意外と知らない身近にある著作権侵害のリスク

創業手帳

『鬼滅の刃』のイラストケーキの製作・販売はなぜダメなのか

人気漫画『鬼滅の刃』のキャラクターがデザインされたケーキを、SNSを通じて無許可で製作・販売していた男女4人が書類送検された事件をご存じでしょうか。

今回のこの事件は、他人が著作権を有する著作物をコピーした「複製」にあたるため、著作権侵害であるとともに、営業拠点を明かさないダイレクトメールでのやりとりでの販売や、多数の画像投稿などが悪質であったため、権利をもつアニメ制作会社から告訴状が出されたようです。

この事件をきっかけに、著作権について改めて理解をしておくために創業手帳では著作権侵害に詳しい浅野卓氏にお話を伺いました。

浅野 卓(あさのたかし)
アグリ創研株式会社 代表取締役社長/
浅野国際特許事務所 IIIS副所長
知財戦略、ブランド戦略、事業モデル構築が専門。農林水産省国立研究開発法人審議会専門委員、特許庁地域団体商標普及啓発事業外部委員・座長、東京都立大学大学院非常勤講師(知財権特論)を歴任するほか、農林水産省、経済産業省、文部科学省、中小企業庁の各事業で専門家として支援。主著に『実践 知的財産法』『ビジュアル 知的財産マネジメント』がある。

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1.はじめに

本件は、無店舗・SNS集客型のパティシエが、株式会社アニプレックスなど3社が著作権を有する『鬼滅の刃』のキャラクターを描いたケーキを製作・販売したことについて、2021年11月9日、警視庁が書類送検したというものです。

事業をしていると、他人のキャラクターを利用した商品やノベルティ、ショップカード、チラシ、POP、店舗サイン(以下、「キャラクター商品等」と言います)を作りたくなることがあります。

今回は、その場合に何が問題となるのか、とりわけ著作権侵害に焦点を当てて解説します。巻末にチェックシートをつけました。

2.そもそも著作権って?

(1)著作者の権利

報道では著作権と言ったり複製権と言ったりしているため、混乱している方もいるかもしれませんので、まずは用語を整理しましょう。
著作物を創作した「著作者」は、著作権法上、4つの「著作者人格権」と11種類の「著作財産権(著作権)」を有します。皆さんが一般に“著作権”と言っているのは、著作財産権のことです。

(2)著作者人格権

著作者人格権は、公表権(法18条)、氏名表示権(法19条)、同一性保持権(法20条)、名誉・声望保持権(法113条7項)の4つの権利の束です(図表1の①の権利)
著作者人格権は、著作物そのものに対する著作者自身のこだわり・思い入れを保護する権利とされているので、他人に譲渡はできません(法59条:一身専属権)。

(3)著作財産権(著作権)

著作権について多くの方がつまずかれるのが著作財産権の多さですが、次の5つの場面をコントロールする権利に整理できます。

著作権法では、公衆(不特定人または多数人、法2条5項参照)による著作物の利用が重要であり、著作物を公衆へ伝達することが重要です。
公衆への伝達方法としては、まず、複製物を使わずに(著作物そのものを使って)、公衆に伝えること(提示:図表1の③の場面)が考えられます。

しかし、著作物そのものを使った提示では、公衆の利用にも限りがあります。そこで、より多くの公衆に伝達し利用してもらうために、複製物を作り(図表1の②の場面)、その複製物を使って、公衆に伝えること(提供:図表1の④の場面)が考えられます。

さらに、二次的著作物(いわゆる派生的著作物/改作著作物)を作り(図表1の⑤の場面)、二次的著作物を通じて原著作物が間接的に公衆に伝わること(図表1の⑥の場面)が考えられます。

このように、著作財産権は、上記②~⑥の5つの場面をコントロールする権利であり、対象とする著作物に合わせて、●●権という日本語が当てはめられているに過ぎないといえます。現代では、とりわけ図表1の②と⑤の場面が重要です。

著作財産権は、財産権ですから、全部または一部を譲渡できます(法61条1項)。
著作財産権(著作権)を現時点で有する者を「著作権者」と言います。
なお、図表1の⑤と⑥の権利については、譲渡契約において譲渡の目的として「特掲」が必要です(法61条2項)。

【図表1】著作者の権利(拙著『実践 知的財産法』144ページ、法律文化社、2017年)

3.どの権利が問題となるの?

キャラクター商品等の“製作”については、著作財産権のうち、複製権(法21条:図表1の②の場面)や、翻案権(法27条:図表1の⑤の場面)が問題となり、“販売・配布”に関しては、譲渡権(法26条の2:図表1の④の場面)や、公衆送信権(インターネット上に画像を公開した場合の自動公衆送信、法27条1項:図表1の③の場面)が問題となります。

著作者人格権である、同一性保持権や、氏名表示権、名誉・声望保持権が問題とされることもあります。
今回は、頻繁に問題となる「複製権」と「翻案権」について解説します。

(1)複製権

「複製」について、コピー機での複写やスキャナーでの取込みに限られると勘違いされている方がいます。
しかし、複製とは、「有形的に再製」(法2条1項15号)、すなわち、実質的に同一のものを有形媒体に固定することであり、印刷、写真、複写、録音、録画のほか、手書きでの模写、ハードディスクへのダウンロードも含まれます。

本件は、注文者が送付した『鬼滅の刃』の漫画・アニメの(実際の)画像をチョコペンでなぞって描いたということですので、「複製」に当たり、複製権の効力が及びます。

(2)翻案権

この点、漫画・アニメの実際の画像そのままだから問題となるのであって、アレンジを加えれば大丈夫だと勘違いされている方もいます。

しかし、アレンジを加えても、上述のように、実質的に同一の範囲を越えなければ複製物であり、複製権の効力が及びます。一方、アレンジの結果、新たな創作性を付与していれば二次的著作物であり、翻案権の効力が及びます(図表2)。

二次的著作物とは、既存の著作物を翻訳、編曲、変形、脚色・映画化・その他翻案することにより創作した著作物です(法2条1項11号)。
写真を絵にしたり、2次元を3次元にしたり、3次元を2次元にすることは、「変形」に含まれ、二次的著作物に当たります。

変形に関する裁判例として、漫画・アニメ等を基にしたプラモデルについての「ガレージキット事件」(大阪高判平10・7・31)や、イラストを基にした立体人形についての「キューピー人形事件」(第1次:東京高判平13・5・30、第2次:大阪高判平17・2・15)等があります。

(3)複製権・翻案権の侵害要件

複製権・翻案権を含む著作財産権は、「排他的許諾権」です。また、実務上、複製権・翻案権は同時に問題となることが多いです。

そこで、判例・学説では、①正当な権原または正当な理由がないのに(後述5.参照)、②他人の著作物に依拠して、これと同一または類似(表現形式上の本質的な特徴を直接感得できる:図表2)の著作物を、③利用した場合に、複製権または翻案権の侵害(著作財産権〔著作権〕侵害)となるとされています。

【図表2】複製物・二次的著作物と同一・類似の関係(拙著『実践 知的財産法』154ページ、法律文化社、2017年)

4.キャラクターは著作物なの?

キャラクターは著作物ではないと聞いたことがあるぞという方もいるかもしれません。
しかし、キャラクターの“設定”と“絵”を区別する必要があります。

キャラクターの設定(容貌、姿態、性格、名称、役柄等のキャラクターそのもの)は、アイデアにとどまり、「著作物」ではありません。著作物とは、思想・感情を創作的に「表現」したものであって(法2条1項1号)、表現に至っていないアイデア自体は、著作権法では保護されないからです。

判例も、一話完結形式の連載漫画の事案で、「当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクター(筆者注:キャラクターの設定)をもって著作物ということはできない」としています(最高裁平9・7・17-ポパイ・ネクタイ事件)。
一方、皆さんが一般に“キャラクター”と言っているのは、漫画・アニメのキャラクターの絵のことです。こちらは具体的な表現であり、「著作物」に当たります。

実務上、キャラクターの設定のことを「キャラクターコンセプト」と呼び、キャラクターの絵のことを「キャラクターデザイン」と呼び、両者を区別することがあります(キャラクターを創作する場面で、キャラクターの設定と絵を併せて、キャラクターデザインということもあります)。

5.他人の著作物は利用できないの?

著作財産権は「相対権」なので、例えば、他人の著作物と同じものを、自分自身がゼロから偶然に創作した場合、“自分自身の”著作物を利用する行為に対しては、他人の著作財産権は及びません。
他人の著作物は、一切利用できないわけではなく、利用するには「正当な権原」または「正当な理由」が必要になるのです。

(1)ライセンス

著作財産権についての正当な権原としては、①著作財産権の譲渡(法61条)、②出版権(法79条)、③許諾利用権(法63条)、④裁定利用権(法67~69条)があります。実務上、②~④を併せて、「ライセンス」と呼びます。

著作者人格権についての正当な権原は、著作者の同意や、著作者人格権の不行使特約です。

キャラクター商品等を製作・販売する場合は、③許諾利用権の契約をすることが多いです。
しかし、他人の著作物の利用者がその都度、個々の著作権者とライセンス契約を締結するのは、利用者・著作権者ともに煩雑ですし、著作権者としても個々の利用をウォッチングし権利行使するのは現実的ではありません。
そこで、著作財産権を「集中管理」しライセンスを与える団体(著作権等管理事業者)があります。

また、いわゆる「フリー素材」は、著作財産権が消滅している場合と、許諾利用権の場合があります。
許諾利用権の場合は、商用利用・利用媒体・再配布・改変を制限しているなどがありますので、利用条件を確認することが必要です。

(2)私的使用のための複製

著作財産権についての正当な理由は、32種類の権利制限(法30条~47条の7)です。

著作者人格権についての正当な理由は、同意の推定(法18条2項)や、権利制限・適用除外(法18条3項~4項、法19条2項~4項、法20条2項)です。

例えば、「私的使用のための複製」(法30条)に該当すれば、無許諾で他人の著作物を複製しても、複製権侵害となりません。その要件は、①私的使用を目的とすること、②使用する者自身が複製すること、③法30条1項各号の所定の場合でないことです。

「私的使用」とは、個人的に(1人で)または家庭内(同一家庭内)その他これに準ずる限られた範囲内における使用をいいます。
この点、「企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、・・・私的使用には該当しないと解するのが相当である」とする下級審裁判例があります(東京地判昭52・7・22)
また、使用する者自身の複製ではないため、いわゆる「自炊(書籍をスキャンし電子化すること)代行業者」による複製は、「私的使用のための複製」に該当しません。

同様に、子供の誕生日に『鬼滅の刃』のケーキを親自身が製作する場合は、「私的使用のための複製」に該当しますが、本件のように事業者が製作する場合は「私的使用のための複製」に該当しません。

「私的使用のための複製」に該当しない場合は、原則どおり、複製権侵害となります。また、私的使用以外の目的のために、私的使用のための複製物を頒布したり、当該複製物により著作物を公衆に提示した場合は、複製権侵害とみなされます(法49条1項1号参照)。

6.どんなペナルティがあるの?

キャラクター商品等を無断で製作・販売している業者をよく見かけるけど、ペナルティを受けていないぞと思った方もいるかもしれません。

じつは、次の民事上の各請求や告訴は、権利者にも時間的・金銭的・精神的な負担がかかるので、言わば“お目こぼし”されているだけなのです。本件は、悪質だったため告訴されたわけです。

(1)民事

複製権・翻案権を含む著作財産権を侵害すると、著作権者から次の3つのいずれかまたは全てを請求される可能性があります。
すなわち、①侵害行為の停止または予防を求める「差止請求」(法112条)、②侵害行為によって生じた損害を填補するよう求める「損害賠償請求」(民法709条)、③法律上の原因なく他人の財産または労務によって受けた利益を、その利益の存する限度において返還するよう求める「不当利得返還請求」(民法703条)です。

なお、著作者人格権を侵害すると、著作者から、①「差止請求」(法112条)、②「損害賠償請求」(民法709条)のほか、③新聞等への謝罪広告などを求める「名誉回復措置請求」(法115条)がされる可能性があります。

(2)刑事罰

著作財産権または著作者人格権を侵害すると、「侵害罪」となり刑事罰を受ける可能性があります(法119条)。

著作財産権の侵害については、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、著作者人格権の侵害については、5年以下の懲役または500万円以下の罰金です。著作財産権と著作者人格権のどちらの侵害についても、懲役と罰金が併科されることがあります。

侵害罪は、告訴がなければ公訴提起(いわゆる起訴)できません(親告罪:法123条1項)。
また、原則として、侵害者本人(社員)だけでなく、侵害者の使用者等(会社)も罰せられます(両罰規定:法124条1項)。

7.気をつけるのは著作権侵害だけ?

(1)商品化権

キャラクター商品等の製作・販売にあたって注意するのは、著作権侵害だけではありません。

実務上、キャラクターを商品に利用する場合には、「商品化権(マーチャンダイジング・ライト)」に係るライセンス契約(いわゆる商品化〔権〕契約)がされています。
もっとも、日本のどの法律にも、商品化権という権利は規定されていません。商品化権は、著作権法、商標法、意匠法、不正競争防止法、民法、肖像権・パブリシティ権といった法律等の組み合わせで保護されています。

(2)パブリシティ権

キャラクターの絵だけではなく、著名人の写真を利用した商品等を作りたくなることもあるでしょう。この場合に問題となるのは、写真に係る著作者の権利だけではありません。

一般私人か著名人かを問わず、人の氏名・肖像は、人格権(憲法13条参照)に由来する「氏名権」(人格権)や「肖像権」(人格的利益)によって保護されます。加えて、著名人の氏名・肖像については、「パブリシティ権」が観念されます。

パブリシティ権は、人の氏名・肖像等の有する「商品の販売等を促進する・・・顧客吸引力を排他的に利用する権利」であり、「人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」としたうえで、「肖像等(筆者注:人の氏名・肖像等)を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」とした判例があります(最高裁平24・2・2-ピンク・レディ事件)。

なお、物のパブリシティ権については、競走馬の名称等の事案で、これを否定した判例があります(最高裁平16・2・13-ギャロップレーサー事件)。

8.チェックシート

したがって、キャラクター商品等の製作・販売にあたっては、次のいずれかに該当するかをチェックすると良いでしょう。

    □キャラクターを創作したのは自分自身である。
    □キャラクターコンセプトのみの利用にとどまる。
    □著作権の存続期間が満了している。
    □複製物にも二次的著作物にも当たらない。
    □商品化権に係るライセンス(著作者人格権の不行使特約を含む)を受けている。
    □フリー素材で、かつ、利用条件の範囲内である。
    □私的使用のための複製に当たる。
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(監修: アグリ創研株式会社 代表取締役社長/浅野国際特許事務所 IIIS副所長 浅野 卓
(編集: 創業手帳編集部)

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