GMOクリエイターズネットワーク 伊藤 毅|フリーランス支援事業「フリーナンス」で「フリーランスを、もっと自由に。」
フリーランスがより働きやすい環境を整えるために「お金と保険」のサービスを提供
会社員が当然のように行う「クレジットカードを作る」「アパートを借りる」「家をローンで買う」などは、フリーランスにとってはハードルが高い、という課題があります。
そこで、フリーランス・個人事業主向けにお金と保険のサービス「フリーナンス」を提供しているのが、GMOクリエイターズネットワークの伊藤さんです。
今回の記事では「フリーナンスを提供開始した背景」や「GMOインターネットグループにジョインして感じたこと」を創業手帳の大久保が聞きました。
GMOクリエイターズネットワーク株式会社
代表取締役社長
早稲田大学第一文学部・哲学科社会学専修卒業。同大学院国際情報通信研究科修了。大学院在学中に、ライター登録サイト「woofoo.net」をローンチし、国内最大規模のライターネットワークを築いた。2006年、GMOインターネットグループにジョインし代表取締役に就任。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
「伍福星ネットワーク」を立ち上げ、GMOインターネットグループにジョイン
大久保:起業までの流れを教えてください。
伊藤:早稲田大学と九州電力を中心とした産学連携企業として、中国語でのインターネット放送局「伍福星ネットワーク」を運営する同社に早稲田大学大学院の学生として参画したのが私の起業の始まりでした。
起業当時はちょうど「日中国交正常化」の30周年のタイミングで、これからはインターネットを使って中国の方々に、もっと日本のことを知ってもらおうという狙いでこの構想が立ち上がりました。
当初、私は早稲田大学大学院の学生としてこの企画に携わっていたのですが、正直なところ、「利益が出しにくい文化事業」という印象を抱いていました。
ところが、ある時に研究室の指導教授から伍福星ネットワークの運営により主体的に関わるように言われ、いよいよ本腰を入れて参加することになりました。
そこでまず考えたのは、放送局を立ち上げるからには、24時間365日何かしらのコンテンツの放送をする必要があるだろうということです。しかし、私一人でそんなに大量の中国語の番組を制作することは不可能でした。ついでに言っておくと、私自身は中国語はまったく話せません(笑)。
フリーランス関連事業を始めた原体験
大久保:その早速のピンチをどうやって乗り越えたのですか?
伊藤:当時ブログが流行し始めた頃で、インターネット上で自己表現をしよう、という流れが大きなうねりとして胎動しつつありました。
そうした動きをしている人にコンテンツ制作を依頼し、早稲田大学に在籍している中国人留学生に翻訳を依頼すれば、コンテンツを量産できるのでは?と思いついたんです。
そこで、まずは個人で活動するクリエイターの募集サイトを立ち上げました。
大久保:今でいうクラウドソーシングサイトのようなものですか?
伊藤:そうですね。
そのサイトについては、広報活動は全くしていなかったのですが、登録者のクチコミで毎月20、30人と登録者数が増え、あっという間に数千人規模のクリエイター登録サイトに成長しました。
そんな風にフリーランスが集まるサイトを運営していると、今度はさまざまな企業から「クリエイターの手を借りたい」という話が入ってくるようになりました。そこで、外部企業からのニーズに応じて当社の登録クリエイターに仕事を依頼する、制作事業を思いついたわけです。
この新事業の構想について当時の取締役会で報告したところ、当時としては類を見ない画期的な事業であり、将来性も十分にありそうだということで、いっそ制作事業に特化しては?とのアドバイスをいただき、インターネット放送局から制作会社へと転換しました。
ライターとカメラマンに特化した制作事業を開始
大久保:どの分野のクリエイターが多かったのですか?
伊藤:フリーランスとして活動するライターとカメラマンが圧倒的に多かったですね。したがって制作事業も、ウェブコンテンツに特化した編集プロダクションとして、事業を再編しました。
当時は、出版業がだんだんと収縮していく一方で、ウェブメディアが次から次へと立ち上がっていく時期でした。私たちの会社は、ウェブコンテンツに特化した編集プロダクションということで、引き合いも多く、順調に業績も伸びていきました。
そうした業界全体の追い風をうけつつ、よりインターネット事業との親和性を高めるべく2006年に、GMOインターネットグループにジョインすることになります。
フリーナンスの立ち上げから遡ること12年前のできごとです。
フリーナンス発案のきっかけはフリーランスからの相談
大久保:どのようなきっかけで「フリーナンス」というサービスを開始したのでしょうか?
伊藤:制作事業を行う中で、フリーランスから「報酬を早払いできないか」というお金の相談を多くもらっていました。
フリーランスは案件が終了しても報酬を受け取れるのは、その翌月以降になることがほとんどだと思います。その支払いサイトの長さが、多くのフリーランスのネックになっているのでは?と考えたのが「フリーナンス」を生み出すきっかけとなりました。
大久保:放送局のリソース解決のためにフリーランスを集め、今度はフリーランスの問題を解決させるためのサービスを作ったということですね。
伊藤:はい。フリーランスのお金の悩みを軽減するためにも、フリーナンスの会員になることで、手持ちの請求書を最短で即日中に現金化できる、フリーランス・個人事業主向けのファクタリングサービスを自分たちで作ってはどうか、と考えたのです。
フリーナンスの特徴
大久保:フリーナンスに関して、改めて特徴を伺って宜しいでしょうか?
伊藤:フリーナンスは、フリーランス向けの「お金と保険」のサービスとして、ファクタリング(※)と無料付帯の損害賠償保険を主軸に事業を成長させてきました。
私たちの後を追いかけるように、さまざまなフリーランス向けのファクタリング事業者も出てきましたが、フリーナンスはファクタリングだけを提供しているのではなく、「フリーランスの方々がより良い環境で働けるように」という想いのもと、損害賠償保険や所得補償保険、バーチャルオフィスや反社チェックなど、さまざまなサービスを連動させています。
フリーランスになったら、まずはフリーナンスに登録しよう」と思っていただけるような、“フリーランスのインフラ”となるサービスをめざしているところが他社とは大きく違う点だと思っています。
大久保:では、フリーナンスに無料付随する損害賠償保険「フリーナンスあんしん補償」は、どのような保険でしょうか?
伊藤:フリーランスの仕事中の事故や納品物の欠陥を原因とする事故を最高5,000万円まで補償する「フリーナンスあんしん補償Basic」をすべてのユーザーに無料付帯しています。よく「本当に無料で保険に入れるの?」と聞かれますが、本当に無料です(笑)。また、業務過誤と呼ばれるご自身のミスに起因する事故、例えば著作権侵害や情報漏洩まで補償可能な有料プランも提供しています。
※ファクタリング・・・売掛金をファクタリング会社へ売却し、手数料を差し引かれた代金を受け取って資金調達する手法。
- ココ重要!フリーナンスの「3つの特徴」
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- 特徴1:資金繰りをサポート「即日払い」
- 特徴2:基本の保険「あんしん補償Basic」
- 特徴3:あなたのミスまで補償「あんしん補償」
大手企業GMOインターネットグループにジョインして感じたメリット
大久保:GMOインターネットグループにジョインして良かったことを教えてください。
伊藤:良かったことはたくさんありますが……。
シンプルに「GMO」の冠をつけて仕事をすることが、フリーナンスのユーザーはもちろん、提携企業や金融機関に対して大きな安心感を与えていることを日々感じています。
また、インターネットで事業を行う上で、必要なサービスもノウハウも、すべてGMOインターネットグループ内で得ることができるのが、一番良かったことかもしれません。
ファクタリング事業についても、仕組みを思いついたのは当社ですが、これが「ファクタリング」と呼ばれるサービスだと教えてくれたのはお恥ずかしながら、あるグループ会社の社長です。
また、この事業を適切に運営していくためには、銀行との密接なつながりが必要ですが、当社サービスのローンチに少し先立ってGMOあおぞらネット銀行が開業していました。
大久保:資本面でも不安がなくなるという点もメリットでしょうか?
伊藤:そうですね。
当社サービスの仕組み上、事業が大きくなればなるほど莫大な手元資金が必要になります。資金調達がスムーズにできるのは、GMOインターネットグループの一因である大きな強みの一つです。
- ココ重要!GMOインターネットグループにジョインした「3つのメリット」
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- メリット1:大手企業の知名度と信頼
- メリット2:総合インターネットグループとしての磐石のサービスとノウハウ
- メリット3:事業拡大に応じたスムーズな資金調達
労働集約型ビジネスから脱却を目指しファイナンス事業を開始
大久保:それにしても、制作事業からファイナンス事業へのピボットというのは、大胆な決断をされましたね。
伊藤:経営者目線でお話をすると、制作事業は労働集約型のビジネスであり、売上規模の拡大の難しさをいつも感じていました。
売上は、営業マンの人数やスキル、景況判断など多くの変数に左右されます。さらに、制作物の品質はとても重要な要素ですが、その基準はクライアントによってさまざまです。
一方で、ファイナンスは「仕組みと仕掛け」のビジネスです。ファイナンス事業はたとえば登録ユーザー数の利用率や金額など、ある程度の傾向から見える数値をもとによりマクロな視点から売上予測ができます。
これは、経営者としては非常に助かりますよね。
また、ファイナンス分野はFinteh(フィンテック)という言葉もあるようにテクノロジーとの相性が良く、成長スピードが早い市場ということも非常に魅力的でした。
大久保:「ストックビジネス」のように、徐々に資産が積み上がっていくようなビジネスというのがポイントですね。
そして、過去のフリーランスの方々とのネットワークが活かせるというのも良かったですね。
伊藤:フリーランスの方々と一緒に仕事をしていたからこそ、ニーズに合致した良いサービスが作れたと自信がありました。「さあ、あとは集客をするだけだぞ」と(笑)。
そのほかにも、フリーランス協会さんや内閣府の調査などを通じてフリーランスという働き方に注目が集まり始めた状況も、当社にはプラスに働いたのではないかと思います。
フリーランスが抱える課題解決を目指す
大久保:フリーランスにとってはファクタリングも敷居が高かったのでしょうか?
伊藤:敷居が高いというよりは、そもそもファクタリング自体が、それほど認知度の高いサービスではなかったという印象です。
そのため、はじめてファクタリングというものを知ったフリーランスの方々に少しでも利用しやすくしたいと思い、手数料をできる限り低くWebマーケティングで集客しました。
また、ファクタリング利用がフリーランスの「次の受注」の足かせになってしまっては本末転倒なので、原則としてクライアントへの通知は行わない、いわゆる二者間ファクタリングと呼ばれる仕組みを採用しています。クライアントへ債権譲渡通知を発送するようなサービスも存在しますが、当社はそういったサービスとは異なりますので安心して利用していただきたいですね。
特に創業当初は、キャッシュフローが回らず現金が手元にないという問題が起こりがちです。銀行融資を頼ろうにも1ヶ月単位の時間がかかったり、そもそも審査に通らなかったり…。
フリーランスと発注者は対等な立場であるべき
大久保:ファクタリングの運営者の視点で「このように活用してほしい」というアドバイスはありますでしょうか?
伊藤:ファクタリングの審査で一番困るのが、注文書や発注書などの書類が一切ない、いわゆる「口頭受注」した案件についての申し込みです。
もちろん、請求書だけでも審査は可能ですが、いざというときのトラブルから自分自身を守る意味でも、フリーランスのみなさんにはクライアントから必要な書類を受け取ってもらうことをお勧めします。
大久保:仕事をもらっている側からすると、色々なことを要求すると切られるのではないかと心配するかもしれませんが、そんなことありませんからね。
伊藤:おっしゃる通りです。
どうしても書面が難しければ「先程お聞きした内容ですが、ご確認をお願いします」と言って、業務の内容や金額、納期などをまとめてLINEやメッセージアプリで送っておくと良いでしょう。
大久保:それこそ、黒字倒産という言葉もあるように、未回収の債権が溜まっていくと危ないですね。
伊藤:一人で仕事をしたい人、自分のチームを作りたい人、様々な動機でフリーランスになった方がいらっしゃると思います。
安定した収入を得ているフリーランスの方でも、何か困っていることがあれば、問い合わせフォームから気軽にご相談をいただけると嬉しいです。
そうした声を反映したサービス開発を今後も続けて行きたいと考えています。
フリーランスがもっと活躍する社会にするために
大久保:最後にフリーランスの方へのメッセージをお願いします。
伊藤:フリーナンスのサイトに、「フリーランスを、もっと自由に。」というタイトルで、私たちのサービスに対する思いをまとめています。
この言葉をモットーに、ファクタリングだけではなく新たなサービスを提供し続けていきたいと思っています。
大久保:フリーランスになったからといって、完全に「フリー=自由」とは限りません。本当の意味のフリーになっていきましょうというメッセージなのですね。
伊藤:おっしゃるとおりです。制作事業をやっていた時と変わらず、企業との間に立って、フリーランスの方が仕事しやすいように今後もサポートしていきたいです。
大久保の感想
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(取材協力:
GMOクリエイターズネットワーク株式会社 代表取締役社長 伊藤毅)
(編集: 創業手帳編集部)
フリーナンスの伊藤毅社長とお話して、自分自身とこの記事を読んでいただいた皆様に役立ちそうだなと思ったポイントを3つにまとめますね。
1つ目は、ユニークだと思ったのは、事業をしていくうちに蓄積されたリソースと、見えてきた課題をかけ合わせて、より広がりのある方向にピボットしてきたこと。
起業家でもやっていくうちに、最初見えなかったが見えてきた課題やチャンスがあると思います。
難しい市場に固執しすぎず、進化させていくのも重要な判断だと思いますね。
自分も「やっていくうちに新しい市場が見えてきた」というのはよくあります。
役立ちポイントの2つ目は、また労働集約的なビジネスは限界が出てくるので、より仕組み化されたビジネスに変えていくのも参考になりました。
伊藤社長とは10年以上前から知り合いですが、労働集約型のビジネスの時はちょっと大変そうにも見えました。
今は、仕組み化・WEB化されて会員や新サービスが「勝手に増えていく」のを楽しんでいる感じが印象的でした。
労働集約型は手作りの手応えも魅力ではありますが、続けていくのはやはり人が動くので、新しいことのチャレンジや拡大も「気合がいる」ので大変なものですが、仕組み化されたビジネスは拡大のストレスが少なくなるのも特徴です。
最後に3つ目が、ファクタリングの会社や経営者は当然、金融業界出身が多いですが、伊藤さんのようにフリーランスと一緒に仕事をしてきた出身者が運営しているのが珍しいケースだと思います。
GMOインターネットグループでは他の会社で金融事業がありますが、伊藤さんのGMOクリエイターズネットワークは金融とは全く関係ないクリエイター事業専門の会社でした。
テクノロジーやファイナンスが進化して新事業や起業が容易になると何が起こるのか。サービスを提供する「業界側」だけでなく、今まで参入できなかったユーザーの事情を熟知した「ユーザー側」の参入も容易になり、そこに新しいチャンスがあるかもしれませんね。
起業や事業をしている皆さんのヒントになればと今回のインタビューで役立つ3つのポイントをまとめました。お役に立てれば嬉しいです!
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