退職後に同業種で起業していいの?競業避止義務を理解して過失なく起業する方法とは

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【弁護士監修】競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)をわかりやすく解説!起業時の注意点やトラブル回避のポイント

同業種で独立創業は競業避止義務に注意

(2020/08/13更新)

会社を退職して、新たに同じ業種で起業をする場合、競合相手になってしまうことからトラブルになるケースがよくあります。日本国憲法において、職業選択の自由は確保されているものの、在籍していた企業に対して損害を与えないように配慮しなければなりません。

そこで、気を付けなければならないのが、「競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)」です。耳慣れない人も多いかもしれませんが、これを知らずに同業種で起業するのはとても危険です。

では、同業種で起業する場合、具体的にどのような点に注意しなければならないのでしょうか。
ここでは、競業避止義務の概要と、同業種で起業をする際に注意すべきポイントを解説します。

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競業避止義務とは?

競業避止義務とは、従業員が同じ事業を行っている競合企業への転職や、新たに同業種で起業することを禁止するための契約です。ほとんどの場合、入社した際に署名を行う「誓約書」や「就業規則」に、競業避止義務の内容が組み込まれています。
在職中に得たノウハウや顧客情報の利用や、同業種での起業による競合行為など、在籍していた企業の不利益を防ぐのが目的です。

違反すると損害賠償請求をされることも

競業避止義務に抵触した場合、契約を交わした企業から損害賠償請求の訴訟を受ける可能性があります。しかし、会社のお金を横領することや、資産である設備を損壊させてしまうなど、明確に損害金額が見えるケースと異なるのが難しいところです。

競業行為の場合、契約を交わした企業が何をもって違反とするかの基準が曖昧であることが多く、損害賠償額も被害内容によってさまざまであるため、金額自体をすぐに算出することはできません。とはいうものの、自身の信用や経済的な悪影響を踏まえ、在籍中、退職後を問わず、競業行為については控えるべきです。

必ず注意したい4つのポイント

競業避止義務4つの注意点
競業避止義務に抵触しているか否かは最終的に裁判所が判断するため、過去の競業避止義務の判例をもとに事業展開を進めていく必要があります。
在籍していた企業と交わした契約事項が禁止となるわけですが、一般的に含まれる4つの例を参考にしてみてください。

企業の営業活動に損害を与えていないか

在籍していた企業の営業活動に損害を与える行為は、競業避止義務に該当すると考えらます。
たとえば、企業が外部への持ち出しを禁止している技術データなどを利用し、コピー商品の作成を行ったり、ノウハウをさまざまな競合企業に売却したりといった企業の利益を妨害する行為です。

仕事で学んだノウハウを活かして同業種で起業をしてみたいという場合は、高度な秘密として管理されているものかどうかをチェックしておく必要があります。利益の柱になっているような企業独自のノウハウは、保護されるべきものとして扱われるため注意しなければなりません。これらのノウハウは不正競争防止法上の「営業秘密」としても保護されるので、たとえ契約書に競業避止義務の規定がなくても、同法律を根拠に差止請求や損害賠償請求を受けるおそれもあります。

退職後から起業するまでの期間

ノウハウの流出を防ぐために、ある一定期間を設けて同業種の起業を禁止としている場合があります。企業によってさまざまですが、半年近くにわたって同業種の事業展開を禁止している例が多く、該当期間は競合行為を避けなければなりません。

しかし、企業側が退職者に対して1~2年以上の同業種での起業を制限している場合には、無効と判断されることもあります。日本国憲法で定められている「職業選択の自由」を奪う結果となるため、競業避止義務の回避が可能です。

禁止されている競業行為

特定の競業行為を禁止にするという独自のルールをつくっている企業もあります。
たとえば、在籍中に顧客であった取引先の担当者に対して、同業種で起業をしたあとでの連絡や顧客としての事業展開を制限するというケースです。既存顧客を奪うことは、企業の利益に影響を与えていると判断されることがあるため、起業をする際には注意が必要です。

ただし、職業選択の自由という観点から、同業種での独立が認められているため、新規顧客の獲得による事業展開は競業避止義務に抵触しないと認められる可能性があります。

地理的な制限を超えていないか

在籍していた企業が、営業先として得意とする地域での競業活動を禁止している場合があります。同業種による特定エリアでの新事業を制限することで、自社の利益を保護するのが目的です。
広範囲での地理的な制限を有効としている判例も存在するため、同業種で起業をする場合には、在籍していた企業との契約に該当しているか確認しておかなければなりません。とはいえ、不当に広範囲を制限することは、職業選択の自由を侵害しているとみなされる可能性もあります。

競業避止義務のトラブルを回避するためには?

競業避止義務トラブル回避に必要なこと
同業種で起業をする場合、競業避止義務に抵触しないように注意しなければなりません。対策を一切せずに起業を進めていくと、在籍していた企業から損害賠償請求などの訴訟を起こされてしまうリスクが高まります。
競業避止義務のトラブルを避けるために、まずは署名した誓約書の内容を見直しましょう。必要に応じて企業と直接話し合ったり、弁護士に相談したりするのも有効です。

起業する前に誓約書を見直す

競業避止義務のトラブルを回避するためには、起業の準備を始める前に在籍した企業との誓約書を見直します。書面に記載されている競業避止義務や秘密保持義務に署名を行っている場合、禁止事項に従わなければなりません。
誓約書をあらかじめ確認しておくことで、同業種での起業後におけるトラブルを最小限に抑えられます。また、会社に在籍しながら、起業の準備を進める場合には、就業規則に関しても内容を把握しておくようにしましょう。

在籍した企業に確認をする

同業種で起業をする前に、在籍していた企業に確認しておくことも重要です。起業を検討している事業内容が競業避止義務に抵触していないかについて、企業と直接話し合うことで、トラブル回避に繋がります。具体的にはどの範囲までの事業を行えるかの線引きや、在籍していた企業の営業に影響を与えない地域の選定などを明確にしておくといいでしょう。

弁護士に相談する

競業避止義務は、性質的に繊細なルールが多く、誓約書の見直しや在籍していた企業への確認だけでは不十分な場合があるので、最終的には、弁護士への相談も選択肢に入れておきましょう。

誓約書や就業規則の記載内容であっても、職業選択の自由という憲法上の観点から、裁判で無効と判断されるケースもあります。そのため、在籍していた企業が提示するルールに抵触するすべての行為が、競業避止義務に抵触をするわけではありません。
誓約書の見直しや企業と話し合いの場を設けても納得できないような項目があれば、弁護士に相談をして、法的な見解を得ることも大切です。

積み上げてきたスキルを最大限に生かして同業種で起業しよう!

仕事で得た経験やスキルを活かして同業種で起業をする方は、「競業避止義務」に抵触しないように進める必要があります。
会社に不利益を与えたとして損害賠償請求されることのないように、入社時に署名をした誓約書や就業規則もしっかりと見直しておきましょう。

競業避止義務には細かい内容も多いので、企業と話し合いの場を設けたり弁護士に相談をしたりするなどの適切な方法を用いてトラブル対策を進めることをおすすめします。

創業手帳(冊子版)では、起業家インタビューを多数掲載しています。実際に起業を経験した先輩起業家の生の声が聞けますので、ぜひご覧ください。

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        (監修: AZX Professionals Group AZX総合法律事務所/高橋 知洋弁護士

(編集:創業手帳編集部)

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