地元で起業すると成功するのか? メリットや注意点とは

創業手帳

都心ではなくあえて地元で起業することの意義や方法について紹介

地元で起業

新たに事業を起ち上げる人の中には、都心ではなくあえて地元での起業を実践するケースが増えています。しかし、地元で起業したとしても成功できるか否かについては不透明な部分はあり、気になるところでしょう。自分の地元をはじめ地方では、過疎化や店舗、企業の廃業などの危機に立たされている場合も多く、不安に感じている起業家の方もいるのではないでしょうか。

地元での起業には、都心では得られない利点があると同時に、欠点も存在します。そのため、これらの点をよく見極めて起業することが大切です。では、地元で起業するメリットとは、どのようなものでしょうか。今回は、地元起業の際の注意点も含めて詳しく解説します。

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この記事の目次

地元での起業が注目される理由

地元イメージ

地元が地方で、起業することに不安を感じている人のために、地元や地方起業が注目されている理由について紹介します。

地方起業率の増加

地方で起業するケースが増えていることを裏付けるものとして、地方起業率が上がっていることがあげられます。全国的に見ると、例えば沖縄県では、起業率が9%を超えており首都圏や都心部などより高いことがわかっています。このように、地方で起業するケースは多くあり、起業家は成功のビジョンをある程度持って臨んでいます。

地域活性化のため地方での起業の受け入れが進む

地方では、地域活性化を目的として地元での起業や移住を受け入れる体制が整っている自治体があります。これは、その地域の人口や収益、雇用の減少といった危機に立たされた自治体が、起業して経済を回す人たちを受け入れて再興したいという思いを持っているためです。起業家を誘致することで、地元の人口の固定化や経済の活性化、雇用の創出を期待しています。

テレワークなど働き方の多様化

インターネットが日常的に普及した昨今では、働き方も多様化しています。例えば、出社せずともインターネットを通してやりとりができるテレワークや、複数のプロジェクトを同時進行させるパラレルワークなどです。これらの働き方により、必ずしも都心のオフィスに通う必要がなくなり、地元でも仕事を行ってインターネット上で情報を共有することが可能になりました

コワーキングスペースの増加

地元を含めた地方でも、オフィスから離れた場所で仕事ができるコワーキングスペースがよく見られるようになりました。コワーキングスペースの増加は、テレワークやリモートワークの普及が進んでいることを指しています。また、特定の仕事場を持たないノマドワーカーも、コワーキングスペースの利用者です。つまり、働き方の多様化によって地元で事業を起こし、独自のビジネスを展開できるようになりました。

地元起業のメリット

では、地元で起業するメリットとはどのような点でしょうか。

コストダウンができる

地元が地方である場合、地元で起業する際にかかるコストダウンが期待されます。都心と比べて地方は物価や事務所の賃料などの相場が安く、人件費も抑えることが可能です。そのため、経営における長期的なランニングコストを浮かせられます。コストの削減は、事業を長く続けるほど資金繰りに有利に働くので、地方起業のメリットと言えます。

地方ならではの付加価値がつく

自身の地元をはじめ、それぞれの地方には都心では見られない独自の特産品や文化があるのではないでしょうか。地元で起業する場合、商品やサービスにこうした地方ならではの付加価値をつけ、ブランディングを行えるということもメリットの1つです。話題になれば、通販サイトで商品を販売することも可能ですし、地元に根づく特性を多くの人に受け入れられる形で発信すれば、付加価値の底上げも期待できます。

自治体の優遇制度や民間の支援が受けられる

起業家を受け入れている地方自治体では、起業に際して優遇制度を設けている場合があります。例えば、起業資金に補助金を支給したり、事業税を免除したりといった内容です。さらに、民間でも起業家を支援するネットワークが存在している地域もあります。このような支援には、地域住民と移住した起業家のつながりでビジネスに相互作用をもたらす、また、地元でのビジネスコンサルティングサービスを提供するといった形があります。

地元で起業 受けられる優遇制度

地元での起業で受けられる優遇制度について、地方で実施されている例を一部あげていきます。

起業家育成資金

起業家育成資金は、埼玉県で実施されている起業家のための優遇制度です。これから起業する人、もしくは起業してから5年未満の事業者を対象とし、最高で1,500万円の資金を融資するものです。低い金利や担保不要、法人であれば代表者以外の保証人も不要であり、資金不足の起業家にとっては嬉しい制度でしょう。

創業者支援融資

石川県では、創業者支援融資として地域に移住した起業家に対して優遇制度を設けています。毎年1月までに起業計画を立てている、また、2月までに起業してさらに新たに事業を起こす人を対象の基本とし、最高2,000万円の融資が受けられます。こちらも無担保で融資が可能であり、石川県信用保証協会の保証がつきます。

中小企業向け融資

富山県では、県内で起業してから1年以上経過している・県税を納付しているなどの条件のもとで、中小企業を対象に支援金を融資しています。支援の内容は、創業支援や設備投資、IoT支援などがあり、融資限度額は内容にもよりますが1,000万円~5,000万円程度が設定されています。融資対象者の細かな条件もそれぞれに異なるものの、いずれも低金利で融資を受けることができます。
このほかにも茨城県では創業後5年未満までを対象に創業支援の融資を行っており、5割の信用保証料の補助も受けることが可能です。また岐阜県では年1.2%の固定金利で融資を受けることが可能です。(返済期限を10年超える場合は1.6%)

地元起業で注意すべきこと

地元で起業するにあたり注意したい点をあげていきます。

顧客の新規開拓が難しい

地元が地方である場合、都心と比べてどうしても人口が少ないことは否めません。そのため、顧客を新規開拓しようとしても、顧客の絶対数が少ないことから販路の拡大が望みにくいです。また、顧客獲得のためのイベントなどを開催しても、人が集まりにくいことから新規の取引につながりにくい面もあるでしょう。この点はある程度覚悟しておく必要があり、ビジネス戦略として地方から都心に発信できるシステムを整えることがポイントといえます。

市場の流行をこまめにチェックする

都心から離れた地元では、市場の流行を掴みにくかったり新商品の情報が入ってこなかったりといった事態に陥りやすいです。流行は、一般的に都心から地方に流れていくためです。そして、市場の流行を掴めないまま事業を進めても、すでに使い古されたものであるため顧客が目を向けなくなるのです。そのため、インターネットやSNSなどを通じて市場の動きを常にチェックするほか、都心のビジネスパートナーからの情報にもアンテナを張っておく必要があります。

元々ある地元企業との関係に気を付ける

地元での起業は、競合他社の絶対数が少ないことから成功を期待する人も多いです。しかし、逆に競合他社の事業が地元に根づいたものである場合、確実に商圏を握っていることから顧客の固定化が起き、顧客の流入が難しいともいえるのです。さらに、新規参入者が斬新な事業を行っても、地元では受け入れられないといったケースも見られます。そこで、地元の地域性をしっかりと理解し、すでに地域に根付いている他社の事業も尊重しながら胸を借りるつもりでビジネスを進めていくのがおすすめです。

人材確保の仕方を検討しておく

地元で事業を進めるにあたり、問題とされる点の1つが人材の確保です。優秀な人材はもちろん地元にもいるはずですが、こちらも絶対数が少ないため、適した人材を見つけるのが難しいのです。また、地元における人材採用は、求人媒体に加えて地域住民の紹介で成り立っている場合も多くあります。そのため、地元に根づいた求人媒体を利用しながら、並行して事業を地域に密着させ、地域とのつながりを作った上で人材確保を行うことも視野に入れましょう。

地元起業をするために身に着けたいこと

地元起業で成功するために、ぜひ身に着けておきたいスキルがあります。持っていると有利になるスキルについて紹介しましょう。

地元の特性を十分に理解する

地元を商圏とする場合、その地域の特性をよく理解して事業展開することが大切です。例えば、特産品や文化に特化した事業を行うには、うわべの知識だけではなく、脈々と続いてきた歴史や地域住民への浸透度をよく知っておく必要があるでしょう。地元の特性をよく理解したビジネスを展開すれば、地域住民の支援や自治体の優遇制度なども受けやすくなる可能性があります。

IT知識やスキルを習得する

地元密着にこだわらず、都心にビジネスパートナーを持って事業を行う場合は、IT知識やスキルを身に着けると有利です。たとえば、システムエンジニアやプログラマなどは、出社不要でオンラインでの納品が可能であり、地元でも十分に事業を進めることができます。また、ミーティングに関してもオンラインで行う流れが広がっており、IT系のスキルを身に着ければ地元での起業も問題なく行えます。

ビジネスコンサルティングの力をつける

地元ですでに地域の特性を生かしたビジネスを行っている事業者がいる場合、販路の拡大に伸び悩んでいるケースも少なくありません。そこで、そのような事業者に向けてビジネスのコンサルティングを行う事業を起ち上げるのも1つの方法です。事業展開のアドバイスを始め、地域の事業者と協力し合って新たな商品やサービスを生み出すといった展開も可能です。その結果、地元を飛び出した顧客獲得も期待できます。

地元起業に適していないのは

起業イメージ
起業への意識の持ち方によっては、地元起業に適していない場合もあります。では、地元起業に適さない考え方とは、どのようなものでしょうか。

コストダウンにばかり目が行く

地元が地方である場合、物価や賃料などの安さ、優遇制度などによって運営コストを下げられるメリットがあります。しかし、コストダウンばかりを狙って事業を行っても、事業自体が軌道に乗らなければ失敗してしまうでしょう。地元での事業においてどのような付加価値をつけるか、地域市場の動きはどうかなど、地元でビジネスを展開する意味を見出すことが求められるのです。

地域とのコミュニケーションを視野に入れていない

地元では、地域住民に根差した文化や生活があり、ある程度は強固なコミュニティができています。そのコミュニティに積極的に参加し、自分の事業を浸透させることを視野に入れていなければ、部外者として弾かれてしまうことも考えられます。地元に受け入れられなければ、顧客獲得も難しくなるでしょう。そのため、起業したら地域とのコミュニケーションをしっかり取ることを心がけてください。

地元起業に向いている業種

ここからは、特に地元での起業に向いている事業がどのようなものか紹介します。

リモートワークが可能であるIT系

インターネットを介して、ミーティングや成果物の納品などリモートワークができるIT系事業は、地元での起業が比較的容易です。地元はもちろんのこと、都心や首都圏の取引先とビジネスを展開することもできます。さらに、Webを介したサービスやアプリ開発などのIT系事業は、多くの人材や設備がなくても行うことが可能です。これらは、地元起業のデメリットをカバーするものでもあります。

地元の特産品や名物、第一次産業に関わる事業

地元には、都心にはない独自の特産品や文化があるはずです。この独自性を生かした商品やサービスは、都心の人々には珍しく新鮮なものに映るでしょう。これらの商品やサービスについて、SNSなどのツールを通してPRできれば、多くの人に受け入れられて話題になることも不可能ではありません。また、地方である地元には、農業や漁業などの第一次産業が盛んなところもあるのではないでしょうか。こうした第一次産業の業界では後継者の受け入れを積極的に行っており、支援体制がある地方自治体も多いようです。そのため、第一次産業と融合したビジネスを展開するのもいい方法です。

地元起業の成功例

こちらでは、実際に地元起業での成功例をいくつかあげていきましょう。

地酒と食文化などを融合させたツアー展開

北海道小樽市では、地酒を主役としてグルメや工芸品などをセット販売し、さらにそれぞれの産地をめぐるツアーを組むビジネスを展開しました。このビジネスでは、もともと競合する市場である酒造業界が連携を取り、さらに旅行会社が協力することで実現させています。さらに、飲食業界や工芸業界などにも協力を仰いだほか、自治体の支援も受けることで地域を上げた一大ビジネスとして成立しました。このビジネスは、北海道観光の価値を大きく底上げするものとなりました。

地方から全国に広がる田んぼアート

青森県田舎館村で有名な田んぼアートは、もともと米の名産地である地域の村おこしとして始まったものです。少しずつ色が異なる12品種の稲を使い、細やかで美しいアートを作り出します。その完成度の高さは大きな話題を呼び、全国的な知名度を得るまでになっています。発起人は地域住民であり、地元の大学生や旅行者なども含めて事業を拡大させていきました。この事業から田んぼアートが発展し、全国で田んぼアートのイベントが開催されるまでになっています。

スポーツをメインに地域コミュニティの確立

新潟県十日町市の例では、スポーツ関連企業や団体、観光協会や各種メディアなどが連携してコミッションを作りました。そして、スポーツをクローズアップし、十日町市で大規模なスポーツイベントの開催を積極的に行うことで町のブランディングや情報発信を図りました。また、イベントにかかる施設の確保や宿泊施設の手配などは、すべてコミッションによりワンストップで行います。これにより、十日町市の観光全体の活性化が叶い、町全体の事業においてプラスの効果を得ることができました。

地元産業をブランド化して活性化

兵庫県豊岡市では、地域の特産品であるかばんの産業を地元のブランドとし、受注生産から地域でのワンストップ生産を実施して豊岡市のかばんに付加価値をつけています。また、商店街をかばん専門店が集まる通りとして再興しました。その他、空き店舗をイベントスペースとして利用し、かばん職人が出店した即売会なども行われています。さらに、かばん職人の育成制度を設け、後継者を育てるほか起業の際の支援も自治体から受けることができます。

卓越した技術力で地方起業で注目

島根県大田市の医療機器メーカーは、義手や義足などの人工身体パーツを製造する会社であり、本物そっくりに作り上げる卓越した技術力が、全国から注目されています。メーカーが製造した人工身体パーツは、経済産業省「ものづくり日本大賞」特別賞などを受賞しました。この技術力は、国内のみならず海外でも認められています。従業員は全国各地から募り地域への移住を促したほか、空いている古民家を自社でリノベーションして事業所として利用しています。

まとめ

地元に戻って起業したいという人は、数十年前よりもかなり増加しています。その背景には、IT技術の普及などがあげられ、インターネットを利用した地元での事業が実現しやすい環境も整ってきました。これにより、どのような地方にいても事業展開ができるわけです。また、地方独自の特性を生かした事業で成功するケースも多く、地元起業は注目を浴びています。

ただし、地元で起業するためには地域住民のコミュニケーションを密に取り、地元市場のリサーチや集客方法の戦略を立てるなど、しっかりと準備する必要があるでしょう。事業を地元に根差したものとして軌道に乗せるためには、2~3年くらいの期間を見ておきましょう。これくらいの長い時間をかけて、地元に溶け込み受け入れられることがスタートラインです。

都心では得られない地域独自の魅力を生かせることが、地方起業の醍醐味でもあります。そして、地域と協力し合って相乗効果で事業を盛り立てていくことが、成功のポイントです。地元の特性をよく理解した上できちんと事業戦略を組めば、その方向性次第ではチャンスを生かして事業の成功にこぎつけられるでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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