企業価値担保権とは?制度をわかりやすく解説
企業価値担保権は2024年6月に創設された新しい担保制度
企業独自の技術やブランドなど、企業価値を担保に取る新しい制度が企業価値担保権です。
近年、土地や建物を有していないデジタル事業を運営する企業が増加していることを受け、担保になるものがなくても成長資金を供給できる制度として整備されました。
企業価値担保権は、2024年3月15日、「企業価値担保権」の創設に向けた新法案「事業性融資の推進等に関する法律案」 が閣議決定されたことで、2024年6月に参議院本会議で可決・成立し創設されています。
今回は、新しい制度となる企業価値担保権についてわかりやすく概要を解説すると共に、効力や範囲、メリットなど、様々な情報を伝えていきます。
仕組みを理解するためにも、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
企業価値担保権の概要
まずは、企業価値担保権がどういった制度なのか解説します。
企業価値担保権とは
企業価値担保権は、無形資産を含む事業全体を担保の対象としています。無形資産に含まれる資産には、以下のものが当てはまります。
-
- 企業が持っている独自の技術やノウハウ
- 顧客基盤
- 取引データ
企業が信託会社と信託契約を結び、事業全体を担保に設定します。そして、信託契約をもとにして信託会社が指定した金融機関が融資する仕組みです。
企業価値担保権の当事者となるのは、債務者や設定者となる借り手と、被担保債権者となる貸し手、企業価値担保権信託会社となる担保権者の三者です。
概要を以下の表にまとめているのでチェックしてみてください。
項目 | 企業価値担保権 | 注釈 |
---|---|---|
担保目的財産 | 総財産 | 将来キャッシュフローを含む事業全体の価値 |
借り手 | 株式会社・持分会社 | 自己の債務を担保するためのみに設定可能 |
担保権者 | 企業価値担保権信託会社 | 銀行には簡易な手続きで免許交付 |
貸し手 | 制限なし | 銀行以外にもベンチャーや再生ファンドも利用可能 |
対抗要件 | 商業登記への登記 | 他の担保権との優劣は対抗要件具備の先後 |
借り手の権限 | 担保目的財産の処分は基本的に自由 | 事業譲渡は事業の内容を変えて担保価値の毀損につながるため、通常の事業の範囲外の行為には担保権者の同意が必要 |
貸し手の権限制約 | 粉飾などがあったケースを除いて経営者保証の利用を制限 | - |
事業性融資推進法とは
事業性融資推進法は、2024年6月に成立した法律です。
これまで企業が融資を受ける場合には、不動産担保や経営者保証などへの依存度が高く、スタートアップ企業や小規模な企業の資金調達を阻害する要因となっていました。
しかし、事業性融資推進法によりこのリスクが解消され、不動産を持っていないデジタル関連の企業やスタートアップ企業でも将来性が高いと判断されれば、成長資金が供給されるようになります。
想定される主な利用事業者は以下のとおりです。
-
- 有形資産の形成に乏しいスタートアップ企業
- 経営者保証によって事業承継を躊躇している事業者
- 事業再生に取り組んでいる事業者
企業価値担保権の創設や、事業性融資推進支援業務を行う者の認定制度の創設などが主な内容です。
事業成長担保権との違い
企業価値担保権について調べると、「事業成長担保権」という言葉を見かけるケースもあります。事業成長担保権は、金融庁が創設を目指していた制度です。
2022年から2023年に審議会で検討されていた時には、事業成長担保権という名称で検討されていました。
しかし、検討時に名称が変更されて企業価値担保権として成立しています。これまでの担保法制と新設された企業価値担保権の違いは以下のとおりです。
異なる部分 | これまでの担保法制 | 企業価値担保法制 |
---|---|---|
担保権の内容 | 個人資産 | 事業全体 |
担保権の対象 | 土地や工場・施設などの有形資産 (無形資産は含まれていない) |
ノウハウや顧客基盤といった無形資産を含む事業全体 |
優先事項 | 担保権者 | 事業価値の維持や向上に資する者 |
企業価値担保権の効力や範囲
企業価値担保権の範囲を以下にまとめていきます。
担保権の対象となる財産担保目的財産
企業価値担保権の対象となる財産は、将来キャッシュフローを含む「総財産」となります。
そのため、担保を設定する際には、事業一体を担保に含めることが可能です。以下に対象となる資産をまとめているので参考にしてください。
- 【有形資産】
-
- 土地
- 建物
- 設備
- 機械
- 車両運搬具 など
- 【無形資産】
-
- 会社の特許
- ブランド
- ノウハウ
- 顧客リスト
- 著作権
- 専門知識 など
上記の資産がすべて対象となるため、スタートアップ企業でも融資を受けやすくなります。
企業価値担保権の当事者
企業価値担保権の当事者は、借り手(債務者・設定者)、貸し手(被担保債権者)、担保権者(企業価値担保権信託会社)の三者です。
借り手は債務者や設定者となる事業者で、その範囲は株式会社と持分会社に限定されているため、個人事業者は除かれています。
貸し手に対しては、法律上制限は設けられていません。担保権者となるのは、新法によって新設された企業価値担保権信託会社となります。
簡単な手続きのみで、担保権者となるための免許が交付されます。
企業価値担保権のメリット
新設された企業価値担保権を活用する場合に享受できるメリットを、企業側・銀行側それぞれについて解説していきます。
企業側:ノウハウや無形資産も担保価値として評価される
企業側が得られる最大のメリットは、無形資産も価値として評価される点です。これまでは不動産や設備など有形資産のみでしか融資を受けられませんでした。
しかし、新制度が適用されたことで、ノウハウやブランドといった無形資産でも資金調達が可能になります。
企業は柔軟に資金調達ができ、成長戦略の実行にも役立ちます。
融資を受けて成長戦略で成功を収めれば、担保価値も上昇します。その結果、さらなる資金調達が可能になるかもしれません。
銀行側:有形・無形の資産で企業を総合的に評価できる
銀行側のメリットは、有形・無形資産によって企業を総合的に評価できる点です。
これまでは銀行が企業に融資をして一定の金額を回収するのみで、不良債権などの問題もあり、銀行側も融資の判断は慎重になっていました。
しかし、企業価値担保権となれば銀行は有形資産だけではなく、無形資産でも企業を評価できます。
それぞれを合わせて総合的に評価できるため、融資先の企業とは事業の継続や成長目標を共有でき、企業のライフサイクルにも柔軟に対応できます。
企業価値担保権の課題
新制度には課題点もあります。企業側、銀行側のそれぞれの課題を解説していきます。
企業側:金融機関との連携や積極性が求められる
制度を活用するためにも、金融機関との密な連携が必要です。金融機関からの融資を受けるためには、信用を獲得しなければいけません。
事業計画や財務状況では適切な情報を提供する積極的な姿勢を見せる必要があります。
銀行側:企業価値の見極めが必要となる
無形資産を活用した事業成長性が期待できても、その評価が適切でなければ過大な担保価値を設定してしまう危険性もあります。
また、資産が減価するリスクも考慮しなければいけないため、銀行は融資を提供する企業の価値を見極める能力が必要になります。
企業価値担保権の活用例
企業価値担保権の活用例は以下のとおりです。それぞれの活用例について、詳しくご紹介します。
スタートアップ
スタートアップ企業とは、革新的なビジネスモデルを実現させることで、短期的に急成長を目指す企業のことです。
スタートアップは短期的な急成長を目指すために、先行投資として研究開発費や人件費、広告費などを準備しなければいけません。
しかし、まだ事業を開始したばかりで有形資産を持たないスタートアップ企業にとって、有権資産を担保とする融資を受けにくい状況にあるといえます。
企業価値担保権なら、ノウハウ・顧客基盤など無形資産も評価されるため、スタートアップ企業でも融資を受けやすくなります。
事業承継
企業価値担保権は事業承継にも活用できます。
多くの企業では経営者保証が求められていますが、事業が大きくなっていけば経営者自身の資産が拡大するため、経営者保証への抵抗感は少なかったかもしれません。
しかし、経営者保証に対して抵抗感があれば、事業承継への妨げになってしまうケースもあります。
企業価値担保権は新たな経営体制や事業全体も含めて価値を評価してくれるため、担保価値があると判断されれば金融機関も経営者保証を求めることなく、融資を実行してくれる可能性が高いといえます。
事業再生
業績悪化などの影響で事業再生となった場合も、企業価値担保権が活用されます。
採算が取れない部署を整理するために、担保目的となっていた不動産を処分しなくてはいけない場合、会社が保有する有形資産が減少してしまうかもしれません。
しかし、事業に少しでも残す価値があった場合、企業価値担保権を活用することで有形資産を失わずに済みます。
企業価値担保権の実行手続きの流れ
ここからは、企業価値担保権の実行手続きの流れについて紹介します。
1.企業価値担保権の実行手続きの開始
まずは担保権の実行手続きを開始します。事業を継続しつつ、できるだけ企業価値を維持することが重要です。
債務の弁済が滞った場合、担保権の実行には担保権者が裁判所に申し立てを行い、裁判所が事業の経営や財産処分などに携わる管財人を選任します。
管財人を選任したら、事業継続などに必要な商取引債権・労働債権などを優先に弁済します。
なお、通常の債権に関しては弁済が禁止されますが、担保権の価値を維持するために、事業継続に必要な債権などは弁済しなければいけません。
管財人は弁済が必要と判断される債権に対して、裁判所から許可を得た上で債権を弁済します。
2.事業譲渡
次に、管財人は事業の経営などを行いながらスポンサーに事業を譲渡します。事業を継続しながら譲渡することで、雇用を維持するのが狙いです。
ただし、事業を譲渡する際には裁判所からの許可が必要です。許可を得る際に裁判所が労働組合や配当を受け取る債権者に対して意見を聴取します。
3.配当
裁判所の許可を得た上で事業譲渡が完了したら、特定被担保債権に対する配当の実施です。
管財人は事業譲渡の対価から金融機関などの貸し手の金銭債権に充当し、一般債権者などに向けて事業譲渡の対価の一部を確保します。
また、管財人は一般債権者を中心とする不特定被担保債権者に対して、弁済原資として留保された金額を不特定被担保債権への配当原資として確保し、企業価値担保権者となる信販会社に交付します。
この資金は債務者企業の破産手続きなど清算手続きが開始された際に、破産管財人などに引き継がれることに留意してください。
企業価値担保権の支援機関
新法では企業価値担保権の利用を促進させ、サポートを担う機関として「認定事業性融資推進支援機関」と「事業性融資推進本部」を創設しています。
それぞれの支援機関の特徴は以下のとおりです。
支援機関 | 特徴 |
---|---|
認定事業性融資推進支援機関 | 企業価値担保権の活用をサポートするために、事業者や金融機関などに対して助言・指導を行う機関。 |
事業性融資推進本部 | 事業性融資の推進を図るために金融庁に設置された組織。金融担当大臣や経済産業大臣、財務大臣、農林水産大臣、法務大臣などが本部の構成員として所属している。 |
中小企業や金融機関を直接的に支援するのは、認定事業性融資推進支援機関です。
経営資源や財務内容の分析などを行った上で、経営実態を把握するための方法を助言してくれます。
また、事業計画の策定に関しても定期的にフォローを行い、必要に応じて助言するのも、認定事業性融資推進支援機関の役割です。
企業価値担保権の概要を理解し融資に役立てよう
企業の事業性に着目した企業価値担保権は、中小企業やスタートアップ、事業承継などにおける資金調達を円滑にすることを目的としています。
企業価値担保権を理解しうまく活用していくことで、革新的なビジネスモデルを有する企業もチャレンジしやすくなるでしょう。
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(編集:創業手帳編集部)