協会けんぽとは?他の健康保険との違いや受けられる制度を解説

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協会けんぽ(全国健康保険協会)は主に中小企業が加入している健康保険


協会けんぽとは国内最大規模の保険事業者であり、健康保険に関する業務を担っています。主に加入しているのは、健康保険組合を持たない中小企業です。
自営業・フリーランスは各自治体の国民健康保険に加入しますが、中小企業の従業員や扶養される家族は協会けんぽに加入することになります。
そのため、経営者は協会けんぽについて正確な知識を持つことが大切です。

そこで今回は、協会けんぽの概要や他の健康保険との相違点や、利用できる制度などについてご紹介します。

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協会けんぽ(全国健康保険協会)とは?


協会けんぽの正式名称は「全国健康保険協会」です。
2024年4月末時点で加入者数は39,602,000人、被保険者数は25,475,000人となっており、国内最大規模の保険事業者です。
もともと社会保険庁が行っていた「政府管掌保険」を引き継ぎ、2008年10月に公法人として設立されました。
保険給付事業をはじめ、健康増進を目的にした健康診断・生活習慣改善の指導などの保険事業も手掛けています。

協会けんぽに加入できる対象者

協会けんぽに加入できるのは、健康保険組合を設立していない中小企業に務める従業員とその家族です。
加入できるのは正従業員だけではなく、試用期間中の人やアルバイト・パートタイマーで働く人も例外ではありません。

2022年10月から以下の条件をクリアしたアルバイト・パートタイマーも健康保険に加入が義務付けられました。

  • 従業員数が101以上の企業で働いている(2024年10月からは51~100人に引き下げられる予定)
  • 週の所定労働時間が20時間である
  • 月収は88,000円以上
  • 2カ月以上雇用の見込みがある
  • 学生ではない

また、加入できる従業員の家族の条件は、従業員(被保険者)に扶養されている3親等内(75歳未満)です。
さらに、同居と別居では以下の異なる収入条件があります。

同居の場合 ・年収が130万円未満(60歳以上の方、障害者の方は180万円未満)
・被保険者の年収の1/2である
別居の場合 ・年収が130万円未満(60歳以上の方、障害者の方は180万円未満)
・被保険者の仕送り額よりも収入が少ないこと

保険料率は都道府県ごとに異なる

協会けんぽの保険料は、被保険者の標準報酬月額や標準賞与額に保険料率をかけた金額となっています。
保険料率は都道府県ごとに異なり、さらに年度ごとに変わるので、その年の割合は協会けんぽの公式サイトで確認してください。

2024年度の保険料率は、9%台半ば~10%台半ばとなっています。
また、介護保険第2号被保険者に該当する40~65歳までの方は、都道府県ごとの保険料率に加えて全国一律の介護保険料率1.60%が上乗せされます。
なお、保険料は事業主と従業員の折半となり、従業員が支払う分は毎月の給料から天引きされます。
事業主には、会社で負担する分と従業員の負担分の保険料を、年金事務所を通して納付する責務が生じます。

他の健康保険との違い


健康保険には協会けんぽのみならず、健康保険組合・国民健康保険・共済組合があります。各健康保険の運営元や主な加入者は以下のとおりです。

名称 運営元 主な加入者
協会けんぽ 全国健康保険協会 中小企業の従業員
健康保険組合 業界単位や単体の企業が設立する組合会 民間企業(大企業)の従業員
国民健康保険 各自治体 個人事業主・フリーランス
共済組合 各共済組合 公務員

それぞれ具体的にどのような違いがあるのか、各健康保険の詳しい特徴をご紹介します。

健康保険組合との違い

健康保険組合は、業界単位または単体の企業が運営する厚生労働大臣に認可を受けた公法人です。加入するのは、健康保険組合を運営する民間企業の従業員となります。
健康保険組合は、以下いずれかの条件に当てはまれば、国からの認可を得て設立することが可能です。

  • 常時700人以上の従業員がいる事業所
  • 同種・同業の事業所が集まり、合計3,000人以上の従業員がいる

事業主の代表と被保険者の代表によって組合会が構成され、自主的に保険給付や保険事業を運営しているのが特徴です。
そのため、組合員の意見を反映しながら、実情に合わせた運営や保険事業の提供ができます。

保険料率は、1,000分の30~130の範囲であれば、組合の財務状況に合わせて設定することが可能です。
また、法律で定められた給付に加えて、組合独自の給付ができるのも特徴になります。

国民健康保険との違い

国民健康保険は、各自治体が運営する健康保険です。主に加入しているのは、企業に属していない個人事業主やフリーランスなどが該当します。

保険料は、前年所得に応じて都道府県が計算し、毎年6月頃に届く納付書で通知されます。
6月から翌年3月にかけて10回に分けて、被保険者本人が全額自己負担で支払わなければなりません。

協会けんぽでは出産手当金や傷病手当金がありますが、国民健康保険にはこの2つの手当金がないことも相違点となります。

共済組合との違い

共済組合は、国家公務員・地方公務員・私立学校の教職員などが加入できる健康保険です。
各地方公務員組合や私立学校教職員共済組合など、様々な共済組合が存在します。

保険料は、標準報酬月額に掛金率で計算されており、加入者の年収によって変動します。協会けんぽと比べると、1割程安い傾向にあるようです。
年収130万円未満の親族は、扶養として共済組合に加入できます。扶養に入っている家族には、保険料がかからない特徴があります。

協会けんぽのインセンティブ制度とは?


協会けんぽは、新たな保険料率を決める仕組みとして、2018年度からインセンティブ制度を導入しています。
このインセンティブ制度とはどのような制度なのか、概要や仕組みについて解説します。

取り組みに応じて保険料率が変動する制度

協会けんぽのインセンティブ制度とは、加入者・事業主の取り組みによってインセンティブが付与され、それが都道府県ごとに設定される健康保険料率に反映されるという制度です。
各支部は、5つの評価指標の実績によって得点がつけられ、その得点で順位付けされます。
そして、上位15支部にインセンティブが付与され、保険料率が引き下げられる仕組みとなっています。

保険料率を引き下げるために取り組むこと

保険料率を下げるためには、加入者・事業主が積極的に健康づくりに取り組み、評価指標の実績を上げていくことが求められます。
加入者・事業主に求められる取り組みは以下のとおりです。

特定健診を受診する

協会けんぽの生活習慣病予防健診(被保険者)や特定健診(被扶養者)を受診することで、「特定健診等の実施率」という評価指標を上げることができます。
健診の種類には、一般健診と子宮頸がん検診があります。一般健診には、付加健診・乳がん検診・子宮頸がん検診・肺炎ウイルス検査を追加して受診することが可能です。
健診費用の7~8割は協会けんぽが負担するので、負担を抑えて人間ドック並みの健診を受けることができます。
労働安全衛生法に基づいて定期健診を実施している企業であれば、40歳以上の加入者の健診結果を協会けんぽに提出してください。

特定保健指導を活用する

「特定健康指導の実施率」という評価指標を上げていくためには、協会けんぽが健康サポートとして行う特定健康指導を利用する必要があります。
特定健康指導は、健診で生活習慣病の改善が必要と判断された方が対象で、保健師や管理栄養士などの専門家が改善に向けて保健指導を行ってくれる制度です。

対象者となると保険指導機関から事業所または加入者本人に案内が届き、無料で利用することが可能です。
被扶養者の場合、協会けんぽが補助する金額を超えた分は自己負担となるので注意してください。

健康経営に取り組む

インセンティブ制度の評価指標の1つに「特定保健指導対象者の減少率」があります。この評価指標では、できるだけ特定保健指導の対象者にならないことが求められています。
そのため、加入者が普段から健康でいられるように、事業主も健康経営に取り組むことが大切です。
健康経営は円滑な経営を実現する上でも重要な課題になります。

例えば、脳梗塞に陥った場合の休職日数は約7カ月になると言われています。
また、病気で休職した場合、復職しているのは2人に1人と言われており、半数は離職する傾向にあるようです。
つまり従業員の健康を守ることは、雇用の維持にもつながるというわけです。

健診結果が「要治療」の従業員に医療機関への受診を促す

事業主は、健診結果で「要精密検査」「要治療」と判断された従業員に医療機関への受診を促してください。
精密検査と治療が必要と判断されても、医療機関を受診しない人が大半と言われています。
初期は自覚症状がなくても、気付いたころには重症化しており、治療が困難となる可能性が高いです。

早期に治療を始めることはインセンティブ制度の評価指標を上げるだけではなく、従業員の命を救うことにもつながります。
そのため、企業側からも積極的に声がけして受診を促すようにしましょう。

ジェネリック医薬品を積極的に選んでいる

医薬品を利用する際、ジェネリック医薬品を選択するのも評価指標を上げる要素となっています。
ジェネリック医薬品は先発医薬品と同じ成分を使っており、効き目や安全性も同等と認められているので、安心して使うことができます。

先発医薬品と比べて開発期間が短く、かかるコストも少ないことから比較的安価で買えるのもメリットです。
普段から飲んでいる医薬品をジェネリック医薬品に変更したい時は、かかりつけの医師や薬剤師に相談してみてください。

協会けんぽの加入で受けられる制度


協会けんぽに加入すると、様々な制度を受けることができます。主に受けられる制度は以下のとおりです。

保険診療の利用

保険医療機関で診療・治療・処方などの医療行為を受けた際、その費用を協会けんぽが補助してくれます。この仕組みを「療養の給付」と言います。

被保険者の負担割合は、年齢や所得額によって異なります。70歳未満は3割、7歳以上は2割、70歳以上で現役並みの所得がある人は3割です。
療養の給付は病気やケガの治療が対象であり、美容目的の整形手術や近視の手術、正常な妊娠・出産など一部の医療行為には適用されないので注意してください。

加入者は受診や医薬品の処方を受ける際に、健康保険証を提示するだけで補助が適用されます。
なお、2024年12月2月に現行の健康保険証は廃止となり、今後はマイナンバーカードに一本化されます。
廃止後、最長1年間の猶予期間中は、今ある健康保険証を使うことは可能です。

健診費用の一部補助

年度内に1回まで健診費用の一部補助が受けられるので、自己負担する費用を抑えて受診できます。
一般健診の場合、2024年度の自己負担額は最高5,282円です。付加健診など追加して受診する健診も自己負担額を超えた分に対して、補助が適用されます。

高額療養費制度の活用

高額療養費制度とは、ある月の1日から月末までにかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)の返還が受けられる制度です。
診療が月をまたぐ場合は、それぞれの月の分を申請することで、自己負担額が分けられた、自己負担限度額を超過した分が返還されます。

この制度では一度医療費を自分で支払い、協会けんぽに申請書を提出する必要があります。
また、払い戻しの対象かどうかの審査があり、返還まで3カ月以上かかるので注意してください。

接骨院・整骨院での施術、はり・きゅう、あん摩・マッサージなどの保険診療

接骨院・整骨院やはり・きゅう・あん摩・マッサージなどは、本来健康保険の対象にはなりません。
しかし、一定の条件を満たしている場合は、療養費の一部が補助されます。

【接骨院・整骨院で健康保険が利用できるケース】
  • 外傷性の打撲・捻挫
  • 肉離れなどの挫傷
  • 骨折
  • 脱臼

骨折・脱臼の場合、医師から施術を受ける同意を得る必要があります。

【はり・きゅうで健康保険が利用できるケース】
  • 神経痛
  • リウマチ
  • 五十肩
  • 頸腕症候群
  • 腰痛症
  • 頚椎捻挫後遺症

いずれの傷病も医師が施術に同意していることが条件です。

【あん摩・マッサージで利用できる】
  • 筋麻痺
  • 関節拘縮 など

 
これらの症状があり、関節の可動域拡大や筋力増強を促して症状を改善する目的で施術が必要であれば、健康保険の対象です。ただし、こちらも医師の同意が必要です。

傷病手当金の受給

傷病手当は、病気やケガで療養が必要になり、休職する際に生活の保証を目的に支給される手当です。
支給される金額は、保険の加入期間や年齢などによって変動します。

支給条件は以下のとおりです。

  • 業務外での病気・ケガで、出勤や業務の遂行が困難
  • 連続した3日間を含み、4日以上仕事を休んでいる(有給休暇や公休日も含む)
  • 休んだ分の給与は支払われない

 

出産育児一時金・出産手当金の受給

出産した時やそれによって会社を休んだ際に、出産育児一時金や出産手当金を受給できます。
出産育児一時金は、出産した後に協会けんぽに申請することで、生まれた子ども1人につき50万円が支給されます。
ただし、産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産、または産科医療補償制度に加入の医療機関で、妊娠週数22週未満で出産した場合、支給額は子ども1人につき488,000円です。

出産手当は、出産日以前の42日から出産翌日以降56日目の範囲で、休職した期間の手当が支給されます。
1日あたりの支給額は、(支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬額を平均した金額)÷30日×2/3で計算されます。

退職時の任意継続

会社を辞めれば協会けんぽからも脱退となりますが、再就職先が見つからない場合、任意で引き続き加入を継続することが可能です。
配偶者などの扶養家族も任意継続できます。

  • 退職日までに継続して2カ月以上の被保険者期間がある
  • 退職日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」する

 
以上の要件を満たしていれば、加入を継続することが可能です。任意継続の手続きは、協会けんぽの支部で受け付けています。

協会けんぽの加入方法


従業員が協会けんぽに加入するためには、事業主が手続きを行う必要があります。

  • 常時従業員を使用する法人の事業所
  • 所定の事業を営み、常時雇用する従業員が5人以上いる個人事業所

 
これらの条件に該当する事業所は、健康保険の強制適用事業所と見なされます。
要件に当てはまる中小企業は、従業員が加入要件を満たしたら、5日以内に年金事務所に届出を出して加入手続きを行ってください。

協会けんぽは保険診療以外にも健診費用の補助や各種手当が利用できる

健康保険組合の設立が難しい中小企業は、協会けんぽに加入することで、従業員は保険診療を利用できるようになります。
病気やケガに対する療養費の負担が押さえられるだけではなく、健診費用の補助や各種手当を受給できるメリットもあります。
従業員の加入手続きは事業主が行うことになるので、経営者は協会けんぽに関する正しい知識を持つようにしてください。

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(編集:創業手帳編集部)

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