世銀レポート2019「起業のしやすさ」日本は世界93位。日本の起業環境を創業手帳の創業者・大久保が斬る

創業手帳

日本の起業環境の現状を、創業手帳代表が解説します

(2011/11/08更新)

世界銀行が2018年10月31日に公開した、2019年度「ビジネス環境の現状に関する報告書」で、日本は各国ビジネスランキングで39位となり、前年に比べて5位ランクを落としました。会社設立の政府の環境整備にも関わっている創業手帳の創業者、大久保が解説します。

日本が起業しにくいと評価される理由

世界銀行の2019年度「ビジネス環境の現状に関する報告書」で、日本は各国ビジネスランキングで39位となりました。同報告書は、世界190カ国を対象にビジネスに関わる10項目をランキング形式でまとめたもので、日本は「起業のしやすさ」という項目では93位にとどまり、資金調達は85位、税制は97位と低評価になりました。
各国と比べて、日本における起業のハードルが高いという評価を受けました。

低評価の背景は、

  • 日本の起業率が世界的に見て少ないこと
  • 煩雑な手続き
  • 社会的な認知度・信用度(世界的には起業家が社会的な尊敬を集めるが、日本はそうではなく大企業・公務員への就職が重視される)
  • 投資環境

などが挙げられます。

2の煩雑な手続きに関しては、日本は会社設立までに12のステップがあり、ワーストクラスです。創業手帳も内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員として、起業の手続きの煩雑さを減らし、無駄な事務負担を減らす方向の提言を行っており官邸ホームページでも議論が公開されています。

委員会ではかなり激しい議論が交わされました。忙しい起業家の時間とお金を奪う、無駄な事務負担は減らせばよいという意見が多いものの、実際に簡略化・電子化を進めようとすると、色々なしがらみ(認可機関が天下り先になっているケースなど)もあり、提言は抵抗を受け難航しました。大枠として、届け出は電子化、統合の方向に向かっていますが、日本は現時点では世界的に見て、会社設立を取り巻く役所の手続きの環境が悪いと言えます。

ちなみに、2の改善策として、手続き簡略化が挙がっています。起業を志す人を増やす策ではなく、起業の際に人的・金銭的に多大な負担がかかるので、無駄な手続きで役所が起業家の足を引っ張ることをやめさせよう、という議論です。世銀のレポートでは、起業以外の項目(建設許認可など)でも官公庁の規制や事務の煩雑を評価対象にしています。

3の社会的信用度も大きな課題です。日本は戦後の経済成長の過程で、大企業が成長し優秀な人材を吸収し続けていた背景があります。

本当に日本は起業が難しい国なのか?

低評価の背景には、資金調達において、日本では創業者に対する銀行のプロパー融資が実質無いということも挙げられます。通常の銀行融資では3年分の決算書が求められるので、創業者はそもそも銀行の融資対象外なのです(創業時は、過去の決算書が無いので当たり前ですね)。

一方で、起業に対する融資(日本政策金融公庫、信用保証協会)は、日本は世界的に見ても圧倒的な低金利で、個人保証をつけない融資制度もあります。調達額1000万円以下の融資では公的融資が非常に充実していると言えます。また、エンジェル税制(創業3年以内の赤字の起業家への投資が控除される)や、クラウドファンディングも広がりつつあります。

つまり日本では起業家に対する通常の金融システムは厳しいが、補完する独自のシステムもある、ということです。

世銀レポートは政府と起業家で注目すべき点が違う

世界銀行のレポートは、背景として各国にこうした評価を提供することでビジネスのしやすさや透明性などを促進するねらいがあり、受け止め方は、政府と起業家サイドで視点が違います。

政府においては

  • 煩雑な届け出制度
  • 銀行融資システムのメインに創業が組み込まれていない
  • ベンチャーキャピタルやエンジェル投資など投資は増えつつあるが、アメリカに比べると桁が小さい
  • 大手、官公庁に人材が吸収されやすい
  • 入札などでは企業の社歴や実績のウェイトが大きく取引にベンチャーが取引にアクセスしにくい

といったポイントについて、改善できる伸びしろが大きいと言えます。

政府が変わるべき点はそれとして、起業家サイドは政府の方針が変わるのを待っていると事業が潰れてしまいますので、日々サバイブするために、下記の日本の起業家が恵まれている点に注目して突破口を見出してほしいと思います。

  • 日本は起業に挑戦する割合が低い割に、経済規模が大きい(いまだに世界3位のGDP)
  • 起業したい人が少ない。起業したい人が多いわりに経済規模が小さいアジア諸国に比べると競争環境の意味で恵まれている
  • ・物価が先進国の中では安い(物価が高くビジネスの維持コストの高い、欧米に比べると日本はやり方次第では恵まれた面があるとも言えます)
  • 東京、関西圏、名古屋、福岡など大都市圏は人口や市場規模が大きく、起業家や成功した経営者、企業、金融機関なども多い為、イベントや投資環境など一定の起業を支えるエコシステムが形成されつつある。
  • 新しい資金調達の手段など、起業家の武器が増えつつある

情報を持っていない起業家にとっては、日本は非常に厳しい環境である一方、使える制度や仕組みは多様なので、情報の活用次第では、まだまだチャンスがある国と言えます。

起業は玉石混交の世界ではありますが、社会の成長点であり、活力や富の源泉です。起業が細ることは、国の未来が細ることを意味します。情報やネットワークの不足が起業の生存環境を厳しくしているという自身の経験からの気づきが、1か月後に無料で届くガイドブックの創業手帳や、無料相談制度を立ち上げたきっかけでもあります。創業手帳は今後も、起業家への情報提供やサポートや提言を通じて、民間ベースで日本のビジネス環境をより起業しやすい方向に改善するよう貢献していきたいと考えています。

大久保 幸世(おおくぼ こうせい)
創業手帳株式会社 代表取締役社長
明治大学経営学部卒業後、外資系保険会社、株式会社ライブドア、株式会社メイクショップ(GMOグループ)で経験と実績を積み重ね、創業手帳などで注目されている創業手帳株式会社(旧ビズシード株式会社)を創業。「日本の起業の成功率を上げる」を企業ミッションとしている。

(編集:創業手帳編集部)

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