マルゴト 今啓亮|ベンチャー界隈の最新採用事情とフルリモートでの自社運営に迫る!
仕事も子育てもフルコミット!人事・採用のプロ集団をフルリモート運営する理由とは
「誰かいい人いないかな……」。
昨今の人手不足に思わず溜息をついてしまう起業家も多いのではないでしょうか。そんな採用の悩みを“まるごと”引き受けてくれる月額制サービスが「まるごと人事」です。プロフェッショナル集団を擁するマルゴト株式会社の社長が今啓亮(こん・けいすけ)さん。今さんは「誰かいい人」を探すのではなく、自社のビジョンに合う「こんな人」を探すことが大切と話します。
今回は、今さんに採用の勘どころをはじめ、ワークライフバランスを重視した末のフルリモートワークでの自社運営などについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
マルゴト株式会社 代表取締役
1986年生まれ・北海道出身。北海道大学卒。大学在学中に家庭教師仲介で起業。新卒で東京のベンチャー企業に入社し3年間勤務。
2013年にカンボジアで人材紹介会社を創業し、登録者15,000人に成長させて2年で会社譲渡。
2015年に東京でマルゴト株式会社を創業。月額制の採用代行”まるごと人事”の提供を開始。全員がフルリモートで働くユニークな組織運営を行う。
2022年に本社住所を東京から札幌に移転し、自身も関東から札幌に移住。
著書『中途採用の定石』
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業直後こそ採用が必要な場面も多いのですが、採用にそこまで費用がかけられない状況かとは思います。そこで創業手帳は、スタートアップの採用のポイントをまとめた「採用チェックシート」を作成しました!無料でご利用いただけますので、是非ご活用ください。
この記事の目次
学生起業から営業マンを経てカンボジアへ!急成長する国で「やりきった」2年間
大久保:カンボジアでの事業を経て、現在の事業である「マルゴト」を設立されたのですね。なぜカンボジアでの起業となったのか、ヒストリーを教えて下さい。
今:男子校で6年間寮生活をしながら医学部を目指していたのですが第一志望に落ちてしまい、北海道大学教育学部に入学しました。そこで起業家の先輩と出会って「なんて楽しそうな働き方をする大人なんだろう」と刺激を受け、私も学生と家庭教師の仲介サービスで、学生起業をしたんです。卒業後は社会人として3年間修行をしようと、ベンチャー企業で営業マンをしました。
急成長している企業で3年勉強させてもらい、さぁ次は何をしようかと思った時に、旅行で訪れたカンボジアの活気に惹きつけられたんです。すごい勢いで伸びていて国全体がベンチャー企業のようでした。ここなら26歳の自分にもチャンスがあるに違いないと飛び込みました。
大久保:カンボジアでは現地の人材を日系企業に紹介する人材会社をされていたんですよね。言葉や法律、お国柄など、日本での起業とは色々違いそうですが、その点いかがでしたか。
今:そうなんです。カンボジア語はもちろん、現地のキャリア観などもわからないので、日本語ができるカンボジア人のスタッフをまず雇い入れました。彼に頼りながら、最終的には2年間で登録者約1万5,000人、社員32名を抱える会社に成長させることができました。当時26歳の私は若く経験の浅い社長でしたが、同年代の社員が多かったこと、国全体の急成長の世相もあり、マネジメント面はうまくいったと思います。いっぽう、国の急成長の影響で最低賃金は2倍に跳ね上がりました。こういう日本ではありえないことも起こるので、全方位に刺激的でしたね。
会社を譲渡したのは、現地の人材会社の中でトップグループに入り、ここからは他社との顧客の奪い合いになると考えた時に「やりきったな」という気持ちが湧いてきたからです。ちょうど結婚したタイミングということもあり、日本に戻ろうと決意しました。2015年のことです。
家族ファーストで仕事にもフルコミットできる道を模索
大久保:ちょうどいいタイミングだったのですね。そこからマルゴトの事業を始められたのはどういったきっかけだったのでしょうか。
今:帰国してしばらくは様々な人に会って話を聞き、次の事業を考えていました。ちょうどその頃、妻が妊娠したことが分かったんです。バリバリ仕事をしながら子育てにもしっかり参加したい――。どちらにも注力するにはどうすればいいか考えた結果、自宅でフルリモートでできる仕事をしようと決めたんです。
営業代行や人事の説明会の運営、スタートアップのバックオフィス業務など様々な業種で仕事を請け負う中で、好きで得意な人事系の仕事にしぼって事業化していったという経緯です。ですから、創業理由は「フルリモートで働きたいから」ということになります。勤務スタイルを優先し、業種は後からついてきました。
大久保:家族ファーストなんですね。
今:まさにそうですね。実は昨年2022年の子どもが小学校に入るタイミングで、東京から親のいる北海道に引っ越しました。私は、欲張りかもしれませんが、仕事・家族・趣味・人間関係・健康など、すべてをうまくいかせたいんです。ひとつ崩れると他が引っ張られるので、そのバランスの保持にはとても注力しています。2015年から筋金入りのリモートワーカーとしては、コロナ禍という災厄の産物とはいえ、リモートワークが一般化した流れ自体は嬉しいですね。
全社員リモートワークのメリットと工夫
大久保:マルゴトは今さんだけではなく、全社員リモートワークなんですよね。
今:ええ、約150名の社員は全員フルリモートで仕事をしています。東京都にいる人は16%、あとは北海道から石垣島まで本当にバラバラです。女性比率も高く、85%が女性です。東京に出社することはできないけれども働きたい優秀な人というのは、日本中に本当にたくさんいるんですよ。そういう人たちのための会社があってもいいかなと。そこに特化して最も働きやすい職場を作っているイメージです。
大久保:100名以上のリモートワークで業務のクオリティを保つのは素晴らしいと思います。昨今はリモートワークから出社に切り替える会社も出てくるなど様々な動きがある中で、運用のコツなどはありますか。
今:売り上げだけ考えたら、多分出社スタイルのほうがいいと思うんです。新人の育成はリモートでは少しやりにくいですし、クライアントのオフィス常駐などを請け負えばもっと単価をあげていけます。ただリモートワークは、身支度や通勤の時間を自分の人生を豊かにするための時間に充ててもらえるなど、個人単位でみれば非常にメリットが大きいんですね。
ですから、8年前からリモートワークをしている知見を総動員して工夫をこらしています。具体的には、つまずいた時にひとりで抱え込んでしまうとうまくいかなくなるので、5人1組のユニット制にしたり、メンター制度を作ったり、部門を超えて趣味で繋がるコミュニティを作ったりといったことですね。リモートワークは、「ひとりが気楽でいいです」という人もいれば「繋がりながらやりたいです」という人もいるので、どちらのタイプの社員も居心地のいいような職場を作っています。
人事を「まるごと」請け負うプロ集団のノウハウとは
大久保:あらためて、マルゴトではどんな事業を展開されているのでしょうか。
今:月額制の採用代行サービス「まるごと人事」を軸に、「まるごと管理部」「採用ピッチ制作」「採用広報代行」など、採用まわりのことをまるごと請け負っています。クライアントはベンチャー企業など事業が伸びている会社が多く、メイン業務は中途採用を通しての人材補強です。
弊社のスタッフは全員社員か契約社員で、人事・採用のノウハウをチームで共有しています。常に120社以上とお取引があり、必要な時にクオリティの高い仕事を安定的に提供できていると自負しています。
大久保:月額制でのアウトソーシングでの人事業務ということですね。クライアント企業にとってはどういうメリットがあるのでしょうか。
今:内製化よりも外部パートナーのほうが人事スキルが高く、効率がいいことが大きなメリットです。人事専門で何社も渡り歩いている人材って、そういませんよね。普通はその会社で初めて人事をする、もしくは数回目といった感じでしょう。それに、大企業とベンチャーでは、採用方法はほぼ真逆です。大企業は放っておいても応募者が集まるので、選抜する方法を考えます。しかし、ベンチャーはまずどうやって応募者を集めるかの勝負となってきます。私どものような外部パートナーは様々な規模の会社の採用に関わってきていますから、その数だけ採用の経過と結果を見てきています。試行錯誤を最短にできるんですね。
また、ベンチャー企業は常に採用ができる状態ではない場合が多いので、人事の仕事にも波があります。しっかり内製化してしまうと、人事スタッフでありながら「採用がない月は営業をやってね」といった仕事の割り振りになり、本人の希望とのミスマッチが起こらないとも限りません。その点、弊社は月額制なので、必要ない月はストップしていただいて構わない。やはり効率がいいと思います。
大久保:なるほど。採用の専門家をおいた結果、すごく業績が伸びた事例は聞いたことがあります。
今:そうなんです。採用がうまくいかなかったら事業は伸びません。人材を育成することももちろん大切ですが、やはり採用を成功させるほうがインパクトが大きいし早いんですね。ここは事業計画に直結しますから、絶対成功させたいなら、外部パートナーなど経験のあるプロをチームに入れてやるほうがいいと思います。
大久保:具体的にはマルゴトにはどのような相談がきて、どう仕事を進めるのですか。
今:今は広告からSNSまでチャネルがたくさんありますから「どの媒体がいいの?」といきなり聞かれることも多いのですが、それは本当に会社によるんですよね。会社の魅力とターゲットを丁寧に洗い出し、媒体を決めてから運用に入ります。昔は求人広告をどーんと1か月掲載して何人来るか待つといった感じでしたが、今は企業から直接連絡をしてスカウトしていくことも大切です。WantedlyやGreenなどSNS的な運用の求人媒体では、自分たちで自社の魅力を発信して更新していかないと、どんどん表示順位が下がって見えなくなってしまうので、そこもサポートしています。
ひとつ言えるのは、人手不足の現在においていい人材を採用したいなら「転職潜在層」を狙うということです。今すぐ転職は考えていないけれども、サイトに登録して情報収集がてら企業を見ている人たちですね。いつ転職するタイミングが来るかわからない彼・彼女たちに、いかに自社の情報を見てもらい続けるかという意識を持つといいと思います。ですから、社長自ら「こんな会社にしたい」「うちの会社のここが面白い」など、どんどん発信してほしいですね。
大久保:逆に、採用の失敗事例に共通するパターンはありますか。
今:「自分から動ける人」「地頭のいい人」など、基準がふわっとしすぎている場合は危険です。どんな人材が欲しいのか、ターゲットがばちっと決まっていないと、選考の基準が社内でもつれてしまいます。すると、自社にぴったりの人材が来ても、どこかの段階で絶対落ちてしまう。いつまでたっても誰も採れないという悲劇が起こります。自社が採用したい人/採用できる人の条件がはっきり言語化されていて、かつ理想論過ぎないというところは重要ですね。
あとは、単純にアクションが少ないということもあります。いい人をどんどんこちらから探していく時代ですから、待ちの姿勢だと知ってすらもらえません。自社の魅力を継続的に発信していくことが大切ですね。
採用には自社のビジョンを叶える力がある
大久保:これまでにマルゴトの経営での苦労話があればお聞かせ願えますか。
今:コロナ禍で、クライアントが一気に採用を見合わせた時期があったんです。弊社は月ごとの契約を売りにしていますからある程度は想定内ですが、コロナ禍はさすがに予想外でした。弊社のスタッフは社員雇用なので雇用は継続しなくてはいけません。瞬間的に赤字になりどうしようかと思ったのですが、逆に融資を受けて社員を採用し続けたんです。
裏をかえすと、求職者の間にリモートワークで働きたいというニーズが高まったタイミングでもあったので、クライアントは減ったけれども、採用は非常に好調でした。ここでリスクをとったこと、社員が頑張ってくれたこと、その相乗効果で、コロナ禍が収束してからぐんと事業が加速したので、ほっと胸をなでおろしました。
大久保:それは大勝負でしたね。これからの展望、そして起業家へのメッセージをお願いします。
今:私は、自分も他人も「やりたいことができるようになる」ことが好きなんです。社長はみんな「こんな世の中にしたい」「業界を変えたい」など、やりたいこと、すなわちビジョンがあって起業しているわけですから、そこを実現するためのお手伝いがしたいんですね。「それ、できますよ」「こういう人材がいたらできるじゃないですか、採用しにいきましょう」と伴走しながらどんどん夢を叶えてあげられる、採用にはそれだけの力やインパクトがあります。そうすれば世の中は絶対に前進するし、どんどんよくなっていくと思うので、これからもストレートに事業を展開していきたいですね。
また、起業家の皆さんには、重ね重ねにはなりますが、ビジョンや夢はひとりでは達成できないので、やっぱり人や仲間が大事だと伝えたいです。そういう意味で経営者にとって採用は大切なテーマですし、そこを事業にしている自分も身が引き締まる思いがします。2023年9月29日に採用のノウハウを詰め込んだ初めての著書を上梓するので、お読みいただけると幸いです。お互いいい会社を作っていきたいですね。
『採用広報から、スカウト文章、面接術まで 「本当にほしい人材」が集まる中途採用の定石』
今啓亮 日本実業出版社
即戦力を採用したいけれど、なかなか人が集まらないベンチャー企業や中小企業を主な対象に、「本当にほしい人材」に会社に来てもらうメソッドを今さんが解説した1冊。数多くの会社の採用を手助けしてきた経験、および自身の会社が人材を積極的に採用し急成長した経緯も紹介しながら、優秀な人材を確保する手法を解説します。
(取材協力:
マルゴト株式会社 代表取締役 今啓亮)
(編集: 創業手帳編集部)