AARとは?意義やビジネスへの取り入れ方
アメリカ陸軍で始まったAARとはどのような手法か?新しい学習法をビジネスに生かそう
After Action Review(アフター・アクション・レビュー)、通称「AAR」はアメリカ陸軍の訓練から生まれた検証手法です。
事実の検証に基づいて改善策を立てる方法で、会議や商談などビジネスの現場でも活かせます。
この記事では、AARの概要と意義、具体的な手順と失敗するケースについて解説します。
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AARとは
AARは、After Action Review(アフター・アクション・レビュー)の略称で、検証手法のひとつです。
主に計画・準備・開催の3ステップからなり、行動内容を検証して改善策を検討します。
ビジネスシーンで学習法や反省会の手法として活用されていますが、具体的にどのような検証手法なのかを紹介します。
アメリカ陸軍の検証のプロセスとして生まれた
AARは、第2次世界大戦の際にアメリカ陸軍から生まれた検証手法です。
計画に時間をかけ緻密な作戦を立てた部隊よりも、大まかな作戦で臨み都度レビューを重ねる部隊の生存率が高かったことに由来します。
ここからは、アメリカ陸軍での活用方法を見ていきます。
個の戦闘力を高めるための方法
アメリカ陸軍では、訓練の際などにAARを使った検証が現在も行われています。
個々の戦闘力を高めるため、デルタフォースやレンジャー部隊などの特殊部隊で取り入れられています。
細かく検証し改善策を上げるプロセスを繰り返すため、短期的に戦闘力を上げることに有効です。
ファシリテーターが支援する
計画段階で選任され、重要な立場を担うのがファシリテーターです。ファシリテーターは目標や訓練内容を把握し、チームの行動記録を取ります。
AAR開催時はメンバーの発言を誘導するなど、カウンセラーのように支援する役割です。
なお、ファシリテーターの存在意義と詳しい役割は後述します。
学習法・反省会の手法としてビジネスでも採用
アメリカ陸軍の訓練から生まれたAARですが、現在では学習法や反省会の手法として広く採用され、ビジネスシーンでも活用されています。
それでは、AARの特徴はどのような点にあるのでしょうか。
以下にポイントを2点紹介します。
採点の道具ではない
AARは個人の採点や任務の成功・失敗を問うものではないことがポイントです。学びと改善を行うための検証手法であり、評価手法ではありません。
ディスカッションした改善策を組織で蓄積し、今後同じ状況になった際に活用して失敗を繰り返さないことが重要です。
ビジネスで活用する際にも、ファシリテーターを含めたメンバー全員がこの点を意識してください。
上司やファシリテーターが改善策を決めたり、AAR開催中に評価を行ったりすると適切な案が出なくなります。
支援のもとで自らが振り返る
客観的な事実から改善策を考えるAARでは、ファシリテーターの支援のもとで、プレイヤーは自分の行動を客観的に振り返るよう求められます。
自分が起こした行動がどのような結果を生むのかを考える力は、訓練だけでなくビジネスシーンでも重要です。
主観的にならず、他者の視点で自らの行動を捉えることを意識します。
AARの意義
組織に新しい方法を取り入れる際、個人と組織の成長を促すものであることが重要です。
ビジネスの現場でも活かせるAARですが、検証の方法として活用する価値はどのような点にあるのでしょうか。
3つのポイントを見ていきます。
一人ひとりが当事者意識を持って取り組める
AARは当事者意識と責任感を形成するために有効な手段です。
指示に従って受動的に行動することとは違い、AARは自ら見通しを立て行動し、振返りを行います。そのため、当事者意識を持って取り組めることがAARの特徴です。
計画から振返りまで能動的に活動すれば、課題に対して主体的に取り組む責任感が生じます。
当事者だという自己認識を持つことで、計画や行動に対する判断も慎重になり、良好な結果につながる可能性があります。
ファシリテーターの存在意義
ファシリテーターは、検証をより客観性のあるものとするために支援する役割です。
振返りの際には進行をしますが、カウンセラーのような役目も求められます。
課題と討議内容がずれないように誘導したり、プレイヤーに発言を促したりと、会をリードするのではなく、援助する役割です。
また、プレイヤーには事実に基づいた発言を促します。
例えば、結果に対する反省に関しては「今後どのように対策しますか」とプレイヤーの考えと発言をサポートします。
この時、ファシリテーターから結論や評価を口にしてはいけません。あくまで、カウンセリングをするように誘導と配慮をすることが重要です。
自分の行動について客観的に捉えるようになる
計画から振返りまで自ら行うAARにおいては、自分の取った行動がどのような結果を生んでいるかを正確に判断することが必要です。
そして、事実を理解するためには、客観的に物事を捉えることが不可欠です。
主観的な考え方では、ひとつの考えに固執してしまったり、自分の心情が入り込んだりすることがあり、柔軟に物事を考えられなくなる場合もあります。
そのため、AARを行うにあたっては客観的に考えることが重要で、積み重ねによって客観的に自分の行動を捉える力が養われます。
同じ失敗を繰り返さない
取った行動による結果を蓄積できることも、AARの意義のひとつです。
課題に対して振返りを行うことで、結果が失敗に終わった内容も蓄積されていきます。
そのため、再度同じ課題に出会った際には違う行動を取ることができ、失敗の再発を未然に防げます。
また、組織内で計画・行動・結果をデータベースとして共有することも必要です。
同じ状況に陥った場合の教訓を持っておくことで、組織全体としてミスを防止できます。
AARの手順
ここまで、AARの概要や意義について見てきました。
では、実際にAARを行うにはどのような手順を踏むのでしょうか。
計画・アクション・AAR開催・報告書作成の4段階に分けて解説します。
1.計画
計画を立てるにあたり、日頃から情報収集を行って準備をしておきます。集めた情報に基づいて、アクション開始から終了までの行動を予測し、計画を立てます。
ファシリテーターの選任も計画段階で重要なポイントです。選任の際には、病気などによる急な欠席に備え、副ファシリテーターも決めておきます。
また、チームの増員が必要な場合は増員候補者を選び、決定した増強要員も含めた計画を作成してください。
計画の最終段階では、AARの開催日・開催場所・参加者を決定します。
2.アクション
計画に基づいて商談や課題解決などのアクションに移ります。
アクションを起こしている際は、観察記録を取り、客観的な事実を集めて整理します。
観察記録は目標やアクションの時系列などを事前に記した観察シートを作成し、これに基づいて記録してください。
この時、5W1Hの内容を意識しながら客観的な事実を記録します。主観が入り込むとAARの意義が失われるため、注意が必要です。
そして、観察記録をもとにAARの前段階として粗い一次分析を行い、チームでAARのリハーサルを実施します。
ファシリテーターはAARの開催準備
アクションが行われている間に、ファシリテーターはAARの準備をします。
アクションの内容を記録し、観察記録だけでなく作業手順書など重要書類も準備しておき、すぐに取り出せるようにします。
チームの人員をAAR準備に割くことになりますが、客観的な事実を集め、AARに意義を持たせるためには重要です。計画段階で話し合いながら、決めていきます。
3.AARを開催
計画段階で決定した日程に合わせてAARを開催します。ファシリテーターが主になってメンバーに発言を促しながら進めていきます。
なお、開催するにあたって、ただ闇雲に反省会を行うのでは意義のあるものになりません。
AARを進めるには、4つのステップがあります。それぞれの内容を見ていきましょう。
プロジェクトの目標や目的を改めて確認する
メンバー同士で今回の目標や目的を再確認します。
計画時に確認していても、認識にズレが生じることもあり、注意が必要です。
アクションの段階でいつの間にか手段が目的化してしまったり、メンバーに間違った内容で伝わっていたりと、共有がうまくできていない場合もあるかもしれません。
まずは目標や目的を確認し、自分たちがやろうとしていることを再認識します。
事実を洗い出す
アクションのフェーズで何が起こったのか、事実を確認します。ここでは、客観的な事実を出していくことが大切です。
事実の洗い出しができないと、憶測だけでディスカッションをしていくことになるため、注意してください。
観察記録の内容をもとにしながら、まずは目標や目的は達成できたのかを確認します。
そして、実際に起こったことをできる限り多く出し、細かな事実やデータを洗い出していきます。
仮説を立てる
ここまで確認してきた客観的な事実をもとに、ここからはメンバーでディスカッションを行います。
具体的な議題はファシリテーターが候補を提示し、選定します。「なぜこの結果になったのか」「原因はどこにあったのか」といった内容を討議し、仮説を立てましょう。
改善するためにはどうしたら良いか検討する
再び同じ状況になった際はどのように対処するかを検討します。AARの意義のひとつは、同じ失敗を繰り返さないようになることです。
同じような場面が訪れた際、今後より良い内容に改善するための方法を検討します。
事実と仮説をもとに、何を改善すべきか考えます。
4.報告書作成
最後に、ファシリテーターは報告書を作成します。報告書は、目標の達成度合とAARで討議された内容をまとめたものです。
観察記録と同じく、報告書でも主観的な意見やチームに関する評価は記載せず、客観的な内容だけを残すよう注意してください。
作成した報告書は、関係者への回覧や、今後もチーム内で共有できるようデータベースに保存するなどして残しておきます。
AARが失敗するケース
複数のメリットがあるAARですが、正しい方法で行わなければ効果が得られません。最後に、失敗するケースについて見ていきます。
報告と叱咤激励で終わる
メンバーが一方的に報告をし、リーダーが叱咤激励するだけではうまくいきません。
事実を洗い出し、それをもとに仮説を立て改善案を検討することがAARです。報告業務は最終の報告書作成が担うため、AARの段階で報告は行いません。
また、上司やリーダーが報告に対して叱咤激励する場合もあります。
しかし、AARでは評価を行わず、ファシリテーターは発言を誘導するなどカウンセラーのような立ち位置です。
一方的な報告ではなく、事実確認とディスカッションを行います。
改善案が出てこない
ディスカッションをしても改善案が出てこない、または、毎回同じ改善案になってしまうという場合も失敗するパターンです。
改善案を出せなければ、今後の取組みでも同じ失敗を繰り返す場合もあります。
事実確認ができていない場合、憶測だけで討議を進めてしまうことになり、改善案につなげることができずに結論を出せません。
結局は上司が決めてしまう
ディスカッションの内容に関係なく、上司の鶴の一声で決めてしまうというケースは組織内で起こり得る事案です。
AARにおいて、評価をつけたり結論を決めたりする立場の人はいません。
上司・部下などの立場をAARに持ち込んでしまうと、適切な改善案を出すことはできなくなってしまいます。
あくまで客観的な事実と討議内容をもとにし、平等に話し合いながら結論を決めていきます。
計画段階では時間をかけるのに検証ができていない
緻密な計画を立てても、検証段階をおろそかにするとAARはうまくいきません。
時間管理や関係者への根回しなど計画をしっかり立ててから行動することはもちろん大切です。
しかし、振り返らなければ、その計画で結果はどうだったのか、今後どのように改善するかなどの検証ができません。
改善策を立て、同じ失敗を繰り返さないためにも検証に時間をかけてください。
まとめ
AARはビジネスの現場でも活用できる検証手法です。
事実を客観的にディスカッションして改善策を導き出し、それをデータベースに蓄積することで今後同じような状況に陥った際、失敗を繰り返さないようになります。
計画から振り返りまでを自ら考えて行うため、当事者意識を持った行動をとれることが特徴です。また、自分の行動と結果を客観視でき、柔軟に物事を考えられることも特徴です。
個人や組織に対してメリットのあるAARですが、間違った方法で利用すると失敗してしまいます。正しく活用し、ビジネスの現場で役立てましょう。
(編集:創業手帳編集部)