テレ東の敏腕プロデューサーに学ぶ「アイディア一点突破」の極意

創業手帳

テレビ東京プロデューサー 濱谷晃一氏インタビュー

(2015/07/10更新)

起業家は、制約された資金の中でより良い企画を構想し、自社のアイデンティティをいかに顧客に印象付けていくか、ということを日々考えています。一方、限られた予算の中で1つのアイディアを突き詰めて番組作りを行っているのが、テレビ業界の異端児と言われることも多いテレビ東京です。

そこで、「ワンテーマで一点突破する」という指針のもと『俺のダンディズム』など多数のヒットドラマを手がけるテレビ東京の濱谷晃一プロデューサーに、起業家に役立つ「一点突破の発想術」について話を伺いました。
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濱谷 晃一(はまたに・こういち)
テレビ東京 編成局ドラマ制作部 主事。慶応義塾大学卒業後、2001年にテレビ東京入社。制作局バラエティ班で『ピラメキーノ』総合演出、『シロウト名鑑』の演出などを担当する他、オリジナルドラマ企画『好好!キョンシーガール』のプロデューサー・脚本・監督も担当。その後、12年間所属したバラエティ班からドラマ制作部に異動し、『俺のダンディズム』『ワーキングデッド〜働くゾンビたち〜』『太鼓持ちの達人〜正しい××のほめ方〜』などオリジナル企画を次々と実現させ、テレビ東京でも異色のドラマプロデューサーとして活躍中。

他局ではワンコーナーでやるようなものを1時間やるのがテレ東

ーテレビ東京は他局に比べて「テレ東らしさ」と呼ばれる独自性を評価されることが多いですが、濱谷さんから見た最近のテレビ東京とは?

濱谷:『YOUは何しに日本へ?』や『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』のような手頃なサイズ感や、工夫をしながら番組を作り上げているというところが2年ぐらい前に世の中で話題になり、ちょっとしたテレ東ブームのようなものが来たのかなと。

自分たちで言うのもおこがましいですが、ここ1、2年は「テレビ東京って工夫していて面白いよね」と褒めていただける機会が多かったかなと思います。そこから一周して、また新たに頑張っていかないといけない時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

ー濱谷さんが書かれた著書『テレ東的、一点突破の発想術』にあるように、テレビ東京には1つのアイディアだけで番組を作り上げる「アイディア一点突破」が社風としてあるのでしょうか。

濱谷:そうですね。テレビ東京の番組と言うと、ニッチなところ、重箱の隅をつつくようなテーマで、他局が番組のワンコーナーでやるようなものを1時間それだけに特化してやっているんですよ。

例えば普通だったら「次は、何でも鑑定コーナーです!」ってやるようなところを『開運!なんでも鑑定団』として20年もやっていたり、「今日は空港ガチロケコーナー」って夕方のニュースの番組でやっていても良さそうなことを『YOUは何しに日本へ?』では1時間延々とやり続けていたり……。

特に、ヒットしていてテレビ東京らしいと言われる番組には、その傾向が目立ちますね。

ー確かに他局にはない発想ですよね。

濱谷:軌道修正が利かないスタートを切るのがテレビ東京らしさだと思うんですよね。『YOUは何しに日本へ?』というタイトルで始まったら、その時点である程度やれることが限定されてしまうし、『田舎に泊まろう!』で始めたら、それ以外はなかなか身動きが取れませんよね。

普通だったらもう少し範囲を広げて鉱脈を探ったり、タレントさんの冠が付いている番組名であればその時々の流行りを取り入れて新コーナーを作ったりと、長く続けられる工夫をいろいろ考えると思いますが、テレビ東京は企画書だけで「面白いね、これでいこう」とスタートを切ってしまう。

「●●●しているだけ」という番組が多くて、その一点突破している感じが逆に印象に残りやすく、世間の皆さんが話題にしてくれているのではないでしょうか。観てみよう、手に取ってみようと思わせるキーワードは多ければ多いほどターゲットを広げますが、一方で目立たなくなるという怖さもあると思います。

ー濱谷さんや他のテレビ東京のプロデューサーが、「一点突破のアイディア」を生むために行っている習慣などはありますか?

濱谷:普段から面白そうだなと思うことを探して、メモしてストックしています。それは他のプロデューサーもやっているようですね。あとはどこへ行っても企画の話をマメにすること。

『LOVE理論』や『ヨソで言わんとい亭〜ココだけの話が聞ける(秘)料亭〜』などをやっている水谷というプロデューサーは、人間が本能的に観たいものをノンフィクションでやりたいというスタンスなので、夜のお店に行って対面取材をしています(笑)。彼いわく「自分で考えるより対面取材で出てくる事実の方が想像を越える。そして夜のお店にこそ鉱脈がある」ということらしいんですよね。

でも他のプロデューサーも、簡単に言うとフィールドワークというか、常に「見たり聞いたりしたことが番組になるんじゃないか」というフィルターで見ていると言っています。企画になるんじゃないかと思って見るのと何となく見るのとでは、同じものでも拾い方が変わってくるので、そういう心掛けは大切かと思います。

また、僕自身はバラエティを観てドラマの企画を考えることも多くて、そうやって異ジャンルでヒットしているものを自分のジャンルに置き換えると、その時点でそのアイディアは新しくなることもありますよね。なので、やはり日々いろいろなことにアンテナを張るということは欠かせません。

濱谷さん

独りよがりのアイディアはうまくいかない

ー濱谷さんのパソコンの中にはこれまでボツになった企画もたくさん眠っているそうですが、ボツ企画に共通するダメな点ってありますか?

濱谷:「独りよがりになっている」ということが一番大きいんじゃないでしょうか。僕は新しいもの、尖っているものを企画したがる傾向があります。そうでないと最後まで書き切る熱量が持てなかったりするんですね。だから何かしらくだらない要素や新しい要素を入れてしまう。そうすると、それが果たして万人が観たくなるものなのか、というところが欠けているものが多くなってきます。客観性に欠けた独りよがりのもの、アイディアに溺れたような企画は通らないですね。

ーでは、テレ東らしい「一点突破のアイディア」はどのようにして浮かぶのでしょうか。

濱谷:テレビ東京らしいと評価される要素って先ほども申し上げましたが、他がやっていない、あと、お手頃なサイズ感があると思うので、そういったものを考えると他とぶつかりません。「このぐらいの規模でこんなに面白いことができます、だからテレビ東京らしさ満点なんです」という方向で企画書にしていくと、テレビ東京らしい一点突破の企画になりやすいかなと。

企画募集には「新しさ、テレビ東京らしさ、そして高視聴率が取れる企画であること」と書かれていますが、「新しさ」と「テレビ東京らしさ」を追求していくと自然と一点突破になりやすいというか。

それから、僕がよくやる深夜番組は予算がゴールデンの数分の1ぐらいなんですね。そういう制約の中で面白さを伝えなければならないとなると、自然と考え方が一点突破に寄っていって、1つのキーワードを考えるようになります。

ー濱谷さんが以前手掛けた深夜ドラマ『俺のダンディズム』は、他局の6分の1ほどの予算で作ったそうですね。予算が少ない場合、具体的にどのようにやりくりしているんですか?

濱谷:6分の1かどうかは分かりませんが、『俺のダンディズム』ではまず撮影日数をできるだけタイトにしました。一概には言えませんが、ドラマは基本的に撮影日数がそのまま予算になるという考え方なので、例えば3カ月で3,000万円かかるところを1カ月にすると1,000万円で済みます。だから撮影日数を短くするために登場人物とシチュエーションの数をできるだけ減らすわけです。

やっていることはすごくシンプルで、登場人物は少ないのに面白いという鉱脈を見つけることがやりくりのコツでしょうか。ただ『俺のダンディズム』をその手法でやったのは、やっぱり『孤独のグルメ』という成功モデルがあったからだと思うんですよね。

ー『孤独のグルメ』は中高年の間で話題になりましたよね。

濱谷:まさか、おじさんがご飯を食べてモノローグを言っているだけのものがドラマになるなんて誰も思わなかった。でもそれが大成功しました。僕の担当ではないので偉そうに言うことではないですが、あれは深夜ドラマ、テレビ東京のサイズだと画期的な成功だったと思います。

『孤独のグルメ』以降、ああいうドラマが増えたと思うんですよね。普通はグルメドラマが当たったからグルメドラマの原作を新たに1冊見つけてくる、というように成功例をそのままやるパターンが9割ですが、すでに成功した『孤独のグルメ』より面白くなる可能性は低い。仮に響いたとしても、そこに新しさがないと世の中に面白いと思われずに終わってしまいます。

だから『孤独のグルメ』のような「サラリーマンが考えながら見て情報を得る」というドラマを1つのスタイルとして、それを成功例の軸にした上でテーマを変えて『俺のダンディズム』を作ってみました。なぜ成功したかという理由を自分の中で1つ定義して、企画プレゼンの時は『孤独のグルメ』の成功論理をそういったものにすり替えていましたね。

ーやはり画期的なアイディアがあってかつ真新しさがある、ということを常に意識しているんですね。

濱谷:普通に考えると、ドラマって豪華なキャストが何人出ているかが勝負なんですね。特にゴールデンなんかは99%その発想で作っているので、そうなるとお金はかかるしスケジュールも広がっていってしまう。そうならずに済ませるためには、豪華なキャストに替わるキーワード、売りを見つけなければいけないというのは深夜番組をやる時は常に思っていました。

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お金が少ないことを嘆くより、アイディアで乗り切る

ー他局に比べて制約が多かったりと、テレビ東京には少しネガティブな部分もあるかと思いますが、濱谷さんはそれをどうポジティブに変えていったのでしょうか。

濱谷:まずはテレ東に入ったということで運命として受け止めてみるという心構えから始めました(笑)。

1億あったらこんなプロジェクトができたのにと思っても始まらない。でもテレ東って単純にお金が少ないことを嘆くより、それをアイディアで乗り切るということ込みでのブランドみたいなところが社内外にもある気がするんですよね。だったらそこで新しいものをやれば、自分の作った番組が世に出て騒いでもらえるチャンスがある。それはすごくラッキーだなと。お金がないことを逆手に取るだけで、アイディアがあると言ってもらえるんですよ。そう考えるだけでポジティブになりました。

それから、逆に小振りだからこそ変わった企画が世に出やすいチャンスの土壌だなと思うようになりましたね。他局だったらそんなリスキーな企画はできないけれど、テレビ東京ではいいよと言ってもらえる。なので、テレビで見たことがないものを「新しくていい」と喜んで観てくれる人が増えるといいですね。

前に他局で「シーズン2を作らせる天才」という方の噂を聞いたんですよ。それを知って、その人はよくそのポジションの天才になるモチベーションがあったなと思いました(笑)。普通は他の誰かがやった続きを任されるより、できれば自分が考えたシーズン1に時間を割きたいですよね。テレビ東京はそういったところのマインドはみんな強いし、そこをカッコいいとする風土があります。

僕がまさにそうなんですが、はみ出たり変わった企画をして、こうしてメディアなどで取り上げられる機会が増えた一方で、空振りも結構しています。でもテレビ東京ってそういう人に割と寛容だなと感謝しています。言ってみれば個人商店の集まりで、みんなそれぞれバットを振って、勝手に空振りしているということが多い気がします(笑)。これからは、もっと打率をあげて会社に褒められたいと切望しています。

ー最後に、起業家に向けてメッセージをお願いします。

濱谷:テレビ東京は後発でお金がなくて「番外地」と呼ばれていたテレビ局だったところから、先人のプロデューサーたちは制約がある中での「一点突破」の番組を仕掛けてきました。このマインドは他の業界においてもきっと役に立つことだと思うので、テレビ東京を見てそういった一点突破で制約を跳ね返すマインドを面白がって参考にしていただけたらいいなと思います。

テレビ東京の一点突破の発想術をもっと知りたい方はコチラ>>(外部リンク)『テレ東的、一点突破の発想術』濱谷晃一 (ワニブックスPLUS新書刊)

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濱谷さんがプロデューサーを務めるスポ根青春ドラマ『ドラマ24 初森ベマーズ』が7月10日にスタート!
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©「初森ベマーズ」制作委員会

第52回ギャラクシー賞特別賞を受賞した『ドラマ24』の記念すべき第40弾は、ソフトボールど素人の超弱小チームが強豪チームに戦いを挑む青春ドラマ。人気急上昇中の乃木坂46が総出演し、企画・原作は『マジすか学園』を生み出した秋元康が担当します。

ドラマ24『初森ベマーズ』
2015年7月10日スタート 毎週金曜 深夜0時12分〜
テレビ東京系列(TX、TVO、TVA、TSC、TVh、TVQ)
(テレビ大阪のみ7月13日スタート 毎週月曜 夜11時58分〜)
企画・原作:秋元康
脚本:小峯裕之 根本ノンジ
監督:鈴村展弘 西海謙一郎 元木隆史
出演:乃木坂46 / いとうまい子 伊東孝明 諏訪太朗 坂本真 野間口徹 / 津田寛治 手塚とおる
チーフプロデューサー:中川順平(テレビ東京)
プロデューサー:濱谷晃一(テレビ東京)/小松俊喜
制作:テレビ東京/楽映舎

(編集:創業手帳編集部)

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