IPOを目指す上で欠かせない資本政策とは

資金調達手帳

IPO

(2018/08/27更新)

IPOを目指す社長が真剣に考えなければならない資本政策。資本政策とは、株式上場に向けて株主構成や発行済株式数などを勘案しつつ、必要となる資金調達を行うための計画です。資本政策は、上場予定の2~3年前から計画を立案し、実行していきます。

1 資本政策の主な検討事項

資本政策を立案し、実行していくためには、主幹事証券会社、ベンチャーキャピタル、会計事務所の他、銀行(証券会社などのグループ企業を含む)のサポートが不可欠です。とはいえ、資本政策は会社の命運を左右するものなので、専門家任せにせずに、最終的な決定は社長自身が行わなければなりません。そのため、社長は資本政策の基本的な検討事項として、次のことを理解しておくことが大切です。

1)資金調達

事業計画などに基づいて、いつ、誰から、どのような方法で、いくら資金を調達するのかを検討します。主な資金調達の方法は、金融機関系のファンド等からの出資、ベンチャーキャピタルなどの第三者による出資になりますが、注意が必要なのは第三者による出資です。

IPOを目指すのであれば、第三者による出資は不可欠です。それは、必要な資金を調達するためだけではなく、上場審査においても流通株式数などの要件が定められているからです。例えば、東京証券取引所のマザーズの上場審査には次の要件が定められています。

上場審査においても流通株式数なども審査されます。マザーズを例に説明している画像です

一方、無計画に第三者に出資をしてもらうと、経営者の持株比率が低下(=経営権が低下)してしまいます。また、発行済株式数が増加すると、1株当たりの価値が減少するという「株式の希薄化(ダイリューション)」が進み、上場時の株価の下落要因になることがあります。そのため、資金調達については、慎重に検討しなければなりません。

2)株主構成(安定株主対策)

株主構成を検討します。具体的には、安定株主を誰にして、どの程度の株式を保有してもらうかということです。発行済株式数の増加によって、経営者の持株比率が下がり、経営権が低下していくという問題があります。また、上場後は誰でも株式を取得できるようになるため、敵対的買収のリスクもあります。

こうした中で、上場後も経営の安定化を図るためには、自社の“味方”となる安定株主を一定程度確保しておく必要があります。安定株主の候補としては、オーナー一族、経営陣、従業員持株会、金融機関、取引先などが一般的です。

安定株主の株式の保有割合を決めるときの目安となるのが、株主総会の議決権です。株主総会における決議要件は、決議する事項によって異なります。

安定株主の株式の保有割合を決めるときに、必ず考慮しなければならない持株比率。株主総会における決議の種類と密接に関係します。決議の種類をまとめた画像です

株主構成は各社の実情に応じて決めますが、例えば、重要事項を決議できる議決権の3分の2以上を安定株主が保有し、安定株主の中でも特に信頼のおけるオーナー一族が2分の1以上を保有するのが1つの目安です。少なくとも、株主から敵対的な議案が提出された場合であっても、特別決議を単独で阻止できるよう議決権の3分の1超は、安定株主で占めるようにすることが大切です。

3)役員・従業員へのインセンティブ

役員や従業員を対象に、誰に、どのようなインセンティブを、どの程度付与するのか検討します。代表的な方法としては、ストックオプション制度や従業員持株会制度、株式給付信託(退職給付型、従業員持株会処分型)があります。

1.ストックオプション制度

ストックオプション制度は、役員や従業員などに、将来あらかじめ定められた価格で、株式を購入する権利を割り当てるものです。業績が向上して株価が上昇すれば、あらかじめ定められた価格(低い価格)で株式を購入し、上昇した株価で売却することで差益を得ることができます。ストックオプション制度は、高額な報酬の支払いが難しいことの多いベンチャー企業では、インセンティブを付与するための重要な方法となります。

2.従業員持株会制度

従業員持株会制度は、従業員から会員を募集して、給与や賞与の一部を原資として、自社株式を購入する制度です。会社が従業員の拠出金額の一定割合を奨励金として支給する場合も多くみられます。上場により株価が上昇すれば従業員の財産の増加につながります。

なお、持株会には従業員持株会の他に、役員を対象にした役員持株会・拡大従業員持株会などがあります。

3.株式給付信託(退職給付型、従業員持株会処分型)

退職給付型は、退職給付資産として従業員への支払いに充てるために、会社が拠出して従業員に対して株式分配を行う形態です。従業員持株会処分型は、持株会が一定期間内に購入する株式を会社が一括取得し、その中から毎月持株会に対して株式を売却する形態です。いずれも、従業員へのインセンティブ付与につながります。

なお、役員を対象とする株式給付信託も、近年導入件数が増加しています。

4)創業者利益

創業者が、いつ、どれだけ株式を売却するのか(どの程度の利益を求めるか)ということを検討します。

上場時に放出する株式には公募と売出しがあります。公募は新株を発行すること、売出しは創業者などが保有する株式を売却することです。創業者利益は、売出しによって確保するのが一般的です。上場後は、インサイダー取引規制があったり、創業者の売却が市場の不安感を招いて株価の下落要因となったりすることがあり、創業者は株式を気軽に売却できなくなるので注意が必要です。

なお、売却する株式数は流通株式比率、安定株主比率、マーケットの動向などを考慮して決定します。

5)事業承継対策

事業承継をスムーズに進めるための対策を検討します。若い社長には「事業承継なんて、関係ない」と考える人もいるでしょう。しかし、上場後の株価は上場前に比べて高くなることが多いため、社長が死亡して相続が発生した場合、多額の税負担が生じて事業承継に支障を来すこともあります。

そのため、後継者が決まっている場合は、上場前に後継者への株式一部移転を検討する、または、資産管理会社の活用を検討するなど、若い社長であっても、今、できることがないかを確認し、必要に応じて対策を検討するようにしましょう。

2 主なファイナンスの手法

資本政策においては、さまざまなファイナンスの手法が用いられます。主なファイナンスの手法と目的・効果は次の通りです。

資本政策では、さまざまなファイナンスの手法を知っておくことが大事です。株式異動、第三者割当増資、株主割当増資、自己株式取得、自己株式処分、ストックオプション制度・従業員持株制度の目的と効果をまとめた画像です

1)株式移動

既存の株主が他の者へ、発行済株式を移動(売買または贈与)する方法です。発行済株式数は変わりませんが株主構成を見直すことができます。

2)第三者割当増資

特定の第三者(役員、従業員、金融機関、取引先など)に、新株を発行して株式を割り当てる方法です。資金調達だけではなく、信頼できる相手に新株を割り当てることで安定株主を確保したりするなど、株主構成の見直しを行うことができます。

3)株主割当増資

全ての既存株主に対して、持株割合に応じて新株を割り当てる方法です。持株比率は変わりませんが、資金調達と各株主の保有株式数の増加を図ることができます。

4)自己株式取得

会社が発行済株式を購入して保有する方法です。自己株式には議決権がないため、会社の自己株式はその会社の議決権数から除外します。また、例えば、安定株主以外の株主から会社が自己株式を購入すれば、安定株主比率を高めるなど株主構成の見直しを行うことができます。

5)自己株式売却

会社が保有している自己株式を売却する方法です。発行済株式数は変わりませんが、新株発行と同様に資金を調達することができます。

6)ストックオプション制度・従業員持株会制度

ストックオプション制度や従業員持株会制度を通じて、株主構成を見直したり、役員や従業員へのインセンティブを付与したりすることができます。

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年5月15日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

(記事提供元:りそなCollaborare
(執筆:日本情報マート)
(監修:TOMA監査法人 パートナー 公認会計士 神谷隆行)

創業手帳別冊版「資金調達手帳」は資金調達の方法をはじめとし、キャッシュフロー改善のマル秘テクニックや創業計画書の書き方も充実。無料でお届けいたしますのでご活用ください。

創業手帳
この記事に関連するタグ
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す
今すぐ
申し込む
【無料】