どうしたらいいの?可笑しくも哀しい「女性脳」と「男性脳」の付き合い方
株式会社 感性リサーチ 代表取締役 黒川伊保子インタビュー(後編)
(2018/12/03更新)
脳機能論の知見とAI分析の手法を用いて、マーケティングの世界に新境地を開拓した黒川伊保子さん。前編では、自身が起業した経緯やネーミングについて語っていただきました。
後編となる今回は、脳機能論の専門家から見た男性と女性の接し方、起業家として持っておくべき考え方についてお話を伺いました。
前編はこちら→ベストセラーのAI・脳科学者が教える「男女の脳の違い」から「売れるネーミング」を作るコツ
1959年長野県生まれ、栃木県育ち。1983年奈良女子大学理学部物理学科卒。
「男女脳の気分」を読み解く男女脳論の専門家、「ことばが脳にもたらす気分」を読み解く語感分析の専門家でもある。
人工知能(AI)エンジニアを経て、2003年、ことばの潜在脳効果の数値化に成功、大塚製薬「SoyJoy」のネーミングなど、多くの商品名の感性分析に貢献している。「男女脳差理解によるコミュニケーション力アップ」セミナーは、ダイバーシティ・インクルージョン教育の決定版として、13年前からの人気商品。昨今では、「AIとの付き合い方」を説く経営者向けセミナー、ブランド開発の感性コンサルティングも人気に。
脳化学の観点から見た男女の可笑しくも哀しいすれ違いを描いた随筆や恋愛論、脳機能から見た子育て指南本、語感の秘密を紐解く著作も人気を博し、TVやラジオ、雑誌にもたびたび登場。アカデミックからビジネス、エンタメまで、広く活躍している。
近著に「英雄の書」(ポプラ新書)、「女の機嫌の直し方」(インターナショナル新書)、「妻のトリセツ」(講談社+α新書)、「ヒトは7年で脱皮する ~近未来を予測する脳科学」(朝日新書、2018年12月13日発売決定)
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社の母子手帳、創業手帳を考案。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。ユニークなビジネスモデルを成功させ、累計100万部を超える。内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学、官公庁などでの講義も600回以上行っている。
女性との接し方、男性との接し方
黒川:私の言う「男性脳」とは、多くの男性が呈する神経信号特性を持つ脳のことです。「女性脳」は、その女性版。したがって、基本的に男性は男性脳、女性は女性脳ですが、男性の身体に女性脳が載っているケースもありますし、その逆もあります。特に男性は「脳の種類」が多い。お母さんの胎内にいる時のホルモン供給による違いで、そうなります。
脳の精査に関与するのは、脳梁(のうりょう)という場所の太さの違いだと言われています。お母さんのお腹にいる28週くらいまでは男女ともに同じ太さなのですが、妊娠の中期から後期にかけて、胎盤から供給される男性ホルモンによって脳梁が細くなります。妊娠コンディションによっては細くなりきらずに生まれてくる男性脳もあり、太古の昔から、一定数の「脳梁太めの男子」が生まれています。
また、脳梁の太さだけではなく、密度が濃い場所によっても違いがあります。脳梁のおでこに近い方の密度が濃いと女性脳に近い機能を呈することになります。
女性脳は、ことの経緯から細かく暗黙知(ことばや記号では表現しにくい「知恵」や「センス」)を見つけ出す特徴があります。
おでことは逆の後ろの方の密度が濃いと、直観が働いて発明をしたり、新しい事業を考え出したりするのに長けています。同時に、直感的なので人の好き嫌いがハッキリしていることも多いようです。科学者や新進気鋭の実業家、芸術家、音楽家、デザイナーなどに多いタイプ。このタイプは、男性脳も女性脳とも言い難い。ある意味、天才脳ですね。
黒川:女性と接する時は、心を受け止める必要があります。例えば、女性から「こんな提案あるんですけど」と言われた時に、「ああ、これはココがダメ」と返すと気分を害してしまいます。別にビジネスなんだから、ダメなものはダメというのはスピーディで良いのですが、女性は「事実とは別に心を労ってもらいたい」のです。
だから最初に「よく気が付いてくれたね」とか「なるほどね。分かるよ」と言ってから、「でも、これはもうちょっと考えよう」と言ったほうがいいです。
まず、その人が気持ちを使ってくれた事を汲んで、事実を判断する。女性脳は事実を否定される時には、まず心を労ってもらえるものだと思う傾向があります。
これはビジネスでもプライベートでもそうですね。男性が気軽に「あー、これね。これだからダメ」と言うと、女性は、事実を否定されたのではなく、自分の存在を否定されたと感じます。そうなると「この社長に提案するのはやめよう」とか「私はここにいなくてもいいか」とまでなりかねません。
ですが、女性を大切にすると、知らず知らずのうちにリスクヘッジをしてくれるんです。女性は無意識のうちに相手の体調を感じていて、体調が悪いと改善に良い食事を出してくれたりと、健康維持に働きかけてくれます。女性に大事に思われると、環境が良くなるんです。
男性に対しては、話す速度を遅くすることです。女性脳は音声認識のスイッチが起きてから眠るまで常に切れないのですが、男性脳の場合、ぼんやりしている間は音声認識のスイッチが切れています。
例えば、目の前の友達が愚痴を言っていて堂々巡りしたとします。女性脳は、話を聞いていなくても音声認識のスイッチが切れません。今日の夕飯のメニューを考えながら聞き流していても、相手が「で、あなたはどう思う?」と言ったら、その言葉をちゃんと音声認識しているんです。しかも、頭の中で音声を巻き戻して遡れるので、「うん、その件に関してはね……」と話を合わせることができます。
対して、男性脳の場合は「え、なにか言った?」といった具合で、全然ついていけません。いきなり話しかけられても、音声認識のスイッチが入っていないんです。
それを知らないと、聞き取れていない男性脳部下が「はい?」と聞き返してきたとき、馬鹿にされているように感じてしまいます。
だから、女性脳上司が男性脳部下に話す時は、まず声をかけて3秒待ってから話した方が良いですね。さらに、一定時間に言うワード数は、女性脳相手よりもちょっと少なくする。特に40代後半以降の女性は主語を抜かしがちなので、主語を抜いていきなり話し始めると、男性脳の部下はまったく理解できない可能性があります。伝わらなくて女性がイライラすると、「女性が経営者って感情的で嫌だよね」と感じてしまう…という悪循環です。
そしてもう一つ、男性脳の部下に対して話す時は、結論を先に言うこと。「この提案書の変更点について話があります。ポイントは3つ」というように分けて提示しましょう。説明しているときに4つ目5つ目のポイントに気が付いたとしても、いったんは3つで終わらせます。それをせずにダラダラ話をしていると、不信感が募ってしまいます。もし、話す相手が経験のある32歳以上なら、「あ、ごめんね。あと2つあるわ」と追加していっても大体は大丈夫でしょう。
女性に対しては心を受け止める
男性に対しては結論を先に言う
許せないものを決めよう
黒川: これまでの私は、人工知能の研究をすることで得た発見を研究室に閉じ込めておくのは惜しいからと起業して、様々な分野に活用してきました。けれども、ここから先は、起業後の活動で得た知見を人工知能に戻さないといけないな、と思っています。
人類を傷つける方法に、人工知能を活かさないで欲しいんです。人工知能は知性は持つけど、心は持たない。心を持たない物に対して、一般の方が心を持ったように感じてしまうという事が私は許せない。そういう流れに持っていってしまう開発側も許せない。
私たちは、これから人工知能の開発に寄与していく会社になるでしょう。「感性研究」は人工知能の研究から生まれましたが、これまでの活動で成熟した感性研究を人工知能に戻してあげるのが、私たちの社会的な使命です。企業が人工知能を導入する時、どうすればいいかの道筋をつけていくコンサルタント業務が必要になるでしょうから。
黒川:これは起業家の方へのアドバイスにもなりますが、「〇〇が許せない」というポイントを決めるといいですよ。そうすると、使命感が生まれます。
私は、「人の感性を研究し尽くさずして、人工知能は作れない」と考えています。たとえば、現在の女性型(女性の声、女性のビジュアル)の人工知能は男性の妄想で作られているから、女性が接すると神経を逆なでされることがある。人の気持ちを萎えさせる人工知能を、人類のそばに置きたくありません。
研究所はその流れを止める事はできないので、ちゃんと世論やユーザーにNOと言える知見を持っていたいですね。
黒川:私は、事業計画はいっさい立てないんです。常に、世界に先駆けて道を拓いてきましたので、予測がつかない。好奇心の赴くままに、ですね。わが社は「営業」と「計画」のない会社(微笑)
ただ、この秋、息子を専務取締役に迎えました。
私は来年還暦です。私の感性理論が世の中枢を担うようになるとしたら、AIが成熟した先。おそらく15年後でしょう。おそらく、まだ「あ~でもない、こ~でもない」と研究はしていると思いますが、ビジネスの中心にいるにはふさわしくありません。今だって、「大先生」相手に、若いビジネスマンが緊張するのがわかりますから。
事業承継には7年の「のりしろ」がいる、と私は考えています。脳は7年サイクルで変化しますから(12月13日発売「ヒトは7年で脱皮する」《朝日新書》を参照してくださいね)、後継者の直感が働くようになるまで7年かかるんです。
私自身を振り返っても、起業して、新しい領域を開いて、その領域に関する直感が働くようになるまでに7年かかっています。たぶん息子も、直感が働くようになるまであと7年かかるでしょう。60歳で初めて、70歳までかかる予測です。今回は、息子の人生の節目と会社のニーズがうまくマッチングして、偶然このタイミングで彼を迎えましたが、考えてみれば意外にぎりぎりセーフ。事業承継はけっこう早めにやらないと間に合わないんだなぁと実感しています。
起業をするにも、「直感が働くのに7年の時間がかかる」ということを知って臨むことをオススメします。
許せないポイントを決めることで
使命感が生まれる
起業家は「社員を食べさせる」気持ちでやらないとダメ
黒川:起業家は特に、万人に好かれるのは難しいと思うんです。人は、憧れられるか好かれるか、どちらかを選ぶしかありません。「憧れられて、みんなに好かれる」は、アイドルやスターのような偶像以外にはありえないんです。
脳機能論の観点から見ると、「憧れる」と「好き」は違う信号です。憧れられる人は、熱烈なファンを持っている一方で、万人には好かれない。起業家やリーダー、新事業を開発する人は憧れを牽引していく人達なので、一部の人にものすごく嫌われ、多くの人にもやや遠巻きにされます。
一方で、信望者が付いてきてくれて、本人は好かれなくともブランドやサービスは受け入れられるのが起業家です。よく「社長は孤独」と言われます。憧れを牽引する以上は、ときに人に嫌われてブランドだけが好かれるという状態を作らなければいけません。
万人に好かれようと思ったら、起業家にはなれません。「人に好かれなくても結構。むしろ面倒くさい」と思えるほどの人じゃないと、務まらないかもしれませんね。
黒川:私は、起業のプロではないので偉そうな事は言えませんが…ただ、「女性の働く場がないから、自分で会社をつくる」というのはやめた方がいい気がします。
起業家は1人でも食べていけるけど、事業パートナーと一緒に売り上げを1.5倍や2倍にして、雇用を創成して人を食べさせていくという考え方じゃないと、経営はできません。
「女性起業家」はひとつの特徴として見られますが、どこにも雇ってもらえないから支援を受けて会社を作り「女性の会社です」とするのでは、自社独自の強みが作り出せないと思います。やっぱり、起業家は「自分が食べていける」才覚があるのが基本。そのうえで「雇った人も食べていける」会社にしよう、という発想が必要ではないでしょうか。
起業家は万人には好かれない。
「人に好かれなくても結構」と思えるようになろう
(取材協力:株式会社 感性リサーチ 代表取締役社長 黒川 伊保子)
(編集:創業手帳編集部)