bitFlyer 加納 裕三|「死ぬ気でやるのは最低条件」”ビットコイン起業家”インタビュー

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年02月に行われた取材時点のものです。

2015年9月のターニングポイントで、Fintech業界に何が起こったのか

日本最大のビットコイン・ブロックチェーン企業、bitFlyerの代表取締役社長・加納裕三さん。前回は、規制の厳しい金融業界で起業した背景や、ビットコインの将来性、事業としての展望についてお伺いしました。

今回は、ビジネスを展開していく上で力を入れていることや、短期間で急成長した会社を支えるマネジメント論について教えていただきました。

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加納 裕三(かのう ゆうぞう)
1976 年生まれ。2001年に東京大学大学院工学系研究科修了。ゴールドマン・サックス証券に入社し、エンジニアとして自社決済システムの開発に従事。その後、デリバティブ・転換社債トレーダーとして活躍。2016年には、欧州中央銀行総裁のマリオ・ドラギ氏等と並んで、国際銀行間通信協会(SWIFT)が開催する国際会議サイボスにおいて、フィナンシャルイノベーター(金融イノベーター)の一人として選出された。2017年2月14日には、三井住友銀行グループ、みずほフィナンシャルグループ、第一生命保険株式会社を引受先とした第三者割当増資による資金調達を実施。資本金は約41億円に上る。

ターニングポイントは2015年9月

ービットコインのような仕組みは、何かのきっかけで認知度が広まりますよね。何か、ターニングポイントのようなものはありましたか。

加納:ありました。忘れもしない、2015年の9月です。R3CEVという会社が世界各国の金融機関に呼びかけ、ブロックチェーンによる金融システムの世界標準を決めるコンソーシアムを作り、日本のメガバンクが参画しました。これで、世界が明確に変わると感じました。

ービットコインが脚光を浴びるようになった、と。

加納:はい。起業してから1年半くらいは「詐欺師」と呼ばれたこともあり、取材もたまにあるかないか、それもMtGox破綻のコメント中心でした。それが、今ではほぼ毎日取材をいただけるようになり、海外やテレビ局からもお声がけいただく状態になっていて変化をひしひしと感じています。

そのきっかけとなったのは、やはりR3コンソーシアムの登場です。

この業界の人は、みんなR3をターニングポイントとして挙げるでしょう。それまでは「ビットコインは怪しい」とか「胡散臭い、詐欺師だ」とか「絶対に成功しない」とか散々言われて、出資も断られる状態だったのに、世界が変わりました。

ー急に手のひらを返したんですね。

加納:本当に評価が変わりました。今では出資をしたいとのオファーをいただけ大変光栄です。

ーあとは、役所自体も良い働きをしてくれたとか。

加納:そうですね。ずっと業界団体を通じでロビー活動を進めてきたというのもありますが、結果的には多くの方々の努力により2年半位で仮想通貨に関する法律もできました。
2015年12月に金融庁の審議会に出させていただいて、もう今春には施行されます。

ベンチャーの社長をしながらロビー活動を真剣にやった例はあまりないのかなと。法整備に関する努力が評価されて、ヨーロッパで賞をいただきました。

ーそれは素晴らしい!詳しく教えてください。

加納:国際銀行間通信協会(SWIFT)が開催する国際会議「サイボス」で、フィナンシャルイノベーターの1人として選ばれました。他の受賞者としては、欧州中央銀行総裁のマリオ・ドラギ氏とか、名だたる方ばかりで。

ーそういった受賞経験も、信頼性に一役買っているのでしょうね。

加納:これは本当に驚きました。SWIFTは一般には知られていないのですが、金融機関の人にはすごいと言っていただけたのが本当に嬉しかったです。

ユーザー視点に立ったUI設計がカギ

UI画面

ー今後のビジネス展開を考える上で、注目しているトピックはありますか?

加納:ブロックチェーンに関して言うと、弊社が2016年12月に発表した「miyabi」というプロダクトです。現時点では世界一の技術だと思います。現在はR3コンソーシアムのように、ブロックチェーンの主導権争いが注目されていますから、その世界標準を目指して技術競争をしています。

ー日本一のビットコイン取引所になった背景に法整備への関わりがあったり、miyabiが技術面で優れていたり、という点を見ると、技術的な面と法的な面がうまく重なったという印象を受けます。
競合も多いサービスの中で、勝利を収めるには何が決め手になると思いますか?

加納:取引所としては、やっぱり圧倒的な取引量があることだと思います。流動性が高ければ、それだけお客さんにとっても使いやすいということになります。流動性が低いと場合によっては発注しても、取引が成立していない…ということもあり得ます。これだとお客さんは満足しないと思います。

ーその場が活性化しているというのが結構重要なんですね。

加納:はい。信頼性も含めお客様に評価をいただけたのは大きいと思います。

ーサービスの内容としては、なにか気をつけている点はありますか?

加納UI・UX(※)です。デザイン部門だけ、社長直下なんですよ。他の部門は担当役員がいて…という組織構成なのですが、デザインだけは私が見ています。より使いやすくてカッコいいサービスを作ろう、という点には相当こだわっています

※UI:ユーザーインターフェイス。ユーザーが触れ、使用する部分のこと。
UX:ユーザーエクスペリエンス。ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験のこと。

ーわずかな挙動の差で、取引のスムーズさが変わってきますからね。サービスを作っていく中で、日々試行錯誤の連続だと思うのですが、その中で「これを改善したら劇的にヒットした」という事例はありますか?

加納:そうですね…、大きく変えるとお客様の利便性を損なうので、ちょっとずつしか改善はできないです。むしろ、改善ポイントが明確に分かるのであれば経営者としては稀有な存在だと思います。

1回リリースすると、大きなUI・UXの変更は難しくなってしまいますから。

ーユーザーの反感が生まれるのは、システムに慣れてしまうからでしょうね。

加納:そうですね。あとは、トレーダーの感覚というか、過去の経験によりユーザー視点で制作できたのは良かったと思っています。加えてユーザーテストを入念に行っています。経営者視点で始めたサービスは、ユーザーサイドから見ると使えない…ということもありますから。

マネジメントは正攻法、オフィス家具はIKEAでいい

ーbitFlyerのように、短期間で急成長した会社の場合、マネジメントが大変だという声をよく耳にします。組織をまとめていく上で、工夫されていることはありますか?

加納:今は40名程度しか社員がいないので、そこまでマネジメントでは苦労していません。でも、社員の一人ひとりまで私が直接見ることはできないので、役員にマネジメントをお願いして、彼らと意思決定をしていく、というスタイルを取っています。一般的だと思います。

今は、私の下に6人ぐらいいて、その6人が6~7人を見て…という形で、合計40人のチームができています。

ー「法をかいくぐらない」という精神と同じで、正攻法を取られているわけですね。

加納正攻法でしょうか。現状私は、マネジメントについてはあまりいじらない方がいいと思っています。結構、組織論に注力されているベンチャーも多いですが、我々はまだその規模ではないかと思ってます。またチームづくりに試行錯誤をされている経営者もいると思います。私たちはマネジメントに特色を出して社員に訴求できるほど実績もなく、何が正しいのかを検証する時間もない。外資系で働いた経験をベースにしています。

ただ、技術のところは他と圧倒的に差をつける、そこにエネルギーを注ぎ込もうと考えてます

オフィスデザイン、会計方針、労務、採用基準、社内規則、経営方針、会社づくりに必要な部分を凝りだすと、かなり労力がかかりますよね。でも、うちは「家具をどうしよう」といったことは全然悩みません。最初に決めたルールでシンプルに、安いやつを選ぶだけです。

ービジネスモデルに全力をかけるという方向性ですね。

加納:はい。だから、起業したばかりで「キレイなオフィスを作りました。」という人って、あんまりイケていないと思います。使うべきエネルギーの順番が違うのかなと。私達は出資もしていますが、ビジネスモデルにエネルギーを注いでいるかどうかは大きな評価ポイントかと思っています。

ボロボロの中古の机でもいい、税務や会計も専門家に全部丸投げする、そのかわりサービスに全力投入という人のほうが好きです。

ー確かに、投資したお金でピカピカのオフィスを作られても、微妙な気持ちになります。

加納:うちのオフィス、内装にこだわっているように見えるかもしれませんが、実は居抜きで、前の会社そのままなんです。オフィス家具も全部IKEA。色数を増やしたくないから、色を使うなら全部赤って私が決めました。赤か青かで揉めたくないので私が決めます。

基本的に、前の人がお金をかけて残してくれていったので、かなりラッキーです。

ー確かに、内装は工夫のポイントじゃないですからね。作り直しはお金もかかりますし。

加納:特に、起業したてにも関わらず見た目にこだわると、そこで力尽きちゃうと思うんですよね。それより、起業直後は売上を作ることと資金を調達することを考えないと、生きていけないので。

ー起業直後に、一番大変だったことは何ですか?

加納:プロダクトリリースは自分たちの努力で何とかなりますから、もしできないのであれば、努力か工夫が足りないんだと結論づけています。どう考えても大変なのはサービスが受け入れられることと資金調達だと思います。

死ぬ気でやるのは「最低条件」

ー最後に、起業家へのメッセージをいただけますか。

加納:そうですね、私達もまだ目標の途中なので何か高尚なことを言える立場ではないのですが、「死ぬ気で頑張る」ということでしょうか。

「頑張ったから成功する」と約束されているわけではありませんが、死ぬ気で頑張らないと、多分失敗すると思います。

だから、死ぬ気でやるのは起業家としての最低条件です。

「仮想通貨元年」となる2017年。日本はどう変わる?
“仮想通貨業界のルール”を創った起業家 bitFlyer代表加納氏インタビュー

(取材協力:株式会社bitFlyer/加納 裕三)
(編集:創業手帳編集部)

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