NTTドコモ 山本 将裕|大企業会社員が社内起業で変革を起こすための3か条
最初は小さなものであっても、コツコツと継続し続ければ大きな力になっていく
「起業する」と聞くと「大変そう」「失敗しそう」などのイメージもあるでしょう。事実、中小企業白書が2017年に発表した「起業後の企業生存率」によれば、起業後5年間で市場から退出する確率は18.3%にも上ると言われています。それくらい、多くの起業家が起業に挑み、夢破れて事業を畳んできたのです。後ろ盾がなく起業した場合には、無一文からやり直し、ということも考えられるでしょう。
しかし、社内起業であればそこまでのリスクはありません。さらに会社の人・モノ・カネのリソースを活用し、ゼロから起業するよりも有利な立場で事業をスタートすることもできます。
そんな社内起業を自ら経験し、多くの人を支援されているのが、NTTドコモの山本将裕氏です。大企業若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティONE JAPANの共同発起人ともなり、日本の大企業のオープンイノベーションを促進されてきました。現在ではNTTドコモにて「はたらく部」「ドコモアカデミー」という2つの事業を手がげられています。
今回は山本氏のキャリアや社内起業のコツなどについて創業手帳の大久保が聞きました。
2010年にNTT東日本に入社。2014年より本社ビジネス開発本部へ異動、2015年よりNTTグループ内組織活性有志活動「O-Den」を組成。翌年には、企業内有志団体が集う実践コミュニティONE JAPANの共同発起人となる。現在は共同代表。2017年より有志ボトムアップのプロジェクトでNTT東日本アクセラレータープログラムLIGHTnICの立上げなど新規事業創出を手掛ける。2020年独立し、フリーランスでスタートアップのアクセラレーターを実施。現在はNTTドコモに参画し、企業内大学ドコモアカデミー学長、はたらく部の事業推進を実施。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
はたらく部、ドコモアカデミーなどを手がける
大久保:山本さんが現在取り組まれている事業について教えてください。
山本:私がメインで取り組んでいるのは、「はたらく部」の事業推進です。「はたらく部」は中高生向けのキャリア教育事業サービスです。さまざまな学校に存在しているキャリア部活のオンラインプラットフォームを作っています。
そもそも「キャリア教育は学校だけでやるよりも、社会人も一緒に教えたほうがいいのではないか」という思いから始めた活動です。社会人コーチを用意してオンラインで教育したり、働くことを体感できるワークショップを実施したりしています。スポットで授業をするのではなく、社会人が伴走することが特徴です。実際に学んだことを可視化できるアプリも用意しています。
大久保:マネタイズの仕組みはどのようになっていますか。
山本:学生の保護者からお金をいただいています。現場の社会人とインタラクティブにキャリアを学べる点が特徴です。
大久保:「ドコモアカデミー」の活動についても教えてください。
山本:新規事業を生み出せる人材を輩出するために、スキルとマインドの両面から社内人材を育成する企業内オンライン大学です。ドコモが実施している新規事業創出プログラム「39works」に挑戦する人材が減ってきたところを変えよう、より新規事業開発に挑戦する人材を増やそう、という思いからスタートしています。
「ドコモアカデミー」に参加するには事業アイデアなどを持っている必要はありません。「いつかは新規事業を生み出したい」と思っている社内の人であれば参加できます。
大久保:新規事業に挑戦する人材が増えれば、企業内の人材のレベルも上がっていきそうですね。
山本:多くの卒業生が公募型の新規事業開発プログラムに挑戦しています。
新規事業だけでなく、本業での業務改善などにも役立ったという声や、副業やNPOへの参画、転職も含めて越境する人材が増えたと思います。そういった挑戦をする勇気を持ってもらっています。例え転職したとしても出戻りで戻ってくるということもあると考えてます。
新卒で石巻に配属され、3.11を経験。社内起業家への道へ
大久保:山本さんは学生時代から「起業したい」などと考えられていたのでしょうか。
山本:いえ、普通の大学生だったので、起業することなどはまったく考えていませんでした。インターンなどもせず、大手企業志向で普通にNTT東日本に就職した形です。
大久保:そこから今の活動的なスタイルに変わるきっかけなどはあったのでしょうか。
山本:NTT東日本に入社してから最初に配属された宮城県石巻支店で、東日本大震災を経験したことが私の死生観を変えました。石巻で3日間閉じ込められて、1回は避難場所が水没することも経験し、本当に「死ぬかも」と思いました。「人ってこんなに簡単に死ぬんだ」ということを実感するとともに、「一度きりの人生。やりたいことをやろう」「社会に還元できる事業をやっていきたい」という思いが生まれました。
大久保:具体的に活動され始めたのはいつからですか。
山本:本社に異動してきたときに、「サービス開発にあたって組織内の縦横斜めのつながりを作りたい」と考え、NTTのなかで組織活性有志活動「O-Den」を組成したときからですね。今では、後輩たちが引き継いで社長や副社長など経営陣を巻き込んで1,500人ほどの講演会を実施するほどまでに成長しましたが、当初はわずか数人の規模から始めました。
次に、「大企業病を変えたい」と思って大企業55社の企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」をスタートさせました。
大久保:なるほど。徐々に社外へと活動を広げて行かれたのですね。
山本:そうですね。その後もNTT東日本アクセラレータープログラム「LIGHTnIC」の立上げなどさまざまな活動をしてきましたが、「自分で起業をやっていないな」と思って。より起業家当事者の視点を持ちたいと思い、一度会社を辞めてフリーランスにもなりました。
大久保:フリーランスになってからはどのような活動をされていたのでしょうか。
山本:スタートアップ支援に携わっていましたが、お世話になった方が社内起業を推進する部署にいて、入社するチャンスがあったので、NTTドコモに入社し、再度会社員に戻りました。自分のやりたいことは、NTTドコモにいてもできそうだな、と思ったからですね。
そして現在の「ドコモアカデミー」「はたらく部」などの活動につながっていきました。
大久保:そもそも、なぜはたらく部のサービスを始められたのでしょうか。
山本:リモートワールドの世界に突入した中で、教育業界はまだまだ変革できると感じていました。学校の先生と話す中で、オンラインでも継続的にキャリアを学べる仕組みが作れたらと考えて立ち上げました。39worksの仕組みの中で予算化し、チームも集まりプロジェクトを推進しています。バーチャル空間内で学ぶ仕組みを作ることができれば、地域間格差や教育格差を無くせると考えています。先生に依存するだけでなく、社会が子供を育てる仕組みを作りたいと考えています。子供の自己肯定感を上げて、自走できる力を身につけるサービスを実現します。
大企業会社員が変革を起こすための3か条
大久保:「O-Den」はなぜ大きな活動になっていったのでしょうか。
山本:コツコツとやり続けたからですね。最初は数人で集まる程度でしたが、それを地道に続けていったことがよかったのだと思います。小さなイベントでも続けていって少しずつでも賛同者が増えていけば、大きな力になっていきます。
継続しているからこそ「本気なんだ」と周囲に伝わって、そこから声をかけてもらったりすることも増えていきました。「O-Den」があったからこそ、「ONEJAPAN」にもつながっていったので、続けているとそうした思いも寄らない展開も出てきますよね。
大久保:ほかにも大事なことはありますか。
山本:大企業にいると、自分の思いを形にして誰かに発信することはあまりないですが、勇気を出して発信するのは重要です。そこに共感してくれた外の人と交流できますし、仲間を作ることもできますから。
一人だけで活動を継続していくのは難しいので、同じ思いを持った仲間を組織内で作ること、味方を作ることも重要です。1人だけだと心折れるか、変人になるだけです。
- 一回だけであきらめるのではなく、コツコツと継続する
- 自分の思いを発信して、社外の味方を作り代弁してもらう
- 組織内にも同じ思いを持つ仲間を作る
大企業内で企画を通すための3か条
大久保:提案しても却下されることもありそうですが。
山本:そうですね。有志で立ち上げた「アクセラレータープログラム」も予算化するまでは大変でした。「NTTでそんなことできるわけがない」などと言われたことも何度もあります。でも、課長に「ダメ」と言われても部長に提案を持っていくとか、そういう動き方をして突破してきました。縦斜めの上司に相談に行くのがポイントです。
大久保:確かに、大企業だといろいろな考えをお持ちの方がいらっしゃいますからね。
山本:経営層などには視座が高く理解してくれる人もきっといます。だから諦めずに企画を上の人に伝え続けるのは重要です。
きっと経営層には「新しい世代を育てたい」という思いもあって、私にチャンスをくれたのだと思っています。
大久保:ほかにも、組織のなかで仲間を増やすためのポイントはありますか。
山本:例えば、社長が「オープンイノベーションに力を入れる」と言っているなら、そういう文脈に合わせて提案することは重要です。社内の方向性に合ってない企画は通るはずがないので。見かけだけでも、方針に沿っているように企画を見せる。
社内のキーマンを理解しておくことも当然重要ですね。キーマンを味方につければ、敵が増えても守ってくれますから。実際、私の活動も理解してくれない人が多かったですが、後ろ盾となるようなキーマンを味方につけたからここまでやってこれたのだと思います。
大久保:企画を通したあとはどうですか。
山本:自分で通した企画をやっているときには、ある程度の覚悟をしないと決断できない場面も出てきます。自分もクビになる覚悟をしてやっていた時期がありました。自分以外にも、覚悟を決めた仲間は実際かなり頼りにもなりました。一人でもそれくらいの覚悟を持ってやっている人がいれば、仲間にもそれが伝染していきます。だから、何かやろうと思ったら覚悟を決めることも重要です。
- 直属の上司がダメでも、縦斜めの上司に提案しにいく
- 社内のキーマン、政治力学を理解し、社内の方針に少しでも合った企画を出す
- 1人でもやると最悪の場合の覚悟を決めて取り組む
社内起業という選択肢もある
大久保:社内起業という選択肢のメリットを教えてください。
山本:会社のリソースを使いながらできること、起業に比べたら失敗してもそれほどのリスクがないことですね。起業家には甘いと言われるかもですが、社内起業も失敗すると追いやられるのでリスクはあります。
最終的に独立したいのだとしても、一度社内でやってみる、というのはすごくいい経験になると思います。失敗したとしてもむしろ、事業開発の経験がある人材をほしい企業はたくさんあるので、キャリア的にもプラスになるはずです。
私の30代のこれからは、事業として推進する「はたらく部」では自分の頭で考えて行動する中高生を増やしていきながら、挑戦の後押しをしていきたいですし、会社の中では社内起業家を増やすことに捧げていきます。
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(取材協力:
株式会社NTTドコモ ドコモアカデミー学長 はたらく部代表 山本 将裕)
(編集: 創業手帳編集部)