厳選5点を解説!ベンチャー企業が大企業・金融機関と接する際の「お作法」とは!【元金さん連載その2】
『メガバンク出身、事業会社CVC担当の元金さんが語る、ベンチャー企業の大企業・金融機関との付き合い方』
連載第1回では、ベンチャー企業にとって大企業や金融機関は「使い倒す」べき存在であること、また大企業・金融機関を使い倒すには、彼ら特有のDNAである「サラリーマン気質」というのを理解しましょうということを語っていただきました。
それを理解しないと、彼らの持っている最大の資源であるヒト・モノ・カネ・ネットワークを使い倒すことはできません。
連載2回目となる今回は、大企業や金融機関とのコミュニケーションについて語っていただきます。
サラリーマン気質の大企業・金融機関担当者と接する際の「お作法」の中から、厳選して5点、お伝えしたいと思います。
メガバンク、コンサルティングファームを経て、現在は事業会社のCVC投資担当。
ハッキリもの言う性格で、銀行員時代は上司から煙たがられていたものの、お客さんからは頼りにされていた(と思っている)。
現在は、「元金さんって、元銀行員っぽくないですよね!」と言われると、ちょっと嬉しくなる。
ベンチャー企業と大企業との橋渡しがライフワーク。
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この記事の目次
厳選お作法5選!
独特な企業文化が存在する大企業・金融機関と接するには独特な「お作法」を理解しておくことが肝要です。
端的にいうと、「相手のプライドを守ってあげる」こと、「大企業・金融機関特有の階層構造を理解する」こと、そして「意思決定のプロセスを理解してあげる」ことかと思います。
大企業・金融機関を訪問し、面談したケースを例にとって「お作法」をご説明します。
お作法その1:大企業・金融機関訪問にTシャツ・短パンはNG?
ベンチャー企業にとって、やっと取り付けた大企業・金融機関とのミーティング。
是非とも自社にメリットのある提携条件を取り付けたいものです。
ミーティングに際して、ベンチャー企業経営者はあまり服装に注意を払わないケースが多いと思われます。
確かに昨今はクールビズやビジネスカジュアルの浸透で以前と比べてラフな服装がビジネスにおいてもOKとされることが多くなってきました。
TPOという言葉(最近聞かないけど、死語か?)もありますが、時と場合に応じた服装の選択が必要です。
スーツにネクタイ着用とまではいいませんが、超大企業や金融機関の本部においては軽装といっても襟付きシャツ(もしくはポロシャツ)とチノパンまで、というところがまだ多く、相手先企業の風土を確認することが必要です。
相手がカチっとスーツにネクタイで登場した時に気おくれしないためにも、ジャケットは持って行った方がよいと思います。
一方で短パンについては、心の底からご自身の美脚に自信があって、その美脚を相手にアピールすることがビジネス上のメリットになるという確固たるポリシーを持った方でない限り、回避した方がよいと思います。
お作法その2:大人数で登場する先方担当者の「序列」に注目!
さて、無事受付をクリアすると広い応接室や会議室に通されます。
私のような貧乏人は、「むむっ!この会議室!大手町でこの広さだと、借りた場合、月40万円はするな!」など、豪華っぷりに圧倒されてみたりします。
そして先方担当者が登場します。
大企業や金融機関の場合、少なくても2-3人、多い時は10人くらいの人が出てくることもあります。基本的に「言った、言わない」というトラブルにならないために1人では対応しないことが多いですが、さすがに5人を超えてくると、「どれだけ人材が豊富なんだ」と思ってしまったりします。
ただ、自分の訪問に対して少なからず時間を割いてくれていることに感謝しましょう。
相手担当者が多数登場した時に注意することは名刺交換の順番。
基本的に「偉い順」に並んでくれますので、相手が指定した順番で名刺交換すればよいのですが、間違ってもたまたま近くにいた人から名刺交換をしてはいけません。
大企業・金融機関のサラリーマンにとって名刺交換の順番は完全に「序列」を体現したものなので、自分より下の身分の人が自分より先に名刺交換することは言語道断です。
これを間違ってしまうと、せっかくのミーティングが険悪なムードになってしまうことも考えられます。
名刺交換を終え、席に着いたら先方の着席順に名刺を並べると便利です。
顔と名刺が一致して覚えている段階で順番に並べておき、ミーティングを通じて顔と名前を一致させる努力をします。
細かい人に言わせれば、一番偉い人の名刺を名刺入れの上に載せ(枕を敷くという意味らしいです)、敬意を表すと相手の一番偉い人は満足するらしいですが、そこまでいくと、個人的にはどうでもよい気がしています。
ちなみに、相手の名刺にメモを取る人がいますが、これは失礼な行為とされています。
間違っても相手の風貌のメモ(「小太り」、「毛、薄め」など)を記入し、相手に見られたりしないようにしてください。
お作法その3:ミーティング中の目線の配り方をマスターしよう!
ミーティングが始まりました。
プレゼン資料などを用いて自社の紹介や、協業案などを説明するわけですが、目線の配り方が重要です。
ずっと下を向いてモジモジ話したり、なぜか天井に向かって天を見つめながらプレゼンするというのは論外です。
基本は柔和な表情と真剣な表情をミックスさせながら、均等に全員に目線を配りながら訴えかけるプレゼンがよいと思います。
ただ、先ほどご説明した「一番偉い人」には注意を払ってください。
大企業や金融機関で一番偉い人は、決裁権限に一番近いことは間違いないです。
私は一番偉い人に50%程度目線を配り、残りの50%を他の参加者に目線を配るようにしています。
一番偉い人の心を動かすことが、大企業・金融機関を使い倒す第一歩だと思っています。
時折、一番年配で威厳がある一番偉い人の存在にビビって、立場の最も低い人に助けを求めるような視線を送りながらプレゼンする人がいます。
プレゼン中の精神状態はラクになるかもしれませんが、正直効果は半減していると思ってください。
私の金融機関在籍中、下っ端である私にラブコールのような視線を送って話をしてくる人がいました。
「部長の方見て話してよ!」と心から思い、私は1分程度下を向いて目線をそらしてみて、「まだこっち見ているかな?」と顔を上げてみると、相手はまだこっちを見て助けを求めていた姿に、若干キュンとした記憶があります(残念ながら、相手の提案が軌道に乗ることはありませんでした)。
お作法その4:カタカナ、英語はNG!オジサンでも理解できる平易な日本語で話しましょう
巷にはカタカナや英語での表現で溢れています。
特に優秀な若手ベンチャー経営者ほど、日常の業務でそういった表現を難なく使って仕事をしていることと思います。
そして、そういう環境に慣れた人にとっては、カタカナや英語の表現を使った方が、真の意図を伝えやすい思考回路となっているものと思われます。
ただ、特に大企業や金融機関の「一番偉い人」(=決裁権限に一番近い人)はシニアマネジメントであることが多いです。
若手経営者が使うカタカナや英語表現を理解していなかったり、そもそもそういった言い回しに嫌悪感を抱いている人もいます。
したがって、可能な限りプレゼン資料や言葉遣いに平易な表現を心掛け、誰でもわかる言葉でコミュニケーションをとることをおすすめします。
以前、最近流行のDX(デジタルトランスフォーメーション)を「デラックス」と読んでしまっていたシニアを見たことがあります。
こういったシニアマネジメントに、「デラックスではなく、デジタルトランスフォーメーションです!」と部下の面前で指摘してしまったら、その方の威厳を貶めかねず、ミーティングが成立しなくなってしまいます(ただ、さすがにDXはビジネス用語として今や常識かな?とも思ったので、そのシニアの勉強不足が露呈された気もしました)。
最低限のカタカナや英語は使わざるを得ないので、相手のレベル感に合った表現を選択できるように注意してください。
お作法その5:「今すぐ決めて!」はNGです
プレゼンを終えたベンチャー企業経営者にありがちなのが、「こんな素晴らしい提案なんですから、今すぐ決めてください!」と歩み寄ってしまうことです。
プレゼンを聞いていた大企業・ベンチャー企業経営者の心も大きく動かされ、是非とも提案を実行したいと思っても、それを即決することは誰にもできません。
大企業や金融機関では、社長や頭取であっても、自分ひとりで独断的に物事を決められる範囲はごくわずかです。
全てが決められたプロセスで検討され、社内の合意形成が図られたのち、晴れて物事を前に進めることができるのです。
一方で、ベンチャー企業経営者はスピード感もあり、ほぼ全ての権限が集中していますので、大企業・金融機関の「社内で検討します」という遅々たる回答にウンザリすることが多いと思います。
ただそこは、相手の立場や環境を理解し、「検討してもらうこと」を許容することが肝要です。
しかしながら気を付けなくてはならないのは、大企業・金融機関担当者にとっての「検討します」は時としてお断りのフレーズであることも多いです。
「無理です」とか、「それは対応できません」という意思決定の権限も基本的には社内の合意形成が必要なので、「検討します」というステータスとして、時間の経過とともになかったことにする、という常套手段であることも多々あります。
したがって、検討することを許容しつつも、それがお断りでないことを見極め、面談後、定期的に検討状況をトレースする技術もまた、大企業・金融機関と接する場合に必要とされるスキルとなります。
私が良く使う手段は、面談後、参加者全員をCCに入れたお礼メールを送り、定期的にそのお礼メールの「全員に返信」を使って状況確認する方法です。
これは、案件ごとに担当者が指定(一番偉い人ではなく、職位が下の人)され、その人と直接的なコミュニケーションをとることになるのですが、お礼メールを使った全員に返信を活用した状況確認をすることで、担当者の案件放置を防止する効果があります。
担当者と1対1モードに入ってしまうと、なかなか一番偉い人に状況進捗を訴える手段がなくなってしまうので、このお礼メールを大切に使うようにしています。
まとめ
以上5つの「お作法」を紹介しました。
お読みになられた方は、「面倒くさいな」と思われたかもしれません。
その感覚は間違っていません。
面倒くさい存在。
それが大企業や金融機関なのです。
本来であればそんな面倒くさい存在と付き合うのは非効率なのですが、前回もお話した通り、大企業や金融機関にはベンチャー企業がのどから手が出るほど欲しい、ヒト・モノ・カネ、そしてネットワークがあります。
ちょっとしたお作法を身に付けるだけで、それらのリソースにアクセスし、ベンチャー企業のビジネス成功に役立つのですから身に付けない手はありません。
相手がサラリーマンであり、合意形成には明確なプロセスと権限設定が存在すること。
それを理解して大企業・金融機関と接するように心がけてみてください。