Major7th 丸尾 浩一|シニア起業家が新しいビジネスチャンスを掴むコツは「若者との交流」
大企業にいながら「個」で活躍することで業界を牽引
大企業に勤めると、企業の知名度の高さに隠れて、社員個人の活躍が注目されることは少ない傾向にあります。
そんな風潮の中で、大和証券という大企業で勤めながら、個人としての知名度も高めつつ、業界を牽引してきたのが、Major7thの丸尾さんです。
そこで今回は、丸尾さんが大和証券で成し遂げたことや、シニア起業した今考えていることについて、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社Major7th 代表取締役
1960年、大阪府生まれ。1984年、関西学院大学法学部卒業、大和証券入社。2006年、事業法人第七部長、2009年に執行役員 事業法人担当に就任。2012年、常務執行役員 事業法人担当 兼 法人企画担当。2015年、専務取締役 法人副本部長 兼 事業法人担当 兼 法人企画担当。2018年、専務取締役 企業公開担当。2021年3月末に専務取締役を退任し、4月より同社初となるエグゼクティブアドバイザーに就任。2021年5月株式会社Major7thを設立し、代表取締役に就任。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
会社員でありながら「個」として活躍できる理由
大久保:一般的なサラリーマンは、まず会社の名前が先に来て、その後に、個人の名前が知られる流れだと思います。
しかし、丸尾さんは証券会社の看板を背負いつつ、個人としての知名度も高いと思いますが、「会社」と「1人の社員」の関係性についてどうお考えですか?
丸尾:大和証券には大変お世話になった上で、会社の看板があったからこそ、私も多くの方々に知っていただけるようになったと思っています。
会社と1人の社員の関係性については、業種や組織によって大きく異なります。
例えば、銀行は役職によってできることが決まっているため、人が変わっても仕事が回りやすい仕組みができています。
そのため、会社員時代に立場や役職だけで仕事をしていると、定年退職し、シニア起業で個人として動き出した時に、実力や経験を十分に活かせない人もいると思います。
大久保:証券会社は違うのですか?
丸尾:銀行に比べると証券会社は、担当する社員とクライアントの関係性がより深い傾向にあります。これは外資系の証券会社では当たり前の文化です。
外資系証券の投資銀行部門や、プライベートバンキング部門のバンカーがわかりやすい事例ですね。
つまり、クライアントは「大和証券」と取引をするのではなく、「大和証券の丸尾」と取引をしていただけるというようなイメージですね。
この考え方がグローバルスタンダードだと思っています。
どの業種であっても、お客様からすると同じ担当者と親身に付き合いたいと思いますよね。
実際に私も、大阪に16年、東京に16年と、それぞれ同じ部署に長く所属し続けたので、名だたる大企業の方々から信頼していただけたのだと思っています。
16年ずつ勤務した大阪と東京で全く異なる業種を担当
大久保:同じ部門に長くいるのは、組織の中では特殊のように思えるのですが、いかがでしょうか?
丸尾:私が16年間も異動させられなかったということは、その役割が私に適任だったと会社が判断したのだと思っています。
そして私としても、その部署でもっとキャリアを磨きたいと、会社には言ってました。
大久保:それでも大阪から東京に転勤されたのはなぜですか?
丸尾:大阪にいる時は、定年退職するまでここに居ても良いという気持ちでいました。
しかし、ラインマネージャーになって2年半ほど経ったころに、「ずっと大阪にいては、役員にはなれない」と上司に言われ、東京に異動する決意をしました。
大阪にいた時は、日本の高度経済成長期を支えた大手の製造業を担当していたこともあり、東京に転勤し、初めてITベンチャー企業を担当した時は、左遷なのかと思うほど、井の中の蛙だったことに気付かされました。
その後、いよいよIT業界の勢いが増してくるに連れて、「大阪の丸尾さん」というイメージから「ITの丸尾さん」というポジションを確立していきました。
今でも、IT業界のIR(インベスター・リレーションズ)担当からは、丸尾さんが必要だと声をかけてくださいますね。
証券マンとしてIT企業と一緒に業界を牽引
大久保:証券会社として、クライアントがメーカーでもITでも、やることは変わらないと思いますが、業界によってニュアンスが変わってきますよね。
丸尾:全然違います。
2000年頃は、IT業界に対して、海のものか山のものかわからないという領域として扱われていましたが、私が部長になった頃に、ようやく日本としてもIT業界が花形として注目されてきた印象があります。
当時の証券会社でエリート街道を突き進む人は、「製造業を中心とした大企業」を担当することが偉いと考えることが一般的でした。
しかし、IT企業を担当していく中で、私はIT業界が今後のビジネスシーンの中心になると気づいて、そこからは各IT業界の起業家の方々と一緒になって頑張ってきました。
大久保:IT企業と一緒に業界を牽引したのですね。
丸尾:グローバルにおいても、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)が出てきて、世界市場の主役が変わってしまったように、日本でもIT業界のステータスが上がって、IT企業が往年の大企業と肩を並べて見られるようになりました。
そのため、次の楽天は何なのか、次のサイバーエージェントやGMOは何なのか、と探っていくことがIPO(新規上場株式)であり、大和証券での私の役割でした。
新しいものを肯定することで新しい出会いが生まれる
大久保:丸尾さんがIPOに関わった方で印象に残っている起業家はいますか?
丸尾:GMOインターネットの熊谷さんやUSEN-NEXT HOLDINGSの宇野さん、サイバーエージェント藤田さんなどは、子会社上場や東証一部上場などに関わらせていただき、大変印象深い起業家です。
最近で言いますと、ANY COLOR田角さんは大和証券で、私が最初に関わってIPOを達成した起業家です。
自分がすごい会社を見つけ出したのだと誇らしく思っています。
最後は主幹事ではなかったのですが、M&A総研の佐上さんと関われたのも同じく誇らしいです。
この2人の若い起業家は、今の時代の新しい主役だと思っています。
大久保:このような若い起業家との繋がりが多いのはなぜですか?
丸尾:私は若い人が好きなのです。若いからこそ、次のイノベーションを産めると思ってます。
何より私自身が好奇心旺盛で、新しいもの好きで、「新しいものを肯定する」生き方をしているつもりです。
例えば、古くから日本のモノづくりを支えてきた老舗企業には「良い物を作れば売れる」という考え方があると思いますが、今は「売れるものが良い物で、売れる物を作るべき」という考え方がトレンドに合っています。
この考え方を実践できている筆頭企業が「キーエンス」であり、時価総額ランキングを見てもわかっていただけると思います。
キーエンスは、ユーザーが「どんな商品だったら買うか」という調査をした上で、製品化に乗り出すため、今でも最高益を出し続けています。
シニア起業した今、気をつけていること
大久保:丸尾さんが育った時代と、今とでは「働く」という観点では、どのような違いがありますか?
丸尾:私は高度成長期に育っているため、戦争に負けて弱くなった日本が、成長する過程を見てきました。
戦後は、大学を出ていること自体がステータスとなり、良い企業に就職することが全てだと考えられていました。
そして、何があってもその企業に残って頑張ることで、必ず道は開ける、という教育を私も受けてきたんです。
大久保:その風土もあり、丸尾さんも長年大和証券に勤められていたのですか?
丸尾:その教育の影響があったのは否めないですね。
私も若い頃は、会社をやめたら負けだと思っていたので、辛くても歯を食いしばって頑張ってきました。
ありがたいことに私は役員にまで上がり、自分のやりたいこと、お客様のためになることもできたため、辞めずに定年を迎えることができました。
会社のルール上、定年退職をしましたが、私は途中で会社を辞めたのではなく、卒業したのだと考えています。
その上で、第二の人生として、ようやく自分の会社を持つことができました。
大久保:シニア起業をされた今、気をつけていることなどあれば教えていただけますか?
丸尾:自分が古くなって時代に取り残されないように、どんどんバージョンアップさせていくことを意識しています。
その為にも先にも述べたように、若い起業家をはじめ若者とのコミュニケーションも大事にしています。
その際、どんなシーンでも言えることですが、説教じみた伝え方では、今の若い人たちには響きません。
若い人に我々シニアに合わせさせることはできないので、我々が若い人に合わせるべきだと思っています。
例えば今若者に人気のTikTokやInstagram、ゲームなどを実際に自分でやってみて、今のトレンドを抑えるようにしています。
そうすると、若い人と雑談をする際にも、ゴルフの話をするのではなく、視線を合わせてコミュニケーションを取ることができます。
そうやって同化することで、徐々に私のことも認めてくれるようになります。
そして、その後にやっと、私が今まで頑張ってきたことも見てくれるようになり、私のことも理解してくれるようになるのです。
そのため、シニアが若い人と仲良くするためには、シニアの方から若い人たちに寄り添っていって、若い人たちのことを理解する努力をするべきだと思っています。
- ココ重要!シニア起業家として若手起業家とコミュニケーションを取る「3つの工夫」
-
- コツ1:説教じみた伝え方は絶対にしない
- コツ2:SNSやゲームなど若者文化に実際に触れてみる
- コツ3:視線を合わせて会話をする
若者文化に触れることで新しい時代のビジネスチャンスを掴み続ける
大久保:丸尾さんは今どんな分野の勉強をされていますか?
丸尾:今流行りのWeb3やメタバース、暗号資産などの勉強ももちろん行なっています。
このような努力をすることで、若者の考えに近づくことができて、次のANY COLORのような「新しい時代の注目企業」を見つけ出すことができるのかもしれません。
つまり、若い人の文化に触れていく事で、可能性に満ちた次なる起業家を見つけられるようになると考えています。
大久保:丸尾さんが若い起業家といつも分け隔てなく話している理由を垣間見た気がします。
丸尾:我々はRM(リレーションシップマネジメント)を重視しているので、メンターやアドバイザーである前に、コミュニケーションのプロであるべきだと思っています。
どのような相手でも、老若男女問わず瞬時に仲良くなれるようなテクニックが、我々プロフェッショナルには必要です。私もそうなれるように努力してきました。
ただし、最先端のトレンドを追い続けるだけではなく、社会人としての基本的な情報も頭に入れています。例えば、日本経済新聞は今でも毎朝読んでいます。
さらに、SNSにも触れることで、人がどこで何をしているのか?という今のトレンドを掴む努力をしています。
日本が大逆転するには「ベンチャーキャピタル投資」が必要
大久保:国として、新しい資本主義として、「ベンチャーキャピタル投資」を促進するお話があったと思いますが、どのように思われますか?
丸尾:私は良いと思っています。
時代が変わるにつれ、資本主義のあり方も変わるのは当然です。
そして、ベンチャー企業を育てていかないと、日本の将来はない、と言うのも正しいと思います。
一つ思うのは、この20年の間で、日本を支えてきたものづくりが「世界的にイノベーション」を起こせていないことです。
IT分野にはGAFAMが出てきましたが、改めて「ものづくり」の分野が見直される可能性があると思っています。
大久保:モノづくりの分野では日本企業に勝ってほしいという思いもありますよね。
丸尾:「日本の自動車は最高だ」と世界中で言われているように、これからも、ものづくりの分野で勝ち取っていかなければなりません。
ユニクロやダイキンなど、現代においても世界のトップになったものもありますが、個々の企業でしかないため、日本から世界を席巻する業界が出てくれば良いなと考えています。
ものづくりだけでなく、韓国がBTSで世界のエンタメ業界を席巻したように、日本もアニメや漫画、ゲームの分野で、もう一度世界を湧かせてほしいと思いますね。
大和証券からシニア起業した丸尾氏が「もし今20歳だったらしたいこと」
大久保:丸尾さんが今20歳だったら、何をしますか?
丸尾:間違いなく起業家を目指します。
学生起業が全てではなく、大学卒業後に勤め人になっても良いのですが、やはり独立を見越して仕事をすると思います。
そのため、在学中は大学の勉強だけでなく、資格取得も含めて色々な分野の勉強や社会経験に充てると思いますね。
例えばですけど、会計士の資格などは起業する際に、とても有効だと思います。
大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。
丸尾:常に変わることを恐れず、常に時代の先を見てほしいです。
今だけを見てビジネスチャンスを探すのではなく、次の時代はどうなるか、そして、そこに自分がやりたいことをすり合わせることが大切だと思います。
そして、今の起業家が目指すべきなのは「エクセレントな企業」です。
ただし、この「エクセレントな企業」の定義は時代によって変わっていきます。
少し前までは「単に利益をたくさん出せばいい」「ROEが高ければいい」というのがエクセレントな企業だと思われていました。
しかし、今はそれに加えて、環境への配慮、ダイバーシティの意識、ガバナンスなどにも、しっかりと取り組んでいる企業が、エクセレントな企業だと言われています。
- ココ重要!エクセレントな企業の条件
-
- 条件1:適正に利益を生み出し続ける企業
- 条件2:新しい時代の変化に合わせて、変化できる企業
- 条件3:社会、人、環境などの全てに誠実であり続ける企業
例えば、家電からスタートしたソニーは、時代の変化に合わせて、ゲームや音楽、金融など利益構造を変えつつ、日本で時価総額のトップランキングに居続けているので、エクセレントな企業の象徴だと思います。
この「エクセレント」の定義も時代により変化するので、起業やビジネスも時代に合わせて変わっていけるように努力してほしいですね。
大久保の感想
(取材協力:
株式会社Major7th 代表取締役 丸尾 浩一)
(編集: 創業手帳編集部)
若い起業家に溶け込む秘訣がこの取材で分かりました。
ベテランは経験に加えて、若い人にも通用する感性が持てたら強いですよね。
若い人のところに降りていくのは単純に見えてなかなかできないこと。
丸尾さんの新しいものを取り入れる姿勢はシニア起業で重要なヒントになると思います。