起業して初めてのオフィス選び10のポイント ‐賃貸オフィス編のまとめ(前編)‐
失敗しない賃貸オフィスの選び方
足かけ3か月にわたってお送りしてきた「起業して初めてのオフィス選び」だが、不動産会社選びから躯体、共用部、内装のポイントまで、はじめて賃貸オフィスを選ぶ際のポイントは一通りお伝えできたと思う。今回と次回は「まとめ」として、これまでに解説してきたポイントを振り返り、あらためて重要な項目をピックアップしてみたい。
この記事の目次
1. 賃貸オフィス編・不動産会社の巻
2. 賃貸オフィス編・立地の巻
3. 賃貸オフィス編・建物とBCPの巻
4. 賃貸オフィス編・エントランスの巻
5. 賃貸オフィス編・共用部の巻
6. 賃貸オフィス編・水回りの巻
7. 賃貸オフィス編・照明の巻
8. 賃貸オフィス編・空調の巻
9. 賃貸オフィス編・内装の巻 その1
10. 賃貸オフィス編・内装の巻 その2
1. オフィス物件探しの前に”街の”不動産会社を選ぶ
住宅物件にもいえることだが、不動産会社が変われば紹介される物件も変わる。ネットでのオフィス探しが一般的となった今もそれは変わらず、サイトが異なれば検索できる物件も異なるのである。
起業から日が浅い創業期に必要な小規模オフィスであれば、大手よりも地元に密着している「まちの不動産やさん」のほうが情報量が多いことも珍しくない。企業の規模よりも情報量を重視して不動産会社を選ぼう。
そして、不動産会社は1社ではなく、必ず複数回ること。情報収集は家賃相場だけでなく、地域の特性を知ることにもつながる。
また同じ物件でも、不動産会社によっては仲介手数料が無料になることもある。一概にはいえないが「元付け」物件であれば無料になる可能性があるといってよい。
元付け物件(仲介業者を通さずにオフィスのオーナーから直接物件の貸借や管理の依頼を受けている物件)であれば業務委託手数料や管理費をオーナーから貰っていることが多いため、仲介手数料を無料にすることができるのだが、元付けのオフィス賃貸物件を見極めるのは簡単ではない。簡易的な見当つけの方法としては「その不動産会社が管理する物件であればおおむね元付けだと判断できる」と覚えておくとよいだろう。
賃貸オフィスを探すときの不動産会社の選び方について、詳しくはこちら。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・不動産会社の巻-
- 賃貸オフィスビル「不動産会社の選び方」のポイント
-
- 条件に合った物件を多く紹介しているか
- 仲介手数料は適正か
- 対応に不足はないか
2. オフィス立地は「面」と「点」
「面」とはどのエリアにオフィスを構えるか?「点」とは、そのエリア内でどのビルに入居するか?である。
日本では名刺に刷られた住所で企業の実力を計る風潮はいまだに根強いため、あえて一等地の住所の賃貸オフィスに入居することで信用力をつけるのも、創業直後の起業家がよく採用する手法だ。とはいえ、どれだけ良いエリアにオフィスがあるからといって、実力以上の信用力が期待できるわけではないので注意が必要だ。
エリアの特性という点では、どのような業種が多く立地しているエリアかということも考慮に入れておきたい。特定の業種が集積するエリアであれば、あなたのビジネスにかかわる打ち合わせから発注、納品という一連の流れをひとつのエリア内だけで完結させることも可能だ。
また特定業種の集積地には企業同士のネットワークがある場合が多く、これを利用することで新規顧客の獲得などを容易におこなうことも可能だ。
次に「点」立地だが、これは来客が多いのであれば交通利便性が重視されるし、集中力を要する作業が多いのであれば閑静な場所といったように、業務内容によって最適な場所はかなり異なる。
そこで覚えておきたいのが「駅から徒歩○分」といった表記。これは「1分=80m」で計算されているが、歩道橋や踏切、信号などは考慮されていないので、駅から近くても実際に歩くとアクセスに難がある場合もある。実際に歩いて確かめよう。
また来客が頻繁でないビジネスであれば、オフィス街を避けて賃料を下げるという手もある。一般住宅と同様に、基本的に駅から遠いほど、また築年数が経っているほど家賃は安くなる。例えば、裏通りに面した築年数の古い物件など思わぬ掘り出し物に出会うこともある。焦らずにじっくり掘り出し物のオフィス物件を探そう。
賃貸オフィスに最適な立地の見つけ方について、詳しくはこちら。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・立地の巻-
- 賃貸オフィスビル「立地の選び方」のポイント
-
- 業種にあった地域特性か
- 駅からの距離・アクセスは適切か
- 近隣環境は業務に適しているか
3. 企業活動の安定と継続に影響を及ぼすオフィスのBCP
BCPとは事業継続計画のこと。日本では東日本大震災をきっかけに知られるようになり、大規模災害発生時を中心とした事業継続のための施策全般をあらわす言葉として定着している。
災害というとまっさきに浮かぶのが地震だろう。BCPの概念が普及するにつれて「新耐震」という言葉を耳にするようになったが、これは昭和56年(1981年)6月施行の現行耐震基準に合致した建物で、それ以前の建物は「旧耐震」という。
しかし新耐震となるのは昭和56年6月以降に「建築確認済証」を交付された建物なので、昭和56年以降に竣工したからといって新耐震と判断するのは尚早だ。昭和56年前後に竣工した建物は、念のため確認しておこう。
もちろん昭和56年以前の建物であっても頑丈なものは少なくないし、新耐震と同等の耐震性を持つものもある。「旧耐震=危険」という先入観を持たず、仲介業者やオーナーに納得のいく説明を求めるとよい。
BCPは耐震性だけではない。ライフラインの確保や非常用品の備蓄なども、BCPには欠かすことのできない要素だ。本来は事業者が備蓄しておくべき非常用品も、ビル側で備蓄している物件もある。自社のBCPに何が必要なのかをじっくり見極めることで、オフィス選びの基準も変わってくるのである。
賃貸オフィス選びにおけるBCP(事業継続計画)ついて、詳しくはこちら。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・建物とBCPの巻-
- 賃貸オフィスビル「建物・BCP」のポイント
-
- 建物の耐震性は十分か
- 非常時のライフラインは確保されているか
- 備蓄品を保管するスペースはあるか
4. エントランスはオフィスビルの顔である
オフィスビルのエントランスは、ビルの印象のみならず、入居する企業のイメージにも大きく影響する。どれだけ豪華であっても清掃の状態が良くないエントランスが好い印象を与えるはずはないし、そのようなオフィスビルが良好に管理されているとは考えにくいだろう。
具体的には、「入居している企業が社名板にない」、あるいは「入居していない企業名が社名板に記載されている」場合や、「郵便受けに郵便物が放置されている」といったビルは、管理体制を疑ったほうがいい。
また社名板を見れば、どのような企業が入居しているのかを知ることもできる。ビルのエントランスでは、社名板と郵便受けを必ずチェックしよう。
好ましくない来訪者を入館させないことも、エントランスの役割のひとつ。しかし中小規模のオフィスビルではセキュリティゲートなどを設けた物件はほとんど無い。セキュリティを重視するのであれば、「オートロック」「管理人常駐」「警備会社のセキュリティシステムに加入している」といったところが現実的な選択肢だろう。
オフィスビルのエントランスのチェックポイントについて、詳しくはこちら。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・エントランスの巻-
- 賃貸オフィスビル「エントランス」のポイント
-
- 入居企業の雰囲気に合ったデザインか
- 清掃は行き届いているか
- 社名板や郵便受けなどの備品不備はないか
- セキュリティは万全か
5. オフィスビルの共用部を見れば管理状態が丸わかり
オフィスを内見する際、廊下やエレベーター、階段などの共用部こそしっかり見ておきたい。
オフィスビルの共用部でまず確認しておきたいのは、清潔さ。内見の際は、廊下やエレベーター、階段から非常口にいたるまで、ビル内の全ての箇所が清潔であって当然という意識を持って見ておこう。清潔でない賃貸オフィスビルは、管理も杜撰と判断していいだろう。薄汚れているビルが適切に管理されているとは考えにくいし、逆に古くても塵ひとつ落ちていないビルの方が好感がもてるのは当然だろう。清掃の状態を見ることは賃貸オフィスビルの管理状態を見ることと同義といって過言ではない。
また意外と見落としがちなのがゴミ集積場だ。ゴミ集積場の状態から管理状態や住人の性格がわかるのは、一般住宅も賃貸オフィスビルも同様である。ゴミ集積場の場所やそこが清潔か否かはもちろん、ゴミ出しのルールが守られているかも見ておきたい。
また、ビルからでるゴミはいわゆる「事業系ゴミ」であり、一般家庭のゴミ収集とはルールが異なることも覚えておきたい。起業・開業時から自宅を事務所として利用していて、今回はじめて賃貸オフィスを構えようと考えている起業家は、家庭ゴミと事業系ゴミの区別が必要になるので特に注意したいところだ。
賃貸オフィスビルの共用部をチェックする上でもうひとつ意識しておきたいのが、ビルとしての使い勝手である。確認しておくべきポイントとしては廊下の幅やエントランスからの導線、エレベーターホールの広さなどだが、なかでもエレベーターは最も重要なチェック項目である。複数のエレベーターを有するビルは運行管理システムも重要なポイントで、エレベーターの運行が適切でないと、出勤時間などにエレベーター待ちの長い列ができることもある。清掃や保守・点検の状態と合わせ、運行管理体制もよく見ておきたい。
賃貸オフィス物件を内見する際は、細部までじっくり見ることが大切だが、あなたの会社が専有する部分に目がいきがちだ。オフィス共用部もチェックするのを忘れず、興味の無い部分であっても良く見て、疑問があればすぐにオーナーや管理業者に確認しておきたい。
賃貸オフィスビルの共用部チェックポイントついて、詳しくはこちら。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・共用部の巻-
- 賃貸オフィスビル「共用部」のポイント
-
- 清掃は行き届いているか
- ゴミ出しのルールが守られているか
- 廊下の幅や導線、エレベーターホールの広さなどは適切か
- エレベーターは適切な管理がされているか
共用部に限ったことではないが、入居する側としては適切な管理を求める権利がある。細かい点までチェックして適切な要望を伝えることで「この入居希望者は只者ではない!見る目がある!」と思わせれば、自然と良い物件を紹介してもらえるようにもなるだろう。ビルを見る目をつけることも、良い賃貸オフィス物件を紹介してもらうコツの一つといってよいだろう。
【続き】起業して初めてのオフィス選び10のポイント ‐賃貸オフィス編のまとめ(後編)‐
(監修:オフィス経営コンサルタント 久保純一)
(創業手帳編集部)