インフィニティ国際学院 大谷 真樹|「旅をしながら学ぶ」前例のない教育制度
旅を通じてトラブルに対処する経験を積むことで、変化の早い時代で活躍する人材を育成する
「旅をしながら学ぶ」という新しい教育プログラムに挑戦するインフィニティ国際学院の大谷 真樹さん。実際にグローバルに活躍する大人が旅先での先生となり、変化を起こす人材の育成に取り組んでいます。
インフィニティ国際学院 高等部(以下、インフィニティ高等部)が実施する独自の教育プログラムや日本の教育事情について、創業手帳代表の大久保が聞きました。
インフィニティ国際学院 学院長
1961年八戸市生まれ。学習院大学経済学部卒業。NEC勤務を経て、株式会社インフォプラント(現 株式会社マクロミル)を創業。2001年に起業家のアカデミー賞といわれる『アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・スタートアップ部門優秀賞』を受賞。2008年に八戸大学客員教授、2010年に八戸大学・八戸短期大学総合研究所所長・教授、2011年に八戸大学学長補佐、2012年から2018年3月まで八戸学院大学学長を務めた。大学では「中小企業・ベンチャー企業論」「イノベーションマネジメント」「新農業ビジネス」等の科目を担当。社会人講座「起業家養成講座」の主任講師も務め、数多くの起業家を輩出している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
ベンチャー経営者を経て、インフィニティ国際学院を立ち上げ
大久保:まずはこれまでの経歴について教えて頂けますか?
大谷:1993年までは日本電気株式会社(通称:NEC)に在籍していまして、1996年に最初の起業として、株式会社インフォプラントを創業しました。
この会社はYahooに事業譲渡し、その後、インフォプラントの事業はYahooからマクロミルに売却されました。
大久保:NECという大企業をやめて、起業して感じたことはありますか?
大谷:NECの退職とインフォプラントの起業は、私にとって人生の大きなターニングポイントとなりました。
実際に起業して、ベンチャー企業を経営する中で、日本は世界の変化のスピードに全く追い付けていないと痛感しました。
そこでベンチャー企業の経営者を退く際に、「挑戦する多くの人たちを応援しよう」と決意し、大学でアントレプレナー養成講座を始めました。
グローバルの大きな変化を乗り越えられる人材に必要な、多様性、コミュニケーション能力、クリティカル思考能力、創造性などのスキルを育成する大学関係者も現れています。
2018年まで勤めていた八戸学院大学で学長を退官する際に、次は「日本の未来を変える若者を応援しよう」と決意し、今までの日本の学校教育の良いところを残しつつ、全く新しい教育を実施するインフィニティ国際学院を立ち上げることになりました。
「旅をしながら学ぶ」インフィニティ国際学院の独自カリキュラム
大久保:インフィニティ高等部と八洲学園大学国際高等学校の関係性を教えて頂けますか?
大谷:インフィニティ高等部は、本校である八洲学園大学国際高等学校のサポート校という立ち位置です。
高卒資格に必要な授業は、八洲学園大学国際高等学校で通信制高校としてオンライン講義で受けつつ、それ以外の探究学習や問題解決型プロジェクト学習などの、学びの中心はインフィニティ高等部独自のプログラムが実施されています。
その後の進路やキャリアを高校生のうちから考えるきっかけとなる「強力な原体験」が必要だと考えており、インフィニティ高等部では海外や国内の様々な場所を訪問し、旅をしながら学ぶカリキュラムを提供しています。
実際にインフィニティ高等部の学生が海外の大学に進学したり、起業を目指したり、中にはお笑い芸人を目指す学生も出てきて、周りに流されず、自分の価値観を自分で決められる学生が育っていると感じています。
大久保:インフィニティ高等部ではどのような教育が実施されていますか?
大谷:日本の学校教育では「変化に従う教育」が多いように感じます。
しかし、グローバルの早い変化の中で活躍する人材を育成するためには、「変化を起こす側の人材になる教育」が必要だと考えています。
全ての若者が起業すべきだとも考えてはいませんが、何をするにしてもアントレプレナー精神は必要です。この教育をインフィニティ高等部で実施しています。
日本の教育制度の弱点を補う「新たな教育プログラム」
大久保:日本の教育は何が問題なのでしょうか?
大谷:日本の組織論として、失敗しない人が出世する仕組みになっているのが1番の問題だと思います。これは企業にも官僚にも言えることで、この流れの根底には教育が関係していると思っています。
大久保:今の日本の教育に不足していることは何ですか?
大谷:まず多くの先生が教員以外の社会経験が少ないことが考えられます。
また、多くの保護者も過去に自分が受けた教育を元に、子ども達に進路指導をしているので、グローバル視点での進路指導ができる大人が学生の周りに不足しています。
日本の教育は150年前にできて、モノづくりをする職人を育成するには適した教育制度でした。しかし、現代は変化を起こす人材が求められているのにもかかわらず、教育制度がほとんど変わっていないのは問題です。
一般的に子ども達が関わる大人と言えば、両親や学校の先生が中心で、かなり狭いコミュニティに限定されてしまいます。
しかし、インフィニティ高等部であれば、旅先で出会う様々な大人達に教育してもらったり、時には怒られることもあります。
実際にグローバルで活躍している大人達が先生となり教育を行うことで、インフィニティ高等部では、一般的な学校教育で不足している部分を補っています。
日本の教育制度に不足しているもう一つのことは、お金について深く学ばないことです。
学校の授業でお金に触れる内容としては税金くらいで、お金の守り方、増やし方について教えられることはほとんどありません。
その点、インフィニティ高等部の学生の中には、実際に小規模でもビジネスを経験している学生もいるので、通常の学校とは違う経験ができていると思います。
本当の意味での「公平」な学習環境
大久保:教科学習についてはどう考えていますか?
大谷:国語、数学、理科、社会、英語などの教科は、タブレット端末を活用したアプリでも効率的に学習が可能です。
タブレット学習の優れている点は、生徒一人一人が自分のペースで学習できる点です。教室の授業であれば、学習が進んでいる生徒も遅れている生徒も同じ授業を同じペースで受けています。
本来であれば、クラスの生徒全員が学習ペースを合わせるのではなく、学習が得意な生徒はどんどん先を学べば良いですし、苦手分野がある生徒は納得いくまで繰り返し学習を続けるべきです。
各生徒が自分のペースで学習できる環境こそ、本当の意味での「公平」な学習環境だと私は考えています。
大久保:自分のペースで学習する環境にいるインフィニティ高等部の生徒は、実際に得意分野を伸ばした学習方法を自分で見つけられていますか?
大谷:実際に海外の大学に進学したいと自分の意志で決めた生徒は、自主的に英語を熱心に勉強するようになっています。
大人が一方的に英語を勉強しなさいと言っても、英語に興味がない生徒は熱心に勉強しません。
このように生徒が自分から勉強したいと思える分野を見つけられるように、インフィニティ高等部では色々な分野の体験を提供しています。
大久保:日本の教員の大変な部分は何だと思いますか?
大谷:学校の先生はとても大変だと思います。
日本の教育現場には、基本的に今までやっていた業務をやめにくい風土と文化があります。
その一方で文部科学省からは毎年新しい対応事項が通達され、今までやっていた業務に加えて、新しい業務にも対応しなければなりません。
毎年業務量が増える一方だということです。
日本の学校の裁量権の多くは校長に一任されていることが多く、テストを実施しないことも、チャイムを鳴らないことも校長先生が決められます。
実際に、全国にはテストがない学校やチャイムが鳴らない学校もあります。
教育現場に前例を変えにくい流れがある理由は、前例を踏襲しておけば大きな失敗はないと考えている先生が多いためです。
ここでも失敗を恐れる文化が根強く残っていることがわかります。
旅をしながら学ぶことで「トラブルに適応する経験」を積む
大久保:インフィニティ高等部では「旅×学び」が一つのテーマになっているように感じたのですが、生徒が旅をするメリットを教えて頂けますか?
大谷:予期せぬ出来事やトラブル、出会いが頻発する旅を通じて、総合的に多角的に生きる力を養えると考えています。
特に旅の途中でトラブルに遭遇した時に、どのように対処すれば良いのか?どこを頼れば良いのか?と、起きたトラブルごとに対処方法は変わりますし、このようなことを教科書で学ぶことはできません。
色々なことを「体験し、対処し、適応する」ことこそ、生徒が旅をしながら学ぶ最大のメリットだと考えています。
大久保:トラブルに対処する経験が、起業にも生かせる部分もありますか?
大谷:起業したらトラブルが頻発しますし、起業には教科書もありません。起業こそ、旅で培った経験が生きてくる分野だと思います。
大久保:起業には答えないと思いますが、その点もインフィニティ高等部の教育に組み込まれていますか?
大谷:インフィニティ高等部では、教えない教育をすることが多いです。
自分で問題を見つけ出し、考えていくことを教えています。
全てにおいて答えは自分の中にしかないと教えることで、起業や自分の進みたい道を見つける能力が身に着くと考えています。
このような環境で学ぶ生徒は、価値観は自分で決めるもので、自分の考えは自分で決めるしかないと学びます。
自分が進みたい進路や学びたい内容を、偏差値や大人からの言葉に左右されずに選べるようになるのです。
大久保:日本では他人からの評価を気にする人が多いかもしれませんが、この点も海外から学ぶことが多いですか?
大谷:貧しい地域で暮らす人たちは、ご飯を食べるお金がないにもかかわらず、毎日楽しく笑顔で生きている方々が大勢います。
日本人の方が豊かなのは間違いないですが、発展途上国の方々の方が幸せそうに暮らしている姿を多く見てきました。
ここでも自分の価値観を自分で決められる人は、他人からの評価に左右されずに生きていけます。
前例のない教育プログラムに挑戦
大久保:インフィニティ高等部という新しい学校を立ち上げる際に、どんな苦労がありましたか?
大谷:前例のない多くのことを、学校教育に取り入れようとしたため、多くの困難に直面してきました。
まずは従来の偏差値に囚われない教育基準を親御さんや学校の先生に理解してもらうことが大変でした。
しかし、特に都市部では、インフィニティ高等部のような先進的な教育プログラムを実施している学校も増えてきているので、いずれ理解してもらえると思っています。
大久保:サポート校であるインフィニティ高等部は、従来の教育システムの中ではどのような立ち位置になりますか?
大谷:サポート校は文部科学省の管轄下ではなく、経済産業省の管轄下になり、株式会社が提供する教育サービス業の一環です。
つまりインフィニティ高等部の生徒は、教育システム上は、八洲学園大学国際高等学校の通信制に通っており、塾のような立ち位置でインフィニティ高等部に通っているということになっています。
一般的に通信制高校というと教育水準が低いと思われることも多いですが、インフィニティ高等部の卒業生には、慶應大学を始めとするいわゆる偏差値が高い大学や海外の大学へ進学した生徒も多く輩出しています。
大久保:インフィニティ高等部の立ち上げをして、達成感を感じた瞬間はありましたか?
大谷:生徒自身で決断した進路が決まり、最初は半信半疑だった親御さんもインフィニティ高等部の教育カリキュラムに理解を示し、子どもの成長を喜んでくれた瞬間は嬉しかったですね。
インフィニティ国際学院の新たな挑戦「初等部と中等部の創設」
大久保:大谷先生が考えたカリキュラムの中で、特に思い入れのあるカリキュラムを教えて頂けますか?
大谷:それは登山です。毎年生徒と一緒に私も登山をしているのですが、登山こそ生きる力を五感で体験できる学習だと考えています。
山という壮大な自然を体感することで、エコや環境問題を考えるきっかけにもなりますし、自然の中にいると人間がどれだけちっぽけな存在なのかを良い意味で痛感します。
登山と言っても単なるハイキングや遠足感覚の登山ではなく、本格的に装備をして3日間のスケジュールで登山をすることもあります。
このような地球を五感で感じるカリキュラムは、他の学校にはないので、思い入れのあるカリキュラムになっています。
また、新型コロナウイルスの感染が縮小した際には、ネパールに行って、ヒマラヤトレッキングをする計画があります。
ネパールであれば、発展途上国の現状を視察する経験もできますし、エベレストという地球最大級の広大な自然を体感することもできます。
大久保:今後の目標などはありますか?
大谷:高等部を作って3年間経ちましたが、来年からは中等部と初等部も創設され、小、中、高校の一貫教育が完成します。この新しい挑戦でも成果を出すのが今後の目標です。
(取材協力:
インフィニティ国際学院 学院長 大谷 真樹)
(編集: 創業手帳編集部)