市場調査とはどんなもの? 目的や事業に役立てるポイントを徹底解説
市場調査はビジネスに欠かせない過程。事業へ反映するコツについて解説します。
ビジネスを展開していくにあたり、自身の事業を飛躍させるためには、施策を取る前に市場調査を行うことが重要視されます。
しかし、市場調査とは何をすべきか、何から初めて良いかわからないという経営者もいるでしょう。
市場調査は、方法やポイントを押さえることで、その結果を事業に効果的に反映させることができます。
今回は、市場調査とはどのようなものか解説します。
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この記事の目次
市場調査とは何か
具体的に、市場調査とはどのようなものを指すのでしょうか。
市場調査の概要
市場調査は、企業が提供する商品・サービスにおいてより有効にユーザーに届け、適切なターゲット層に提供できるよう、市場についての情報を多方面から収集するものです。
ユーザーから直接声を聞き、商品やサービスにどのような需要があるのかを調査・分析し、既存もしくは今後提供する商品やサービスの有益性を図ります。
これにより、商品・サービスの改良や開発に反映させることができ、よりユーザーのニーズに寄り添った事業が展開できます。
また、ユーザーにとっても本当に欲している商品・サービスを手に取ることにつながり、双方に利点がある活動です。
マーケティングリサーチと何が違うか
市場調査と似た言葉が、マーケティングリサーチです。これら2つはおおむね似た意味を持ちますが、若干違った側面を持ちます。
市場調査は今現在の市場の状況をデータ化するものであるのに対し、マーケティングリサーチでは先の市場の変化も見据えた調査であるといえます。
異なる2つのポイント
・着地点について
市場調査でデータ化する情報は、現在の市場の状況に加え、これまでの傾向も含まれます。
一方、マーケティングリサーチは現在の市場の状況を分析し、将来的な市場の動きを予測する作業です。
・目的について
市場調査の目的は、既存の商品・サービスの品質向上、もしくは直近で開発するものに役立てる目的があります。
マーケティングリサーチは、将来的な市場の動きを把握することで、今後展開していく可能性のある商品・サービスの方向性の決定、販売戦略の策定を行うことが目的です。
市場調査を行う目的
では、市場調査はなぜ行う必要があるのでしょうか。
市場の状況を探る
自身が参入している、もしくは参入しようとしている市場において、ニーズや規模、主流となっている動きなどの状況を探ります。
市場は、提供する商品・サービスにとどまりません。販売形態や物流といった要素も加わり、それぞれの違いでユーザー層も異なってきます。
様々な要素を含め、自身が展開しようとする商品やサービスが狙った市場にとって有益かどうか、リスクはないかを分析し、直近の経営における意思決定に役立てます。
ユーザーのニーズを理解する
商品やサービスを実際に利用するのはユーザーであるため、ユーザーに受け入れられなければビジネスは成立しません。
ユーザーのニーズを理解することはビジネスの基本であるといえます。
企業側の思惑とユーザーのニーズがずれているといったこともよくある話です。また、企業がユーザーの潜在的ニーズを把握するのも、本来であれば困難でしょう。
そこで、市場調査を行うことで本当にユーザーが求めているもの、ユーザーに潜在しているニーズについて掘り下げることが、市場調査の目的のひとつです。
競合他社との比較を行う
市場に参入するにあたり、競合他社の動向を探ることも必須です。他社の商品・サービスとの差別化が図れているか、自社の強みが何かを知ることは大きなカギとなります。
そこで、市場調査で競合他社の状況を探り、市場でのシェアや経営戦略を把握し、自社が市場でどの位置に立つべきか、そのための経営戦略をどう立てるかを精査してください。
新たな市場参入におけるリサーチを行う
これからまったく新しい市場に参入する場合は、その市場で成果を上げられるか否かを測るために、リサーチを行います。
新しい市場では、既存のユーザー層や販売方法も異なってくるはずです。そこで、市場における新たなターゲットの傾向やトレンドを分析し、参入価値を予測します。
PEST分析について
新しい市場に参入するにあたり、PEST分析と呼ばれるフレームワークが役立ちます。以下のような観点で、それぞれの要素を分析します。
・政治的要因(Politics)
政治や法律の変化により、市場の動きにも変動があるかどうか
・経済的要因(Economics)
社会の経済動向で、商品・サービスの価格に影響するか
・社会的要因(Society)
ユーザーの意識、また年齢・人口の変化でニーズが変化するか
・技術的要因(Technology)
商品の生産技術の変化や特許などの情勢で影響が出るか
市場調査を行うメリット
では、市場調査を行うことで得られるメリットとはどのようなものでしょうか。
ユーザーの潜在ニーズを把握できる
商品やサービスの提供には、ユーザーが普段意識していない潜在ニーズを捉えることが大切です。
表層的なニーズだけでは本来の満足度を得るには足りない場合もあります。潜在ニーズを引き出し検討することで、自社独自の事業を展開することにもつながるでしょう。
そのために、ユーザーの深層心理を浮き彫りにする市場調査が必要です。
ユーザーの視点に立てる
企業側だけでユーザーのニーズを想定するには限界があります。
実際にユーザーのライフスタイルや価値観、購買行動の傾向を知ることで、ユーザー視点に立つことができます。
ターゲットとするユーザーが普段どのような生活をし、何に興味があるのかを分析すれば、今後の経営戦略にも役立てられるでしょう。
マーケティングの理由付けが明確になる
実際にマーケティングを行うにあたり、市場調査を行うことで方向性が有効であるか否かの理由づけになりえます。
販売戦略や広告の打ち出し方などがターゲットとするユーザーに確実に届くものとわかれば、戦略の意思決定もスムーズです。
また、競合他社の戦略と比べたユーザーの声を聞けば、自社の戦略をほかと差別化することもできます。
施策に対する説明ができる
マーケティング戦略を打ち出す時、上層部や他部署の同意を得るためにその施策が有効であるかどうかをデータで裏付けることができます。
例えば、マーケティング戦略と異なった方向性を上層部が打ち出したとしても、市場調査におけるデータを提示し説明することで上層部を説得することが可能です。
市場調査の方法
市場調査は主に以下の4つに分類され、それぞれに代表的な方法があります。
定量調査
定量調査とは、可視化できる数値を収集し、データとしてまとめるものです。この方法では、ユーザーの意見を直接聞くためにアンケートなどの手段を採ります。
インターネットでのアンケート
インターネット上でユーザーにアンケートを行い、データを収集して分析します。
インターネットではユーザーの声も集まりやすく、収集もスムーズでコストもかからないため行いやすい方法と言えます。
会場での調査
例えば、キャンペーンやテストを会場で行い、参加したユーザーに使用感や印象などの意見を集めて調査する方法です。
アンケートを郵送する調査
ユーザーの住所をインターネットなどで収集できる場合、実際に住所にアンケートを郵送し、回答を求めます。
主に、個人ではなくインターネットで意見を集めにくい企業や団体への調査に有効です。
モニター調査
特定のモニターに実際に商品を送付し、普段暮らしていく中で使い勝手やQOL向上に役立つかどうか率直な意見を求めるものです。
定性調査
定性調査は、数値にならないユーザーの意見をヒアリングし、率直に出た声からユーザーの潜在ニーズまでを分析する方法です。
グループインタビュー
複数人のグループに対し、同様のインタビューを行ってユーザーの意見を引き出します。インタビュアーは、ユーザーからの情報を的確に抽出することが求められます。
デプスインタビュー
ユーザーひとりに対し、インタビュアーひとりがインタビューを行います。対象者の意見を掘り下げられるほか、他社に漏らしたくない情報も収集できます。
オンラインインタビュー
インターネットを介してインタビューを行う形態であり、ユーザーも気軽に参加できます。また、いつでもどこでも実施できることから、導入しやすい方法でもあります。
エスノグラフィー
実際にユーザーのもとを訪問し、ライフスタイルや行動パターンを探るものです。この方法であれば、通常のインタビューでは掘り出せない情報も得ることができます。
統計データ調査
リサーチ会社もしくは政府などが発表している統計データを利用し、ユーザーの様々な属性ごとにデータを分析します。
公的機関が出しているデータをもとにするため、手早く精度の高い情報を得ることができます。
覆面調査
ミステリーショッパーとも呼ばれ、モニターが一般ユーザーとして商品やサービスを体験し、その感想や使用感を依頼主に報告します。
末端の動向を把握しにくいチェーン店などでよく用いられる方法です。
SNS調査
SNSを調査することにより、市場全体、もしくは企業単位でどのような意見が投稿されているか、ユーザーが何に興味を持っているかを迅速に把握することができます。
具体的に何を調査するか
では、市場調査で具体的に集める情報とはどのようなものでしょうか。
プロモーションの手段
商品・サービスのプロモーション手段として、どのようなものが適切かを分析します。
ターゲットとするユーザーが興味を惹かれるプロモーション方法を実際にリサーチし、プロモーションに反映させることができます。
商品・サービスの価格
商品やサービスについて、ユーザーが手に取りたいと思う適切な価格をリサーチします。
この時、商品やサービスの利点や品質をきちんと説明し、その上で高すぎない・不安を感じない価格帯を定めていきます。
商品開発の方向性
新商品の開発などで、ユーザーがどのようなニーズを持っているかを調査し、方向性を決めます。
現状、ユーザーが持っている要望や潜在ニーズを適切に新商品に取り込むことが可能です。
市場のイメージ
参入する市場において、市場そのもの、もしくは企業単位でユーザーがどのようなイメージを持っているかを把握します。
例えば、自社ブランドの知名度が低ければ広告手段を再検討し、満足度が低い場合は商品改良に役立てるといった今後の戦略に反映できるでしょう。
市場調査を行うステップ
ここから、市場調査を行うステップについて説明します。
目的を洗い出す
まずは、自社が何を問題にしているか、それを解決するために何をすれば良いか、目的を明確にしてください。
そして、市場調査によって調査・分析することがゴールではなく、この結果によりマーケティング戦略の何に役立てるかまでをきちんと決めておきます。
また、その問題が起きている理由について仮説を立てることで、よりピンポイントな市場調査の方法を絞り込むことができるでしょう。
調査期間を設定する
市場調査を行うにあたり、どれくらいの期間があれば有効な調査結果が得られ、マーケティング戦略に取り込めるかを逆算し、調査期間を決定します。
例えば、以下のような要素を鑑みて、準備に取りかかる期間を設定します。
-
- 調査方法やターゲット層、調査すべき項目の設定
- 調査のための準備期間
- 実際に調査する期間
- 分析から戦略への反映の期間
以上を具体的に決めた上で、期間を限定して適切な期間を割り出すことが大切です。
調査にかかる予算を設定する
調査方法によって、かかるコストには大きな違いがあります。
インターネットを介した調査ではほぼコストはかかりませんし、キャンペーンの会場を使用するのであれば、会場の利用料や試用する商品の代金などが必要です。
適切な調査方法を選ぶためには、どのような情報を得たいかに対して、どれくらい予算がかかるかをすり合わせることも必要です。
必要な情報を集める
市場調査で得たい情報があれば、事前に統計データ調査を行い、その情報をもとに知りたい情報を絞り込む方法もあります。
例えば、統計データ調査で出た結果をもとに、ターゲットや調査項目を精査したり、データをもっと掘り下げたりするなど、行う調査のヒントになることがあります。
調査方法を決定する
前述で説明した調査方法から、具体的にどの方法で調査を行うかを決めます。この場合、知りたい情報を効率的に得られる方法やコストから選出するのが良いでしょう。
また、方法が決まったら調査対象にするターゲットや範囲、調査内容を精査し、ある程度まで絞り込むほうが、適切なデータを得やすいです。
実際に調査を行う
ここまで準備ができたら、実際に調査を行います。
調査のポイントとしては、ターゲットにわかりやすい聞き方にすることや、誘導尋問のような手法を避けること、調査項目を必要最低限にとどめることが挙げられます。
よりユーザーが答えやすい内容にするために、事前に従業員に調査内容を見せ、問題点を洗い出してもらうこともおすすめです。
調査結果を分析する
行った調査の結果をまとめ、数値や内容を整理して資料に落とし込みます。
この時単に情報を羅列するのではなく、項目ごとに分けたデータ、ターゲット層とそれ以外の回答、現状と過去を比較できるようにするとなお良いです。
今後の施策を検討する
調査結果の分析を行った後は、今後の施策について検討を行います。
データをもとに改善点や顧客満足度の向上を狙い、具体的にどのような施策を取るべきかをよく精査してください。
調査前に洗い出した問題の解決はもちろん、自社では気づかなかった施策への糸口が見つかることもあります。
市場調査を実施する際のポイント
市場調査を行う上では、以下のような点に注意してください。
目的は必ず事前に明確にする
前述で触れたように、市場調査を実際に行う前に、目的をどこにするか必ず明確にすることが大切です。
マーケティング戦略の策定、商品開発への反映など、今自社に必要な情報を得るための市場調査であることを意識するようにしてください。
調査における仮説パターンを想定する
市場調査においてまず想定できる仮説を立て、同様の結果が出た時にどう生かすべきか、仮説から外れた場合にどう対応すべきかを事前に決めておきましょう。
この過程は、市場調査を行う上での方向性を決めるカギとなりえます。
ターゲットを絞り込む
やみくもに市場調査を行っても、求めている結果が出づらくぼんやりしたものになります。
年齢、性別、地域などを限定し、自社の商品やサービスへの意識、ニーズをしっかり比較できるように、ターゲットを絞り込んで調査の準備を進めてください。
期間や費用をきちんと決める
こちらも、前述で説明しましたが、調査期間や調査にかかるコストは、事前にしっかりと決めておくことをおすすめします。
それにより、調査方法だけではなく、調査期間の長さによってコストも変わってくるかもしれません。
市場調査にかけるリソースをあらかじめ把握しておかなければ、想定した結果の反映に間に合わないほか、予算が予想以上に膨れ上がる恐れもあります。
回答しづらい形態や項目数は避ける
ユーザーにとって、回答に困る形態であったり項目が膨大であったりすると、そもそも回答する意思をなくすことも多いです。
そのため、できるだけユーザーが気軽に答えやすい形態とし、調査項目も必要最低限に抑えてください。
質問内容は簡潔にわかりやすくする
質問内容があいまいであったりわかりづらい言い回しであったりすると、ユーザーの誤解を招くことも多いです。
そのため、質問事項は簡潔かつポイントを押さえ、かつ誘導的にならない文言にし、的確に結果を得られるようにロジカルに構成を組み立ててください。
外部に市場調査を依頼する場合
市場調査は、調査を専門とする会社に依頼することもできます。
専門の会社にどこまで依頼できるか
調査専門会社では、様々な範囲を依頼することが可能です。
例えば、回答者のピッキングのみから調査内容の選定、調査の実施、ひいては調査結果の分析まで請け負ってくれる会社もあります。
そのため、自社で行いたい部分やコストも鑑み、どこまでを外部に依頼するかの線引きをきちんと決めておくことをおすすめします。
外部に依頼するメリット
外部の調査専門会社に依頼すれば、自社での手間が省けることから、本来のコア業務に集中することができます。
また、専門家に依頼することでより的確かつ多様な視点での調査が可能になるほか、競合他社やほかの市場における市場調査の例を参考にできるといったメリットがあります。
実際の市場調査の例
ここでは、実際に市場調査を行った企業の例を紹介します。
キャンペーンの結果を分析する
ある医療機器メーカーでは、キャンペーンで得られる結果をどう生かすか決まっていませんでした。
そこで、そもそもキャンペーンがあるか否かで、商品へどのように興味を示すかデータを取り、どのようなキャンペーンであればユーザーの興味を引けるかを特定しました。
これにより、的確なキャンペーンを打ち出して、効果的なユーザー体験を実現することを可能としています。
ユーザーの商品利用方法を調査
ある食品会社では、パッケージをより使いやすいものにするために実際にユーザーの自宅を訪問し、既存の商品の使い方をリサーチしました。
すると、多くの家庭で抱えている使いづらさを見出すことができ、その調査結果をもとにパッケージの改良を行うことで、より顧客満足度を得られるようになりました。
ユーザーのニーズから商品開発へ
飲料メーカーでの例では、既存のアルコール飲料の売上げが伸びないことから、顧客が本当に商品に求めているのは何かをインタビュー調査しました。
その結果、企業が打ち出していたアルコール感よりも、強い果汁感を求めていることがわかり、その結果新鮮な果汁感を前面に出した商品開発に成功しました。
まとめ
自社の業績をもっと伸ばしたい時、また新規事業に参入する時には、市場調査を事前に行うことが効果的です。
ただし、その方法やポイントを押さえなければ、調査結果が出てもそれをマーケティング戦略や商品開発などに生かすことができません。
今後の事業の飛躍に役立てるためにも、市場調査は適切に行い、結果の分析・検討に効果的に取り入れられるようにしてください。
(編集:創業手帳編集部)