東証の市場再編の内容と考えておくべきこと

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東証プライム移行によって起こることとは?変更点と市場への影響


東京証券取引所(東証)が市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQを再編する予定になっています。
これまで長い間慣れ親しんできた市場区分が変わることで、一時的にせよ中長期的にせよ、様々な変化が起こることが考えられます。

東証の再編の理由や事情、さらに、今後起こりえる影響について検証しました。
これまで抱えてきた課題が改善される期待もありますが、一部の企業や投資家にはデメリットもあるかもしれません。
企業側も投資家側も、変更を余儀なくされる点に注意しつつ、新しい東証の成り立ちを見守りましょう。

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市場再編の理由・目的


東京証券取引所の市場区分の再編の主な理由は、これまで抱えてきた東証の課題を解決させることにあります。
東京証券取引所の市場区分は、これまであいまいかつ重複している部分があるなど、投資家にとってわかりにくく、利便性が低いものでした。
また、企業価値と上場基準、上場廃止基準が合っておらず、上場後の企業の怠慢を生む結果となっていました。

具体的には、市場第二部とマザーズ、JASDAQの位置づけが重複し、市場第一部についてもコンセプトが明確ではないことが上げられます。
また、新規上場基準や上場廃止基準、市場変更の条件などもねじれのような状態が起こっていました。
特に、東証一部上場の基準と一部への市場変更の条件の違いにより、市場変更によって一部上場するほうが直接上場するよりもハードルが低いという事態になっています。

そのために、東証一部上場企業には、直接東証一部上場を果たした企業と市場変更した企業が混ざり、中には時価総額や流動性が低く、企業価値の高くない企業も数多く存在しています。
こうしたことは、海外の投資家からも疑問視されており、東証一部の信頼性を損なう原因となりました。

これらの状況から、東京証券取引所の市場区分は新たに見直されることとなったのです。

市場再編での変更点


東京証券取引所の市場区分の再編では、大きく市場構造と上場の基準が変わります。これまで東証の抱えてきた問題の解決を目指す仕組みです。
東京証券取引所の新しい市場区分と各市場の新基準をチェックしておきましょう。

5市場が3市場に

東京証券取引所の市場区分は、これまでの5市場から3市場に変わります。
これまでの東証は以下の5市場でした。

  • 東証一部
  • 東証ニ部
  • JASDAQ(スタンダード)
  • JASDAQ(グロース)
  • マザーズ

新市場では、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3区分に再編されます。
プライム市場は最上位の市場であり、これまでの東証一部に当たりますが、旧東証一部の企業の中にはプライム市場への移行基準を満たさない企業も多いようです。

それぞれの新市場のコンセプトは次のようになります。

プライム市場

プライム市場は、新しい東京証券取引所の市場区分の中の最上位の市場です。
多くの機関投資家の投資対象として、十分な規模の時価総額を持ち、高いガバナンス水準を備えた企業が上場します。
流動性と信頼性があり、グローバルな投資家との対話を中心に据え、中長期的な企業価値向上にコミットする企業がそろう市場です。

位置づけとして、プライム市場は東証一部になりますが、一部の東証一部上場企業は基準を満たしていません。
これまでの東証一部上場企業の中から優良な企業のみを集め、本来の最上位クラスの市場をを目指すことが予想されます。

スタンダード市場

プライム市場に続く一定の時価総額を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えた企業が上場する市場です。
持続的な成長と中長期的な企業価値向上が期待されます。

前基準の東証二部とJASDAQ(スタンダード)が中心になると思われる市場です。

グロース市場

高い成長可能性を実現するための事業計画の進捗と開示が行われ、一定の市場評価を得られる企業が上場する市場です。
事業実績から見ると、相対的リスクは高い企業向けとなります。

これまでのマザーズとJASDAQ(グロース)の銘柄が集まると予想される市場です。

上場基準の変更

東京証券取引所の市場区分の見直しでは、市場区分ごとの上場気分が新たに設けられます。
それぞれ3市場に設けられる上場基準は、これまでの東証の問題点を改善したものとなる予定です。

ここでは、市場に出回る株式数や金額を示す流動性の高さと企業の透明や公正、かつ迅速・果断な意思決定を行うために重視されるコーポレートガバナンスについて紹介します。

プライム市場

プライム市場は、多様な機関投資家が投資対象とするのに適した流動性と信頼性を持つ企業を集めた市場です。
コーポレートガバナンス・コードについては、一段高いガバナンスについて定めた原則が適用されています。

新規上場基準、上場維持基準ともに厳しく、これまでの東証一部より上場が難しくなるでしょう。

流動性

プライム市場の流動性を示す基準は以下の通りです。

新規上場基準 上場維持基準
株主数 800人以上 800人以上
流通株式数 20,000単位以上 20,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 100億円以上
売買高 時価総額250億円以上 平均売買代金0.2億円以上
ガバナンス

投資家との建設的な対話の促進という観点から、安定株主が株主総会で特別決議可決に必要となる水準を占めることがないように流通株式比率が設定されます。

新規上場基準 上場維持基準
流通株式比率 35%以上 35%以上
経営成績

安定的かつ優れた収益基盤と財政状態を保つことが条件です。新規上場の基準は、以下の通りとなります。

  • 最近2年間の利益合計が25億円以上
  • 売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
  • 純資産50億円以上、純資産額が正である

スタンダード市場

スタンダード市場は、一般投資家が円滑に売買できる適切な流動性の基礎を備えていることが条件です。
ガバナンスについては、上場企業としての最低限の公開性が求められます。

流動性

スタンダード市場の流動性を示す基準は以下の通りです。従来の東証二部とJASDAQ(スタンダード)が統合された基準となりました。

新規上場基準 上場維持基準
株主数 400人以上 400人以上
流通株式数 2,000単位以上 2,000単位以上
流通株式時価総額 10億円以上 10億円以上
売買高 月平均10単位以上
ガバナンス

スタンダード市場は、海外の主要取引所と同程度の基準を採用しています。

新規上場基準 上場維持基準
流通株式比率 25%以上 25%以上
経営成績

安定的な収益基盤、財政状態を有することが条件となっています。新規上場基準としては、最近1年間の利益が1億円以上、純資産額はプラスであることが条件です。

グロース市場

グロース市場では、一般投資家の投資対象として最低限の流動性の基礎が必要です。また、ガバナンスについても、上場企業としての最低限の公開性が求められます。

流動性

グロース市場の流動性を示す基準は以下の通りです。

新規上場基準 上場維持基準
株主数 150人以上 150人以上
流通株式数 1,000単位以上 1,000単位以上
流通株式時価総額 5億円以上 5億円以上
売買高 月平均10単位以上
ガバナンス

スタンダード市場と同じく、海外の主要取引所と同程度の基準を採用しています。

新規上場基準 上場維持基準
流通株式比率 25%以上 25%以上
経営成績

グロース市場では、合理的な事業計画、高い成長可能性を重視し、時価総額を上場10年経過後40億円以上と定めています。

市場変更の緩和措置が撤廃

東証の新基準への移行では、市場変更の緩和措置が撤廃され、どの市場に上場していた企業も(未上場だった場合も)上位の市場に上がるためには同じ条件が課されることになりました。
これまでのように、マザーズから段階的に一部上場を目指すことで優遇されるケースはなくなります。

マザーズから東証一部へ市場変更する際、これまでのルールでは時価総額40億円で良いというルールがありました。
東証一部へ直接上場する際には時価総額は250億円が条件なので、破格の緩和措置です。しかし、新基準ではプライム市場上場の条件である時価総額は250億円に統一されます。
新基準には上場の仕方による緩い抜け道はありません。これによって、最上位の市場の基準のあいまいさが消え、規模もばらつきもなくなります。

市場再編スケジュール


東京証券取引所の市場区分は、2022年4月4日から始まります。
とはいえ、いきなり切り替わるわけではなく、上場基準に満たないからと言って「今日から上場廃止です」とバッサリ切り捨てられることもありません。

上場基準に不安がある企業はもちろん、そうでない上場企業も、市場再編のスケジュールを知って今後の変化に備えてください。
投資家の方も、どんな変化が起こるか知っておくことは大切です。

2021年9月1日~12月30日:上場企業による新市場区分の選択申請手続き
2022年1月11日(予定):移行日に上場企業が所属する新市場区分の一覧の公表
2022年4月4日:一斉移行

移行前の上場について

現在、東証第一部に新規上場を行う場合、プライム市場に新規上場を行う場合と同様の基準で審査が行われます。そのため、移行前の駆け込み上場などは意味がありません。
また、これまでのようにマザーズを経て一部上場を目指すことはできなくなるため、計画の見直しが必要な企業も出てくるかもしれません。

経過措置あり

2021年6月30日の移行基準日におけるデータの1次判定において、東証一部の上場企業のうち、664社がプライム市場の上場維持基準を満たしていないことがわかりました。
つまり、今のままでは東証一部だった企業664社がプライム市場に残れないことを意味します。
しかし、この基準未達企業の救済措置として、未達の場合でも書類提出によって経過措置を適用されることになっています。

経過措置は、希望する新市場区分の上場維持基準を満たしていない場合に使えるものです。
「上場維持基準への適合に向けた計画書」を提出すれば、希望先への移行が認められます。

再編による影響は?


東証の市場再編には、経過措置もあり、大きな混乱はないと見られていますが、今後の上場や投資行動などに影響がないとは言えません。
企業と投資家それぞれに起こりうる影響を考え、対策が必要な場合には早急に検討することが大切です。

企業側

企業側の変化としては、上場の条件が厳しくなったプライム市場への上場に対し慎重になることが考えられます。
また、再編によって基準が強化されたガバナンスコードの影響で、情報開示への対応に追われることも考えられる変化のひとつです。

株式の持ち合いや親子上場の解消が進む可能性

具体的に起こりえる変化としては、株式の持ち合いや親子上場の解消が進むと見られています。合併の動きも増えてくる可能性があります。

ESG(環境・社会・ガバナンス)対応が加速

今回の再編では、各市場のコーポレートガバナンスの強化も企業に影響を与える可能性を持っています。
今後は、これに伴い、ESG(環境・社会・ガバナンス)の重要性に注目が集まり、開示要求への対応が求められるでしょう。

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投資家側

投資家側の変化としては、TOPIXの銘柄の大きな変更や株主優待への影響が考えられます。
個人投資家としては、株主優待を楽しみに投資する人も多いため、優待を期待して投資している方は特に注意が必要です。

TOPIXが変わる

東証一部はTOPIXが全銘柄を組み込んでいましたが、市場再編に伴い、TOPIXの方針も変更されました。
これまでTOPIXの構成銘柄に投資していた人は、外れてしまった後の株価の変化に注意が必要です。投資信託やETFの投資対象から外れることで下落する恐れがあります。

株主優待が減る可能性

今回の再編では、プライム市場の条件として、株主数が2,200人以上から800人以上に変わりました。
そのため、多くの個人投資家を集めようとして行っていた株主優待をやめる企業が出てくるかもしれません。

株主優待は個人投資家に魅力を感じてもらうために行うことが多いものです。
しかし、今回株主数が減ったことで、無理して数を集める必要がなくなり、負担を減らすために優待を止める企業も出る可能性があります。

まとめ

東京証券取引所の市場区分が2022年に変わります。
これまでのあいまいな点や問題点の是正が期待できるため、東証の市場再編で本当の企業価値が見えてくる可能性が高そうです。

一時的な混乱を抑えるための措置もあるため、移行は問題なく進むと見られています。
ただし、新基準が始まった後は上場コストや株価の変化など、企業も投資家も考えるべきことがあります。
悪い影響が考えられる場合には、早めに見通しを立てて対策しましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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