小規模事業者持続化補助金で新業態チャレンジの事例研究!鎌倉のアイス屋「鎌茶屋(AMERIGO by Kamachaya)」

飲食開業手帳

新たな看板商品の開発のため、申請した小規模事業者持続化補助金の実際の申請書類が入手できる!


※小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>、<低感染リスク型ビジネス枠>は終了しました。小規模事業者持続化補助金<一般型>は存続します。

新型コロナウイルスの影響で、飲食店の経営は未だかつてない苦境に立たされています。飲食激戦区の観光地・鎌倉で、手作りのソフトクリームとアイスクリームを売りにした甘味処「鎌茶屋(AMERIGO by Kamachaya)」を運営する荒井雅英氏も、そのあおりを受けたひとりです。2016年のオープン以来、店は右肩上がりで業績を伸ばしてきましたが、コロナに見舞われてからは客足がパタリと途絶えました。しかしその後、小規模事業者持続化補助金を活用し、新商品である招き猫サブレの製造を強化するなど、新しい業態にチャレンジしています。そこで、これまでの経緯や補助金の審査、事業に対する考えについて、荒井氏に話を聞きました。補助金の審査で実際に使った資料もダウンロード可能なので、ぜひ参考にしてください。

荒井 雅英(あらい まさひで)
鎌茶屋(AMERIGO by kamachaya) 代表

1975年生まれ、東京都中央区出身。1998年に調理師免許取得。飲食店の開業に必要な技術やノウハウを身につけるため個人経営やFC飲食店で修行。組織化した際の経営戦略、マネジメントを学ぶためEC関連会社にて従事後、2016年に鎌倉小町に店舗開業。コロナ禍の2020年に複数の補助金採択を受け、観光客をターゲットにするビジネスモデルから、店舗・卸売・デリバリー・通販事業と4つの売上構成からなるビジネスモデルに変更、現在に至る。

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観光客で賑わうエリアが一転、シャッター街に


店には常時10種類ほどのアイスクリームが並ぶ。鎌茶屋のソフトクリームはジェラート寄りで、ずっしりとした質量が特徴。

鎌倉駅より徒歩3分、観光客で賑わう小町通りに面したビルの一角に「鎌茶屋(AMERIGO by Kamachaya)」がオープンしたのは2016年12月のこと。居抜きで入った物件で、前オーナーが置いていったアイスクリーム製造機等の設備も揃った状態での開業でした。通りから少し奥まった立地ゆえ、通行人の目には触れにくい場所でしたが、経営譲渡によって引き継いだこともあり、初年度から一定のファンがいる恵まれた状態でスタートを切ることができたといいます。また、店舗のあるビルの1階にはベンチがあるため、バスや電車が来るまで利用する年配の女性や、鎌倉観光に来た家族の待ち合わせ場所として利用されることも多いそうです。
売上は季節によって変動はあるものの、開業当初より店舗販売と卸売り販売の2本柱で、年間を通して年商1,000万円前後を維持してきました。ソフトクリームは3年連続で年間1万個以上の販売実績を達成しており、卸売り商材の「ずんだシェイク」も同様に3年連続で年間1万個以上の販売実績を誇ります。

ところが2020年春に発生した新型コロナウイルスの影響で客は激減。政府の緊急事態宣言を受け、小町通りの大半の店が臨時休業し、通りはシャッター街と化しました。そんな中でも荒井氏は営業を続け、細々と売上を立ててきたといいます。

「あの時は散々でしたね。2020年1月から3月までの3ヶ月間の売上は前年の同時期と比べて35%減、4月と5月にいたっては80%以上の減少になりました。上半期の損失を下半期で取り戻せるほどの売上は期待できないと判断したため、小規模事業者持続化補助金を活用して、卸のもうひとつの看板メニューである、招き猫サブレの製造を強化することにしたんです」

閑散期に備えて開発を進めていた焼き菓子

店のもうひとつの看板メニュー、招き猫サブレ。

実店舗の主力商品はアイスクリームやソフトクリームなどの冷菓が中心のため、12月から3月までは閑散期となります。そのため、4年前の開業当初から日持ちのする焼き菓子などを土産物やお歳暮用の商材にすべく、商品開発に取り組んできました。

鎌倉という土地柄、縁起物の何かが作れないかと考えていました。そこで思いついたのが招き猫のサブレです。鎌茶屋(AMERIGO by Kamachaya)の店先には大きな招き猫の銅像がありますが、それにヒントを得ました。1枚あたりの単価は低いですが、詰め合わせとして販売できれば良いかなと」

荒井氏は、実は客足が遠のきそうな気配はコロナ以前にも感じていたといいます。2019年に定められた「鎌倉市食べ歩き自粛条例」に伴う連日のメディア報道とタピオカブーム、消費税の増税、観光客の減少などから危機感を募らせていました。小町通りには原宿の竹下通りを訪れるような若年層の観光客が増え、それまで年配客が多かった鎌茶屋の客層にも変化が見られるようになりました。このままではダメだとテコ入れを考え、そこで生まれたのが招き猫サブレでした。

クッキーの型は金物店や百貨店などに流通している金型ではなく、個人の作家が3Dプリンターで作成した手作り感溢れるプラスチック製を使用。一般販売されているクッキーに比べてオリジナリティがあり、縁起物として喜ばれるようにと招き猫の型にしました。パッケージには和の書体を使用し、招き猫サブレのステッカーを張ることで、鎌倉らしい土産物・贈り物として使えるように工夫しました。

コロナ禍で得た国と県の事業補助金

白玉ぜんざいやお汁粉などのメニューも人気。

店頭販売を始めた招き猫サブレは、2019年夏頃から卸売り先の開拓も実施。全国のパチンコ遊技場施設へ卸売りを行う2社と代理店契約を結び、テストマーケティングを始めました。その結果、景品法の200円以下の無料配布物(総付景品)という分類に合致し、全国のパチンコ店からお正月イベント用に注文が殺到。2019年12月単月の出荷は3,000組以上となり、年末需要の可能性を確信したといいます。

ただし製造には手作業の工程が多く、1日当たりの製造数は120組が限界だったため、大量受注に耐えうる業務用ミキサーと業務用オーブンが必要だと判断。資金調達のひとつの方法として、日本商工会議所の「小規模事業者持続化補助金」と、神奈川県が行う「神奈川県中小企業・小規模企業再起促進事業費補助金」を申請しました。

「店頭販売だけでなく、卸売りの営業などもひとりでやっているので、忙しさに忙殺されると何からやれば良いのか分からなくなってしまうこともあります。そのため、自分を戒めるという意味でも、もう一度企画書を書こうと補助金の申請書類を作成しました。ビジネスモデルの転換を図るということで最初に商工会議所に提出し、神奈川県にも同様の制度があったので、そちらにもエントリーしたんです。それがコロナで打ちひしがれていた2020年5月のことですね。商工会議所の補助金には一般型とコロナ型があり、最初は一般型で申し込みました。補助金交付申請額は42万円で、そのうち3分の2を補助してくださるということでしたが、コロナ型で申し込み直せばコンサルティングをプラスαで付けられるということで、補助金交付申請額102万円で申請し直したんです」

商工会議所の補助金は一般型もコロナ型もどちらも採択されましたが、最終的にはどちらかひとつを選ばなくてはならなかったため、コロナ型を選択。申請から数ヶ月後の2020年秋に、商工会議所からは68万円、神奈川県からは非対面型ビジネスモデルを構築するという名目で67万円の補助を受けました。これを機に、店舗の改装や招き猫サブレの商標登録を行い、リスタートを切った新生・鎌茶屋。サブレの商標登録には1年から1年半ほどかかりましたが、「自分自身を守るために商標登録を行った」と荒井氏は話します。実は招き猫サブレという名称では一度審査に落ちてしまいましたたが、その後に招き猫サブレというロゴ商標を取り直す申請を行ったそうです。

Uber Eatsがひとつの勝機に

そしてもうひとつ、コロナ禍で行った新たな取り組みがあります。それはUber Eatsへの出店です。ゴールデンウイークに別荘族が逗子マリーナに籠るのではと考えた荒井氏は、1品1300円という高額のBIGミルクシェイク・サンデーを2021年のGW直前に考案。準備万端の体制で臨みましたが、狙いは見事に外れて1件も注文が入らなかったといいます。

ところがGWも終わって通常運転に戻ると、今度は逗子や鎌倉在住の地域住民から続々と注文が入るようになりました。オーダー元は在宅勤務の中で贅沢をしたい女性や家族など、想定していたターゲットとは違う層ばかり。それまでデリバリーに馴染みのなかった荒井氏は、自身が設定した価格は高すぎるのではと不安でしたが、どうやら若い世代は「価格はいくらでもいいから届けて欲しい」という発想を持っているということに気が付いたといいます。

皆さんライフスタイルに合わせて頼んでいるようで、おそらく自分たちの世代とは考え方が違うようです。ひとつの勝機として重きを置いても良さそうだと思い、menuと出前館への出店も考えるようになりました。競合はサーティワンだけですし、このチャンスを逃すのはもったいない。もともとテスト的に始めたものですが、夏までにデリバリーでどこまでいけるかやってみたいと思っています。デリバリーは資材の用意や梱包など手間もかかりますが、それでも飲食店の経営者には導入をお勧めしたいですね」

Googleのレビューが集客に貢献


店内には、お客様からいただいたというお礼のメッセージも。「地元の人にも愛される美味しくて安い店を」という荒井氏の想いが形になっている。

現在店で提供しているのは、看板メニューのソフトクリームとアイスクリーム、そしておしるこやクリーム白玉ぜんざいなどで、これらを庶民的な価格帯で提供しています。鎌茶屋では製造から出荷まで荒井氏ひとりで行っているため、コストを大幅に抑えることができているといいます。訪れるのは、地元に住む70〜80代の女性グループや団体の観光客、40〜50代のハイキンググループ、鎌倉散策を楽しむ10〜20代の学生グループやカップルなど、幅広い層です。

鎌茶屋は配合からすべて手作りでソフトクリームを製造する、小町通りでは唯一の店で、Googleマップのレビューでは4.6と高評価を得ています。小規模事業者持続化補助金を機にお願いしたコンサルタントから「レビュー数は40件以上を目指して」と助言されたこともあり、レビューを強化している時期があったそうですが、今ではそのレビューを見て訪れる人がかなりの数いるのだとか。

2023年末までに「卸売り業の売上を700万円台に乗せる」という目標を掲げる荒井氏。招き猫サブレは将来的に商品のパッケージデザインなどのブラッシュアップを行い、豊島屋の鳩サブレや紅谷のクルミッ子と並ぶ鎌倉土産の定番化を目指します。また、現在売上の比率は店舗7割、卸3割ですが、来年には半々を目指し、4、5年後には100%卸にシフトできるように戦略を練るといいます。

「1年前の今頃、コロナだからと言って何もせずにあのまま凹んでいるより、無理やりにでも前に進んで良かったと思います」と荒井氏。鎌茶屋の挑戦はまだまだ続きます。

荒井氏が実際に補助金申請に使用した書類を、特別に創業手帳の読者に公開してくれました。こちらからダウンロードが可能です。

確実に資金を調達するために、こちらの資金調達手帳もぜひ併せてご覧ください。
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(取材協力: 鎌茶屋 オーナー荒井雅英
(編集: 創業手帳編集部)

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