銀行融資の審査で重視される貸借対照表!特に見ているポイントなどを解説

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銀行融資では損益計算書よりも貸借対照表が重視されている


資金調達を行うために、銀行から融資を受けたいと考える方もいるかもしれません。ただし、銀行から融資を受けるためには、複数の資料を提出して審査に通る必要があります。
この審査では様々なポイントがチェックされますが、中でも重視されているのが「貸借対照表」です。

今回は、銀行融資の審査で重視される貸借対照表について紹介します。
審査時に見られるポイントや、評価が落ちてしまう可能性のある勘定科目についても解説するため、ぜひ参考にしてください。

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銀行融資で提出が求められる決算書とは


法人が銀行で融資を受ける場合には、決算書の提出が求められます。
具体的にどのような決算書を提出すれば良いのか、なぜ決算書を提出する必要があるのか解説していきます。

提出が必要な決算書の種類

銀行融資で提出が必要な決算書の種類は、主に以下の4つです。

貸借対照表 総資産や負債、純資産などが書かれた書類
損益計算書 事業における利益・損失を示す書類
株主資本等変動計算書 貸借対照表から株主資本を抜き出して作成した書類
キャッシュフロー計算書 現金の増減やその理由を記す書類

創業してから1期目はまだ決算が行われていないため提出は不要ですが、2期目以降からは提出が必須です。
また、これらの決算書は直近の1期分だけでなく、過去3期分が必要となります。
1期分のみの決算書のみでは、業績の傾向や勘定科目ごとに金額の増減をチェックできないためです。
なお、融資を受ける際には、決算書以外にも勘定科目内訳書や商取引の履歴を証明する書類、税務申告書類一式の提出も求められます。

決算書を提出する理由

銀行融資を受ける際に決算書の提出が必要な理由は、決算書を見て融資を行うかどうか判断しているためです。銀行は決算書から以下のポイントを確認しています。

  • 継続して利益を上げられるか
  • 財務が安定しており、健全性や持続可能性はあるか
  • 現金の資金繰りに問題はないか
  • 決算書の内容に虚偽や間違いはないか
  • 企業体力はあるか
  • 融資した資金を返済する能力があるか

決算書のみでこれらの内容を確認できるため、銀行側は決算書の提出を必須としています。

銀行融資の際は貸借対照表のどこを見られている?


銀行融資で決算書の提出が求められますが、中でも貸借対照表が重視される傾向にあります。
ここでは、貸借対照表でチェックされているポイントについて紹介します。

現金・預金はどのくらいあるか

貸借対照表の確認ポイントとして、流動資産の項目にある「現金および預金」が挙げられます。
企業が経営を行う中で安定して事業を進めていくのに、支払い能力は必須です。企業の支払い能力を測るのに手元流動性という指標が用いられます。
手元流動性とは、現金・預金や1年以内に換金できる有価証券など、流動性の高い資産のことです。
手元流動性が月商(年間売上高÷12カ月)よりも高ければ、その企業は支払い能力があると判断され、銀行側からも評価されやすくなります。
手元流動性は月商1カ月分より高ければ好評価されますが、月商2~3カ月分の現金・預金が残っていれば資金繰りも良好といえるため、さらに評価は高まります。

反対に、現金・預金が月商の1カ月分を下回っている場合、その理由を銀行に説明しなければなりません。
外注先への費用として一時的に少なくなっていることや、預金積み立ての計画があることなどを説明すれば、銀行の印象も変わってきます。

自己資本比率

貸借対照表において「株主資本」や「評価・換算差額等」が含まれる純資産の部は、自己資本に該当します。
反対に、銀行からの融資によって得た資金や取引先の借入金などは、いずれ返却しなくてはいけないお金であり、他人資本です。

なお、自己資本比率は、総資産のうち会社のお金で賄っている自己資本がどれくらいあるかを示すものです。
純資産の部の合計金額÷資産の合計金額×100で計算でき、自己資本比率が高ければ高いほど負債が少なく安定した経営ができていると判断できます。
自己資本比率の目安は業種によっても異なりますが、まずは20~30%を目指すようにしてください。

なお、負債の合計金額が資産の合計金額を超えていた場合、債務超過の状態になります。
負債の合計金額が上回っていなくても、何年も回収できていない売掛金などがあった場合、実質的な債務超過に陥っている可能性もあることに注意が必要です。

突然増減した勘定科目の有無

貸借対照表には様々な勘定科目がありますが、銀行側は約3期分を比較して突然増減した勘定科目があるかどうかをチェックしています。
例えば、売上高があまり伸びていないにもかかわらず、売掛金が前期に比べて大きく伸びているケースでは、売掛金が売上高に比例していれば問題ないものの、売掛先の業態悪化の影響を受けて回収できないケースもあるかもしれません。
そうなれば、分割払いや回収するための交渉を行う必要があります。

このように、突然増減した勘定科目には必ず理由があるものです。銀行側は貸借対照表を見て急激な増減がある勘定科目についてその理由を質問してきます。
質問された際には、原因や理由を十分に説明することが大切です。

借入金の規模と返済能力

貸借対照表の負債の部には、短期借入金と長期借入金の項目があり、この合計金額を総借入金と呼びます。
売上げが多ければ借入金も増えやすいことから、銀行は月商と比較して借入金が何カ月分に相当するか(借入金月商倍率)を確認します。

例えば、年商1億2,000万円、月商1,000万円、総借入金2,000万円だった場合、総借入金2,000万円÷月商1,000万円=2カ月分です。
借入金月商倍率によって借入金の規模を把握でき、2カ月分以内であれば問題ないと判断されます
一方、4カ月以上であれば借入金が多いと判断され、評価が下がることがあるかもしれません。

売掛金の回収

売掛金は貸借対照表の資産の部にある「流動資産」の項目のひとつです。
売掛金は代金を後払いによって回収する権利であり、売掛金が多ければ銀行から「長期間回収できていない売掛金があるのではないか」と疑われてしまいます。
取引先の倒産などで売掛金が回収できなくなった場合には連鎖倒産を引き起こすリスクがあり、銀行は融資に対して慎重になってしまうのです。

そのため、売掛金がある場合は回収に問題がないことを融資担当者に伝えることが大切です。
売掛金の回収が遅れている売掛先に対して分割支払いの提案中など、対策を講じている旨を伝えてください。

銀行融資の際に評価を落とす可能性のある勘定科目


特定の勘定科目の金額が必要以上に多くなると、マイナス評価につながる恐れもあります。ここでは、どのような勘定科目が評価を落としやすいかを紹介します。

貸付金

貸付金とは、所定の期日までに返済してもらうことを約束して貸し出されたお金のことです。
中小企業であれば、「社長貸付金」という名目で、会社の資金を社長個人に貸し出すこともあります。
しかし、この貸付金は会社の資金を私的に使ったのではないかと疑われる可能性が高く、対外的な評価が落ちるかもしれません。

社長以外の人や企業に貸し付けた場合でも、本当に返済されるかがわからないため、貸付金を回収できないリスクもあり、銀行側も融資を躊躇してしまいます。
特に毎年同じ金額で計上される貸付金は、不良債権とみなされてしまう可能性が高いことに注意してください。

仮払金

仮払金とは、後から清算することを目的に先払いするお金を指します。
例えば、出張費として従業員に支給した10万円は清算されるまで経費計上ができず、流動資産として計上されることになります。
期末までに清算され、仮払金の残高がゼロになっていれば問題ありませんが、残高があれば私的流用や使途不明金の疑いを持たれやすくなることに注意が必要です。
決算前にはなるべく仮払金を清算し、決算書に記載がないようにしてください。

棚卸資産

棚卸資産は、売上高に比例して増加していれば問題ありません。売上げの増加にともない在庫が増えていることを銀行に説明すれば納得してもらえます。
しかし、売上高が伸びていないにもかかわらず、棚卸資産だけが増えている場合、売れない在庫が増えたのではないかと疑われてしまいます。
棚卸資産は、年間の売上高に標準的な在庫回転期間(在庫(棚卸資産)÷年間売上高×365日)で算出できます。
標準的な残高を超えるとマイナスの評価を受けてしまうため、気を付けてください。

なお、帳簿上の在庫を過大計上しることで売上原価を抑えて利益を得る「在庫の水増し」を疑われてしまう場合もあります。
在庫の水増しは粉飾決算の手口でもあるため、粉飾決算ではないことやすぐに改善に講じる旨を伝えることが大切です。

売掛金

売掛金が増えれば、回収できないお金があるのではないかと疑われてしまう可能性があります。
売上高に比例して売掛金も増えているのであれば問題ありませんが、そうでなければ銀行に問題がないことを説明しなければなりません。
また、売掛金が多ければ、架空売上の計上を疑われる場合もあります。説明ができなければ銀行からマイナスの評価を受けてしまうため注意してください。

研究開発費

研究開発費は、新たに市場を開拓するために調査した際の費用やコンサルタント料、広告宣伝費などが含まれる費用です。
主に、新事業を開始した際や最新技術を導入した際に、その効果から利益が出るようになるまで費用の計上を繰り延べるための勘定科目になります。

研究開発費の計上は曖昧になりやすく、当期利益が増えたように見せることもできます。
会計上は研究開発費は資産に該当するものの、銀行側は資産として評価しないため、何でも研究開発費として計上することは避けてください。

減価償却しない資産

法人は減価償却を行うかどうかを任意で決められます。
黒字にするために減価償却を行わない企業もありますが、基本的には減価償却を行っていなければ融資審査で不利になるかもしれません。
なぜなら、減価償却は現金の支出を伴わない費用計上であり、減価償却を確認できなければ銀行は正確なお金の流れを把握できなくなってしまうためです。
銀行は減価償却をしないことで黒字に見せるからくりがわかっているため、融資審査で不利にならないために減価償却を行ってください。

銀行融資の審査に通りやすい貸借対照表をつくるには?


ここからは、貸借対照表を作成する際のポイントを解説します。

現金・預金を多く保つ

銀行融資の審査に通りやすくするためには、支払い能力があることをアピールすることが重要です。審査に通るためには、現金・預金を多く保つようにしてください。
現金・預金は月商2~3カ月分あれば十分と判断されますが、それよりも多ければ銀行は安心して融資を行います。

現金・預金を多く保つためには、事業で十分な利益を稼ぎ、内部留保を厚くすることをはじめ、多額の借入れや余計な節税を行わないことが大切です。

明確で矛盾のない数字を記載する

貸借対照表に記載する数字は、わかりやすく示されることも重要なポイントです。
数字が明確で矛盾点がなければ、銀行は経営の安定性や今後成長できるかどうかを判断しやすくなります。
もしわかりにくい場合には適宜説明を行い、問題がないことを融資担当者に十分に説明してください。

前期と比較して改善されていることがわかるようにする

貸借対照表を含む決算書は、過去のものもあわせて提出してください。
過去の貸借対照表に多額の売掛金や棚卸資産など、マイナスの評価を受けやすい要素があれば、不安に感じてしまう方も多いかもしれません。
ただし、今期の決算できちんと改善されていれば問題ありません。
反対に、決算書を改善した実績を評価される可能性もあります。改善が一時的なものではないことを示せば、銀行側からの信頼もより得やすいといえます。

まとめ・銀行融資を受けるために貸借対照表を含め決算書を適切に管理しよう

銀行融資を受ける際には貸借対照表を含め決算書の提出は必須です。
勘定科目によってはプラスの評価を受けたり、反対にマイナスの評価につながったりすることもあるため、決算書を適切に管理することが大切です。

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(編集:創業手帳編集部)

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