをしながら半年間も社員がニコニコ働いているのは耐えられないでしょう。また、自分の部下が自分の2倍の給料をもらっている状況にもはてなマークが拭えないと思います。
「美しいエピソードはなかなか無い話だから有名になっているのであり、裏を返すとそんな美しさはなくともうまくいった例もたくさんある。」
そう考えることが非常に重要です。無理に苦労話に自分自身を合わせに行って、人生路頭に迷う必要はありません。
まずは、社長としてしっかり自分の生活を安定させ、心身の充実を図るところからぜひ始めてみてください。
(執筆:
株式会社エッジコネクション 代表取締役 大村 康雄(おおむら やすお))
(編集: 創業手帳編集部)