中小企業経営者・個人事業主に大打撃? 「インボイス」を今から知っておくべきワケ
2023年10月から導入されるインボイスの概要と影響を解説します
(2019/11/05更新)
「インボイス」という言葉をご存知でしょうか。軽減税率の導入に伴う企業間取引の消費税控除のため、2023年10月から導入される制度です。まだ一般に広く認知されていないインボイスですが、
「導入までまだ時間があるし、近くになってから詳細を把握すればいいのでは?」
と考えるのは注意です。実はこの制度、特に中小企業や、個人事業主にとって、取引先との関係を大きく変えかねないポイントが含まれています。今回は、インボイスの概要と、今知っておくべき理由について、起業したての経営者・個人事業主の視点で解説します。
仕入税額控除に「適格請求書等保存方式(インボイス)」が必要になる
事業者は消費税の納税をするにあたって、売上げにかかる消費税額から、仕入れなどにかかる消費税額を控除することができます。これを「仕入税額控除」と言います。
インボイスは、税金計算のベースとなる新たな証票制度であり、導入されると仕入税額控除の条件に、「適格請求書等保存方式(インボイス)」が求められるようになります。
消費税増税と合わせて「軽減税率制度」が導入された今、仕入税額控除額を計算するために、商品ごとに適用税率・税額が分かる書類がなければ、不正や記載ミスが発生する恐れがあると考えられているため、正確な適用税率や消費税等、一定の情報を記載してあるインボイスが必要となります。
この時点で既にややこしい言葉がたくさん出てきて混乱してしまいそうですが、まずはこれまでの制度と何がどう変わるのか、どのようなステップを経てインボイスに移行していくのか整理しましょう。
請求書等保存方式・区分記載請求書等保存方式・適格請求書等保存方式(インボイス)の比較
これまで仕入税額控除の経理方法(控除を受けるための要件)は、「請求書等保存方式」が採用されてきました。商品やサービス提供のための仕入れや、経費に払った消費税額を控除するために、取引先が発行した請求書の保存が必要だという制度です。請求書に記載されている項目には
- 発行者の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 取引金額
- 交付を受ける者の氏名または名称
の5種類がありますね。
しかし、2019年10月の消費増税にともなう軽減税率の導入によって、消費に対して「8%」と「10%」のどちらの請求も発生しうる仕組みに変わりました。従来の請求書には複数税率に対応した情報が記載されていないため、これまでの方式では正確な税計算ができなくなる可能性が出てきたのです。
そこで、軽減税率の導入と同じタイミングで、これまでの請求書情報にプラスして
- 軽減税率の対象品目である旨
- 税率ごとに合計した対価の額
の2種類の情報を含む区分記載請求書という、新たな請求書の方式が採用されました。その名の通り、「区分記載請求書等保存方式」です。この制度は、インボイスの本格的な開始の前の経過措置として、2019年10月から4年間にわたり実施される予定です。
その後にやってくるインボイスでは、区分記載請求書の記載内容に更に
- 税率ごとの消費税額
- 登録番号
の2種類を追加した適格請求書等保存方式(インボイス)が必須となります。
実際の請求書にはどのように記載されるのか
3種の方式による請求書の記載内容の変化を例で見ていきましょう。
牛肉 2kg 5400円
割りばし 4箱 5400円
を仕入れとして記載した請求書があるとします。牛肉は食品なので軽減税率適用で8%、割り箸は10%の税がかかります。「請求書等保存方式」、「区分記載請求書等保存方式」、「適格請求書等保存方式(インボイス)」ごとの記載項目の変化は、以下の図のようになります。
請求書等保存方式→区分記載請求書等保存方式→適格請求書等保存方式(インボイス)で記載の項目がより詳細になっているのがわかりますね。
「登録番号」の大きな意味とは
請求書の変化を見ると、記載項目の追加ポイントは妥当に見えます。しかし、インボイスで追加される「登録番号」が、非常に大きな意味を持つことを知っておく必要があります。
この登録番号は、適格請求書発行事業者、つまりインボイスを発行できる事業者の番号を意味します。裏を返せば、インボイスは適格請求書発行事業者しか作成することができないのです。
中小経営者・個人事業主は注意!免税事業者・課税事業者間の取引で起こり得る変化
日本では、2年前の課税売上高が1000万円以下の事業者は、免税事業者となり消費税の納税が免除されています。多くの起業したての中小企業や、個人事業主は、免税事業者ということになります。
この免税事業者は、もともと消費税を免除されているので、インボイス制度の影響を直接受けることはなさそうに見えます。しかし、注意しなければならないのは、取引先が課税事業者だった場合です。
上述したとおり、消費税は、事業者が売り上げたときに消費税を受け取り、仕入れの時には消費税を支払います。その差額が消費税の納税額になります。
インボイス制度の導入後、課税事業者が適格請求書発行事業者として登録を受けていない業者から仕入れた場合、請求書がインボイスでないため仕入税額控除が認められず、その分の消費税額を丸々負担しなくてはなりません。
結果として、仕事を発注する課税事業者の立場からすると、インボイスを発行できない免税事業者との取引きを避ける可能性も出てきます。
そうなった時、免税事業者は取引先を失わないために、課税事業者になる必要が出てくるかもしれないのです。
インボイスには段階を踏んで移行。でも早めの対応を!
インボイスは、免税事業者にとって新たな選択を迫られる大きな変更です。ただ、2023年10月から2026年の9月までは、インボイスではない請求書でも、課税仕入にかかる消費税の80%までは差し引くことができます。新しい制度の導入で混乱が生じないように、段階を踏んで切り替わっていく予定です。
免税事業者であっても、課税事業者を選択することで、適格請求書発行事業者の登録を受けることができます。
まずは課税事業者になるために、消費税課税事業者選択届を税務署に届けを出す必要があります。課税事業者になることで、適格請求書発行事業者になる資格が得られ、さらに登録申請書を税務署に提出して登録することで、ようやく適格請求書発行事業者になることができます。
以上のような手続きが発生しますので、気になる方は最寄りの税務署などに相談してください。
インボイスの導入は数年先とは言え、免税事業者の中小企業経営者や、個人事業主は必ず対応を求められる時がやってきます。今のうちから、詳細を把握した上で、本格導入を見据えた事業の戦略を立てて行きましょう。
MISOCAは適格請求書等保存方式(インボイス)を見据えた準備に最適!
インボイス制度の導入による事業形態の選択もさることながら、軽減税率導入後の請求書作成は、単一税率のときと比べて複雑で手間がかかります。インボイス制度も見据えた請求業務ツールとしておすすめしたいのが、弥生株式会社が展開しているクラウド見積・納品・請求書サービスの「Misoca」です。
豊富なテンプレートの中から好みのデザインを選んで必要な情報を入力するだけで、印影やロゴを含むオリジナルの請求書をかんたんに作成できます。見積書から納品書や請求書への変換や、請求書から領収書・検収書もまとめて作ることができるので、業務の効率化に貢献します。
また、8%、10%の帳票作成も自動で計算することができ、区分記載請求書の出力にも対応しているので、インボイス制度開始前の準備にも最適です。複数税率の請求書作成時の手間を削減したい事業者の方は、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
(監修:
弥生株式会社)
(編集: 創業手帳編集部)