STP分析でマーケティング戦略を立てる【起業家のための経営学講座】
セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング
(2017/09/14更新)
自社のオリジナル商品や独自サービスを作ろうとしている起業家のみなさん。
世の中の人みんなに受け入れられる万能な商品・サービスというのはほとんどありえません。新たな商品やサービスを開発する際には、まず「誰に」「何を」「どのように」届けるか決めることがとても重要です。
このような戦略を立てるためのマーケティング手法には様々なフレームワークがありますが、今回は、マーケティング戦略の土台となる『STP分析』を解説します。
この記事の目次
STP分析とは
STP分析とは、「常に変化する市場の中で、自社が有利に戦えるポジションを探す」ためのフレームワークです。
STPは、「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の頭文字をそれぞれとったものです。
- セグメンテーション(Segmentation)で市場を細分化して戦う市場を決める
- ターゲティング(Targeting)でターゲット顧客層を決める
- ポジショニング(Positioning)で自社の立ち位置を明確にし、独自性や優位性を決める
という構造です。
STP分析は効果的なマーケティング戦略を行うための「前提」を決めるもので、STP分析によって自社に適したポジションを探したら、それを満たすように製品や価格をマーケティングミックス(4P)で決めていきます。
それでは、STPの3つの要素「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
STP分析(1) セグメンテーション(Segmentation)
セグメンテーションでは、市場を細分化し、セグメントごとのニーズを把握します。それを元に、製品や自社のコンセプトを固めていきます。
セグメンテーションを効果的に行うためには、できる限り細かく分割することが求められます。そうすることで、ターゲティングの際に明確なニーズが見つけやすくなります。
B to C市場(消費財)の場合
BtoC市場では主に以下の4つの変数を用いて考えます。
地理的変数(ジオグラフィック変数)
国、都道府県、地域などでセグメントします。
規模、人口、気候、宗教、文化、構成比、発展度などで考えます。
人口動態変数(デモグラフィック変数)
人に関する項目でセグメントします。
性別、年齢、職業、収入、家族構成、学歴などで考えます。
心理的変数(サイコグラフィック変数)
心理的要素に関する項目でセグメントします。
価値観、社会階層、ライフスタイル、性格(パーソナリティ)、購買動機などで考えます。
行動変数
行動に関する項目でセグメントします。
購買活動、購買プロセス、購買メリット、態度、使用頻度などで考えます。
B to B市場(生産財)の場合
BtoB市場ではBtoC市場とは異なる変数を用いて考える場合があります。
人口動態変数(デモグラフィック変数)
B to B企業の場合は、企業規模や産業などで考えます。
製品の使用パターン
使用頻度、使用量、利用状況などで考えます。
購買者の行動様式
取引先企業などの購買プロセスに関する項目でセグメントします。
購買方針、決裁権の有無、購買決定基準などで考えます。
加工レベル
原料、中間品、最終商品などの「加工レベル」でのセグメントが代表的な例です。
セグメンテーションにおける4つのRの原則
変数を用いて市場をセグメントする際には、「4つのRの原則」を意識しましょう。
- Rank(優先順位づけ):重要度に応じて、顧客層をランクづけできているか。
- Realistic(有効規模):十分な売上高と利益を確保できる規模のセグメントか。
- Reach(到達可能性):顧客に製品を確実に届けることができるか。
- Response(測定可能性):顧客層からの反応を分析するできるか。
これを満たすように考えることで、効果的なセグメントが見つけやすくなります。
STP分析(2) ターゲティング(Targeting)
セグメンテーションで市場を細分化したら、自社製品が参入する市場を決めるターゲティングを行います。ターゲティングは、複数のセグメンテーションを組み合わせたり、市場調査を繰り返したりして、検証しながら行っていきます。
ターゲティングの手法には、主に以下の3通りが考えられます。
非差別型マーケティング
セグメント間にある違いを無視して、同じ製品を提供する方法。すべての商品を、あらゆる市場に投入するので、経営資源が豊かな大企業に適した戦略です。
差別型マーケティング
複数のセグメントに注目して、それぞれに対してカスタマイズした製品を提供する方法です。複数の商品・サービス開発が必要なので、それなりのリソースを確保できる規模でなければなりません。
集中型マーケティング
少数のセグメント、または1つのセグメントに注目して、そこに経営資源を集中する方法です。スピード感を持って商品開発が進められるため、スモールスタートで始めるベンチャー企業などが多く採用している手法です。
ターゲティングする際の判断基準6つ
ターゲティングを行う際には、以下の6つの基準で考えることで、より効果的な市場を選ぶことができます。
市場規模
ある程度の経済規模があるかどうか。自社にピッタリでも、小さすぎる市場では大きな売上は見込めません。
自社の強み
自社の強みを活かせるかどうか。優位性を活かせる市場を選びましょう。
製品ライフサイクルの段階
導入期、成長期、成熟期、衰退期のどれに属するかにより、アプローチすべき対象が異なります。
参入障壁
市場に参入する際に、どの程度の参入障壁があるか。資金面や競合の有無、法律の規制など、さまざまな障壁が想定されます。
競合の戦略
競合と同じ戦略では勝ち抜くのが難しいです。他社を分析し、異なるアプローチを目指しましょう。
環境要因
政治・経済・技術などの環境から、実現可能性を判断します。
STP分析(3) ポジショニング(Positioning)
ポジショニングとは、顧客に対して自社製品と他社との違いをアピールするための方法を考えることです。
自社の立ち位置を明確にするため、ポジショニングを考える際には「商品」「サービス」「人(従業員の接客)」「イメージ」などの側面から差別化できるポイントを探ります。
具体的には、ターゲットが重視する購買決定要因KBF(Key Buying Factor)を用いた2軸のマトリクスでポジショニングマップを作ります。強みを見える化していくと他社との差別化を考えやすいです。
ポジショニング3つのチェックポイント
ポジショニングを選択する際には、以下の3つの観点から考えてみましょう。
ターゲットのサイズが適切か
適切なサイズのターゲットを設定しましょう。ポジショニングが成功しても、小さすぎる市場では売上にも限界があります。大きすぎる市場を相手にすると、独自性を見出すのが難しくなります。
狙ったポジショニングが正確に顧客に伝わっているか
企業が「こうありたい」と思っていても、それが伝わらなければ意味がありません。独りよがりの訴求にならず、受け手に伝わる表現・訴求ポイントを探すようにしましょう。
顧客の共感が得られるか
適切なターゲットに向けて、他社と差別化できるポジショニングができても、顧客の共感が得られなければ購買行動に繋がりません。顧客目線で本当に正しいポジショニングになっているか今一度見直しましょう。
【事例】パナソニック「レッツノート」に学ぶSTP分析
STP分析を、ビジネスノートパソコン「レッツノート」をもとに考えてみましょう。
ビジネスの場だけでなく一般家庭にもノートパソコンが広く普及した頃。PC業界はスペック競争が激化していました。
そこで、他社がスペックのみに注目し商品開発を続けていた時、パナソニックは、他のPCと比べて充電せずとも長時間使え、とにかく軽いという“持ち運びに適しているノートパソコン”「レッツノート」を開発。これが、外回りでの営業などのビジネスマンのニーズを見事に捉えます。
「レッツノート」はパソコンという競合の多い市場の中で、顧客属性をしっかりと分析した上でSTP分析を効果的に行っています。
まずセグメンテーションでは、法人利用か個人利用か、そして、“屋内利用か屋外利用か”というような市場細分化を図ります。その上で、他社にない「レッツノート」独自のターゲティング、ポジショニング戦略で、“PCを持ち運ぶ営業マン”に照準を絞って商品開発を行います。こうしてビジネスに特化したPC「レッツノート」が誕生、多くの法人需要を満たしたのです。
まとめ
STP分析を適切に使い、効果的な戦略を立てていくことで、起業の成功に大きく近づくことができるはずです。
また、STP分析は一度やって終わりではなく、定期的に見直すことも重要です。市場は日々移り変わり、ターゲットのニーズや競合他社の状況なども変化し続けます。
商品・サービスの開発時、さらに自分の立ち位置や今後の方向性を改めて見直す時にも、ぜひSTP分析を活用してください。
(執筆:創業手帳編集部)
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