岩田松雄 起業家=社長になる人のための仕事の流儀

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年01月に行われた取材時点のものです。

新刊「いつ、どこでも求められる人の仕事の流儀」の著者が起業家に送るメッセージ

(2018/01/11更新)

起業すると荒波に遭うがごとく多くの課題が出て来て、起業して生き残る人と突破できない人が存在します。そんな中で、求められるビジネスパーソンの条件について書かれているのが「いつ、どこでも求められる人の仕事の流儀」。著者の岩田松雄氏は、スターバックスコーヒージャパン、イオンフォレスト(THE BODY SHOPの日本の運営会社)、アトラスなど多くの企業の社長を務め、業績をあげてきました。

特筆すべきは「業種や条件の全く異なる会社で、難しい局面から、いずれも業績を上げてきたこと」。現在は「岩田松雄リーダーシップスクール」を運営しリーダーシップ教育に力を注いでいます。そんな岩田氏が出した新刊が「いつ、どこでも求められる人の仕事の流儀」です。
異なる条件で常に経営者として実績を上げてきた岩田氏の語る仕事の流儀について、岩田松雄氏の指導も受ける創業手帳の創業者、大久保幸世が、起業家・経営者、スタートアップで働くメンバーの目線で話を伺いました。

インタビュアー 創業手帳(株)代表取締役 大久保幸世

岩田 松雄(いわた まつお)
株式会社 リーダーシップ コンサルティング代表。
立教大学ビジネスデザイン科教授・早稲田大学非常勤講師
元スターバックスコーヒージャパン代表取締役最高経営責任者。

1982年に日産自動車入社。製造現場、セールスマンから財務に至るまで幅広く経験し、社内留学先のUCLAビジネススクールにて経営理論を学ぶ。帰国後は、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ ビバレッジサービス常務執行役員を経て、2000年(株)アトラスの代表取締役に就任。3期連続赤字企業を見事に再生させる。

2005年には「THE BODY SHOP 」を運営する(株)イオンフォレストの代表取締役社長に就任。店舗数を107店から175店舗に拡大しながら、売上げを約2倍にする。伝説の創業者、アニータ・ロディックからの信頼も厚かった。

2009年、スターバックスコーヒージャパン(株)のCEOに就任。「100年後も輝くブランド」に向けて、安定成長へ方向修正。ANAとの提携、新商品VIA(スティックコーヒー)の発売、店舗内wifi化、価格改定の実行など次々に改革を実行し、業績を向上。日本に数少ない“専門経営者”として確固たる実績を上げてきた。
2012年より約1年間産業革新機構に参画。
2013年に真のリーダー育成のための(株)リーダーシップコンサルティング設立。

2010年UCLAよりAlumni 100 Points of Impactに選出される(歴代全卒業生37,000人から100人選出。92年卒業生では唯一人)

変化が激しい時ほど、自分のミッションに従う

大久保:岩田さんは繰り返し「ミッションが重要である」と説かれていますが、スタートアップでは、その場の状況で、素早く判断して行かなければならないと思います。起業という変化が激しい状況においても、ミッションは大切でしょうか?

岩田:ベンチャー企業に限らず、経営者は環境の変化にその都度迅速に意思決定をしなければなりません。変化が激しい時ほど、自分何のために起業したかの原点(ミッション)に照らして考えれば、答えがブレずに見えてくるはずです。

また一人で事業をしている時には明文化する必要ありませんが、メンバーが一人二人と増えていくに従い、ミッションの重要性が更に増してきます。人それぞれ違った価値観を持っているので、ミッションを明示することで、自分達の事業の目的(ミッション)やその方向性(ビジョン)、道中の行き方(バリュー)を合わせることが大切です。

大久保:ミッションを浸透させるにはほめることが大事ということですが、それは何故でしょうか?

岩田たとえルールやマニュアル違反をしていても、ミッションに従って行動をした人を褒めることによって、皆がミッションに従った行動を安心してできるからです。

通常ミッションというのは漠然としています。事例ごとに自分達の判断の軸(ミッション)を確認していくことが大切です。

またある人を褒めるということは、他の人ができていないから褒めるわけです。皆ができていたらわざわざ皆の前で褒める必要はありません。ある人を褒めるということは他の人を叱っていることと同じことになるわけです。できていない人を叱るよりも褒めることの方が、雰囲気が断然良くなります。同じ効果なら雰囲気のよくなる褒めることの方が良いでしょう?

こだわりとは、「自己満足」ではなく「飽くなき改良の意欲」

大久保:「承認が大事」とおっしゃっていましたが、その理由はなんでしょうか?また、承認するには何から始めればいいでしょうか?

岩田承認とは相手の存在を認めてあげること。まず相手に関心を持ってよく観察することから始めると良いでしょう。

そして気の利いた挨拶をします。単に「おはよう」というより、「髪型変わった?」「そのカバン素敵だね」などと挨拶されれば、皆嬉しいと感じるはずです。

大久保:さらに、「個性やこだわりが大事」ということもおっしゃっていましたが。こだわりは、一歩間違えると独善的になってしまう恐れもあると思います。個性やこだわりが良い方向に作用するには何が必要でしょう?

岩田:提供するサービスや商品をお客様に喜んで買っていただくには、他と違った価値をつけなければなりません。いわゆる差別化戦略です。競合と違った付加価値(=こだわり)をつけることが大切です。

ただ、こだわりとは自己満足ではありません。お客様への最善のサービス、飽くなき製品改良への意欲をさすのです。「神を細部に宿らせる」のです。いわゆる「おもてなし」とは、お客様に対して10の準備をして、お客様が気がつくのは1かもしれない。それでも良いと腹をくくるサービスのことです。

良いと思ったことはすぐに真似してみる

大久保:スターバックスの取り組みで、カードを渡すという仕組みが面白いなと思いました。ほめるといってもなかなか継続するのが難しい。それを上手く仕組み化していると思います。会社にとって重要なことを忘れないように形にするには、どういうこと仕掛けが有効でしょうか?

岩田:皆さんの会社でも、GABカードを自社流に作成すれば良いかもしれません。私が指導しているあるベンチャー企業では、実際にスターバックスのGABカードを少し大きくして作成しています。

このように、良いことはすぐに真似てみることも大切だと思います。他部門人や仕事でお世話になっている方々に感謝を伝える仕組みづくりを考えてみることをお勧めします。あとは朝礼や会議などの初めにトップ自らできるだけ社員の素晴らしい行動に感謝の言葉を添える習慣づけをすると良いと思います。

解説:「GAB」「GABカード」

スターバックスでは「GAB」=グリーン・エプロン・ブック(Green Apron Book)というパートナーに配布される冊子があります。
その中にはスターバックスが最も大事にしていること、全てのパートナーが目指す事が書いてあります。GABカードには5種類あり、5つの基本動作がそれぞれのカードに書かれています。

GABカード5つの基本動作
  • 歓迎する
  • 心を込めて
  • 豊富な知識を蓄える
  • 思いやりを持つ
  • 参加する

特徴的なのが、パートナー同士で、接客がいいなと思ったり、何か助けてもらったら、5種類のカードから選んで、裏側のメッセージ欄に感謝や賞賛の言葉を書く、ということ。飾ったりIDカードに入れたりしますが、スタッフ同士の切磋琢磨、承認につながる。岩田さんは2年間で段ボール2箱分ものカードをもらったそうです。

スタートアップでも、①大切にしている価値観、目指すべき方向をまとめたもの(冊子、デジタルでも可だがまとまったもの)、②承認、ほめるための仕掛けがあると良いでしょう。

「誰に売って」、「誰に売らないか」を明確にする

大久保:「ラーメン屋や鮨屋のがんこおやじで売ってあげない」という姿勢もあり、それは対象を明確にする上でありだとありました。総合的なサービスはやはり大手が強いと思いますが、小が大に勝つ、あるいは起業においても絞り込みということでは同じようなことが言えますか?

岩田:日本には1億人を超える人がいます。世界に目を向ければ、74億人の人がいます。その1%も顧客になれば大企業になれます。ですから誰をターゲット顧客にするかを明確にして(誰に売らないかを明確にする)、その人たちのニーズに特化したサービスをすれば、少なくとも100億円ぐらいの会社にはなると思います。万人に向けたサービスや商品を誰も指名して購入したいと思わないはずです。

大久保:リーダーシップは多数決ではないとあります。
例えば著作にはゴーン氏の事例、戦争前の外務省の話などがのっていますね。起業家を取材すると飛躍的に成長する際に多数決ではない大きな決断はトップがやっている。メンバーや株主、周囲が反対もしくは、あまり乗り気でない中で、トップが責任を負って決断するというケースを聞くケースが多いような気がします。

通常なら多数決的な意思決定でも良いかもしれませんが、難しい局面ほど、厳しい決断をすることがトップの仕事だと思いました。
多数決ではない決断をリーダーがする、できるためには色々な要素、があるように思いますが、どういった力を養わないといけないでしょうか?

岩田:リーダーが持っている情報量は、リーダー以外が持っている情報と比べ圧倒的に多い。また今まで実績をあげてきたからこそリーダーになっているはずです。つまり他の人よりも多くの情報と経験を持っていて、視野が広い。もちろんメンバーの意見を聞くことはとても重要だが、最終決断はリーダーがするべきだと思います。そのために誰よりも読書をして勉強したり、社外の人と有意義な交際を続け、社会の変化や情報を取る努力をする必要があります。

大久保:著書の中で「レベルの高い第5水準のリーダー」という話が出てきます。カリスマ経営者よりさらに上のレベルになると、むしろ目立たないということですが、それはなぜでしょうか?また、岩田さんは多くの実績を上げてきたので、カリスマ経営者とは言えないのでしょうか?

岩田:とんでもありません。私はただの普通のおじさんです(笑)。人としての謙虚さと事業に対しての不屈の精神を兼ね備えた第5水準のリーダーは、うまくいけば「運が良かった」「仲間がよかった」「お客様に助けられた」などと決して自慢をしないから目立たないのです。

もちろん松下幸之助さんのように大きな実績挙げられ、著作も多いリーダーは第5水準と言えども目立ちます。その経営の神様と称せられる松下さんでも、その成功の要因を尋ねられたら、「9割は運」と答えられていました。

解説:第5水準のリーダー

全米1453社を調査・分析した『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』原題[GOOD TO GREAT](ジム・コリンズ 山岡洋一訳/日経BP社)には、「良い(GOOD)会社」が、「偉大な(GREAT)企業」に飛躍した理由が書かれています。その飛躍に向かう変化点には、必ず「第5水準のリーダー」が存在していたことを挙げています。

「第5水準のリーダー」は、運がよかった、仲間に恵まれた、環境に恵まれていたと考え、うまくいかなければ自分自身を見つめ直して、自分に責任があったと謙虚に反省すると言います。

水準は、以下のように分類されます。

第1水準

才能、知識、スキル、勤勉さによって生産的な仕事をする「有能な個人」

第2水準

組織目標の達成のために自分の能力を発揮し、組織の中で他の人たちとうまく協力する「組織に寄与する個人」

第3水準

人と資源を組織化し、決められた目標を効率的に効果的に追求する「有能な管理者」

第4水準

明確で説得力のあるビジョンへの支持と、ビジョンの実現に向けた努力を生み出し、これまでより高い水準の業績を達成するように組織に刺激を与える「有能な経営者」。いわゆる「カリスマ経営者」は、この第4水準に定義されます。

第5水準

個人としての謙虚さと職業人としての絶対にやり抜く意思の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを持続できる企業をつくり上げることに情熱を燃やす人、と同書では定義されています。

目に見える報酬よりも、精神的な満足を求めている

大久保:今の若い世代は「草食」「悟り」とも言われています。戦後の不足の経済では、達成するべき対象が明確だったと思います。つまりモノがないのが「悪」で、製品を作り会社が成長するという明確な分かりやすい「善」、ゴールがありました。

一方で、現在では、あらかた欲しいものが手に入る世の中です。必ずしも会社に入っても会社が成長していくとは限らないどころか、多くの有名企業も人を減らす方向に行っています。前に進んで皆を引っ張れば良い時代と違って、現在ではリーダーの役割が難しくなってきている時代でもあると思います。今と昔でリーダーシップの本質に変化はあると思いますか?

岩田:私自身は、リーダーの本質に変化はないと思っています。みんなの目標や夢が物質的なものではなく、より高度な精神的な満足に向かっているということです。給料や昇進などの目に見える報酬よりも、自己実現や自己効用感などの精神的な満足を求めている人が増えています。このことをきちんと理解して、メンバー一人ひとりの自己達成を意識したリーダーシップが求められていると思います。

それぞれの人生におけるミッションや仕事におけるミッションを共有化することが大切だと思います。

大久保:自ら組織を作り率いる、ということで究極のリーダーシップともいえる起業ですが、日本は起業したい人がアメリカや中国に比べると少ないと言われます。その現状についてはどう思いますか?

岩田:日本の教育は意識的にリーダーを育てる教育になっていません。東大といえども偏差値の高いお受験プロが行く大学で、決してリーダーを育てる大学になっていない。不祥事を起こしている大企業の経営者に東大卒が多いのを見ればわかります。日本の教育は「才」ばかり教えて「徳」の教育をしていないからです。

海外の国と比べる必要は全くありませんが、自分の人生におけるミッションを明確に持っていないことが原因ではないかと思います。起業はあくまでも自分のミッションを実現する手段ですから、そのミッションが明確でなければ起業はできないと思うからです。

一方最近日本でも起業家が増えていることは実感しています。ただ量は増えて来ているが、質がまだ伴っていない気がしています。リーダーシップを学びたい方は、ぜひ私が主宰する「リーダーシップスクール」の門を叩いて見て下さい。

この本は、今までの集大成と言える

大久保:新刊の「いつ、どこでも求められる人の仕事の流儀」(三笠書房)を執筆したきっかけはなんでしたか?また、特にどんな人に読んで欲しいですか?

岩田:昨今「働き方改革」が叫ばれていますが、私は「働き方」などは枝葉末節な話であり、「働く意義」(ミッション)をしっかり考えることが大切だと思い書きました。

この本は今まで私が出してきた本の集大成のような本です。一人でも多くのビジネスパーソン、起業家の皆さんに読んでいただきたいです。よろしくお願いします!

大久保:起業家、およびスタートアップで働く人に向けてのメッセージをお願いします。

岩田起業やスタートアップは初めからうまくいくはずはありません。どんな困難にもめげず、常に明るく、前向きに頑張ってください。そしてぜひ最初の志(ミッション)を持ち続け、人間としての成長を目指してください。

いろいろなベンチャー経営者を見ていると、結局経営者の器以上に会社は決して成長しないことを実感しています。仕事を通じての人間成長をぜひ目指してください。そうすれば必ず会社も成長していきます。

岩田氏の著書「いつ、どこでも求められる人の仕事の流儀」が1月13日に発売!

岩田氏の著書「いつ、どこでも求められる人の仕事の流儀」が1月13日に発売されます。
詳しくは、こちらからご覧ください。

(取材協力:株式会社 リーダーシップ コンサルティング 代表 岩田 松雄)
(編集:創業手帳編集部)



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