Chatwork山本敏行×創業手帳大久保対談(後編) 敏腕経営者の経歴を活かし、新たな起業家を導く活動へ
創業手帳大久保が、山本敏行氏の今後の展望を聞きました
(2019/04/22更新)
和製ビジネスチャットツール「Chatwork」の開発者・山本敏行氏と、創業手帳代表大久保による対談。前編では山本氏の創業者としてのルーツと、Chatworkがいかにして誕生したのかを聞きました。
山本氏は、精力的な活動展開の無理がたたって体調を崩したことをきっかけに、Chatworkの代表を弟の正喜氏に譲り、第一線を退いて休養を取りました。充電期間を経て完全復活した山本氏は、これからどんな未来を描くのか。後編では今後の展望に迫ります。
1979年3月21日、大阪府寝屋川市生まれ。 2000年、中央大学商学部在学中に、EC studioをロサンゼルスで起業。 2004年にEC studioを法人化し、2011年3月1日、クラウドベースのチャットツール「ChatWork」の販売を開始。 2012年、ChatWorkに社名を変更。米国法人をシリコンバレーに設立し、拠点を海外に移す。海外から戻りChatWorkのCEOとして活躍するも2018年6月社長を弟の正喜氏に譲り退任。現在は、1日CSOなどの活動を展開。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
充電期間を経て新たなステージに突入
山本:アメリカから戻ってきて、Chatworkの代表、「谷上プロジェクト」、IT飲み会とか色々な活動をやっていたんですが、オーバーワークで6ヶ月ぐらい休むことになりました。今は復活して、製品を作ってきた弟の正喜にChatworkの代表を交代して、現在は18年間の経営経験で得たノウハウを無料公開するYouTube「戦略チャンネル」や、様々な企業や個人を訪問して、課題解決や今後の戦略についてアドバイスする「1日CSO」をやっています。戦略チャンネル起業したい方に必要なノウハウが毎日1本アップされるので、チャンネル登録して見ていただきたいですね。1日CSOは、ベンチャー企業や税理士をはじめ様々な企業からオファーいただいています。
やりすぎで燃え尽きる。充電期間に考えたこと
山本:シリコンバレーから帰ってからは、グローバルカンパニーができないことをやろうということで、地方のエバンジェリスト発掘、地方創生をやりながらChatworkの代表をやっていました。
例えば神戸の「谷上プロジェクト」。神戸の谷上という、神戸の中心街から少し行った山間の駅ですが、シャッターのしまっていた店を、クラウドファンディングで 2600万円集めて再生したんですね。オープニングの際は、谷上で見たことがないくらい人が集まって、地方創生の拠点にしようと考えました。
ただ、帰国後に、Chatworkの社長から地方創生までたくさんのことをやりすぎて、個人的にパンク状態になり、燃え尽きてしてしまいました。今から思うと多くのやりすぎたのかもしれません。やりたいことを全てやって、真っ白に燃え尽きました。
経験を活かして地方や他の人の課題を解決したい
山本:パンクしましたが、そこで得たものも大きかったです。得たものを違う形で世の中に返して行きたいということで、今後も地方創生を違う形でやっていこうと考えています。
会社の課題を解決する1日CSOも展開しています。会社の問題を一気に解決する仕組みです。経営者の人生を良くしていくために、リトリート※でアメリカや欧州など海外につれていくということもしています。日本だけで経営を行っていると発想が狭くなったりするので、1ヶ月の10日は海外に行くことを提唱しています。それらをサポートするようなサービスですね。
あとは、ビジネスYouTubeの「戦略チャンネル」をやっています。地方にいる若い起業家の人にも情報が届くようにしています。
※環境を変えて、心身をリセットする旅のこと
日本とシリコンバレー流の違い
山本:よくシリコンバレーが凄いと言って、日本人はありがたがったりしますよね。でも、シリコンバレー流をそのまま持ち込んでも日本では役に立たない。根本にあるものが違うので、手法だけ持ち込んでも上手く行かなかったりします。
「日本と海外でマネジメントの背景がそもそも違う」
という当たり前のことをちゃんと認識するべきですね。
シリコンバレー流は参考にはなるが、
日本でそのまま真似ても上手くいかない。
背景の違いを理解すべし
例えば雇い方に一つとっても、海外は日本に比べてドライという特徴があります。日本のように、何が何でも雇用を守ることは、むしろ悪、ということです。例えば、パフォーマンスの悪い社員の首を切らないということが、他の社員からすると、自分のお金がその人に流れていて、自分の権利が侵害されていると考える。その人の給料に直接影響するわけではないにしても、気持ちとしてはそういうスタンスなのです。日本では、そういう感覚は薄いですよね。
飲みの文化にしても、取引先と何で飲むんだ、という感じ。契約の厳守についても、海外の方が厳しいです。海外だと夫婦同士で競合の会社に勤めてる場合でもお互いの会社の話はしないですが、日本では話してしまうような契約に対するルーズさがある。向こうは、契約が絶対だし、ペナルティもすごい。
ウェットな部分がある日本と、ドライな海外流で全く違います。
アメリカと日本の「マーケティング」の違いを考える
山本:マーケティングにはプル型(ユーザーが受動的に情報を受け取る)とプッシュ型(ユーザーが能動的に情報を受け取る)2種類がありますが、アメリカはプッシュより、プルで徹底していますね。
シリコンバレーにはシリコンバレーにしかないマーケティングというのがあります。
日本だと作った製品を代理店で売ってもらう時は、独自に代理店制度を作って行う場合が多いですが、アメリカには、代理店施策を取りまとめている会社があるんです。
BtoB代理店10万社とそれを取りまとめている会社があり、どう活用すると効果的かとか、代理店をどう評価すれば良いとか、インセンティブ設計はこうやると良いよいとか。代理店を使ったマーケティングの仕組を作る専門の人がいるわけです。プロがいて、その人に任せるという文化です。
こうした違いから見ると、日本の場合はソフトバンクの孫正義さんみたいな、職人的な経営者が特徴的ですよね。対してアメリカは、プラットフォーム、フレームワークで育て上げられた経営者が多い。失敗したら、誰かが失敗したら、解剖して分析する。フレームワークを作って共有する。創業して失敗したら、分析して、そこからスタートする。このサイクルが仕組み化されているので、ノウハウが蓄積していくんです。
日本は職人型。
アメリカは仕組みで解決する。
根本が違う。
日本はアメリカと同じにはならないが、ビジネス習慣は独自の進化をする
山本:ざっくりいうと、経営の手法において、アメリカは日本の20年は進んでいると感じています。でも、日本が20年後にアメリカと同じになるかというと、そうはならないですよね。アメリカの取り入れられる部分を取り入れながら独自の発展をしていくと思います。
アメリカはドライですが、中国は、逆にウェットすぎる。酒とか賄賂とかの世界も凄いです。国としては人口ボーナスで稼ぎながら、世界に出すという戦略で、成功している中国のベンチャーは政府対策チームがあったり、官僚と飲みまくったり、賄賂しまくったりという世界が繰り広げられています。
でも、新しい世代も出てきています。富裕層で生まれた人の中から、一人っ子政策の良い面で、お金というより、社会貢献したいという世代が現れ始めています。これは大きな変化だと思います。都心の生まれだが農村部を、救いたいみたいな。そういう中国では、ジャック・マーはヒーローです。子供が起業家に憧れるような国は当然伸びますよね。
日本はアメリカと中国のいいとこどりでハイブリッドなやり方が、今後の日本のイノベーションには良いと思います。
ジャック・マーは中国ではヒーロー。
日本はどうか。
起業家支援を通じて与えたい影響
山本:1日CSOでの出会いは1社1社違って、保険の代理店、ECショップ、税理士事務所、飲食店、作家、スタートアップ、受託開発会社、医療、農家、と多様な方がいます。日本には津々浦々にポテンシャルはあるけれど、突破しきれない、でもエネルギーを持った起業家や経営者がたくさんいます。
そういう方と1人づつ真剣勝負で聞いていって、マインドマップに落とし込んだりしながら、本当の問題を探っていきます。
そういう起業家、会社の一つ一つがよくなっていくことで、日本が良くなっていくと良いですね。
日本には全国にポテンシャルのある起業家がいる。可能性を引き出したい。
(編集:創業手帳編集部)