マーケットエンタープライズ 小林 泰士|日本の農機具が海外で売れている!
日本の高品質な農機具は、海外で大人気
日本の農業は高齢化などによって離農される方も多く、農家には高価な農機具が行き場を失っているケースも多いといいます。そんな日本の農機具は高品質で壊れにくく、小回りが利くなど海外では大人気です。
日本の農機具が海外で売れたら社会的なインパクトも大きいですが、農家から買い取り、査定して輸出するのは手間がかかり、難易度も高いためにどこも手を付けられませんでした。そんな中で、体制を整え、日本の農機具の買取と海外輸出を手掛けるのが、マーケットエンタープライズグループです。
今でこそ中古品の再利用・リユースは、SDGs(Sustainable Development Goals /持続可能な開発目標)や循環型社会の必要性から注目が集まっていますが、同社は、創業時からリユース事業を主軸に事業を伸ばし、東証一部上場企業となったリユース・ベンチャーの旗手です。
そんなマーケットエンタープライズの小林さんに農機具の輸出や起業の経緯を聞きました。
株式会社マーケットエンタープライズ 代表取締役
1981年3月2日生まれ、埼玉県川越市出身。株式会社マーケットエンタープライズ代表取締役社長。東洋大学工学部を卒業後、ベンチャー企業を経て独立起業。2006年、株式会社マーケットエンタープライズを設立し、現職。2015年に東京証券取引所マザーズ上場。2021年2月には、東京証券取引所第一部へ市場変更を果たした。SDGsの実現を経営指針に掲げ、持続可能な社会とサーキュラーエコノミーの実現に取り組む。中核事業のネット型リユース事業のみならず、メディア事業やモバイル通信事業など多角化を進めており、中古農機の貿易事業にも進出した。国内16拠点、海外1拠点、グループ会社5社を率いている。数々の企業賞を受賞し、セミナーや講演の登壇も多い。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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起業から一貫して「リユース」にこだわってきた
大久保:本日はよろしくお願いします。2015年に東証マザーズ上場、2021年には東証一部に市場変更と絶好調ですね!小林さんは23歳で起業されたと聞いていますが、起業に来る経緯をお聞かせ願えますか。
小林:こちらこそよろしくお願いします。話はわたしが高校生だった頃にさかのぼります。私服の高校に通っていたこともあって、アメカジの古着ブームに乗せられていろいろな古着屋をのぞいたりしているうちに、価格の差や、値崩れしない商品とそうではない商品があるということに気づくような高校生生活でした。
大学時代はアルバイトを20種類以上経験し、たまったお金でバックパッカーをしていました。それもただ旅していたわけではなく、いろいろな国のマーケットで売れそうなものを買って帰って、日本のフリーマーケットやネットオークションで売っていました。当時から起業したいという気持ちはありましたが、自分の知識や経験不足を感じ、一度は企業に属して経験を積もうと、ベンチャー企業に就職しました。
就職したのは主に営業代行を行う会社で、通信機器や不動産、漫画喫茶のフランチャイズパッケージなど、在職した1年半で何種類もの商材を売りました。ただ、お客様から「もっとこうしてほしい」という要望があったとき、自社製品ではなく、売り切りを前提に歯切れの悪い回答しかできないことに嫌気がさして、お客様とWIN-WINの関係を実現するためにも起業を決意しました。
ただ、当時用意できたのは100万円の元手だけ。当時のベンチャーといえば、IT業界や人材業界が人気でしたが、競争相手が多いところで勝負するよりも市場がまだ小さく、成長が期待される業種の方が勝率が上がるだろうと思い、自分にいったい何ができるかを考え抜きました。
結果として、見つけたのが「中古電池×Eコマース」でした。
大久保:中古電池というと、一般家庭が使った電池ということなのですか?
小林:いえ、そうではないんです。当時は使い捨てカメラが人気で、その中の電池は容量が残っているのにも関わらず、プリント業者が廃棄していました。捨てるのにもコストがかかるので、引き取ってもらうのは業者としても大歓迎です。仕入れ値はゼロ円ですし、売れれば利益率100%ということで、すぐに大学時代の仲間に声をかけ、起業しました。業者から回収した電池を「日本一安い電池」という文句でサイトを作って売り出しました。
最初はゼロだった注文も、チラシや飛び込み営業の成果でどんどん注文が入るようになり、リピート率も6割を超える安定したビジネスに育ちました。仕入れ先もお客様も喜んでくれる上、環境にもいいというまさにWIN-WINのビジネスができたことは、非常に嬉しかったですね。
大久保:今でこそSDGsが声高に叫ばれていますが、そんなに以前から環境にもいい事業をされていたというのは素晴らしいですね。現在は中核事業のネット型リユース事業のみならず、メディア事業やモバイル通信事業など事業内容が多角化されていらっしゃるとのことですが、中古電池の販売から、どのように今の事業内容に変化していったのでしょうか。
小林:中古電池の次に着目したのは、学生時代から好きだったフリーマーケットの事業です。もともとは我々も大量の電池を販売するために出店していたのですが、途中からフリーマーケットを主催するようになりました。
最終的には36都道府県で延べ800回以上を開催するまでに成長しました。ただ、この時に気づいたのは、「リアルな場でのリユースの課題」でした。フリーマーケットで扱われる商品は、雑貨や衣服が中心で、貴金属や家電、高価なものや大きなものは出品が難しいですよね。受け渡しが大変で、高リスクだからです。その課題を解決するためには、知識やノウハウを持った事業者が仲介する必要があると感じ、このフリーマーケット事業を事業譲渡で売却後、2007年にインターネット専門のリユースショップ「高く売れるドットコム」をオープンしたのです。
大久保:当時はネットでの中古品販売というのは一般的だったのでしょうか。
小林:まだネットでの中古品販売は珍しかった時代ですね。最初はフィギュアや電動工具といった、ニッチですが確実に需要がある分野から始め、そこから徐々にいろいろな品目へと広げていきました。ここで買い取った中古品は、自社ECサイトをはじめ「ヤフオク!」「Amazon」「楽天市場」などの複数のサイトで販売しています。
日本の中古農機具が海外で喜ばれるわけ
大久保:最近、中古の農機具が海外でよく売れていると聞きましたが、本当ですか。
小林:はい。2017年から、農機具や建機、重機、医療機器といった専門商材のリユースを仲介する事業を始めました。例えば農機具でいうと、農家の人々が高齢化し、離農される方が増えたのに、農機具リユースの流通はエリアが限定的だったりすることもあり、買取の環境が整っていなかったのです。
そこで、事前査定の仕組みを取り入れた「農機具高く売れるドットコム」というサイトをオープンしました。農機具に詳しいオペレーターが対応するコールセンターも用意し、農機具を売りたい方が安心して売れる環境を整えたのです。
買い取った農機具は、整備士がいますので整備したほうがいいものは整備し、国内で売ったほうがいいと判断したものは自社サイトやオークションサイト「ヤフオク!」などに出品しますし、海外での販売も行っています。当社は、「ファームマート」という海外向けのECサイトを運営しており、輸出国は80カ国を超えています。
こういった取り組みには、新規就農のハードルを下げるというメリットもあります。農業は初期投資額が大きく、農機具を新品で買い揃えると数百万円から1000万円を超えるケースもあると聞きます。中古品を活用することで、就農のハードルが下がり、日本の農業の活性化につながるといいですね。
大久保:農機具の査定というと、かなり専門的な知識がないと難しいのではないでしょうか。
小林:まずは、査定時の注意点や検品方法をまとめたマニュアルを作成しました。その上で、農機具を事前査定できる担当者を置き、査定依頼に対応しています。全国各地のリユースセンターに査定の知識を身に付けた人材を配しています。
大久保:日本の中古の農機具は、どんな国に喜ばれるのでしょうか。
小林:現在約80か国と取り引きがあります。日本は稲作なので、田植え機やコンバインなどは、同じく稲作が盛んな東南アジアでニーズが高いですね。トラクターは全世界で販売します。イエメンなど、機械自体が珍しい国もあるので、そういったところでは屈託ない笑顔で喜んでくれますね。
マケドニアのぶどう農園やオランダのいちご農園など、実際に農機具が旅立った先を聞いていると、中古のものがまた違う場所で喜んで使ってもらえているということを実感して嬉しくなります。
やはり日本の小さな農地で活躍していた小回りがきく農機具は人気が高いです。Used in Japanの農機具は大切に扱われていたものばかりで、耐久性も高く喜ばれています。
リユースにこめた思い
リユースプラットフォーム「おいくら」
大久保:一貫して「リユース」にこだわって事業をされていますが、今後日本におけるリユースの立ち位置はどうなっていくと思われますか。
小林:日本は世界3位の経済大国で、なおかつ物を大切に使う文化を育んできた稀有な存在だと思います。これだけ多くのリユース企業が上場しているのは、世界中を見渡してもおそらく日本だけだと思います。長らく経済大国だった日本には、大きなマーケットが存在しています。
これから少子高齢化、人口減少に向かう社会で、既にある資源や物を大切に使うということは非常に重要なことであると思います。
日本人の消費行動にも変化が起こっており、リユースに抵抗がない人が特に若年層で増えているというデータもあります。また「再販価値」を意識して買い物をする人も増えた実感があります。「再販価値」というのは、「使用した後に販売した際、どのくらいの値段で売れるか」ということです。不動産などの大きい買い物だけではなく、家電やファッションなどの日用品においてもそういったことを意識しながら買い物をする人が増えたということです。
今後、日本社会でますますリユースが当たり前になり、そういったビジネスモデルが海外にも広がっていったら素晴らしいと思います。
大久保:今後の展望をお聞かせください。
小林:今、世の中では、大量生産・大量消費・大量廃棄の時代が終わり、SDGsの機運が高まっていますが、私たちは『持続可能な社会を実現する「最適化商社」』という言葉を長期ビジョンとして掲げています。
これまで個人では扱うことが難しいとされてきた農機具や、建設機器などのリユース事業を立ち上げ、メディア事業も堅調に拡大しています。モバイル通信サービスでは、6万回線を保有する事業になっています。
また、地域の課題を解決する為に、リユースプラットフォーム「おいくら」では自治体との連携も進めています。「おいくら」は全国1000店舗のリサイクルショップが加盟するリユースプラットフォームで、不要品を売却する際に、一括で買取査定の依頼ができ、買取価格を比較することができます。近年、ごみの量の削減に頭を悩ませている自治体は多く、ごみ削減は社会的課題となっています。「おいくら」は自治体と提携することで、不要品を廃棄物として捨てるのではなく、再使用する仕組みの構築を行っております。住民の方と自治体双方の廃棄コストによる経済的負担が軽減され、まだ使うことができる資産がリユースされ、循環していきます。今後も「不要になったら捨てる」から「不要になったらリユース」するという消費者の意識変化を促していき、循環型社会の実現を目指していきたいですね。
今後も社会や消費者のあらゆるニーズに対して、幅広い事業で課題解決をしていく組織でありたいと思っています。
大久保:本日は貴重なお話をありがとうございました。
(取材協力:
株式会社マーケットエンタープライズ 代表取締役 小林泰士)
(編集: 創業手帳編集部)